第72話- 心臓殺し。-Ridill-
朽網釧が今回の一件――――大して重要でもない、ただ自分を遠くへ離すためにあてがわれた、レッドマーキュリー捕縛作戦に乗り気ないことは、彼がシベリア鉄道という小回りが利かない移動手段を採っていたところからも読みとれる事実である。
一応は組織の、それも非合法的な行為にも手を出している機関の一員として、その無意欲的な姿勢もどうかと思うものの、それも無理からぬことなのだろう。
そもそも青森襲撃は神戸万可にとって予定調和のはずだったのだ。それに予期せぬケチがついて押しつけられた任務なのだから、モチベーションが上がるはずがない。
しかも厄介払いの建前として与えられた任務が、レッドマーキュリー捕捉・捕縛という、これまた扱いの難しい仕事なのである。
ぶっちゃけてしまえば、釧は今回の任務、レッドマーキュリーが衛星で捕捉されなくても構わないとすら思っていた。
別に任務が完了しなくてもほとぼりが冷めれば戻れるだろうことは分かっていたし、何より彼が自らに課している能力収集の観点から見ても、『放射能系能力者』はそれほどうま味のない相手なのだ。
彼の好む能力は鳳凰こと瑞桐小鳥の『眼』や、火の玉こと明野香大の『炎色反応』といった特異的な能力であって、出力だけの大きな能力には魅力を感じていない。
パワーよりテクニック。
そういう能力開発は日本が最先端を行っているわけだし、ロシアのレッドマーキュリー研究はどう考えても前者だ。
辞令を出す側からしてやる気がない任務に、食指が動かない相手。
だからまぁ、標的が捕捉されついにご対面という瞬間になっても、彼は半分以上投げやりな気持ちだったのである。
そこにきて、いきなりの不意打ち。
当然、どこぞの特撮怪獣が放つ破壊光線のように放射線を含んだ、人間に向けるには凶悪すぎる攻撃を受けるに至って、ようやく彼は認識を改めた。
予想以上に面倒だ、と。
別に話し合いで解決できると期待していたわけではない。
が、姿を見せる前に迎撃されるとなると、その意味合いは違ってくる。
一、少なくても彼女は遮蔽物を透視できる眼を持っている。
二、彼女は自分に追われる理由があることを自覚している。
一はいい。おそらくはX線だって放射線だ。その手の電磁波を利用したのだろう。
問題は二。エヴァ・リヴ島の一件は事故として片づけられたはずである。
ロシアがレッドマーキュリーを取り逃がした不祥事をもみ消すために吐いた嘘ということではない。国自体をも彼女が騙して島から逃げ出したが故、あの事件は『事故』なのであり、万可も偶然その姿を衛星ロゴスが捉えていなければ、事故として扱っていたはずだ。
なら、追っ手がくるという発想はどこからきたのか。
いや、脱出の際に見られたという可能性を彼女が恐れていてもおかしくはないが、相手の姿を確認もせずにぶっ放すというのはただ事ではない。可能性を恐れているにしては神経質すぎる。
追われていることを彼女自身が確信している。
そうと思い至って、釧はどうやらこの一件が考えていた以上に複雑な事情をハラんでいると直感した。
(面倒くさい・・・・・・)
扉越しに光の暴力を受けて、咄嗟に防御はしたものの、瓦礫と共に後ろへ飛ばされた彼は、心中でそう愚痴り、地面にうつ伏せになった身体を起こした。
煉瓦の破片や土が付着した衣類を素早く叩き落とし、この場にいるはずのもう一人の方へと声をかける。
「兎傘さん、大丈夫ですか」
「あー平気平気」
兎傘鮮香は彼とは右方に5mほど離れた所に埋まっていた。
直接、自分達に放たれた光線の規模を見たわけではないので、彼らはその威力のほどを把握できていなかったが、倉庫の扉から地面を抉りながら直線を引く破壊の痕が程度の大きさを物語っている。
その抉り出された土に鮮香は埋もれていて、そこから這いだした彼女は頭を振って髪の土埃を払った。
「けどさぁ、何あれ。何でいきなり攻撃?
