第44話- 先輩談話。-...too!-
祝・50話!
本来なら終わっててもおかしくない話数ですよ!くそぅ!!
夢心地、といっても半分ほど何やら不明なモノが混ざっていたけれど、いや・・・ほとんどが支離滅裂のオンパレードだったけれど、目が覚めた時、何故か赤面していたクシロにそのわけを問い詰めるも断固黙秘されて、何を見たのか教えてはくれなかった。
んー、何をみたのだろう?
自分の夢がアレな感じだったし、あそこまで口を閉ざされると逆に気になる。
まぁ、ともかく。
今、僕達は1‐Bの喫茶店に向かって歩いている。
今日の自由時間は終了し、午後からは喫茶シフトの仕事なのだ。
委員長に副委員長はほとんど店の方に入り浸っていたりと一日目の段階でシフトなんてものはかなりぐちゃぐちゃになってしまっているので、そこまで律儀に守る必要はないんだけど。
まぁ役割は役割だ。あれはあれで楽しい作業だし。
仕事といえば今更ながらこういう時に裏方の仕事はないのだろうかとないのだろうかと思ってみたりもするものの、まぁ、元々監視が目的だったんだから今更それらしく雑用を押し付ける必要もないのだろう。
いや、一応あるのに智香さん辺りが遠慮して情報を止めてるのかもしれないけど、それならそれでありがたく日常を堪能させてもらうことにする。
ふむ。
・・・となるとやっぱり気になるのは・・・、
「結局何見たの?」
「黙秘権を発動する!」
むぅ・・・クシロはなかなか強情だ。
/
昼時を少し過ぎた午後2時頃。
来島越嫁は持ち場を後輩に預けて喧騒の中へと繰り出した。
大学から真っ直ぐ殊樹高へと足を向けて、彼は何の躊躇いもなく体育館へと裏口から侵入する。
開けた扉の先、舞台裏の空間にはけれど誰もいない。
何処からか持ち出されたテーブルやティーセットがあるだけで、形跡を残したまま人だけが消えている。
これを人は神隠しというんだろうかとそんなことを考えながら越嫁は携帯をプッシュした。
着信メロディーがすぐ近くで鳴り響き、耳が、それはテーブルの上から発せられていると訴えてくるが、机上には携帯らしきものはない。
彼はそれを確認すると再び部屋の外に出て扉を閉めた。
木製の何処にでもある、ノブと鍵とがついただけのシンプルなドア。
一呼吸置いてからもう一度開けると、今度こそそこには長髪を後で縛った男性と金髪の女の子がいた。
その彼はティーカップを持ち上げてみせる。携帯はもちろんテーブルの上だった。
2人の人物はもちろん板川由と板川サラであり、
「ようこそ1.5へ」
在って無いという矛盾を孕む曖昧な世界こそが彼の棲家だ。
「久しぶりだな、由」
促されて越嫁は空席につき、そこで、
「お前どうしたんだ、その腕・・・」
由の左腕が肩の近くからごっそりとなくなっていることに気づく。
前回顔を合わせたのは1年ほど前だったが、その時には両腕はついていたし、話にもそんはことを聞いた覚えはない。
由はその当然とも言える問いに対してサラが注いだ紅茶を勧めて、彼が一息吐いたところで口を開いた。
「さっきやられた」
「――――ッ、アレか」
「期待通りだった。さすがいい餌だな"織神"は。さすがに次もとはいかないだろうが、手がかりは掴めた。
まぁ、感極まって手を出そうとした結果がこれ――――」
と、半分以上失われた左腕をぶらぶら振る。
「――――だけどな。自分の世界に拒まれた上、腕まで捻じ切られるとは恐ろしいね」
「大丈夫か?」
軽口で済まされないことが目に見えて分かる負傷に越嫁は呆れを多少含んだ声色で尋ねる。
「出血もなく骨も肉も血も|元からこうであったように《・・・・・・・・・・・・》癒合されてるからな。痛みすらない。それにこれぐらい直せるさ」
「はぁ・・・だとしても身体は大切に扱うようにね」
「了解した。・・・と、そうだ今回の件ありがとうな」
「ん?・・・あぁ、彼女をこっちに呼んだこと?まぁ、彼女に興味持ってたみたいだし」
「ああ、こっちも一応手は回してたんだけど、お陰で最終日には私も楽しめそうだ」
「うん?」
「あれ?知らない?
