第40話- 女装仮装。-Disguise-
葉月組。
葉月、俺、隆、椎、聡一、香魚子。
楚々絽組。
楚々絽、海、亜子、真幸、絵梨、誉、美樹。
なお、キッチンでもホールでも危険と判断された歩く凶器こと九鈴は必然的に常時宣伝役に落ち着き、ともかくこの2組が交互に祭の3日間、開催時間の10時から16時を二分した3時間ずつ店を回していく予定。
さぁ、やってきました。
10月18日、祭当日。
秋晴れ。
3時間前に登校してギリギリまで作業の末、何とか満足のいく形にまでもっていくことができた内装をしげしげと眺めながらの一息はなかなかに格別だ。
本番前の準備運動にと作った珈琲も美味しい。
委員長こだわりの詳しくは知らないけれど、10万はいってそうなとにかく高価な珈琲メーカーのお陰だろう。
ワッフルの出来もよくて、思っていた以上に本格的な喫茶店になっている。
お客がうまく入ればそれなりの利益が見込めるかもしれない。
「あとは・・・女子の仮装だよな」
同じようなことを考えていたらしい隣の隆が呟いた。
「まぁ、それは帰ってきてからのお楽しみだろう」
店のメインテーマである仮装の方も、現在女子が着替えに行っている。
彼女達が入ればこの店の完成度はさらに上がるはずだ。
途中から美樹デザインを見せてもらっていないので、どんな仕上がりなったのか分からない。
そういうことも含めて非常に楽しみではある。
「どんな衣装かねぇ・・・」
「給仕とかメイドとか・・・あと何かあるか?」
「ニーソ・・・絶対領域とか?」
「何だそれ?」
「知らないならいいや。他は・・・」
などなど、くだらない無駄話に花を咲かせること数分。
「お待たせー」
何ともなしにくつろぎながら女子の着替えを待っていた男子群に声がかけられたのは祭開始30分ほど前だった。
振り向けば、当然ながらそこには仮装した我がクラスメートがいる。
葉月は黒、椎すみれに香魚子オレンジ、楚々絽が藍で亜子が黄色、絵梨桃色ときて誉緑、美樹紅、最後に九鈴の水色。
それぞれカラーを分けつつ、衣装自体は似通わせたデザインだ。
細かく見れば皆微妙に違っているけども、全体的に給仕服といった感じは出ている。
「コスプレっていう割りには落ち着いてるし、全体的にまとまってるなぁ」
「メイド服とはやっぱ違うんで仮装って言ってただけだからな。始めっからアニメ云々のコスプレをやる気じゃなかったし」
でもカラフルで賑やかだろと言って、聡一は満足げに何度か頷いた。
まぁ、日常で見る事のない服装というのは確かだ。普段着には絶対なり得ない。
「よーし、じゃあ俺らも着替えるか」
空の紙コップを屑入れに放り込んで隆が伸びと共に立ち上がる。
「・・・なぁ、前も言ったが、本当に着替えるのか?」
対して俺は気が進まず、立ち上がるのも躊躇した。
基本裏方の俺達には必要のないものだと思うし、何より恥ずかしいのだ。
「当たり前だ。形から入るのが大切だろう、祭は。気分気分」
「そうだ。女子だけに仮装させるのは虫が良すぎるぞ」
衣装で強調された腰のくびれに手を置いてにたり顔の楚々絽。
実にスタイルのいい人だ。その分にやにやとした表情が残念で、もったいないもったいないと呼ばれる理由がよく分かる。
さて、しかし。
男子が女子の服装で気を盛り上げられるのは分かるのだが、女子が男子の仮装で楽しめるのかが謎だ。
というか、彼女は姉にゾッコンだろうに。
「はーい、これが男子用の衣装ー」
美樹がさっそく男子に作った衣装を配り始めている。
完全に裏方である男子用のデザインも1人1人違うらしい。
この店全体のデザインといい、今回の功労賞は間違いなく彼女だろう。
というか彼女プレゼンツの喫茶店と言っても過言ではない。
「で、これが釧くんのだぜ」
「ああ、ありがと――――ぅ?」
あれ?何だろう?
