1-04 ギルドに行こう
それからわたしは頭の中でアイナとおしゃべりをしながら歩きました。
5分ほど歩くと目の前に大きな壁がありました。この壁の外にわたしの知らない世界が広がっている・・・、早くその世界に飛び込みたいのですが、どうやって壁を越えればよいのでしょうか?わたしには越える方法が思いつきませんでした。するとアイナが
「(ちょっと替わるね)」
「(うん、いいよ)」
どうするつもりだろ?って、えっ!木に登って飛び移る!?無理無理!木も壁も5mぐらいあるんだよ!落ちたら死んじゃうって!ちょっとー!
なんかイリーナがうるさいけど、私の身体能力なら5mぐらいの高さなら飛び降りても大丈夫だからね。さて、あの木が塀に近くて登りやすそうかな。
どうやら身体能力は、佐藤 愛菜の身体能力とイリーナの身体能力が合わさっているようだ。垂直ジャンプも1.5mぐらいまで跳べるようになっている。これなら7mぐらいから飛び降りても問題はないだろう。私は木の枝に飛び乗り、次の枝までジャンプして登っていった。
塀より少し高いところまで登ると、周囲を一望できた。周辺は神様に聞いていたように、中世ヨーロッパと酷似している町並みが広がっていた。
「うわー、本当に異世界に来たんだなー」
「(わたしも家の外を見るのは初めて、うわー、家がたっくさんあるなー)」
私はイリーナと一緒に町並みに感動しながら、塀の上に飛び移った。
「あっ!」
そして足を踏み外して外へと落ちた。
「「きゃーーーー!」」
ずどーん!
「痛たたたっ!ドジっちゃた」
「(もう!だから言ったのに)」
「(まあ、これぐらいならスキルを使えばすぐ治るでしょう。完全回復っと)」
「(・・・・・あれ?治らないな?もう一度、完全回復)」
「(まだ痛いよー、スキル使ったのー?)」
「(おかしいな、使用制限でもあるのかな?まあ動けるからいいけど)」
「(痛いままなのは嫌なんですけど)」
「(痛みなんて慣れれば気にならなくなるから大丈夫。それよりも近くに人がいないで助かったよー。塀の上から落ちてきたなんてバレたら面倒だっただろうし)」
「(今度からはちゃんと気をつけてよね)」
「(分かってるわよ)」
私は服に付いた土埃を払い、次にやることを考えた。
「(うーん、これからは自給自足の生活をしないといけないんだよね。何かいい職業はないかな?)」
この世界の職業は私には全く分からない。だからイリーナに尋ねた。
「(力に自信があるんだったら、冒険者ギルドに所属するのがいいと思います)」
「(冒険者ギルド?)」
「(はい!依頼を受けて魔物を討伐したり荷馬車の護衛をしたりするお仕事です!実力がないとすぐに死んじゃいますけど、アイナさんなら大丈夫です!きっと)」
「(やけに嬉しそうに言うわね…、憧れてたの?)」
「(それはもちろん!無能と言われたわたしにとって冒険者は憧れでした!その憧れの職業に自分が就けるかもしれないと思うだけで、わたしは嬉しいです!)」
「(まあレベルが上がれば強くなれるだろうし、実力が付けば身の入りも良さそうだし…、よし!それじゃあ冒険者になろうか!)」
「(はい!)」
こうして私たちは冒険者になる為に冒険者ギルドを目指すことにした。
「(ところで冒険者ギルドってどこにあるの?)」
「(分かりません!)」
「(・・・とりあえず街の中心っぽい場所に行こうかな)」
――――――――――
しばらく歩いていると看板を見つけた。私はじっと看板を見つめた。そして・・・
「読めない・・・」
やっぱり字が読めなかった。そういえば神様も相方に期待しろって言っていたし、ここはイリーナに任せるか。
「(イリーナ、この看板読める?)」
「(中央広場はこっちの道、南門はそっちの道、北門はあっちの道だと書いてあります)」
「(ありがと、中央に行けそうなのはこっちの道なのね)」
そんなことをしていたらあっという間に中央広場に着いた。中央広場というぐらいだから広い空間があると思っていたけど、真ん中にある大きな噴水のせいで、とても狭く感じられた。この噴水、通行の邪魔だから無いほうが良くない?せめてもう少し小さくつくろうよ。
「(冒険者ギルドがどこにあるか聞きたいけど・・・、たぶん私が言っても通じないと思うのよねぇ・・・)」
「(わたしが替わりましょうか?)」
「(悪いけどお願いできる?)」
「(任せてください!)」
私も早くこの国の言葉を覚えないとなぁ・・・
「すみません、そこのお姉さん」
「ん、どうしたんだいお嬢ちゃん?」
「冒険者ギルドへの行き方が分からないので、教えていただけないでしょうか?」
「ああ、この通りをまっすぐ行くと右側に大きな建物が見えてくるから、そこが冒険者ギルドだよ」
「ありがとうございます!」
「このぐらいお安い御用だよ」
「(じゃあ冒険者ギルドでの登録もよろしくね。さっきの会話を聞いてても全く分からなかったから)」
「(分かった!それじゃ魔物を狩る時はアイナに任せるね!)」
わたしは冒険者ギルドへと歩きました。なんか以前よりも体が軽い気がします。これもアイナが来てくれたからでしょうか?
