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第71話- 火蓋。-Muspellzheimr-

 このままあと一週間ほど何もないまま終わってほしい――――などと、ほとんどフラグな呟きを心中で漏らして数日。

 二日目でいきなり標的が補足されたり、実は同じ列車に乗ってました、なんて展開を警戒していた僕の予想に反して、万可からの連絡はきていなかった。

 まぁ、追い出されただけの身としては楽ができるのはありがたいものの、何も連絡がないとなると人というのは案外落ち着かなくなるものらしい。

 せっかくの休養だというのに、ここ数日は何時くるかとそわそわしながら過ごす羽目になりイマイチ心休まる暇がなかった。

 他に集中できることや、やるべきことの1つでもあれば気を紛らわせたのだろうけれど、今いるのはシベリア鉄道の列車内であり、仕事もない以上、暇な時間がニーズを外した新商品の売れ残りのように有り余ってしまっていた。

 もちろん、娯楽はいくつか用意していたし、本当に何もすることがなかったわけではない。

 が、どのタイミングでくるか分からない連絡を待ち続け、心おきなく休むことはできなかったのだ。

 これならいっそ、先に用事を終わらせて残った時間で思い切り羽目を外した方がいい。

 おのれ岱斉、さっさと連絡をよこせ。

 と、そう思うに至ったのが三日目。

 停車駅がチタ一駅だけだったこの日は特に暇だった。

 せめて食事時に駅に停車してくれれば、地元民がホームで売っているロシアの家庭料理を買い求めるという楽しみもできたのだが、停車しないのだから仕方ない。

 一日二日とラーメンを胃に詰め込んできた僕達は、三日目で初めて食堂に足を運ぶことにした。

 が、やはりというか十分な環境が整っているとは言えない食堂者でご馳走にありつけるかと言えばそういうわけもなく、結局は食べ慣れたインスタントラーメンの方が美味しいという結論に達した。

 美味しいロシア料理は後でゆっくり食べようと思う。

 さて、そんな特筆すべきことはない三日間を送ってきて、ついに六泊の列車旅も折り返しに差し掛かり、そろそろ万可から連絡がありそうだと身構えてみたりもしたのだが、これまた取り越し苦労に終わってしまう。

 その後四日目五日目と5つの駅に停車し、ついに六日目。

 早くこいという気持ちが、ここまでこれば・・・というものに変化し、もしかしてこのままモスクワまで何事もなく完走できるか?と仄かな期待が生まれ始めたその夜に、非常に残念なお知らせはケータイを介して告げられた。


 つまりは、レッドマーキュリー捕捉の連絡が。


                     ♯


「んー、ぁ」

 と、間の抜けた声が口から漏れたのは真夜中のこと。

 六日目に差し掛かって数時間が過ぎた頃合いだった。

 耳がケータイの着信音を捉え、完全に休眠していた意識がゆっくりと無意識の海から浮上して、僕は枕元の恨めしい音を発する電子機器に手を伸ばした。

「あー出るよ、出ればいいんでしょ」

 小声で愚痴り、潜り込んだ掛け布団の中でケータイを確認すると、送信者は『内海岱斉』で、着信はメールではなく通話と表示されている。

 こんな時間に・・・・・・と思うも、時差がある距離同士での連絡ではこういった事態はありがちな話だ。

 いや、彼の場合はもしかしたら地味な嫌がらせの可能性も否定できないが。

 浮かんだ疑念に顔をしかめながら、ベッドから抜け出す。

 綿貫さんに聞かれるわけにもいかないし、寝ている二人を起こしてしまうのも忍びない。

 しぶしぶ部屋を出て、廊下の壁にもたれ掛かってから通話ボタンを押した。

「もしもし」

「レッドマーキュリーを捕捉した」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・せめて、名乗るぐらいしてほしいと思うのは贅沢な望みなのだろうか?