男子の衣装はシンプルなウェイタータイプだったはずなのに。
何で手渡されたこれは、全体的に薄色をしているのだろう?
周りを見渡すと、やっぱり他の男子の衣服は白と黒色で、何より厚みがない。
にも関わらず、俺の手の平に乗っているこの衣装はかなりボリュームがあって、何故かフリル・・・のようなものが。
これはどう考えても・・・、
「美樹、これ間――――」
「違ってはねぇーです」
むう。間違ってないのか。
いや、でも、だとすると余計に・・・おかしいことに。
「ねぇ、クシロ」
「何だ葉月」
「僕思うんだ。人の不幸って、実際体験してみないと分からないって」
笑顔の葉月。だけども、声が低い。
なるほど、そういうことか。そういうことですか。
散々部屋の衣服を変えたりしてきたツケが今、ここに巡ってきてると。
折りたたまれた例のブツをバッと広げてみる。
丈の短い洋風アレンジな着物。他の女子のとすら違う。
「はづちゃんの要望でねー、ありったけラブリーにしましたよん」
これは・・・ちょっと、
「常識的に考えて、そんな無茶なことは・・・」
「『いいじゃないか。お祭なんだし仮装なんだし』」
・・・それは前に俺が言った台詞である。
自分の言葉に足元を掬われるとは。
駄目だ、逃げれそうにない!
「ほーら、観念しなさいな」
椎が後から肩を掴む。
あぁ、あなたも共犯ですか。
「言ったろう、虫が良すぎる、とな」
そういう意味でしたか楚々絽サン・・・。
「さーぁ、観念しなよ、クシロちゃん」
何処からかヘアアイロンを取り出して身動きが取れない俺に向ける葉月。
カチンカチンと凶器を鳴った。
「まずは、その癖っ毛から直そうか」
――カチカチカチカチカチカチカチカチ・・・ッ
・・・・・・迫りくる音が恐ろしすぎる。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「うわっ、予想以上に似合うわね・・・」
椎の、そんな心からの賛辞が、今置かれている自分の惨事を物語っている。
あれ、何か、体が勝手に震えて・・・。
「さすが。前々からイケるとは思ってたが、期待以上だ」
聡一、前々から何を思って何を期待してたんだ?
あとで、あとで・・・覚えてろ。
「よかったね。新しいジャンルが拓けたじゃん」
「よくない!」
「えぇー?似合ってるよ?」
というこれまた全然嬉しくない台詞とともに手鏡を突き出してくる絵梨。
そこに写っている自分の姿を直視して、思わず目を潰しそうになった。
肩口までの赤茶けた髪をした女の子がそこには写っている。
「・・・どう?」
「・・・何時から鏡は他人を写すようになったんだろう・・・?」
「諦めな。それが今のくしっちだよ」
「制服返して!後生だから!」
「駄目だよクシロ。祭中はその格好で行動してもらうから」
「祭中!?無理無理!こんなのどう考えても変な目で見られるって!」
「「いや、大丈夫」」
全員の声が揃った。
「怨むんなら、二次成長に入っても変わらなかった容姿と声に面倒で髪も切らずにいた自分を怨むんだね」
確かに、偏食して成長期が遅れているのは自分のせいなのだろうが。
だからといって、それと女装との因果関係が理解不能だ。
「やっぱり無茶だって!こんな短い丈なんて・・・すぅすぅするし・・・・・・見えたら絶対バレる!!」
「ふむ。まぁ、確かにね」
思案し出した葉月に一筋の光を見出す。
この状況からの脱出の糸口はここにしかない!
「だろう!?下着は男モノなんだから――――」
「じゃあ・・・」
そんな必死な俺の台詞を遮って、
「女モノの下着を穿こうか」
あろう事か葉月は自分のスカートの中に両手を入れた。
「のぉぅ!はづきん、それはあまりにも高等技術というか!
