欠片-1 夢魔。-My Dream-
蒼い。空が蒼い。碧い。天が碧い。
あるいは灰。雲か煙か知らないけれど、色あせた色残りが戸惑いを隠せない。
ズタズタ、ズタズタと何かが切り刻まれるような感覚が心臓に突き刺さる。
ギチギチ、ギチギチに身を焦がすような焦燥が肌を擦り減らす。
二の腕辺りが枯れてしまう様な脅迫に腕を抱いて、目を見開く。
ガチガチと顎が恐怖を訴える。ギュルリと眼球が逃れようと動き回る。
そんな感覚を残したまま、そんな感覚に慣れた上で、僕らは居た。
どうしようもなく、どうしようもなく、どうしようもなく当然で、それ以外を知らない故に。
そこは屋上だった。酷く殺風景な白の群塊。
いつものように床に腰を下ろし、視界は蒼に向ける。
何気なく髪を少量すくって指に巻きつけてみる。それは、すぐに元に戻った。
緑色の上半身から下半身の半分までただ伸びているような服。そのポケットから煙草を取り出した。『FOLUTA』と銘柄が書かれている。
それをたどたどしく口にくわえて、やはり目は碧に。ライターは、ない。
「あ―――!はづきちゃん何すってるの!」
後方からの声。溌剌とした、明るい発声。幼さの発現。
こげ茶色の髪をさらんと流した少女の姿。同じく緑の服を翻してこちらに向かってくる。
たんたたんとステップを踏むように、駆けながら。
「吸ってないよ?火はついてないんだから」
いいわけー、なんて言いつつ彼女は横についた。
「おばちゃんに怒られちゃうよ?」
それは嫌だな。嫌なのは嫌だ。嫌だから嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。全く。
「それに、そんなものすったら死んじゃうんだー」
信じてもいない話を、口笛を吹くように言う。
「たばこでちょくせつ死ぬわけじゃないでしょ、それ。けんこうをがいするのはたしかだけど・・・。
あぁ、たばこそのものを食べたら死ぬのかもしれないね。そんな自さつ方ほうがあった気がする」
そこで、彼女は笑顔で、ほんとに見惚れる幼い笑顔でこちらを振り向き――――
くわえていた煙草と手に持っていた箱の方も奪い取ると、勢いよくそれらを屋上から投げ飛ばした。
「あ―――――――――――!!なんてことをっ」
今度、ライターをあの岩顔男から無言で借りようと思っていたのに。
「なんてことを・・・」
2回言ってみる。
「はづきちゃんにはきけんなものをもたせないようにしたほうがいいと思うの」
平然と言ってのけた。確実に僕の方が年上なのに。数ヶ月の差だけれど。
自分の方がお姉さんだと思っているらしい。そして、まあ、その通りかもしれないけれど。
「だれかにひろわれたらどうするのさっ。だえきからばれちゃうよ、あれ」
「おばさんにしかられるといいんだわ。いの中をはき出してもらいなさい」
胃じゃなくて肺の方だと思うのだけど、違っただろうか?いや、
「それは赤ちゃんがすいがらを食べちゃったときのしょちかなにかだと思う・・・」
「・・・・・・!」
同じことなの!、と間違ったことへの恥ずかしさを誤魔化しつつ、上を向く彼女。
幼い容姿。幼い声。幼い顔。
幼いは最強。幼いに勝てるものなどなく、幼いに敵うものなどない。
故に彼女は幼くはなないのだろう。
――――彼女は、弱かったのだから。
「ねぇ・・・」
彼女が口を開いた。
振り向くと、彼女もこちらに顔を向けている。
6歳に満たない華奢な体を揺り篭のように揺らしながら、笑顔で、言った。
幼い、大人びた、稚拙な、精巧な、綺麗な、無様な、強い、弱い、優しい、怖い、温かい、哀しい、切ない笑顔で。
「はづきちゃん、××××××××××××××××××××××××××××××××××?×××××××××××××××?×でき×××××××ば××××××××××苦×××××××××愚×××××××××××笑××××××××××助××××××××××愚××××××××髄×××沈××××泣××××無××××××××××怒××××出×××××××浮×××××××××××××××××××解××××××脳××××××××××生×××××脳×××脳×××体×髄××ラベ×××塊×××ル××名×××脳×××脳脳髄××脳脳×脳××脳脳脳脳脳脳脳髄脳脳脳脳髄髄脳脳脳髄髄髄脳・・脳脳脳脳脳・・・・・脳脳脳・脳脳脳脳髄・・・髄脳脳・・・・髄・・髄髄・・髄・・・・・・・・・・脳・・・・・・・・・脳・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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お願いだから、思い出させないでください。