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あやしいかげ

「あいたたた……なんだか頭がいたいのだ」

「リコリスさん、だいじょうぶですか?」


 僕はメディアちゃんに抱えられたまま、リコリスさんに声をかけました。

 リコリスさんは頭をおさえてうずくまっています。


「おっ、あんたら、もうあたしに追いついたのか!」

「はい。リコリスさんの悲鳴が聞こえたので、みんなで探しにきました」

「おおっ、助かっ……あっ」


 リコリスさんは、両手でスコップを地面に、かつん、と突き立てて、立ち上がりました。周囲を警戒して、辺りを見渡します。


「気をつけろ、ここには怪物がいるみたいなのだ。さっきそこに……いた!」

「うみゃあっ! お化けー!」

「メディ……ぐふっ」


 メディアちゃんは僕を思い切り抱きしめてきます。ちょっぴり苦しいです。


 壁面にライトが照らされ、見慣れない大きなシルエットが映っています。

 ディエスさんは肩をすくめました。


「いや、あれはどう見てもただの影絵じゃ……ええっ」

「こ、こっちに来るなあ! おたからは渡さないのだぁ!」


 リコリスさんはシルエットに向けて、スコップを構えています。


「がおー。悪い子は食べちゃうよー」


 後ろのほうからほんわかした声がしました。


「あ、あたしは悪い子じゃない! 食べてもおいしくないのだ!」

「ねえ、こずえちゃん。あっちのほうから声がするよ?」

「どれどれ……?」


 メディアちゃんの獣耳が向いたほうにライトを当ててみます。


「あっ」


 すると、ペンライトを手に当てて影絵をつくっている獣耳の女の子がいました。つやのある白っぽい毛並みをしていて、桜とト音記号を組み合わせた髪飾りをしています。全体的に桜の木を連想させる服装です。


「ボク、メディア! キミは……あたまには、大きなお耳! それに、ふさふさの大きなしっぽがある! もしかして、きつねの子かな?」

「そうだよー。怪物じゃなかったのかー。あー……ちょっと、やりすぎちゃったかな?」


 きつねの子が指をさしています。

 僕とメディアちゃんが振り返ると、リコリスさんがぱったりと倒れていました。


   *


「おもい」


 リコリスさんは、気絶して、ディエスさんに左肩で担がれています。

 ディエスさんの右手には、リコリスさんの右手にしっかりと握られていました。


 抱っこしてもらっていた僕は、メディアちゃんに頼んで、そっと地面に下ろしてもらいます。

 きつねの子は、艶のある白っぽい毛並みをしています。


「やあ、おどろかせちゃって、ごめんねー。わたしは、ウルペース・シルクだよー。よろしくー」

「シルクちゃんだね。こっちは、こずえちゃん! 後ろにいる黒髪の子がディエスで、茶髪の子がリコリスだよ。よろしくね、シルク!」

「僕は、麦野むぎのこずえっていいます。シルクさん、よろしくお願いします」


 僕がお辞儀をすると、メディアちゃんも横にならんでお辞儀しました。


「よろしくー。このへんは怪物が出るから、驚かして追い払っているんだよー」


 シルクさんは顔の下からペンライトを当ててみせました。


「そのペンライトは?」

「んー? わたしが昔ひろったものだよー? そっかー、ペンライトっていうのかー。こずえさんの持っているライトに、ちょっと似ているかもねー」


 メディアちゃんはシルクさんの真似をして、ライトを顔の下から当てています。


「ボクたち、こずえちゃんと一緒に、おたから探しに来たんだ!」

「おたからかー。あたからなんてあったかなー? もしかして、光るりんごのことかな?」

「えっとね。おうごんのりんごがあるんだって!」


 シルクさんは、獣耳をぴくりと動かしました。


「ん……やっぱりそうかー。……よいしょっと」


 シルクさんが壁を押すと、石壁が回転して、明るい一本道があらわれました。

 忍者屋敷みたいです。……どうして僕は忍者について知っているのでしょうか。


「なにこれ、おもしろーい!!」


 メディアちゃんは、開いている回転扉の右側へ飛び込み、反対側から出てきました。


「案内するから、着いてきてよー」


   *


「このさきに、おんせんがあるんだよー」


 奥のほうからぼんやりと明かりが見える、まっすぐの通路を進んでいきます。天井の隅に隙間があって、そこから光がさしています。外と繋がっているのでしょうか、それとも、人工的な間接照明なのでしょうか。わかりません。


「こっちだよー」

 

 シルクさんが石壁を押すと、壁が回転して、隠し通路があらわれました。


「こずえさんたちは、光る……おうごんのりんごをさがしにきたのかなー?」

「はい。あの、シルクさん。よろしければ、おうごんのりんごについて、詳しく教えていただけませんか」

「まあまあー、いそがなくてもー、ゆっくりしながらお話するよー」

「わ、わかりました」


   *


「ほらー、ついたよー。ここは、おんせんりょかんっていうんだー。お客さんから聞いたんだけどー、ゆきやまにもあるらしいねー。でも、わたしは見たことないやー」


「ねえねえ、こずえちゃん。おんせんりょかんってなーに?」

「えっ」


 頭の中では、おんせんりょかんをイメージできます。でも、おんせんりょかんでの楽しい思い出は、何ひとつ思い浮かびません。……何だか変な感じです。


「うーんと……。『おんせん』と『りょかん』に分けて考えてみようか。りょかんは、えっと……簡単にいえば、お客さんがナワバリを借りられる建物のことだよ。お客さんによっては、お泊りすることもあるんだ」

「へー、そうなんだ! お泊りもできるんだね」

「うん。それで、おんせんっていうのは……」


「まあまあ。実際に見たほうが早いと思うよー」


 シルクさんは、ふさふさのしっぽを左右に揺らしながら、おんせんりょかんの奥へと進んでいきます。


「……じゃあ、実際に見てみようか」

「わかった!」


 おんせんりょかんの入口は、通路と同じように、ぼんやりと明るくなっていました。僕の目でも、周囲の様子がよくわかります。

 メディアちゃんは通路の壁でごりごりと爪とぎをしています。


「このあたり、壁がひびわれてきちゃってるからさー、崩さないように、気をつけてねー」

「うみゃ……わかった!」


 メディアちゃんは爪とぎをやめて、僕の傍にぴったりとくっつきました。

   挿絵(By みてみん)

   イラスト:賀茂川家鴨


「シルクさんのペンライト、ディエスさんにもらったものにそっくりです」

「うん。同じものだよー。もともとは目に当てて使うんだー」

「ええっ、目に当てたらまぶしいよ!」


「なあ、このライト、例のC災害のときに支給されたやつの余りものなんだよね。もしかして、君は……」

「怪物さんをちらほらと見かけるころだったかなー。これ、お客さんからもらったんだよー」

「……なるほどね。大事にしてくれよ」

「わかったよー」


 次回、第3節「おんせん」。

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