 いきなり用件だけを話始めた岱斉に通話開始5秒で早くもうんざりしてきた。

 気持ちを切り替える意味でも、ケータイの持ち手を替える。

 それから・・・・・・何というか、あまり気乗りしないのだが、仕方なく尋ねた。

「場所は?」

「オムスクの小型の貸し倉庫。午前3時14分、入っていく様子をロゴスが捉えた」

 オムスク。それは奇しくも次の停車駅だった。

 都合が良すぎる。が、まあ元々やる気なんてゼロに近い。

 面倒な移動がないのは良しとしよう。

 ちゃっちゃと終わらしてロシア料理。まだ覚醒しきっていない頭でそんなことを考えながら岱斉の話にお座なりな相槌を打つ。

 潜伏先や行動範囲を記した地図を送ること。捕縛後の対応についての注意事項。

 その他にもいくつか留意すべき事柄を受けて、通話を切った途端、長い溜め息が口からエクトプラズムのように出た。

 寝起き直後に話すのが、コミュ力が低い相手というのは負担が大きすぎる。

 車窓から外を確認すると、青い仄かな光が僅かに感じられるだけで、まだ朝までは時間があるのが見て取れた。

 陰鬱とした気分を、規則的なリズムを刻む列車独特の物音に耳を傾けて浄化させつつ、今後のこと――――特にレッドマーキュリーをどう捕まえるのかについて考えてみたが、眠気のまだこびりついたままの頭では大した案が思いつくはずもない。

 しばらく粘るも結局睡魔に負けて、僕はベッドへと誘引されていった。


                     ♯


 レッドマーキュリーの捕獲。

 それが僕にあてがわれた任務であり、厄介払いこそが真の目的ではあるものの、一応は意義のある仕事ではあったのだが、実を言えば肝心の捕縛方法について、僕は全くと言っていいほど考えていなかった。

