私の人生イージーゲーム〜恋人に別れを告げられ、傷心した私の元にやってきたのは可愛い神様でした。願いをなんでも叶えてくれるというので私は神様をご所望します〜
恋愛ですよ、恋愛っ!
「ごめん。少し距離を置かせて欲しい」
高校の時から、3年付き合っていた彼女にそう言われた。
「え? それって、私と別れたいってこと?」
「うん。本当にごめんね」
それじゃあ、と彼女はそう言って私の元から去っていた。
「えっ……ちょっま――」
慣れないヒールで来たせいか、思わずつまづいて転んでしまう。
「あ」
待って、と声を掛けられなかった。
私が転びそうになったのに、彼女は気付いた筈だ。でも彼女は後ろを振り返ることなく、どんどんと遠ざかっていった。
「なんで、なんでよぅ〜」
待ち合わせ場所のハチ公前で、頑張っておめかしした私は、一人ぽつりと残された。
思わず、泣き崩れ、しばらく動けなくなった。
何が原因で別れることになったのか、その時は分からないまま、とぼとぼと帰路についた。
そして、それから数日経ったある日、友人から別れた彼女の話を聞かされた。
なんでも、私の他に、別の人とも付き合っていたらしい。
その頃には、私も彼女に対する熱は冷めていたので、特に感情が荒ぶることはなかった。
「ねぇ、超最悪でしょー? 悠里、今度は私と付き合ってみない? 私なら悠里のことを幸せにする自信あるよ」
「うん……ありがとう友恵。でもしばらくはいいかな」
「そっか……まあそんなに気を落とさないようにね! 悠里は笑顔が似合うんだから、今度また一緒に遊びに行こうね!」
「うん。ありがとう……じゃあまたね!」
ピッと電話を切ると、携帯を布団に放り投げる。そしてお気に入りの枕にぼすぼすと正拳突きをする。
「ううっ」
急に涙が溢れ出てきた。このままじゃ布団が濡れ濡れになっちゃうと思い、ティッシュ、ティッシュ! と急いで箱を探す。
涙を拭き終えると、なんか、急にムカムカしてきた。
私と付き合っていながら、他の人といちゃいちゃしてたなんて……最悪。もう、なんで気付かなかったんだよ私。
「それは相手の嘘が上手かったからさ。ここ数日、君の事を見守ってたけど、うん……あれはちょっと度が過ぎた浮気だったねー。あとで天罰下さなきゃ」
「え……?」
急に愛らしい声が聞こえ、顔を上げると、なんと、ベランダに10代前半くらいの女の子が立っていた。背中には、天使の翼のようなものも生えている。
「だれ……?」
演劇の衣装かなにか? それともなんかの撮影?
私の住んでいるアパートは2階建て。2階の一番隅の部屋だ。
外から配管をつたって登ってきたのだろうか? その時の私は、そんな風に目の前の不思議な少女を捉えていた。
「ふふん。聞いて驚け、ボクは神様さっ! 君の願いをなんでも一つ叶えてあげよう!!」
困惑する私に、少女はさらにおかしな事をのたまった。
「かみ……さま?」
目の前の少女は、自分の事を神だと名乗った。
◇◆◇◆◇
「なんで信じてくれないのさ! ボクは神なんだよ!! 本物の神なのさ!」
「だったら、何か神らしいことして下さいよ」
数十分後、私と神様(仮)は言い合いをしていた。
「よーし分かった!」
私の狭い部屋で、少女の元気な声が響き渡る。どうしよう通報されたりしないかな。
「むむ、ビビッときた!」
丁度テレビでは、競馬の中継が流れていた。
すると、神様は「これだっ! よーくみててよ」と言って、今走っている馬の中で、一番遅い馬を指差した。
「え、この馬が一位になるんですか? それはどう考えてもないですって」
「そんなことない! 見てて」
すると神の手が光り、画面が一瞬光に覆われる。
次には、実況の興奮する声が聞こえてきた。
『おおっと! これは凄い!! 最下位だった8番が怒涛の追い上げだー!』
「ええっ……」
「みたか! これが神の力なのさっ!」
そのまま8番の馬は、ゴールまで止まることなく走り続け、一着となった。
「うそ…………」
これにはいくら超常現象を信じない私でも、言葉をなくしてしまう。
途中から、明らかにスピードがおかしくなったけど、あれはこの神を名乗る人物のせいなのかな?
「ふふんっ!!」
神は自分の小さい胸をこれでもかというほど強調していた。
たぶんAサイズだ。やっぱり、背も小さいし子供にしか見えない。
「今、ボクのことを子供みたいだなって思ったろ! 許さないぞ!!」
「あーすみません神様(棒)」
どうやら私の心を読まれたみたいだ。よし、それなら言わせてもらおう、Aー! Aー! Aー! そして私はDー!