それやったらくしろんが不能になる!!」
あまりの事態に頭がくらくらして、傾斜していく視界が黒に侵食される最中、
絵ロ梨のドクターストップを聞いた気がする・・・。
/
「おぉ、一般客入ってきたぞ」
隆のそんな声に意識を引き戻される。
見渡せば、現実離れした衣装に身を包む我が女子クラスメート。
我が身を見れば、・・・同じく女物の衣装を身にまとう自分。
あぁ、そうだった。
今、俺は女装してるんだ。
「クシロ、あんまりボケッとしてしないように。もうすぐでお客様が入るんだよ?」
葉月がこれでもかという清々しい笑顔で話しかけてくる。
なるほど、自分も葉月の衣服云々を交換したりした際、そういう笑顔だったわけか。
「悪夢だ・・・」
これから全くの、事情を知る由もない赤の他人がやってくると思うと嫌な汗が止まらない。
「なぁに言ってるの。ほら、自由行動組の皆もクシロのお披露目を見守ってくれるってさ」
それは単なる羞恥プレイだ。
「何て嫌な友情なんだろう・・・」
このクラスの団結力は異常だよな。強さじゃなくて形が。
本来今日の前半は俺達葉月組が店を回す予定なのに、まだ皆店にいる。
まぁ、人の不幸を楽しもうというのが半分ほど・・・いや、7、8割ほど混ざっているが、今までがんばって作り上げてきた喫茶店だ。来年と言わず、3日後には楽しめる祭巡りより店に関わっていたいというが本音だろう。
本来キッチン担当だったはずの俺が抜けて裏方が2人になる葉月組としてはありがたい話だ。
普段生活している場所とは思えない小奇麗な空間、カーテンで仕切られた向こうから漂ってくる甘い香り。
・・・自分の女装がなければ心躍るシチュエーションなのに。
「俺は今何をやってるんだろう?」
「駄目だよ自人称変えないと」
「それを葉月に言われるとはね。自分こそずっと『僕』で通してるじゃないか」
「それが自然体だからねぇ・・・。別に強いてまで女の子やろうという気持ちは今のところないし
でも今のクシロは違うでしょ。女っぽくしないとバレるよ?」
「・・・・・・」
あぁ・・・、バレて困るのは自分か。
女装をさせられてしまった今となっては、バレないように最善を尽すのが俺の任務らしい。
「女言葉使ってれば、その声色なら大丈夫だって」
「葉月、それ褒め言葉になってないって分かってるか?」
「うふふん?」
なんだその返しは。
何なんだそのご機嫌な鼻歌は。
「ん。この階にも人が上がってきたみたいだよ?覚悟を決めようか」
「う゛わぁあぁあああー・・・」
嫌だ。まるで覚悟できてない。というかできるわけがない。
固まる自分の腕を引いて葉月は鼻歌交じりに店の入り口の方へ。
廊下にまで出されて客寄せに参加させられる。
13階段を上る死刑囚の気分だ・・・。
「ほぉら、クシロちゃん?」
客寄せの台詞を耳元で囁かれ、肩には手を置かれ・・・、力の入った指の圧力に追い詰められる。
もう、逃げられない。
「・・・・・・1‐Bコスプレ喫茶『Elysion』っ・・・いかがですかぁっ!」
/
発火能力者の火炎演技、未来視の未来予告、念力能力者による絶叫アトラクション・・・・・・さすが超能力開発を許可された学園によるお祭だ。
至るところで超能力を体験できるこの期間、学園都市は超能力を題材にしたテーマパークと言えるだろう。
どれから行こうか?
人気のブースは混雑しているだろうから、出来る限り人の少なそうなところから回っていきたいのだけど・・・。
遊園地よろしく3つ折りパンフレットを確認しながら、あれこれと興味の引かれるブースを目で追っていた最中、どうにも看過できないモノが視界を過ぎった。
何でだろう?
ここしばらく見る機会がなく、これから先見るはずもないと思っていた物体Xが今、見えた気が。
「んにゃ・・・そんな馬鹿な・・・だよな」
自分に言い聞かせつつ、目を擦り、頬をつねって、再度確認。
ソレは揺ぎなくそこに存在していた。
視界が固定された先にいるのは丁寧に作りこまれた本格的な給仕服ともメイド服とも判断のつかない衣装を着た女学生。
サイドテールの黒髪と華奢な体を揺らしていてなかなかに美人だ。
だが、問題はそこじゃない。
注目すべきはその彼女の持つ店の宣伝文句が書かれた画用紙の方で――――
・・・皆々様、小学校の頃転校した友人が昔描いた自分の得体も知れない似顔絵が時を越えて現在、
何処ぞの出し物のマスコットキャラクターになっていたらどう思うだろうか?
