第14話(最終話)
【2週間後/M市総合病院12階】
数日間の意識不明。
全身を強く打ったが、若いせいか、回復もよく、ようやく集中治療室から出て
一般の入院病棟に移ったオレがいた…。
「バカ。」
「バカ。」
「大バカ!」
ユーヤ、サオリ、母ちゃんの順に罵倒されるオレ…不憫…。
「…だってしょうがないじゃん…。」
「あんた、どんだけの人に迷惑かけたか分かってんの?」
「分かってるよ…。その節はどうもスイマセンでした。」
ユーヤがオレと母とのやり取りに笑いながら
「まぁ、無事でよかったけどな。」
「でも、まだ数日は寝たきりよ…。あたしも仕事あるのに…。」
サオリはため息をついて、手のギプスをさすっていた。
「両手の複雑骨折と足首のヒビ?それだけですんでよかったよホントに…。」
「手がアメリカンドックみたいだけどな」
ユーヤは局部を指差して
「チンチンに管いれてんだろ?」
「そーだよ。」
「ここに、オシッコがたまるのね。」
「見んじゃねーーよ。」
「やっぱチンチン痛い?」
「痛い。」
フフフと笑うサオリ。
「笑うんじゃねーよ。」
母は終始あきれ顔。
「ごめんね~。ユーヤくん、サオリちゃん。」
「いいんですよ。腐れ縁っすから。」
「ユーヤくん、いい男になったね~。サオリちゃんとは恋人どうし?」
「…ええ…まぁ…。」
と答えるサオリ。オレは驚いて
「え??」
オイ。友だちじゃなかったの?
「いいじゃん。いいじゃん。」
え?え?え?
「二人とも、コーヒー飲む?」
いや、母ちゃん、ちょっと待って。
「ハイ。いただきます。」
「あ。おいし!」
オレが寝てる間なにがあったの~?
「このお菓子頂きまーす。」
ユーヤ、クッキー食べてる場合?説明を求む!
「ねー!どこまでいったの?恋のABCぃ~!」
「Aかな♡」
「リアル~!リアルすぎる~!!ユーヤの変態ィ!サオリの色魔ァ!」
「俺、変態だって。」
「あたし色魔ってヒドくない?」
「くそ~!二人のアベック!!」
「あれって悪口なのかなぁ…。」
「もう…うるさいね~。この子は…。」
「体が痛ァ~~~い!」
「名誉の負傷よね。」
「チンチン痛ァ~~~い!」
「…これ、男の不意な生理時にはめっちゃ痛いだろうなぁ…。」
「かぁちゃん、俺にはリンゴ~~~。」
「いやだね!」
「あ~。誰か、やさしくして~!!」
などとやっていると、入り口に人影が。
「…こんにちわ…。」
あ……。レ、レンさん…。
「あ!レンちゃん!」
「サオちゃん。こんにちわ。」
サオリはポンと手を打って、何かを思い出したような顔をした。
「…さ~て…。ユーヤ。あたしたちは帰って勉強しようか?」
「え?だって、まだコーヒー飲んでないよ?」
「いいから~ユーちゃん、行きましょうね~。」
ユーヤはサオリに引きずられながら手を振って
「じゃーな!アタル!」
「おう!またな!」
サオリはレンの耳元に口を近づけ小声で
「レンちゃんがんばってね。」
「ウン。」
と、レンも小声で答えた。
「じゃ…あたしも…洗濯でもしてこようかねー。」
「かぁちゃん、リンゴは~?」
「じゃ、吉沢さん。よろしく~。」
「は、ハイ!」
みんな出て行ってしまった。あとに残されたのは、私服のオシャレなレンさんと、マヌケなパジャマ姿で全身ギプスで固められたオレの二人だけ…
「じゃ…リンゴ…むこうか…?」
「う、うん…。」
沈黙の中レンさんはゆっくりとリンゴをむいてくれた。
「ハイ。どうぞ。」
「あーん。シャリ…。モグモグ…。」
「ハイ。」
「あーん。シャリ…。モグモグ…。」
「もっと?」
「あ…いや…。」
「…あのさ…アタル君…。」
「ウン…。」
「助けてくれて…ありがと…。」
「ウン…。」
「あ~あ。あたし…やっぱ、男みる目、全然なかった…。」
「…どうして?」
「別れたの、記録更新。」
「最短は4日だったっけ?」
「そ…。今度は5分…。」
「ブッ!」
「あははははは!鼻でてるよ~!」
「ゴメン。レンさん…拭いてくれる?…手が使えなくて…。」
「はいはい。赤ちゃん。」
「やめてよ…もう…。」
「ハイ、キレイになりましたよ~。」
「…別れたのは分かったけど…。なんで交差点の真ん中にいたの?」
「うーーん。あんまり説明したくないんだけど…。」
「じゃぁ…いいけど…。」
「あのままだと、吉沢さんにイタズラされるとこだったの。だから逃げた。」
