第1話
放課後。オレはバイト先へといそいそと向かう。
「よう!アタル!」
呼びかけられて振り返ると、そこには幼なじみのユーヤがニヤニヤ顔で近づいてくる。
チッ!
「なんだよ…オマエか…。」
「なに?バイト?」
「そーだよ。ついてくんなよ!」
「愛しの君がいる職場ですか~。いや~青春ですな~。」
「…オマエにいうんじゃなかった…。」
「まーまー、いいじゃん。ちょっと拝ませて…。」
「くるなって!」
と、人から見ればどーでもいい小競り合いをしていると、また呼びかけの声。
「あ~!アタル~~!!ユーヤ~~~!!!」
これまた幼なじみのサオリ。
ユーヤは肩をすくめて
「やば…。」
オレはホッとした。
「ちょうどよかった!」
サオリはユーヤに向かって
「聞こえたわよ!」
「ハイ…スイマセン…。」
「やばってなによ!?やばって…。」
「言ったかな…?言ってないよなぁ~…アタル?」
「じゃなんで、スイマセンって謝ったの?」
「それは…ほら、条件反射的な?」
「アタル、ゴメンね~。またコイツ迷惑かけてなかった?」
「かけてた。間違いなく。刑事さんに引き渡します。」
「ヤッパリ…。ホラ!ユーヤ!帰るわよ!アタルの仕事の邪魔しないの!」
「ハ~イ…。スイマセーーーン…。」
「なんか腹立つ…。じゃーね!アタル! ホラ!ユーヤ!勉強!勉強!」
「じゃぁな!アタル!結果を報告するように!」
「結果なんかあるか!」
幼稚園から小中高と腐れ縁の二人と別れて
バイト先へ。
高校三年!
部活が終わってしまって、手持ち無沙汰になった俺は駅前のコンビニでバイトすることにした。
17時から21時とわずかな時間だが、5時間で3500円。
遊んでいるよりは、稼いだ方がいいと思ってやりはじめた。
「おはようございまーーす!」
「おはようございまーす!アタル君、やっほ!」
はい。そう…このレンさん…。
バイト先で初めて知りあった!
学校別なんだけど…。
顔もかわいらしいし…。
話し方かわいらしいし…。
しぐさもかわいらしいし…。
ちょっと俺より背が高いけど…。
なんか、すごいいい…。
いいな~。いいんだな~…。
「レンさん。どう?今日、忙しい?」
「いつにも増して~。あ、いらしゃいませー!」
「いらっしゃいませー!」
どんどん客くる。夕方はカキイレ時。
俺たちの他に、パートのおばさん2人と、
店長の奥さん、計5人。
俺とレンさんは、ほぼパートナー。
レンさん、レジ入れ。
俺、袋入れ。
バイトに入った当時…店長の奥さんに、パートさんバイトさんを紹介された。
もちろん、レンさんへも…。
--------------------------
「レンちゃん。今度新しく入った人。」
「よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。吉沢レンです。」
「はい。吉沢さん、よろしくお願いします。」
「あは。レンでいいよ~。いくつ?」
「あ、17っす。誕生日来て18っす。」
「あ~、やっぱタメじゃん。え?なに君…?」
ネームプレートを見て…
「あれ?これなんて読むの?熊??クマくんなの?」
「いえ…違います。漢字似てますけど…能力の能でアタルです。」
「え?フフ…間違っちゃった~。え?能でアタルって読むの?」
え…かわいい…。
「いや~、ふつうは読まないんですけどね~。」
「へー。アタル君ね!よろしく!ドコ高?」
「あ…M高っす…。」
「え?え?えーー?めちゃくちゃ頭いいじゃん!!」
「いや…そんなことはないんですけどね…レンさんはどこっすか?」
「あーーー。あたし?…N高…。」
「あ、じゃ、駅挟んで逆側か~。」
「N高だからってバカにしないでよ~?」
「え?しないっすよ。オレの友達でもN高の子が彼女のやついますよ?」
「バカだから扱いやすいみたいな?」
「いや~。惹かれあったら関係ないんじゃないんですか?オレもそう思いますよ?」
「ふーん。いい答えだね。さすがM高生。んふふ…。」
…かわいい………。
「6×7は?」
「え?42…。」
「すごーい!やっぱ頭いいんだね~。」
か、かわいい…。
九九じゃん…。
--------------------------
そんなレンさんと、一緒に仕事!毎日が楽しい!
「204円のお返しになります。ありがとうございました~!」
つって、客の手をそっと握っておつりを返す…。
くそーーーー!俺は客になりたい!
こんなに近くにいるのに、たまに体も当たるのに…。
手を握ってもらえるのは別の人…。
いや、なにも客になれさえすればいいんだけど…。
シフトもほぼ一緒だし、休憩時間がちょっとずれちゃうから彼女がレジをしてくれない…。
いつもパートのおばさんの
「はい、198円のお返し!ありがとうございました~。」
といって、おばさんに手を握られるだけ…。
くそう…今度、休憩のタイミングをずらしてみよう…。