さばくのおあしす
「おったから、おったから、どこだろー?」
メディアちゃんは、お水を飲んで元気になったみたいです。
僕の日傘からはみでて、隣でスキップしていました。
メディアちゃんのさらさらした金髪が、そよ風になびきます。
「あんまりはしゃぐと、また倒れちゃうよ?」
「わかった!」
メディアちゃんは僕の肩に獣耳を寄せて、日傘にすっぽりと入ってきました。
*
「あ……あつーい。ちきゅうがあついよー。あしのうらが燃えちゃいそうだよー!」
「そ、そうだね……」
メディアちゃんはつま先立ちになって歩いています。
「うーん……いま、砂漠のどの辺りかな?」
僕は、オアシスを目指すため、方位磁石と地図を見比べていました。
「地図によれば、このまままっすぐ歩いた先にオアシスがあるみたい」
「オアシス? なにそれー!」
メディアちゃんは、瞳をきらきらさせて、顔を寄せてきました。
「オアシスは、さばくの中にあって、お水が、わき出ている緑地のことだよ」
「そうなんだ! さっすがこずえちゃんは、ものしりさんだね!」
「えへへ……、そんなことないよ。でも、ありがとう」
「あっ!」
ふと、メディアちゃんの歩みが止まり、日傘からとびだします。
「なんか見えてきたよ! うみ?」
「池じゃないかな……。きっと、あれがオアシスだと思うよ」
中央の泉を囲むように、おおきな南国風の木が2本生えています。
「もしかしたら、蜃気楼かもしれないから、いつものペースで歩こう」
「うみゃ……。そっか。むりに走ったら、体力がなくなっちゃうもんね!」
メディアちゃんは日傘の中にすっぽりと戻りました。僕にぴったりとくっついて歩きます。
「そ、そうだね……」
*
メディアちゃんの獣耳がぴくりと動き、しっぽがぴんと立ちました。
「水の音がするよ。近くにオアシスがあるかも!」
「音……? メディアちゃんは、とっても耳がいいんだよね」
「うん。大きい音は苦手だけどねー」
うずうずするメディアちゃんと一緒に、泉のほうへ歩いていきます。
しばらく進むと、地面に草木が広がりはじめてきました。
やがて、僕が腕を広げた長さの7倍くらいの直径がある、小さな泉に着きました。
「どれどれ……」
僕は水面に手を触れます。
青空を反射する、ひんやりと冷たい水が、そこにありました。
「オアシスー! ……つめたっ!」
メディアちゃんは指先で水面をつんつんしています。
小さな波紋が、青空をカンバスに、僕とメディアちゃんの顔を揺らしました。
メディアちゃんと一緒に、手にすくって口にします。
「つめたくて、おいしー!」
「ここならお水が汲めるね」
水筒にお水を汲み足します。和泉の水を手ですくって呑み、メディアちゃんと一緒にのんびりとくつろぎました。
ディエスさんとリコリスさんは、オアシスの泉をはさんで、僕たちとは反対側でくつろいでいました。
「オアシスが意外と近くにあってよかった……」
「あれっ?」
リコリスさんは水面に映った空を見つめて、きょとんとします。
「あたしは、どっちから歩いてたんだっけ?」
ディエスさんが後ろのほうを指差しました。
「えっ? こっちだと思うけど」
リコリスさんは肩からスコップを下ろして、ぽかんとしました。
「えっと、あたしらは、どこに向かえばいいのだ? そもそも、なにしに来たんだっけ?」
「ええっ。わ、忘れるの、早すぎ……。あたし達は、おたからさがしに、さばくまで来たんだよ」
リコリスさんは小首を傾げてから、スコップを担ぎました。
「お、おう、そうだった! ……で、どっちに行けばいいのだ?」
「……あっ。地図もってない」
ぽかんとするディエスさんに、リコリスさんは肩を落とします。
「その……ちず、がないと、だめなのか……?」
「だいたい道は覚えているから、なんとかなると思うよ」
「そうかい! それはそうと、あれはなんなのだ? あな?」
「いや……階段じゃないか。みんなを待ったほうがいいと思……」
「ふっふっふ。おたからのにおいがする! とつげ……あっ」
リコリスさんは会談を転げ落ちていきました。
「ええー……」
*
~ついき~
「あれ? ねえねえ、あひるちゃん。こずえちゃんがボクに……けいご? を使ってるよ! どうして?」
「はい。なおしておきました」
「うみゃあん……」
次回、第2章 第1節「きけんなあな」。