表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

古い作品

呪文

作者: 広峰

 俺は石だ。


 かなり前の話だが、なんとかという建設会社のトラックが沢山の仲間と一緒に俺を乗せてこの道を通った時、どういうわけか俺だけを落っことして行ってしまった。

 それ以来、俺はこの砂利道にずっと居る。


 俺の趣味は人間を転ばせることだ。

 この道は、近くの小学校と幼稚園に続いているらしく、よく人間の子供が通る。

 ここに来てしばらくした頃、人間の子供のオスが俺につま先を引っかけてすってんと転がった。

 その様子ときたらなんとも不器用で間抜けで、尾を引く甲高い喚き声も非常に興味深いものだった。

 目という器官から溢れ落ちる水がぽたぽたと俺の上を洗ってくれて、素晴らしく気持ちが良かった。

 それから俺は転ばせること、転んだ様子を観察するのが趣味になった。

 ……他に何も楽しいことなど無いのだ。


 ある日のこと。

 ランドセルとやらを背負った人間の子供のメスが、俺を勢いよく蹴飛ばしながらすっ転んだ。

 派手に足をぶつけたらしく、膝という部分から赤い液体をにじませていた。


 メスの子供はどんな声で泣くのだろうと期待しながら待っていると、そいつはただ「うっ」とうめいただけだった。

 そして立ち上がろうとしてぎくりと体をこわばらせた。

 いたい、という感覚は俺にはわからないが、どうやらそういう状態らしい。

 人間の子供は頭を膝に近づけて怪我の様子を確かめているらしかった。


 どうもこれはいくらか冷静な子供のようだった。

 そいつは鼻をすすると、ポケットからハンカチと呼ばれる薄いものを引っ張り出し、目にあてがった。

 まず目から出かけた液体をぬぐい取り、それから鼻を拭き、もう一度ハンカチを広げて膝を押さえた。


 そして、メスの人間の子供は不思議な動きをした。

 押さえたハンカチの上から掌で撫でるように円を描き、子供らしい高い声で言った。


「ちちんぷいぷい、いたいのいたいの、とんでいけ~!」


 そしてその掌を思い切り払うように俺の方へ伸ばした。

 そのとたん、俺の全身がズキズキとうずきだした。

 なんだ、これは。

 体が壊れる。いや、壊れるようだ。

 トラックから落とされて地面にぶつかった後の振動よりも嫌な感じだった。

 俺は初めて知る感覚に苛まれながら、子供の声を聞いた。


「……あ、治った。」


 子供は元気よく立ちあがると、何事もなかったように俺の脇を通り過ぎて行った。



 終

大昔に書いたものの焼き直しです。

元原稿は無くなってしまいました。

2009.03.03書き直し

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