毎年恒例の後夜祭イベント、今年は私がやるんだよ」
あぁ、と納得したように越嫁は頷いた。
自分が彼女に『不思議の国』を勧めなくても後夜祭のイベントで"織神"を取り込めるようにはしていたらしい。
「手を回した、ね」
「ん。それと恩師の頼みだったし」
『恩師』という言葉を口にする際に苦笑いが含まれているのを越嫁は見逃さなかった。
「あー、あの人か」
苦笑いの意味は彼にもよく分かる。
「あの人だよ」
「あの人ね」
2人は当時から殊に与えられていた仕事部屋をゲーム機器で埋め尽くしていた容姿の変わらないある人物を思い浮かべて、しばらく思い思いに沈黙する。
数多ある思い出を引っ張り返せば返すほどいらない記憶が玩具のように散らかっていく。
その結果顔に表れるのはやっぱり苦笑いだ。
茶葉の香りを楽しんで、お茶請けのチーズクッキーを幾つか口に放り込んだところで会話を再開した。
「・・・由。で、どうだったんだ?アレは」
「うーん、これといって得たものはないんだよねぇ。ほとんど隔離されちゃってたからよく観察できなかったから。
課題は食いつくかどうかだったからそれでいいんだけどさ。
転寝してるようだったな。初めて私らで見た時より意識レベルは低い感じ」
「むぅ・・・。相変わらず雲を掴むような話には変わりないか」
「夢を、掴むような話だよ。
ともかくだ。後夜祭は期待してろよ、越嫁のお陰で私も気兼ねなく参加できるしな」
/
我が幼馴染、通称『歩く凶器』は今頃どうしているだろうか?
いや、まぁ一応は宣伝役という任を負っているわけで、そもそもそれはつまり単なる厄介払いなわけで、学園内を観て回っているのは確かなのだけど、心配だ。
ぼけっとしているせいなのか無意識の内に危険行為をしてしまう彼女は、同じくして自分の身も危険に晒す傾向にあることを私は知っている。
海君には悪いけれど、他人を傷つけるのはともかくとして自分まで危険な目に会うようなことだけはないように願いたい。
ただでさえ彼女の身体は傷だらけで、これ以上に傷を増やすのは見るに耐えないのだ。
女の子なんだし、身体はできるだけ傷つけないようにさせてあげたい。
そう思っていつもは可能な限り目を離さないのだけど、昨日も今日もシフトの関係でどうしても空白の時間ができてしまう。
・・・大丈夫かなぁ、あの子。
「ねぇちゃん、注文頼む」
「あ、はい!」
ぼうっとしていた頭を現実に引き戻す声に慌てて返答、手を挙げているのはスキンヘッドのごっついあんちゃんだった。
おおぅ。交通ルールを厳守する暴走族みたいな人だ。
人の良さそうな顔が逆に怖い。
「珈琲のお代わりとカステラ2袋な」
「珈琲とベビーカステラを2つですね、承りました」
「・・・あと1つ確認したいんだが」
「はぁ・・・」
彼は注文をキッチンに伝えようとした私を留めて、別のテーブルで注文を取っている釧君を指した。
まさか紹介しろとか!?などと愉快すぎる予想が一瞬過ぎる。
そうであっても他人事。傍観する立場としてはその方が面白そうだと無責任なことを思いつつ、
「彼女がどうしましたか?」
できるだけそういった表情が出ないように努めて尋ねる。
けれど彼は何やら難しい顔をして額を指で何度か叩いた後にようやく、
「俺の知り合いに非常にそっくりでな。いや、人違いならいいんだ。でだ、少なくても俺が知る限りそいつは男だったんだが・・・・・・」
期待外れでかつ実に面倒なことをおっしゃった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・少々お待ちを」
あちらもオーダーを取り終わったところで釧君に声をかける。
「ねぇ、あちらのスキンヘッドなお客さんが君のこと知ってるみたいなんだけど・・・」
「スキン・・・ヘッド・・・?」
その特徴に心当たりがあるのかびくりと身体を震わして、私を陰にして問題のお客様を確認する釧君いや釧ちゃん。
