きけんなわな
「じゃあ、ごはんにしようか」
「おべんとう!」
キャンパスさんにいただいた4名ぶんのお弁当をポーチから、すぽーん、と取り出します。……よく入ったと思います。
「おおーっ、さっすが、こずえさんなのだ」
「おー、おいしそうだねー」
「キャンパスさんにいただきました。みなさんで食べましょう!」
「……んー? わたしもー?」
「はい、もちろんです」
「ありがとー」
お弁当をひろげて、みんなで一緒に、りんごサンドやクッキー、シルクさんが持ってきたきつねうどんを、わいわいと食べます。
「これ、なーに?」
シルクさんは箸を使って、緬を器用にすくいあげました。
「きつねうどんだよー。麺はすすって食べるんだー。一口どうー?」
「わーい、たべるー!」
メディアちゃんはきつねうどんをじっと見つめています。シルクさんに一口もらって、ちゅるりと吸い上げました。
「んー、おいしい! ありがとう、シルク!」
「あたし! あたしにも!」
「わかったよー」
今度はリコリスさんがうどんをすすります。
「うまーい! シルク、ありがとうなのだ」
「どーいたしましてー」
*
シルクさんは、りんごサンドとお揚げに、交互にかぶりついています。
「ところで、こずえさんは、おうごんのりんごを見つけたら、どうするつもりなのかなー?」
「実はディエスさんの研究の必要なんです。それと、もし、おうごんのりんごにニジイロチョウの羽の輝きがたくさんこめられているとしたら、僕はもう少し長いあいだ、みなさんとお話ができるようになれると思うからです」
「……そっかー」
シルクさんはそれ以上追及せず、リコリスさんの冒険譚と、メディアちゃんによる僕のお料理のお話に獣耳を傾けて、楽しそうに付き合ってくれました。
気がつくと、ごはんは、あっというまになくなってしまいました。
*
「じゃあ、おたからのところに案内するからー、まっすぐ、わたしに着いてきてねー。横道にそれると、わなを踏んじゃうかもしれないからさー」
「はい。よろしくお願いします!」
おんせんりょかんを出て、シルクさんの案内でおうごんのりんごのあるほうへと向かいます。隠し通路を抜けて、回転扉を抜けると、道が2本に分かれていました。
「おたからがまっているのだー!」
「うみゃーっ! ボクもがんばっちゃうよ! こずえちゃん、がんばろう!」
「うん……」
「ここの壁から、おたからのにおいがするのだ!」
リコリスさんは、周りより少し色の濃い壁に触れました。
「あっ、リコリスさーん、下手に壁を触るとあぶないよー」
「ふぇっ?」
「うわぁっ!」
「うみゃ?」
とんできた蔦に足をすくわれて、僕は地面を引きずられてしまいます。
僕の手首にしっぽを絡めたメディアちゃんも一緒に引っ張られて、倒れてしまいました。
メディアちゃんに手を貸してもらい、よろよろと立ち上がります。顔を上げると、メディアちゃんしかいません。振り返ると、ペンライトをかざしたシルクさんの獣耳が見えました。
「こずえさーん、メディアさーん、だいじょうぶー?」
「はい、何とか!」
「ボクは、へーきだよ!」
メディアちゃんの手を引いて、そっと起こしてあげます。
リコリスさんは、がっくりと膝をついています。
「ご、ごめんなさいなのだ。あたしのせいなのだ……」
「いえ、リコリスさんは悪くないです。壁にわながあることは僕にも予測できませんでしたから。僕の不注意で転んでしまっただけです。すみません」
「いやいや、わたしがちゃんと注意していればよかっただけだからさー。誤るのはわたしのほうだよー。こずえさん、メディアさん、ごめんねー」
「シルクさん……。迷惑ばかりかけて、すみません」
「うみゃあん……わるい子なんていないよー!」
メディアちゃんの獣耳が、へなりと、しおれてしまいました。
「メディアちゃん……ごめんね。どこか痛いところはない?」
「へーき、へーき。ボク、がんじょうだから。それよりも、こずえちゃん、けがしてない?」
「うん。ちょっと、すりむ……転んだだけだよ」
「あー、こずえさーん。そっちは、あぶないかもよー?」
「えっ、すみません……」
「ごめんね、すぐにもどるよ!」
メディアちゃんが一歩踏み出したとき、僕の身体は勢いよく壁に押し出されて、宙に浮かんでいました。
眼前には、しっぽ伝いに引っ張られたメディアちゃんが迫ってきます。
「はえっ?」
「うみゃっ……!」
メディアちゃんが、僕の頭を抱きかかえるように覆いかぶさります。
右腕に強い衝撃が走った後、目の前がふっと暗くなりました。
次回、第1節「嘆きの怪物(なげきのかいぶつ)・上」。