2. パーティーへの道
何の前触れもなくエルヴィス王都邸にやって来た王太子殿下、もとい、婚約者のアルフレッド・アンディーク。いきなり家に押しかけるなんて、いくらなんでも非常識ではないだろうか。なんて思いながらも丁寧な礼をする。
「殿下、今日はどんな御用でいらっしゃったのですか?」
「今日のパーティーについてだ」
パーティーについて…まあ十中八九そうだろうと思っていたが、何を言いに来たのだろう?婚約破棄の告知でもしに来たのだろうか。
「今日のパーティー、私はお前のエスコートをしないことにした」
なるほどね。直前に話せば代わりの人を用意できないと思って当日に……
「それでは、殿下は一体誰のエスコートをなさるおつもりですか?」
「決まっているだろう。マリアのエスコートだ」
何がどう決まっているのかが全く理解できないが、ここは私が大人になってあげよう。
「そうですか。わかりました」
殿下は目を見開いた。すんなりと承諾したことに驚いているのだろう。
まあ私も鬼じゃないし、好きな人のエスコートをしたいという気持ちは分からなくもない。だからここは私が身をひいてはあげようと思ったのだ。
殿下は少しの間不思議そうにしていたが、その方が好都合と考えたのだろう。出された紅茶に一切手をつけずに帰って行った。
「なんなんですか!王太子様はお嬢様の婚約者なのに、他の女性をエスコートするなんて!」
部屋に戻ってすぐ、シーラが怒りだした。
「私、旦那様に報告してきます!」
今にも部屋を飛び出しそうなシーラを引き止める。
「待って、シーラ。お父様はこのことを知っていた上でわざと黙っているかもしれないわ」
「え、なぜそのようなことを…」
「私を試しているんじゃないかしら。次の王妃として相応しいかを見るために」
可能性があるのは2つ。1つは、さっき言った通り、お父様が私を試している場合。もう1つは、私がいじめの張本人だと疑っている場合。
娘についてのことだから、きっと報告はされているはず。2つ目の場合も十分有り得る。
「だから、お父様への報告はなしね」
「…わかりました」
まだ納得していないようだったが、放置しよう。
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あれから適当に時間を潰し、パーティーの準備をする時間になった。
「さあお嬢様、おめかしの時間ですよ。王太子様が後悔するくらい綺麗にしましょう」
シーラがニコニコとしながら言うので、こっちまで笑ってしまう。
「後悔してくれるといいわね」
今日のドレスは濃い青のスレンダーラインのドレスだ。デコルテ部分はホルターネックで綺麗なレースがあしらわれている。
いつも着ていたのとは違ってフリルが少なく、体型が出やすいものだった。
「ふふっ…お嬢様の瞳と髪の色にあっててとっても綺麗ですよ」
「ありがとう」
私の髪は父譲りの銀色で、瞳は母譲りの深い青色だった。
弟のラルフとは双子なのにあまり似ておらず、両親を疑ったこともあった。
それにしても…
「このドレス、ちょっと肩が出すぎじゃない?」
レースで多少隠れているものの、背中は3分の1が出ている。
「そんなことないですっ。お嬢様は肌が白くてすべすべですから、これくらい出ている方がいいんですよ!」
うーん、そうかな?と迷っている間にシーラは化粧の準備を始めた。
「お嬢様は元がいいですから、化粧は薄めで紅を塗りましょう」
「あら、元がいいだなんて。褒めても何も出ないわよ……お菓子食べる?」
「やった!」
「好きなの選んでいいわよ」
シーラは妹みたいで可愛いし、いい子だからつい甘やかしちゃうんだよね。
「あとは髪ですね。どういうのがいいですか?」
「うーん、ハーフアップはどう?」
「いいですね!編み込んでバレッタもつけましょう!!」
シーラは手際良く編み込み、青いバレッタをつけてくれた。
「完成です!お嬢様、とってもお綺麗ですよ」
「ありがとう。そろそろ時間ね」
全ての準備を終わらせ、シーラと馬車に乗り込んだ。
「お嬢様…弟様にエスコートを頼まれてはいかがでしょうか?」
「無理ね。ラルフはもう会場に入っているでしょうから」
「うぅ…やっぱり少し悔しいです」
「気にしないで。このことはもういいから」
「でも、これではお嬢様やエルヴィス公爵の評判が…」
「大丈夫よ。…ほら、もう着くみたいよ」
会場へと辿り着いた私は、シーラを残して馬車から降りた。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
「ええ、行ってくるわ」
私は会場の入口へと歩きだした。