「すごい行動力だね。前から知ってたけど…。」
「車のさ、ロックを運転席側でかけられたの。だから、ペットボトルの底で顔を殴って、ロック解除して逃げた。」
「えーーーー!!すげーーー!!よく、そんなことできたね!」
「二回目なの。ロックかけられたの。そん時は山の中だったけど、同じようにして逃げてきた。」
「すげぇ…すげぇなぁ…レンさん…。」
「フフ。あはは…。」
「あの…その…心配かけてゴメン!」
「そんな!」
「俺が意識不明の時も…ずっと来ていてくれたんだって?」
「だってぇ…命の恩人だもの…。」
「…えへ…。」
「アハ…助けに来てくれた時のアタル君…。すっごいカッコよかった…。」
「マジ?」
「うん…ドラゴン○ールの孫悟空みたいだったよ…。ビューンって飛んできてさ…。」
「悟空か!そりゃいいな。」
「ウン…。すごかった…。」
「フフ………。」
「アタル君…。まだ…あたしのこと…。」
「(ドキ)え?」
「好きでいてくれてるかなぁ…」
「(ドキドキ)ウ、ウン…。」
「あたしなんかに…アタル君もったいないけど…。」
ドキ…ドキ…ドキ…ドキ…
「ぜひ、付き合ってください!ウフ!」
「ハハ…やった…。やったーーー!!!」
「あたしもやったァ!んふふ…。」
「あ~、ガッツポーズできないのがツラい!街中に言いふらしたい気分!」
「うふふ…。記録更新しないでね…。」
「ああ!早く、5分過ぎてくれ~!!!…なぁんて…。ハハ。」
「うふふ…んふふ…。」
か、かわいいいいい。
「れ、レンさん!」
「なに?」
「オレ、ぜひして欲しいことがある!」
「どんなこと?」
「手…手を握って欲しい…。」
「いいけど…どうやって?」
「あ…あ…そうか…。」
「両方ともギプスじゃぁね…。」
「全治2か月?それまでお預け~??やだよぉ~!」
「じゃ、これでは?…チュ。」
「ン♡…………。」
「ウフ…。実は、まだファーストキスなんだぁ。」
「マジ…マジか…。マジマジか。マジマジマジマジ、マジマジか。」
「あ、壊れた。ナースコールする?」
「しないで!ナースコールじゃなくて、…もう一回して!」
「もう、しょうがないなぁ…。チュ。」
「ン♡……すげぇ…ハハ…すげぇ…!」
「もう…カッコイイの台無しだよ?バカみたい…。」
「いいんだもーん。あ…痛!痛!チンチン…痛!」
「え?どうして……ナースコールする…?」
「あ!大丈夫!ハハ…すぐ…治ります…。」
「うふふ。…でも、大学受験大丈夫?」
「ま、試験ごろにはギリギリ、ギプス取れるでしょ。」
「でも、勉強は?」
「レンさん、手伝ってぇ~。」
「チョー甘えんぼさんね。フフ。いろんな一面が見えてきて面白い。」
か、かわいい…。
「…やっぱさ…、ギプスから、ちょっとだけ指でてるじゃん?」
「出てるって言っても2cmくらいだよ?」
「ウン…。そこ、やっぱ握ってて…。」
「もうしょうがないなぁ…。あたしのヒーローさんは。」
「…あー…♡…いい…。」
「ホントに…?」
「ウン…。サイコー…!あーー♡…あー…。あー♡」
「なんか…おかしなことしてるみたい…。軽く握ってるだけだよ?」
「ウン…でも、全身にレンさんが伝わるゥ…♡……はァ……痛!やっぱ痛!」
「え?そんなに強く握ってないけど…。」
「痛!痛!やっぱ放して!放して!」
「どうしよう!どうしよう!あ!ナースコール!」
「しないで!あ!しないで!」
ピーーーー!
「どうなされました?」
「手を握ってたら、痛みだしたんです!」
「いや…手じゃなく…。男の不意な生理…」
「今いきまーす!」
【おしまい】
ですが…
「さて、私ユーヤがその後調べたところによりますと…。吉沢氏は、実は奥様の依頼で探偵に浮気調査されていたらしく、レンさんとの車内での会話を録音、他にも数人の愛人がいたらしく、奥さんに莫大な慰謝料をとられ、離婚され、会社は倒産。レンさんに関しては録音から騙されていたこともわかり、傷害などの罪も奥様は問いませんでした。
吉沢氏のその当時の様子は、かなり焦燥し20歳ほど年を取ったように見えその後の行方は杳として知れない…とのことでした。
以上です。キャップ。」
【ホントにおしまい】
ここまでお読みいただきありがとうございます。
明日、あと一話アップさせて頂きそれで完結といたします。
お楽しみに!