 相手は兵器利用が前提の能力者。おそらく一撃一撃が強烈だろうが、何より攻撃に付加される放射線はあらゆる意味で厄介だ。

 研究施設の事件がいくら風化しているとはいえ、派手な爆発一つ起こされて現場で放射性物質でも検出されれば、誰だってそれをレッドマーキュリーと結びつける。

 攻撃させるだけでまずいというのに、そもそも僕達はその彼女の性格や能力使用の傾向をまるで知らない。

 話し合いで済ませれればいいなぁとは思うが、施設を破壊して逃げ出した人物だ。あまり望みがあるとは思えなかった。

 よって、捕縛は『相手に攻撃させる暇なく無効化』する必要がある。

 にも拘らず、そんな高度かつ賭の要素が多い作戦について、今までよく練りもしなかったのは、ひとえに綿貫さんがいたからだ。

 シベリア鉄道を利用すると決めたことで時間はいくらでもあるだろうと思っていたし、同行人が誰だか分かっていなかったこともあって、後々話し合えばと考えていた。

 が、コンパートメントの同室者がロシア人ではなく、どころかよりにもよって記者の綿貫さん。そのため、そうするわけにもいかなくなっていたのだった。

 あの人に会ってしまっているだけに、特に放射線や放射性物質には神経質にならざるを得ない。

 ホント、面倒くさい人だ。

 彼女にとっては理不尽なのだろう評価を再度くだしながら、僕は枕の柔らかい感触から頬を離して上半身をベッドから起こした。

 目こそつぶっていたが、今日しなければいけない事柄を頭の中で転がしていたこともあって、思考はほどよく覚醒している。

 カーテンの開かれた車窓をみると、陽の照った明るい外界の風景が目に飛び込んできて、既に結構な時間帯になっていることを示していた。

 一度目を擦ってから周囲を見渡すと、兎傘さんが向かいのベッドに座っていて、綿貫さんはいない。

「おはようございます」

「おはよう」

 寝違えたのか少し痛い首をぐるぐ回していると、寝不足と勘違いしたのか、彼女は「まだ寝てていいぞ」と優しい声をかけてくれた。

 夜の電話を知っていての台詞だろう。

 そうしたいのはヤマヤマなのだけど、綿貫さんが席を外している今こそ話し合うチャンスである。

 首を振りながらケータイを手に取った。彼女に貸したケータイの方へ岱斉から送られてきたメールを転送する。

「例のアレ、捕捉したらしいです。このまま列車旅を完走できるとおもったんですけど」

「場所は・・・・・・オムスク?次の駅だっけか。タイミングはいいな」

「といっても、いつまた見失うとも限りませんし、駅に着いた時には別の場所に移動してる可能性も高いんで、どうなるかは分かりませんけどね。

 で、問題なのはどうやってレッドマーキュリーを捕まえるか。

 万可の意向はともかくとして、個人的にもこれ以上能力者の不祥事や事件で騒がれたくないんですが、相手が相手ですし・・・・・・。

 それなのに話し合ってないでしょ、僕達」

 ケラケラケラ。兎傘さんは笑いで返してきた。

 正直、笑い事ではないのだけど。

「能力が端っから高出力だもんな。同じ理由で私も使えそうな手段はなし、と。

 大概派手だからなぁ、発火系は。

 ・・・・・・できれば速攻で意識を落とせるタイプ、一撃必殺的なのがいいんだろうが・・・・・・」

 本当に『殺』していいんだったら彼女に任せるんだけどな。

 一気に蒸発させれば、・・・・・・まあ抵抗はされまい。

 もちろんそういうわけにもいかないからこの話は難しいのだ。

「念力で後頭部ぶん殴るって手もあるにはあるんですけどね。

 成功するかはやっぱり賭けですし、向こうの能力有効範囲が分からないんで、いい手とはお世辞にも言えません」

 僕の念力も発現範囲には限界がある。意識を刈れる距離まで接近できたとしても、少しでも気取られて、しかも相手の発現範囲内に足を突っ込んでいたとしたら、一瞬で蒸発ということもあり得る。

「万可もさすがに外国の能力者データまでは集められなかったわけかい」

「国を挙げての研究ですよレッドマーキュリーは。部外秘に決まってます。

 むしろ知れたら知れたで万可が怖すぎるでしょうが」

 世界征服をもくろむ秘密結社じゃあるまいし。

 そう自分で口にして、あながち外れてないかもしれないという考えがよぎり口を噤む。

 実を言えば、万可に所属する際、葉月周辺に関する事情と顛末を岱斉に聞かされたのだが――――いくつか今でも気になっていることがある。

 それはこの前青森万可を襲撃した後に、あのマッドサイエンティストが電話越しに漏らした言葉と同様、僕の頭の中に沈殿したままになっている。

 『とある化け物のDNA』。それが盗まれて現在万可はてんやわんやだと言うが、その理由は未だによく分からない。

 まずいことに使われそうだと言うが、何がまずいのか。

 その疑問と同じく謎なのが、葉月の周辺事情だ。

 神創りが万可の目的だったのなら――――そんな思考に没頭していると、なぁ、と兎傘さんが声をかけてきたので頭を切り替える。

「意識を刈るのは別として、念力で能力を閉じこめたりはできにのか?

 能力者ごと念力の中に閉じこめてしまえば抵抗する気もうせるだろうに」

「僕の念力はそれほど便利じゃないんですよ。

 能力波反射できるのって本当に才能のある連中だけですから」

 多重能力者が何言ってんの?という顔をされたが、色彩念力にしたって裏技を使っているようなものなので才能とは言わない。

 僕が自分の能力だと胸を張れるのは、人体すら木っ端微塵にできる念力だけだ。

 そもそも、多様な能力を操れるといったって、浅く広くになりがちな僕にはあまり器用な真似はできないのだ。

 当然、万可はそのことを知った上で今回の同行人を用意してくれるとばかり思っていたのだが、実際やってきたのは兎傘さん。

「同行人が捕縛に有効なESP系だったらなぁ・・・・・・」

「悪かったな私で!」

「悪かにですが、役に立ちそうにないのは事実ですよ。

 前のゲームの話じゃないですけど、威力が強すぎて使えないって、宝の持ち腐れというか・・・・・・何でレッドマーキュリー相手にするのに、火力で対抗しようとしたのか・・・・・・」

