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もりをぬけて

   挿絵(By みてみん)

   イラスト:賀茂川家鴨

 うっそうとした森の奥、太陽の光が枝に反射してきらきらとさしこんできます。

 メディアちゃんは猫耳を左右にぴこぴこと動かして、周囲を警戒しながら、僕の傍を一緒に歩いていました。


 ときどき地図やコンパスとにらめっこしながら、森の奥地にずんずんと進んでいきます。


 ふと、メディアちゃんが足を止めました。

「あれ? どっちに進めばいいのかな?」

 あたり一面、うっそうとした木々に囲まれています。


 メディアちゃんのしっぽから、へなりと力が抜けました。

「え、えっと、なんとなくこっちな気はするけど……。こずえちゃん、どっちにすすめばいいの?」

 ふさふさした毛で覆われた猫耳が僕のほうを向きます。


「このまままっすぐだよ。たぶん」

「こっちにいけばいいんだね! さっすが、こずえちゃん!」

「えっ。そ、そうかな?」

 麦藁ぼうしのつばをちょっと下げると、メディアちゃんは、ひょいと顔を覗かせてきます。


「こずえちゃんはね、ちずが読めるし、お料理がとっても上手で、ボクやみんながこまったときには、すぐに助けてくれる、とってもやさしい子なんだよ!」

「えへへ、メディアちゃん……ありがとう」


   *


 もりを抜けた先の地面は、湿った土から、乾いた砂へと変わっていきました。

 だんだんと、木々の背丈が低くなっていき、その後は、木々を見かけなくなっていきます。


「……メディアちゃん?」

 ふと顔を上げると、太陽の暑さで汗がどっと噴き出してきました。


「うぅ……あ、あついよー。ボク、なんだか、くらくらする……」


「メディアちゃん、しっかりして!」

「うみゃあん……」


 メディアちゃんは、ほとんど汗をかいていないみたいです。

 ヒトは長い距離を歩いても平気ですが、ねこさんのメディアちゃんやリスさんのリコリスさんにとっては長い道のりだと思います。しっかりと休憩をはさんであげたほうがいいでしょう。……リコリスさんはだいじょうぶでしょうか。


「ちょっと休憩しようか」


 僕はポーチから折りたたみの黒い日傘を取り出して肩にかけ、メディアちゃんにかざします。

 水筒のフタをコップにして、お水を注ぎます。メディアちゃんには、僕の分を減らして、多めにあげました。

 僕は小さくうつむいて、コップの水面にひろがる波紋を見つめます。


「メディアちゃん、お水、どうぞ」


 メディアちゃんはお水をごくごくと飲み干します。

「う、うみゃ……お水……はあ、はあ……」

 お水を飲み終えたメディアちゃんは、呼吸に大忙しみたいです。


 地図によれば、ここから砂漠をまっすぐ進んだところにオアシスがあるみたいです。もし、オアシスが見つからなかったときは、サボテンをちぎってお水をもらう予定を立てています。

 あとは、おたからの場所が涼しいところであってほしいです。


「うみゃ……?」

 ふと、メディアちゃんの獣耳がぴくりと動いて、がばりと身を起こします。

 びっくりして、尻餅をついてしまいました。


「うわぁ! メディアちゃん、だいじょうぶ?」

「さばくって、こんなに大変だったんだね……。元気になったよ。ありがとう、こずえちゃん!」


 メディアちゃんはぴょんとジャンプして、小高い砂丘にのっかりました。

「なにかないかなー?」

 メディアちゃんは、遠くのほうを観察しているみたいです。


「うーん……なんだろー? ぼんやりと地面が浮いているような……?」

「メディアちゃん、それは蜃気楼じゃないかな」

「しんきろう? なにそれー!」


「えっと……遠くの場所にあるものが、違う場所に見える不思議なことだよ。ちゃんというと、場所によって、大気っていう、地球をとりまいている空気全体の温度が違うとき、地面や海の表面の温度の近くにある空気の密度に違いが起こって、光線が屈折することで、普通とは違う場所に物体の像ができるんだ」


「うーんと……みつど?」


「密度っていうのは……。うーん。例えば、お水は、温度によって大きさが変わるよね。お茶をつくるとき、熱くすると、湯気に姿が変わっちゃうんだ。冷凍庫で氷をつくると、氷に姿が変わっちゃう。ある大きさを基準にして、四角い立方体……箱の形で切り取ってみると、質量っていう物質の分量が、四角い立方体の中にどれくらいあるか、これが密度っていうんだよ」


「えっと……えっと……さっすがこずえちゃんだね!」


 メディアちゃんは猫の手のポーズをとりました。

 獣耳が、へなりと垂れ下がっています。このお耳からして、あんまりわかっていないみたいです。たぶん。僕の説明が下手だったのかもしれません。


「うーん。図に描いたほうがわかりやすいかな?」

 手で砂地に四角いと点を描こうとしますが、さらさらしすぎていて、うまくいきません。ひとたび風がふくと、線が消えてしまいます。

「あはは……うまく描けないや。手帳なら描けるかな?」


 僕は、ポーチからペンをさした手帳を取り出しました。


「あっ。待って、こずえちゃん!」

 メディアちゃんはぴょこんと飛び降りて、僕の腕にくっついてきました。


「メディアちゃん、どうしたの?」

 メディアちゃんのしっぽが僕の手首に絡んできます。


「てちょうは、こずえちゃんの大事なものなんだよね。ボクには読めないけど、いろいろなことを書いているんでしょー?」

「うん。みんなとの思い出を書いているんだ」


 手帳をぱらぱらとめくってみせます。2センチくらいの厚さがある手帳は、まだ10ページほどしか埋まっていません。


「だから、てちょうはこずえちゃんのためにつかって」

「うーん……。メディアちゃんのお勉強のために使うのもいいと思うよ?」


「ありがとう、こずえちゃん! ボク、また新しいてちょうが見つかるかわからないから、大事にしたほうがいいかなーって」

「……うん」


 小さな風が僕たちの足元を吹き抜けていきました。

 手帳に目を落とすと、メディアちゃんが麦藁帽子の下から覗き込んできました。


「だから、お勉強は、そうげんに帰ったら、またこんど教えて!」

「うん。いいよ」

「おわー、あっちい……のだ」

「とけちゃう……」


 リコリスさんとディエスさんがぐったりした声をあげています。


「あれ、なんかあるのだ」

「オアシスかな? オアシスなら、水が湧き出ているはずだけど……」

「おおっ、そうか! これで、おたからがさがせるな!」


 リコリスさんは、水に向かって走り出しました。途中で振り返ります。


「はやくディエスもいくのだ! あっ」


 リコリスさんは砂に足をとられて、コケました。すぐに立ち上がります。


「あちちっ。こんなに暑いところにおたからがあるなんて、おたからは大したやつなのだな」

「あんまり急いでもしょうがないと思うよ。それに、あれ……。あ、おーい!」


 リコリスさんはずんずんと先へ駆けていきます。ディエスさんはリコリスさんのポニーテールを目印に、すぐ追いつきました。


「それにしても、あのオアシスとやら、近くに見えるはずなのにぜんぜん手が届かないじゃないか!」

「やっぱり……」


 次回、第4節「さばくのおあしす」。

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