まさか・・・いや・・・まさか。
あいつか?
あいつのなのか?
そうこうしてる内に、水色をした宣伝役らしい少女は遠ざかっていく。
考えている暇はない。
「ちょい!そこの不思議系サイドテール!」
/
「お待たせしました。
ご注文の『Wベリーとアイスのワッフル』、『チョコとクリームのワッフル』それから『無駄に凝った珈琲』です。
それでは、ごゆっくりおくつろぎくださいませ」
席に座った男子2人に商品を出し、テキパキとナイフとフォークを並べていく葉月の様を見て、
「手際いいな・・・」
無意識の独り言。
「そりゃ、バイトで慣れてるからな。てか、お前もホールに出ろや」
キッチン内部、カーテンからホールを眺める俺の背中を隆が押す。
崖の上、逃げ場を失った人間の背中を押すような非道だ。
「これ以上こんな醜態を晒すなんて嫌だ!」
「無駄な抵抗はやめろ。どうせ交代の時間になったらその格好で出歩くことになるんだ」
「やめて・・・それ言わないで・・・」
「おー、ちゃんと女っぽい言葉使い」
何か感心したような隆の口調が癇に障る!
「そんなつもりじゃない!」
「あーはいはい、さっさといけ」
布際の攻防戦はあっけなく隆に軍配が上がる。
かくして、崖から突き落とされた俺はキッチンからホールへ。
カーテンから放り出された瞬間、お客の視線が一気に集まったのを感じた。
「うぅ・・・ぅうう・・・」
反射的に俯いてしまって、ホールに出てきたというのに仕事を探す機会を逸してしまった。
顔を上げたいけれど、1度俯いた手前それはなかなかしづらい行為だ。
けれど、やることがなければその場からも動けないわけで、それがまた恥ずかしい・・・。
「そこの店員さーん」
そんなジレンマから俺を救う天の声に顔を上げると、声のした方には手を挙げている女性客が座っていた。
居心地の悪さから抜け出すためにもすぐさまに駆け寄る。
「は、はい・・・お客様、ご注文でしょうか?」
バレないかというそれとは比較にもならない不安がのしかかっているために声が上ずってしまった。
駄目だ・・・どう考えても接客できる心的状況じゃない・・・。
うわぁ・・・、せめて変な人と思ってくれ。変態扱いは耐えられない・・・!
そんな願いが叶ってか、挙動不審な俺の様子に何ら疑いを持たなかったらしく、彼女は笑顔を向けてきて、
「ねぇ、君、この後ホテルでいいことしない?」
何かとんでもないことを口走った。
すみませんが、願いは無視されたと見ていいですか、神様?
それと、変態を呼べとは言ってませんよ?
「これ、ホテルの場所と部屋の番号」
固まってしまった俺を置いてきぼりに、懐からホテル名らしきロゴの入ったマッチを取り出す彼女。
どれだけアクティブな行動力なんだろうか。
が、
「お客様、セクハラは困ります」
何時の間にかやってきていた葉月が、マッチを渡そうとしていたお客様の腕を蹴り上げた。
空中を舞ったマッチをキャッチして自分のポケットに仕舞ってしまう。
「小鳥さん、何で1ヶ月以上経ってまだ神戸にいるんですか?」
溜め息交じりに、変態もといお客様に話しかける葉月。
どうやら知り合いらしい。
「いやぁ、私学生じゃないし暇はいくらでもあるわけでね?せっかくの神戸なんだから新しい出会いをと」
「あなたは田舎から出てきたおのぼりさんですか・・・」
「いいじゃない!私だって刺激が欲しいのよ!」
「だからって女の子にまで手を出そうとしないでください」
と平然と俺を女の子として扱い、
「あなたの好みは幼い男の子でしょ」
さらに平然と彼女の趣味を口にする。
仮にも店中で、他のお客に聞こえる音量での会話において、話す事柄じゃないと思う。
しかし、
「そうよ」
彼女は彼女でこれまた平然と肯定。どころか胸を張って堂々と宣言した。
・・・この前、珈琲についての知識を教わりに行った瑞流さんにしても、この人にしても、俺の知らないところで葉月が変人と交流の輪を広げていることについて頭が痛い。
と、彼女がちょいちょいと人差し指で接近を促してくる。
ジェスチャーどおりに顔を近づけると、
「だって、君、男の子でしょ?」
これまた平然と無視できない言葉が。
バレてた?何で?