「あーはいはい、私は役立たずですよー。

 もういいじゃん、念力でいこうぜ念力で」

 どうやら彼女はイジケてしまったらしい。唇を尖らして、そっぽを向かれた。

「はぁ、ま、仕方ないですかね。

 ・・・・・・オムスクに着くのは午後3時頃です。最小限の荷物だけは纏めておいてください」

「最小限?他のは?」

「必需品や貴重品以外は置いていきます。邪魔になるだけですし。

 最悪綿貫さんに日本に送ってもらえばいいですから」

「君さぁ、そういうところは躊躇なく利用するとか・・・・・・なんか、葉月ちゃんに似てきてないか?」

「最高の誉め言葉ですね」

 本心からの笑顔で返すと、彼女の口角が面白いようにひきつった。

「・・・・・・いや、さ。それは本当にどうなの人間として」

 そして、この酷い言い様である。

「まるで葉月が人じゃないような言い方ですよね」

「人ではないんじゃねぇの?」

 まぁ、そうだけど。

 DNA的にすらそうだけれど。

 それが化け物的になのか、神様的になのかしばし論じ合って、結局クトゥルフ神話的な何かしらが妥当という結論に達した辺りで、コンパートメントのドアがスライドした。

 綿貫さんだ。

 仕事の電話でもあったのか、あるいはトイレか朝食でも取っていたのか。

 何にせよ、今日初めての顔合わせだった。

 最初は鬱陶しく感じたこの人物の存在も5日目となるとさすがに慣れる。

「あ、起きましたか、実草さん。おはようございます」

「おはようございます」

 円滑なコミュニケーションは挨拶からというけれど、元々そうでもない場合に効果はあるのだろうか。

 結構酷いことを考えていると、続けて綿貫さんが言った。

「今日はどうする予定ですか?

 私の方は原稿とか調べものとかありますけど」

「こっちも仕事が入って、一度降りることになりました」

「え?でも次の駅ってそんなに停車時間ありませんよ?」

「元々『別命あるまで待機』って感じでしたし、このままサヨナラってこともありますね。その時の都合によりますけど。

 ま、そういうわけで、荷物置いてくんでヨロシクお願いします」

「え?」

「後で連絡入れますから見といてください」

「は?」

 自分達の都合を押しつけて、反論する時間を与えず僕は部屋を後にして食堂に向かった。


                     ♯


 食堂車で申し訳程度の食べ物を胃に収めた後、適当に時間を潰して駅に到着するのを待つことにした僕達は、午前中から正午にかけてダラダラと時間を潰し、午後3時と十数分となった現在、件のオムスクの地に足をつけていた。

 ソ連崩壊まで閉鎖都市だったこの地は現在では、列車だけではなく航空機も利用できる交通の便のよい都であり、治安もいいという。

 街には彫刻が散りばめられていて、観光するにも適した場所らしい。

 もし仕事のことがなければゆっくり見ていきたい気もするものの、当然そういうわけにもいかない。

 一応給料は貰っている身だし、この旅行費も向こう持ちだ。やるべきことはやらなければならないだろう。

 捕縛し終わった後にとも思いはしたが、早く終わろうとも今日は無理だろうということは空を見上げれば分かることだった。

 天は雲に覆われて、湿気が肌を撫でている。

 溜め息。と、

「何故に溜め息?」

 兎傘さんが僕の様子を見て訊いてきた。

「いえ別に。後20分もすれば雨が降ってくるのがちょっと嫌だな、って思っただけです」

「あー雨かぁ。戦闘になったら鬱陶しいだろうな」

「潜伏先は貸し金庫らしいんで屋根を吹っ飛ばさない限り大丈夫でしょうけど・・・・・・」

「高出力系二人もいて建物がもつと?」

「ですよねー。話し合いで済めばいいんですが」

 ところで、交渉に際してこっちはどこまでの条件を提示してもいいのだろうか?

 身の保障やら給金やら、餌になりそうなモノは色々と思いつくのだが、考えてみればそれを岱斉に聞いてなかった。

 ・・・・・・まぁ、どえらい金額に膨れ上がってもいいか。あの男への嫌がらせぐらいにはなるだろう。

 駅を出てからずっと、ケータイのナビ機能を使いながら歩いていた僕は、ここで一度歩みを止めて、しばし交渉の内容について考えてみた。

 施設から逃亡を図った理由は当然不満があったから。

 となると、ある程度自由が保障された環境がほしいのだろうか?