「悠里はボクのことを馬鹿にしてるのかなっ!?」
「してません、してません(棒)」
「してるでしょ! 絶対!!」
「それにしても神様。一着になる馬を当てれば信じたのに、なんでわざわざ最下位の馬を一位にしたんですか? まあ、たしかにそれの方が私も納得しますけど、でも絶対、予知より馬を強化する方が神様の神秘的な力? というものを使う気がしますが……?」
「あ」
神様が固まっちゃった。図星だったみたい。
「さあ、それより早く願いを言うのさ!」
あ、話変えてきた。まあいいや。
「うん。じゃあ決めました」
「おおっ、早いな、もっと悩むかと」
そんなもの、この可愛い幼女神様に会ってから決まっている。
「私が神様に所望するのはー」
「所望するのはー…………」
「神様です!」
「へ?」
完全に予想外と言った顔をしている。どうやら神様は私の心を読んでいるつもりだったが、外れたようだね、ふふふ。
「えっと……悠里は、その、恋人が欲しいんじゃなかったの?」
「うん。欲しいよ」
「だったら…………」
「だから神様を選んだんだよ」
「なっ!」
「だって、神様と一緒になれば将来安定じゃん! 可愛いし、ちっちゃいし、可愛いし、あとなんだかんだ言って、私のことを養ってくれそうだから」
「絶対最後のが本音でしょ!!」
「えーそんなことないよー。神様可愛いよ」
「――っ〜!!」
「だめなの? 何でも良いって言ったのに?」
神様は明らかに狼狽していた。
ふふっ、押しに弱い神様だこと。
「うう、ボクは神だから、他にやる事があって…………それに母さまが人間界で暮らすなんて許す筈が」
――いいわよ
「え? 何? いま、なんか頭に直接声が」
「か、母さまですかー!?」
――そうよ。母さまよ。
どうやらこの美しい声の持ち主は、神様のお母様らしい。
「今、良いって…………」
――ええ、言ったわ。悠里ちゃんはいい子そうだし、暫く人間界でお世話になってみなさい。あ、念の為に神の力は回収しとくわね。でも貴方の身に危険が及んだら、自動的に力が戻るようにしとくから安心なさい。
「かあさま〜ぁ」
神ってそんな事まで出来るんだ。すごいなー。それにしても、神様のお母様、随分と手慣れてる気がする。
「あの……もしかして、神様のお母様も人間界でお過ごしになった事があるんですか?」
「え! そうなの!?」
――あら、バレちゃった。そうよー、母さまも若い頃、人間界にはお世話になったわー。あなたと同じ年頃に、悠里ちゃんのような子と一ヶ月共同生活したのよー。まあ、社会勉強だと思って、一ヶ月暮らしてみなさい。案外悪くないものよ。人間社会は。
神様が社会勉強って、なんか面白い。
「うー母さまが言うならー…………」
「じゃあ決まりですね神様。名前はなんて言うんですか?」
「言わないよ! ボクは神様だよ!」
――りーちゃんよー。
「ちょっと母さま!?」
「りーちゃん…………可愛いです! ぎゅーしていいですか?」
「ちょ、もうぎゅーしてるよー! 母さま助けてー!!」
――あらあら、仲が良さそうで良かったわ。それじゃあ一ヶ月後にまた声をかけるわね。
「母さまぁー!!」
天に向かって、叫ぶ幼女……いい。
――どうしても嫌だと思ったら、母さまのことを呼びなさい。すぐに迎えに行きますから。
「ううっ、かあさまぁー」
「可愛い」
「ちょっと悠里!」
――それじゃあ、娘を宜しくお願いしますね。坂口悠里さん。
「はい、娘さんはお預かりします!」
お母様は去り際に、こう告げていった。――後悔の残る選択だけはするなと。
それは私に対しての言葉なのか、りーちゃんに対しての言葉なのかは分からない。
(お母様もなにか後悔したことがあるのかな? お母様も人間界で暮らしてた事があるって言ってたから、同居してた子と何かあったのかも?)
「ボクの方が、神様だから偉いのにー!」
腕から脱出しようとするりーちゃんを押さえて、ぎゅーって堪能する。ほっぺは、ふにふにしていてとっても気持ちよかった。
「すりすりするなぁー!!」
「これから宜しくお願いします。神様っ!」
「よろしくするなぁーー!!」
これより、私とりーちゃん(神様)の奇妙な共同生活が幕を開けた。
期間は一ヶ月。私は絶対、りーちゃん(神様)を落としてみせる!
「落とそうとするなぁーーー!」
ネタバレ
悠里の母親とりーちゃんの母親は、一ヶ月の共同生活で恋に落ち、お互い愛を確かめ合いましたが、りーちゃんの母親は天界に帰る選択をして、後悔してしまったので、その娘である二人には後悔のない選択をして欲しいと考えています。