からら~ん
冒険者ギルドの扉にはドアベルが付いていました。中にいる人が一斉にこちらを向きます。冒険者の皆さんは、ギルドに入ってきた人を凝視すると物語で読んだことがあります。たくさんの人に見られるのは恥ずかしいです。でも憧れの職業の先輩なのですから変な真似はできません。わたしは視線を避けるように早足で受付カウンターに向かいました。
「ようこそ冒険者ギルドへ。依頼の受付ですか?」
「いえ違います。冒険者登録をしに来ました」
「冒険者登録ですね。それでは書類を作成しますので、お名前を教えてください」
「イリーナです」
「イリーナ、さんですね。書類を作成している間に冒険者としての心得をお聞きしますか?」
「ぜひ!」
「分かりました。少々お待ちください」
30秒ほどで奥から別の受付さんが出てきました。
「お待たせしました。冒険者としての心得をお教えします」
「冒険者はそこの依頼ボードに貼ってある依頼を確認し、受けたい依頼の書かれた紙を剥がして受付に持って行くと、依頼を受けたことになります。依頼内容が読めなくても代読人が依頼ボードの近くにいますので、そちらにお尋ねください。冒険者の仕事は大きく分けて4種類あります」
「1つ目が魔物討伐。依頼を受けて街道を塞いでいる魔物を倒しに行ったり、魔物の素材を回収して納品したりします」
「2つ目が護衛依頼。行商馬車や集合馬車を魔物や盗賊から守ります」
「3つめが植物採取。薬草などの指定された植物を納品します」
「4つ目がお手伝いですね。食堂の店員が足りない時や朝市での買出し代行など、様々な依頼があります。あなたにお勧めなのはこれですかね」
「狩った魔物は、討伐証明部位をそこの納品所に提出することで、国から報奨金がもらえます。取ってきた魔物の素材や植物も納品所で買い取ります」
「主にこれらが冒険者の仕事です。新人冒険者は先輩冒険者のパーティーに入れてもらい、先輩方から様々なことを学ぶことをお勧めします。」
受付さんの話を聴いていると、最初の受付さんがカードを手渡してきました。
「これはギルドカードといいます。このカードに名前と現在のギルドランクが書かれています。ギルドランクはF・E・D・C・B・A・Sの7つのランクがあり、Sランクが最も高いランクとなります。新人冒険者は必ずFランクですね。ランクによって受けられる依頼に制限がありますのでご注意ください。それでは、良い冒険者ライフを」
「ありがとうございます!」
これが、わたしのギルドカード・・・、わたし、憧れの冒険者になれたんだ!やったー!
「(喜んでいるところ悪いんだけど、依頼の確認をお願い)」
「(そうだったね、ごめんごめん)」
わたしは依頼ボードのところに行きました。
「(どんなのがいい?)」
「(あんまり強くない魔物の討伐か素材回収をする依頼がいいかな。あとできれば報酬がいいやつ)」
「(う~ん・・・あ、これなんてどう?[ウッドスライムの死骸10匹の納品]報酬は銀貨2枚だけど)」
「(銀貨2枚って安いの?)」
「(銀貨2枚は銅貨20枚なので、そんなに安いわけではないです)」
「(この国の貨幣はどんな種類があるの?)」
「(確か、鉄貨10枚で銅貨1枚、銅貨10枚で小銀貨1枚、小銀貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で小金貨1枚、小金貨10枚で金貨1枚、金貨10枚で大金貨1枚です)」
「(7種類も貨幣があるんだ。ウッドスライムってどんなやつ?)」
「(木でできたスライムで、他のスライムと違って物理攻撃が効くの)」
「(他のスライムは物理が効かないんだ)」
「(物理が全く効かないスライムが多いけど、メタルスライムとかは効くよ。剣が折れちゃうだろうけど)」
「(まあいいや、じゃあウッドスライムの依頼を受けて、小手調べしよう」」
「(分かった)」
そうしてわたしたちは楽しい冒険者生活を期待しながら、初めての依頼を受けました。
初期案
イリーナに「自動翻訳」のスキルをつける予定でした。でも異世界転生物で言葉に困る話は読んだことがなかったため、オリジナリティーを取り入れるために無くしました。
貨幣の種類が少なく、鉄貨・銅貨・銀貨・金貨・大金貨の5種類でした。後の話で貨幣の種類が少ないと不都合が生じたため、増やしました。