 ぶっちゃけた話、希少ではあるものの、万可が放射能系能力者を本気で欲しがっているとは思えない。

 首輪さえつけれればいい、くらいの感覚なのだと僕は予想していた。

 そういや、淡路島の能力エネルギー利用施設に万可も一枚噛んでいたはずだ。

 あそこに放り込めばちょうどうまくハマる気がする。

 よし、その方向で行こう。

 知らず知らずの内に地面に下がっていた目線を上げ直すと、随分遠くに兎傘さんが見えた。

 僕が止まっている間に随分先に進んだらしい。

 が、ロシア行きそのものがそうだったように、行き先を完全に僕任せにしている彼女は、今も貸し倉庫までの道のりを確認してはいない。

 メールに送った地図だって一目見ただけのくせに、道が間違っているとは思わないのだろうか。

「おーい、早く行こうぜ。荷物も置いてきてるんだしさぁ。

 すぐに帰れるならそれに越したことはないだろ」

「いいんですよ、あの人は。日頃の鬱憤を晴らす意味も込めてこき使ってやれば」

 数日前に会ったばかりの兎傘さんは知らないだろうが、僕と彼女はこれまで幾度となく決着の吐かない論議を交わす羽目になった腐れ縁だ。

 色々と鬱積したモノがある。

「本当、昔の君はどこにいっちゃったんだろうね?」

 と失礼なことを口走る兎傘さん。

 自分でも結構黒くなっている自覚はある僕は、

「過去は振り返らない主義なんで」

 とお茶を濁した。

 そもそもこの身体はほとんど葉月製なので、性格改変はあり得ない話ではないのだ。

 さて。

 ケータイのディスプレイに表示される現在位置と地図の示す貸し倉庫の位置がほとんど重なる所まできて再び立ち止まる。

 辺りを見渡すとそれらしき小さな煉瓦造りの建物が見えた。

 住居にしてはノッポな赤と茶色のモザイク模様の立方体、その一面に埋め込まれた鉄製の観音扉。

 洋風と称すればいいのか、古風と称すればいいのか、町並みから若干浮いた倉庫だが、造り自体はしっかりしていて、借りるのにはそれなりに纏まった金額が入りそうではあった。

 これは交渉であんまりお金を積んでも駄目かも知れない。

「今も中に?」

「万可から追って連絡がないってことはそうなんでしょうよ。

 あー一応手筈を確認しときますか。

 まずは説得、無理なら絞める。・・・・・・他に何かありましたっけ?」

「ねぇよ。というかやる気もねぇだろ、君」

「兎傘さんも役目がないでしょう」

「「・・・・・・・・・・・・」」

 沈黙、そして流れる何とも言えぬ空気。

 それを払拭するために僕はパンッと手を叩いた。

「臨機応変に対処するために、さしあたっての作戦方針だけは決めておきましょう。

 えー・・・・・・あー、そうですねぇ、とりあえず『いのちをだいじに』で」

「ちなみに訊くが『いのちをだいじに』って、どっちのだ?」

「そりゃあ『向こう』のに決まってるでしょう?」

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

「なぁ、葉月ちゃんの性格って近くにいると感染す(うつ)るのか?」

「再三に渡ってまだ引きずるんですねそのネタ・・・・・・。

 言っておきますけど、葉月ならもっとシンプルな方法を採りますからね?」

「もっとシンプルな方法?」

「心を折る」

「あーうん・・・・・・。

 シンプルだけどそれはそれで高度というか・・・・・・。

 つーか、そういうところも分かってて葉月LOVEな君が私には理解できない」

 そうやって倉庫の前でひとしきり馬鹿な会話をした後、「さて」と僕は気を取り直して、正面の両開き扉の取っ手に手をかける。

 当然鍵は閉まっているが、念力を持つ人間にアナログな錠前など意味はない。

 さっさと開けてしまおうとして・・・・・・、やっぱり考え直した。

 あまり期待してはいないとはいえ、平和的解決を望む身としては勝手に開錠するのはまずいだろう。

 そう思って取っ手から手を離し、扉をノックしようとした時だった。

 爆風、閃光、爆音。


「――――は?」


 あまりの不意打ちに唖然となった二人に、瓦礫と光と熱とが襲いかかった。



                     ♯

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