ショートストーリー ミヨちゃん
ボクはつい一週間前までは目が見えませんでした。
ボクの目が見えなくなってはや二十一年です。
確か十歳の夏にボクはどれくらい太陽を凝視出来るかバカな実験していて、突然目が見えなくなったのです。
その頃ボクには好きな人がいました。
幼友達のミヨちゃんでした。
色が白くて、ちっちゃくて、その上可愛くて、将来大きくなれば結婚しようね、と約束していました。
確か二つ違いの八歳でした。
ボクの目が見えなくなった頃、幼いながらも絶望の余り自殺しようと思っていました。
手術すれば治るかも知れませんでしたが、ボクの家にはお金がありません。
手術するにも手術出来ないのです。
ところが、そんなボクを励ましてくれたのがミヨちゃんでした。
盲学校に行って点字を覚え、学校を卒業してから、小説を点字にするのがボクの仕事でした。
ミヨちゃんが何日もそばにいて、小説を読み上げてくれますので、それを点字にして生計を立てていました。
鈴が転がるようなミヨちゃんの声に励まされ、ボクは生きる望みをつないだのです。
五年前、ボクとミヨちゃんは結婚しました。
ボクの目は見えませんがミヨちゃんは大きくなり、体格もよくなっていました。
ボクの記憶の中には小さい頃の可愛いミヨちゃんの姿が目に焼き付いて離れません。
あんな可愛いミヨちゃんを毎晩抱いて、H出来るボクは幸せ者だと歓喜にふるえていました。
その上、毎日、ミヨちゃんは三時間ほどJRの駅前に立ち、
目を手術するために必要なお金をカンパで集めていてくれたのです。
その甲斐あって一週間前、ボクは有名なT大学付属病院の眼科で目の手術をしました。
そして、一週間後二十一年ぶりに目が見えるようになったのです。
ボクは歓喜にふるえました。
よかったね。
ベッドのそばでミヨちゃんの声が聞こえました。
でもミヨちゃんは見あたりません。
そばには醜くて、豆タンクのような女が立っていました。
「ミヨちゃんは?」
その女にボクは尋ねました。
すると、鈴を転がすような声で、
「私はここにいるわ」