悔しいことにその仕草は可愛らしすぎる。
「・・・・・・!」
あんちゃんと目が合って咄嗟に顔を逸らした。
これまた実に小動物な感じがして、どうやればそんな自然にできるのかと問い詰めたくなるのだけど、それはともかく今のは知り合いだと言っているようなものだ。
「・・・・・・知らない人だよ?」
「もう遅いわよ」
もちろんあんちゃんもそれに気づいているわけで、呆れ顔で彼を凝視していた。
逃げられないことを悟ったらしい釧君は、ごほん、と咳払いを1つ。
「・・・・・・・・・・・・えー・・・久しぶりです達磨先輩今日はお日和もよく晴れていますし賑やかな祭の日でもありますし実に目出度いですよねええほんとそれはともかくとして言っておきますがこの格好は好き好んでやっているというわけでなく無理やり面白がって着せられたものであって俺にそういう趣味があるというわけではないんですよ誤解しないでください・・・」
/
薄色の洋風着物っぽい何かしらに、薄っすらと口紅、さらに私に気づいての人影に隠れる動作。
何時ぞや、体育祭の後少年らに自分の店にやってこられた屈辱を晴らすべく、1‐Bがやっているというコスプレ喫茶を火男こと邦明との待ち合わせ場所に指定したのだけども・・・、
「・・・くっくくっくぅ!」
駄目だ、笑いを堪えられない。
「くはっ、ぁーははははははっ、ひぃひひひひひひひひ!」
思わず腹を抱えて笑ってしまう。力が抜けて膝が折れた。
「ひぃ・・・ひぃ・・・ふっ、くっ、あははははっははっははは・・・!」
笑いすぎて腹が痛い、そして息ができない。
昔間違って自分の周りを火で囲んでしまった時以来の息苦しさだ。
「笑いすぎですよ、兎傘さん・・・」
「だってよ・・・!嵌りすぎだろその格好!」
一通り笑い終わって、息切れからも回復して改めて邦明と対面した。
市販のアイスティーを含んで乾いた喉を潤す。
「久しぶりだなぁ火男」
「今は火達磨だぜ、火兎さん」
自慢げに言われるが、誇っていいネーミングかどうか私としては図りかねる。
「・・・・・・・頭からか?」
「ああ、あの可愛子ちゃんの命名だ」
邦明が指した先にはあの少年が。
「くくっ、わ、私を・・・ひひっ、殺す気か・・・!」
「こんな方法で死んでくれるなら何て救いのある話だろうな」
・・・何て失礼な話だろうよ。
半ば本気で言ってるのが腹立たしい。
「で、それはともかく。話って何だよ邦明」
こうやって実際顔を合わせることは少な・・・くもないか。
考えてみれば頻繁に人の店にやってくれやがるなこいつは。
「例の放火魔の件・・・状況がよろしくない」
「あいつのことか」
「共同訓練以降どうもエスカレートしてるのもあって監視はしてたんだが、先日完全に見失った」
「あん?何だそれ?お前らしくもない」
「らしくもない、じゃねぇよ。俺の情報網外で行動してるってそれだけのことだ」
「白と灰色 ゾーンを網羅した発火能力仲間のネットワーク外・・・ね」
「だけじゃねぇ、横繋がりの発電能力ネットなんかともやり取りしてるが掴めない。
そこが問題だな」
なるほど、つまりそれは、
「黒色か。何処ぞの裏組織にでもスカウトされた、か」
「だとしても真っ当なな放火魔をそういった連中が相手にするかってのが引っかかる・・・」
その通りだった。
違法行為だとしても趣味であって主張あっての行為ではないアレをわざわざ身内に引き込む理由が分からない。
発火能力者にしてももっとレベルの高い、なおかつ扱いやすい能力者はいるはずだ。
「確かにな。何にしろキナ臭い」
人材派遣でですら足がつくのを怖れるほど慎重な計画でもあるのか、あいつでなければならないわけでもあるのか。
「そういうのは俺より鮮香さんの領分だろ?」
「と言っても私だって真っ当な人間だよ。知らなくもないけど詳しいわけじゃない。
