01 おばあさん、桃を拾う
むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがおりました。
彼らは都から離れた自然豊かな土地でくらしていました。
豪華ではないながらもよく手入れされた家があり、周囲の川や森は二人でつつましく暮らしていくには十分な恵みをもたらしてくれていました。
それはいつもと変わらない日のことです。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯をしに出かけました。
おばあさんはいつものように川で洗濯をしていると、上流から何かが流れてくることに気づきます。
ドンブラコ、ドンブラコ
と揺れながら流れてくるそれは、おばあさんの腕でやっと抱えられるかというほどの巨大な桃でした。
当然、おばあさんにそんな桃を拾い上げ、ましてや持ち帰ることなど出来るはずもありません。
……ただし、それはおばあさんが普通のおばあさんだった場合の話です。
おばあさんはドンブラコと目の前まで桃が流れてきたところで、やおら呟きます。
「【時間停止】」
おばあさんの言葉が吐き出された瞬間、世界は凍りつきました。正確にはおばあさん以外の世界が凍りついたのです。
「……まったく、もうこのスキルを使うことは無いと思っていたんですがね。
好奇心に勝てないとは、私もまだまだ枯れ果ててはいないという事でしょうか」
おばあさんは、まるで地面の上をあるくかのようにスタスタと川面に足を踏み出しました。そして川面もそれを地面であるかのように受け止めます。
時間が停止した世界ではおばあさんの許可が無い限り水も動くことを止めているのです。
桃の目の前まで来たおばあさんは、桃を包むように腕を振ります。すると桃に軽くノイズのような光がまたたき、巨大な桃は消滅してしまいました。
代わりにおばあさんの目の前に半透明のウインドウが開き文字がまたたきした。
―― 巨大な桃(未鑑定)を、インベントリに格納しました ――
おばあさんは川辺に戻り時間停止を解いてから、洗濯物と洗濯板もインベントリに格納して家に帰っていきました。