私ら喧嘩売られるようなことしたかねぇ?」
「さぁ?何にせよ・・・・・・派手にやってくれちゃったお陰で、今まで色々考えてたのが全部パァですよ。
真っ昼間だしもみ消せそうにないし、・・・・・少なくても綿貫さんは誤魔化せないでしょうね。
はぁ・・・・・、こっちの事情も考えてほしかった」
向こうは彼らを知らないのだから無理に決まっているのだが。分かっていながらもぽつりと恨み言の一つも言わなければやってられない。
辺りを舞う粉塵が、今し方降り始めた雨水に吸い取られ地面に落ちて、次第にクリアになっていく。
その先に彼らが標的にしている女性の姿を認めて、彼は一度だけ深呼吸をした。
「作戦はオジャンですし、今さら目立つも目立たないもないですし・・・・・・とにかく短時間で決めてしまいましょう。
方針も『ガンガンいこうぜ』に変更ってことで」
「了――――うぉっとぉ!」
と、鮮香が返答しようとした時だった。
二発目の閃光がトドメとばかりに彼らに向かってきて、会話どころではなくなった。
釧はそれを自分の下の地面を念力で掘り返し、身を地中に落とすことで回避、鮮香の方も彼女なりの方法で防御したようだ。
自分が上へとすくい上げた土が焦げた臭いをさせて降りかかってきて、彼はせっかく払った身体がまた土塗れになったことに顔をしかめる。
「ガンガンいこうぜっていうか、ガンガンやられてる気がするなぁ・・・・・・」
彼が掘った穴は彼の身体をすっぽり納めるほどの広さしかない。かなり窮屈であり、身動きすらが取りにくかった。
だが、ずっとそうもしていられない。
さっきのように余裕ぶって会話して、また追撃を食らうのはまっぴらだ。
縦穴から這い出た彼は、その瞬間を狙い撃ってきたレッドマーキュリーと呼ばれる女性の閃撃を横に流し、崩れかけの地面を蹴った。
煉瓦や道を舗装していた石材が散らかってまともに立っていられない場所から、まだ被害を受けていない辺りに移り、南西の方向にある倉庫に目をやる。
距離は20m弱、観音扉が吹き飛んだ煉瓦倉庫は、扉のあった壁面の下半分を完全に破壊尽くされている。
そして、新たにできたその出入り口の境界付近に問題の彼女はいた。
資料に書かれていた名前はラリーサ・マリーニナ、年齢は20代と大ざっぱに記され、衛星写真等で確認したのと同じ、鈍った金色の髪を腰よりも下まで伸ばしている。
彼女の表情に焦りと恐怖が浮かんでいるのを釧の目は捉えたが、それは一瞬のことで彼の後方から飛んできた数個の火球が彼女の姿をかき消した。
鮮香が攻撃したらしい。
釧も参戦すべく彼女のいる方へ駆け出していく。
狙い自体は念力による意識刈りと戦闘突入前と変わりはないが、有効範囲内まで接敵するにあたって能力を出し惜しみするつもりはない。
履いていたハイヒールのヒール部分を折り捨てて、まずは一歩。5mの距離を一気に縮める。
ラリーサはその様子を見て、彼の機動力の方が危険だと判断、標的を釧に変えた。
オレンジ色を帯びた光線が三度放たれる。
それは、万可統一の際に睦月が葉月に向けた閃光に比べれば半分ほどのモノだったが、睦月はプルトニウムを補助として利用していたのに対して、彼女は全くの独力だ。
放射線による『眼』のことも含め、放射能系能力者の兵器的利用という観点からすれば、ほとんど成功していると言ってもいい。
だが、どれほど強い攻撃も当たらなければ意味がないわけで、この手の能力に慣れている釧にしてみればそれほどの驚異ではないのも事実だ。
上へ。本来なら人がほぼ無力になる空中も、念力の足場を作れる彼にはむしろ開けた逃げ先になる。
宙へと跳んだ彼を彼女はさらに追撃しようとしたが、彼が念力で持ち上げた瓦礫が彼女めがけて飛んでいく方が先だった。
