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650文字短編集

ナポリタン



 俺が小学生の頃の話だ。

 夏休みの雨の日。

 ウチの喫茶店の軒下に、女の子が雨宿りしていた。

 髪はボサボサ、白いワンピースも色が変わっていた。


 雨は中々止まなかった。


 見かねた親父は女の子を店内に呼び、カウンターの端っこに座らせた。


「あの、お金、ないので」


 俯きながらボソボソと話す女の子。

 親父は、子供が遠慮なんてするもんじゃねぇ、とパスタを茹でながら笑う。


「ほい、食べな」


 女の子の目の前に置かれたのは、よくあるナポリタンスパゲティ。

 その横にはレモンソーダ。


 女の子は戸惑っていたけど、ケチャップの香りに誘われたのか、くぅとお腹を鳴らしてしまった。

 顔を真っ赤にして俯くその顔が可愛くて。

 名も知らぬ女の子だけれど、たぶんそれが俺の初恋だ。


「──そんなことよりだな、今日から転入生が来るらしいぞ」

「てめ、俺の純粋な初恋話をよくも」


 転入生が来るとあって、高校二年生になったばかりの朝の教室は、異様なテンションだった。


「どんな女の子が来るんだろうな〜」


 悪友は、顔面を緩ませて妄想に耽っている。


「……女子なのか?」

「転入生と言えば美少女に決まってる」


 謎理論だ。

 男子は転校しないと思っているのか。


 教室の扉が開いた。


「席につけ。今日からクラスの一員になる、高本さんだ」


 入ってきたのは……あ。


「高本ひよりです。好きな食べ物は、ナポリタンです」


 あの時の、女の子だ。


「また、逢えたね」


 あどけない笑みを浮かべた彼女は、たしかにそう言ったんだ。


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