ま、探ってはみるが期待はするな。あと無茶もな」
「・・・了ー解」
/
砂糖の甘い香りが充満するカーテンの裏側、キッチンスペース。
フロアとは打って変わって忙しく、絶えず手を動かしている男達としぃっちに私。
待っていた女の子にベビーカステラの袋を手渡して再び内部に目を向けると、たかっちはずっとカステラの世話をし続けているし、そいっちはワッフル機をフル稼働させている。
くしっちがフロアに行っている分の皺寄せだ。
もっともそれで得られた私達の精神的利潤に比べれば大した負担ではない。いや、全く負担ではない。むしろプラスだありがとう。
そもそもこういう作業だって祭の醍醐味だろう。
私もワッフルのトッピング係に戻ってしぃっちの横で作業を再開する。
既にほとんどなくなってしまっているチョコソースや生クリームの補充も隙を見てやっておかなければ。
しぃっちの作っているカステラの種にしてもそろそろ材料自体がなくなりそうだし。・・・今日中もてばいいんだけど。
「フロアが騒がしいわね」
「そうねー、またはづちゃんの知り合いかな」
あるいはまた偽いなっちーか。
「いや、釧君の知り合いみたいよ?」
「へぇ?」
言われてカーテンの隙間から覗いてみると、くしっちを片手で指差しながら腹を抱えている女先輩。げらげら笑ってる。
「くしっちもよりにもよってこんな時に出会っちゃうなんて運ないわねー」
まぁ、もっとも運がないのは、出会った知人が人目を憚らずに大笑いする人物だったことだけど。
「そういう人に縁があるのよ」
「はづちゃんもそうっちゃあそうだもんね。変人引力」
「魅力と言いなさいよ・・・」
「今の彼は魅力的ー」
冗談が1割残り9割は本気だ。
それにはしぃっちも同意らしく、くすくすと笑う。
「よねぇ、男の子にモテモテじゃないかしら?
あれなら連絡先でも回せばラブレターを集められるわよ。それを本人に見せてあげるのも一興よね」
「うわぁ・・・」
えげつない。それを笑顔で言いますか。
いやまぁ、見てみたいけど。どんな顔するのか興味がかなりある。
そういうことを考えてみると本当に、
「あー、フロアは楽しそうねー」
「行ってくる?それともいっそのこと店から出たら?ずっと篭りっきりだったからシフト分はもう働いてるでしょう?」
「いい。出るのもめんどーだから」
接客も苦手だし、カーテンの隙間から時々覗くぐらいがちょうどいい。
「そう?それなら・・・」
しぃっちは作った焼きリンゴを容器に移す手を止めた。
私もだけれど彼女もずっと喫茶店の作業をしているから、気分転換にでも行くのかと思いきや、カーテン越しにフロアのあゆっちを呼ぶ。
「香魚子、九鈴のところに行ってらっしゃい」
「え?でも・・・」
「いいのいいの、私達は好きでここにいるんだし、九鈴を1人にする方が心配よ。ね?」
「う、うん・・・ごめんね」
シフト外の時はもちろんくすっちについて回っているあゆっちは決められた分をサボるのに罪悪感を感じているらしい。
そんなこと気にしないでもいいのに。
そぞっちを見てみればいい。堂々と今日の午前シフトをサボタージュだ。
「あゆっち行ってきな」
私も彼女の背中を押してやる。
くすっちを1人にしておくのに不安はあるし、仕方ないとはいえ彼女を除け者にして、罪悪感があるのはこっちの方だ。
「ありがと」
言うやいなやあゆっちは駆け足で外へ出て行った。
そこまで心配なのかとその保護使命感に半ば感心しながらその背中を見送る。
いい幼馴染だなぁとそんな感想を持って作業を再開しようとすると、
「・・・うまく、やればいいんだけどね」
彼女の背中が消えた頃にしぃっちがポツリと呟いた。
ぴたりと、私だけでなくキッチン3人の動作が止まる。
「・・・・・・うん?」
うまく、やる・・・?
・・・・・・・・・?
・・・・・・・・・・・・!
「・・・なるほど」
「あっ」
「"も"ってそういうことかぁ」