ラリーサがそれを避け、意識を再び釧に向けようとした時、今度は鮮香の火炎が彼女を襲った。瓦礫以上に当たるわけにはいかない攻撃を、能力で作った球状のエネルギー塊で薙払う彼女。
その防御には成功したものの、鮮香の砲撃に対処している内に、釧にかなり近くにまで接近を許してしまう。
地面に立つ彼女に向かって飛び込むような形で、大胆な接敵を試みる彼を、ラリーサはまだ発現したままだったエネルギー塊を放って迎撃しようとしたが、青緑色の火がそれを拒んだ。
炎色反応による銅の錬成。
放射線といっても結局は電磁波だ。金属板やコンクリートで遮れないこともない。
もっとも彼とて炎色反応を使いこなせているわけではないので、あまり多用できるものではないのだが、それでも彼女の懐に入る機会を得る分には役立った。
念力で意識を刈るより先に顔面蹴りを。と、かなりえげつないことを考えた釧の右足が彼女に向かって伸びる。
自信を持っている能力を近距離で防がれたことと、念力能力者だと思っていた相手が正体不明の火を使ったことに驚いた彼女は一瞬硬直してしまったが、すぐに我に返った。
もはや照準など合わせずに出鱈目に能力を放射、それに釧が怯むのすら確認せずに背を向けて走り出す。
2対1、それも相手の方が上手と見える。自分の能力にプライドを持っているとはいえ、ムキになって自分の身を危険に晒すほど愚かでもないらしかった。
釧は、硬直から逃亡へと転換するまでの彼女の判断の速さに素直に関心した。
さっきまで彼女が立っていた場所に降り立った彼に、後ろから鮮香が走り寄ってくる。
いくらか土にまみれていたが、あれだけ派手に飛ばされて無傷のようだった。
「研究所育ちの世間知らずかと思ったら、何だよ結構戦闘できるじゃん」
「ええ、腹立たしいことに」
彼女を追って駆け出す2人。その方向はついさっき彼達がやってきた方角だった。
雨は降り始めてすぐに強さを増し、不愉快に肌を打つ。
土を洗い流してくれるのは有り難かったが、女装している釧は衣服が肌に張り付くのが気になってしょうがない。
彼は苛立たしげに言った。
「ホンット、覚えてろよレッドマーキュリー!」
「そんなに濡れるのが嫌だったんなら発火能力使えば良かったじゃねぇか」
そう返す鮮香はこの雨の中で全く濡れていない。能力の熱を使って、雨水をうまく蒸発させているからだが、戦闘中にそこまで気を使いながら別の能力を併用できる技能は釧にはないし、苛立ちの原因は他にもある。
「濡れたのはいいんですよ、一番問題なのは靴!」
「靴ぅ?」
「ハイヒールが駄目になっちゃったんです!」
「知るか!ほぼ戦闘になるって分かっててそんなモノ履いてる方が悪いだろ!?」
「お気に入りだったのに!」
「なおさら何で履いてきちゃったんだよそれを!」
「絶対弁償させます11万8千円!」
「だから何で・・・・・・ってか何てもん履いてんだ君は!?」
鮮香は思わず彼の足下を見た。もはや泥だらけになって見る影もない、ハイヒールですらなくなった履き物が10万以上もする・・・・・・そう考えただけで眩暈がした。
実家の焼き肉屋と臨時講師の二足の草鞋を履いているとはいえ、収入はごく普通である彼女には理解しがたい金の使い方だ。
視線を前に戻すと、100mほど先の交差点を標的であるラリーサが右折するところだった。
この距離なら能力でブーストすればすぐに追いつける。だが、接近してまた撃ち合いになれば周囲に被害が及ぶことになる。
町中であるということを考えると、できれば抵抗させないでしとめたい。
機会と狙いを定めながら追跡することが今は最善だ。
ある程度開けた場所に差し掛かり、距離ももう少し縮められた頃合いで、鮮香が釧を前方に撃ち出し彼が念力で絞める。