やっぱりアレか!おどおどしすぎたせいか!
どうしよう!?
脳の何処を損傷したら記憶が消えるんだっけ!?
前頭葉!?後頭葉!?いや、大脳じゃなくて中脳だっけ!?あるいは小脳!?
あまりの動転に冷や汗がだらだらと、本当にだらだらと流れ落ちる。
助けを求めて葉月の方を見ると、応答代わりに肩を竦めた。
「透視能力の代わりにまでなるんですか、あなたの眼」
その台詞を聞いて、あぁだからかと安心し・・・・・・いや待て、確か透視能力者は能力上、通常能力が制限されるはず!
何でこの人普通に覗いてるんだ!
「うーん、透視っていうより、概念を視てる感じなんだけどね。外見変えても中身は変わらないから区別がつくのよ」
何やら意味の分からないことを喋る彼女に、さすがにそろそろ彼女の紹介が聞きたくて、
「葉月、この人知り合いか?」
とお決まりの台詞を言うも、
「クシロ、気をつけてね彼女変態だから」
紹介以前に検閲に引っかかったようだ。
葉月をして変態を言わせしめる彼女の存在に戦慄を隠しえない。
「酷い言いようよね・・・。
ふぅん?ふふん?
何?何々?
葉月ちゃん、もしかしてぇ・・・この子こと好きなの?」
・・・・・・うわぁ。
からかい口調でいやらしい意図が見え見えのカウンター攻撃。
ちょっとでも対処を間違えると、取り返しのつかなくなるタイプの質問だ。
その意地悪な質問に、葉月は笑顔で応えた。
無論、葉月とそれなりに時間を共有している俺にしてみればその笑顔が何を意味しているかは一目瞭然。
こっちもこっちで取り返しのつかなくなるタイプには違いあるまい。
お客様であるにも関わらず蹴り上げた彼女の腕を両手で掴む葉月。
ポキッと軽快な音と共に、彼女の右腕は小枝のように単純骨折。
「あんまりおふざけが過ぎるともう1本折るよ?」
・・・1本折った時点で取り返しがつかないとは思わないのだろうか?
「うわー痛ぁっ!ちょっと!腕なんか折れたらこれから祭回れないじゃない!」
何で怪我自体を心配しないんだろうか、この手の変人は。
そんなに新しい出会いや刺激が大切なのだろうか。
「大丈夫大丈夫。骨折ぐらいすぐに治せる知り合いがいるから」
もちろん怪我の心配などするはずもない人種である葉月は携帯を取り出して何処かしらに電話をかける。
「あぁ、毒舌幼女。今ね、腕を骨折した患者がいるんだけども――――」
・・・どうも美恵ちゃんらしい。
今日の午後には一緒に回る約束をしているのだし、近くにはいるだろう。
「この際関節を増やしたいらしいから手伝ってあげてよ」
「ちょっと待ちなさい!今のはどう考えても治療とは言わないわ!」
そんな抗議虚しく、『任せてください!』という無邪気で元気の良い返答が携帯から返ってくる。
いい子なんだけどなぁ・・・。やっぱりというか、ちょっとズレてるんだ、あの子も。
「くぅう・・・覚えてなさいよ!可愛くて年端のいかない少年をゲットして見返してやるんだからぁっ!」
その行為がどうして葉月を見返すことになるのだろう?
そんな疑問が脳内を支配している間に、全く必要もない趣味を大声で暴露するという捨て台詞と共に彼女は店を飛び出していった。
何て・・・とんでもない人なんだ。
女装は当初からの予定でした(笑)
振り返ればそんな描写がチラホラあるはず。