そう示し合わせながら、彼らも角を曲がった時だった。
前方から、何か目で捉えられないモノが飛んできて、倒れはしなかったものの2人は思わず仰け反った。
そして、足が止められたその一瞬の間に、彼らの目の前で予期せぬ出来事が起こる。
逃げていたはずのレッドマーキュリーが知らない男に何らかの方法で気絶させられ、その男は彼女を肩に担いで周囲にいる3人の仲間らしき人物達と共に走り去っていったのだ。
「何なんだあいつ等は!?」
「彼女が僕達を問答無用で攻撃してきた理由でしょうよ。
岱斉め・・・・・・情報収集サボったな・・・・・・」
どんどんとややこしくなってくる状況に、もはや呪うような口調で釧が言った。
ラリーサの追跡から、横槍を入れてきた謎の集団の追跡へ。
標的こそ変われど、やることは変わらない。
状況は限りなく面倒なことになっているが、厄介な放射能系能力者がダウンしている分やりやすくなったくらいだ。
問題は敵が1人から複数になったことだが・・・・・・と、釧が男の取り巻きをどう引き剥がすか考えていると、その内の1人が立ち止まり目の前に立ちはだかった。
足止め、らしい。
「あいつ私が相手をする!君は標的の方を!」
その相手を鮮香が引き受け、釧は念力を使い自分の身体を空中へと打ち出した。
足止めのローブを羽織った人物の頭上を越え、そのまま空中を駆る。
少しばかり力みすぎたらしくかなり高いところまで身を飛ばしてしまったが、そのおかげで彼は俯瞰から町並みを眺めることができた。
レッドマーキュリーがどこに逃げようとしていたのかは知らないが、今逃げている連中はどうも駅の方へと向かっているらしかった。
「ロシア号に乗るつもりか?
もう発車まで時間がない・・・・・・滑り込まれると厄介だ・・・・・・!」
ぼやき、念力で作った足場を蹴って一気に下降する。
雨足がいよいよ強くなって視界が悪い。
あまり連中から離れると見失う可能性もあるし、調子に乗ってアクロバティックな行動を取ると怪我をしそうだ。
横槍連中が駅まで50mほどのところまできたの見て、釧は自分の予想が正しかったと確信した。
屋内に入られるのはさすがに人目に付きすぎる。
(入られる前に決める!)
もはや弾丸のような勢いでもって、彼は連中の目の前に着地した。
連中がその登場の仕方に驚いている一瞬で、ラリーサを担いだ男の前に立ちはだかる1人の意識を念力で刈り、ヒット&アウェイ狙いでラリーサをかすめ取ろうと手を伸ばしたが、男を庇って前に出てきたもう一人の取り巻きである少女が手をかざした途端、
「――――ッ、ッッ!」
心臓に致命的な負荷を受け、バランスを崩して地面に倒れてしまった。
受けたダメージに身体が動かなくなっている釧をそのままに、男と少女は気絶した男を放って駅へと入っていく。
追いかけようとした釧だったが、心臓のダメージが重く立ち上がることもままならない。しばしの休止を余儀なくされた。
「あぁくそ、エグい護衛だ!」
悪態を吐いて立ち上がり、今度こそ彼らを追いかけるが、連中を探し出した時には、まさに列車に乗ろうとしているところだった。
もはや多少目立つのも構ってられない。念力で作った弾をドアに足をかけている連中に投擲した。
「がッ!」
命中。ただし、当たったのは取り巻きの少女のみで、ラリーサを抱えた男は列車の中に。
ドアが閉まって、ロシア号はついに発進してしまった。
念力を食らって倒れる少女に、まだダメージが抜けきっていないぎこちない歩き方で釧が近づくと、かなり動揺した様子の彼女はロシア語でまくし立てた。
「な、何でッ!どうして!私の『心臓殺し』が効かないはずが・・・・・・!」
「いやいや、すっごく効いたよ。対象の心臓を破裂させるとか、うん・・・・・・えげつなさすぎるよ全く。
初見殺し・・・・・・っていうか、効果範囲内ならほぼ一撃必殺だよね。
しかもさっき食らった限りじゃあ、狙いを定めなくても良さそうな感じだし」
怖いったらありゃしない、と彼は肩を竦めた。
「なら何で!?」
「心臓なんて体液を循環させるだけの筋肉の塊だろう。潰れたくらいで死んでたまるか。
僕は殺るつもりなら全身を粉々にするくらいやってもらわないと」
『心臓殺し』という必殺の能力に絶対的な自信を持っていた彼女は、釧の言いぐさに口をパクパクと開閉し、それから「化け物め」と忌まわしげに吐き捨てた。
「冗談。これくらいで化け物呼ばわりとか勘弁してほしいな。
確かに君の能力は必殺と言って差し支えのない能力だけど、日本じゃもっとふざけた連中が溢れてる。
一撃必殺なんて、猫も杓子も持ってるよ。
発火系にしたって、撥水系にしたって、発電系にしたってその気になれば簡単に人を殺せるレベルの能力者が、同じ教室――――お互いの殺傷領域内で顔をつき合わせてるんだ。
死ぬ可能性なんて常時付き纏ってるし、だからこそ各々なりの対策を立てているモノなんだよ。
心臓が潰れても自分の能力で血液循環をやってのける念力能力者なんて珍しくもない」
「な、な、な、な・・・・・・ッ!」
「まぁ、すごい能力だと思うよ?
あの一瞬で心臓を正確に、それもあれほど素早く潰せるなんて。
けど、弱点もあるよね。僕も経験あるから分かるんだけどさ、そういう突出した能力って大抵細かい制御ができなかったりするものだ。
『心臓殺し』。わざわざそんな名前がついているところからして、君の能力は心臓以外に照準を変更できないんだろ?」
釧の指摘に少女は苦虫を噛み潰したような顔をした。図星らしい。
さらに釧は続ける。
「能力の性質上、その欠点を直す必要性を感じなかったんだろうけど、そこら辺が日本と海外の能力者事情の違いなんだろうね。
日本の能力者は応用できない能力にはもう少し危機感をもってるよ。
・・・・・・さて、お喋りはこの辺にして、最後に質問なんだけど――――」
彼はいつでも彼女の意識を刈れるように念力を発動させながら言った。
「君の能力ってすでに潰れた心臓も潰せるの?」
「――――〜〜〜〜ッ」
答えは聞くまでもなかった。
そして、背後から首筋を狙って手刀をイメージした念力を振り降ろす。
少女は意識を失い、後はゆっくりと尋問できる場所に運ぶだけ・・・・・・。と、そうなる直前に、いきなり釧の目の前に2mを越える灰色の狼が視界を遮り、少女の襟をくわえて瞬く間に逃げていった。
「はぃ・・・・・・?」
その突然かつ、現実離れした出来事に彼は思わずそんな間の抜けた声を出すことしかできず、唖然としてその場に立ち尽くす。
やっと思考を再開した頃には、狼と少女を追うにはすでに手遅れで、はっとしてホームから駅の外に出た彼は、そこで意識を奪ったはずの男の姿がなくなっているを確認して舌打ちした。
「形態変身・・・・・・」
苦々しく呟いて、雨の中ケータイを取り出し、雨粒で液晶が見にくくなるのも構わずに鮮香に電話を繋ぐ。相手はすぐに出た。
「もしもし・・・・・・え?あぁ、ロシア号に乗り込まれて取り逃がしました。
余裕ぶっこいて講釈垂れてる内に・・・・・・あーはいはい僕が悪かったですよ。
それでそっちは?・・・・・・逃げられた?火球1発撃っただけで?
はぁ・・・・・・とにかく一度集まりましょう。はい、じゃあそこで」
通話を切り、釧は長い溜め息を吐いた。
雨は相変わらず降り注ぎ、肌に衣服が張り付く不快感だけがいっそう増していく。
葉月と釧の身体性能差
葉月:心臓が潰れても平気で反撃
釧 :一応倒れる