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第39話- 準備風景。-...too?-

 祇堂学園学園祭は文字通り我が祇堂学園秋の行事であり、特別指定都市全体の学園行事の口火を切る第一波でもある。

 というのも、特別指定都市に存在する学園がこの季節、微妙にずらした日程で学園祭を行うため、数ある学園祭が数珠繋ぎで1週間以上も続くためしばらく都市内が祭一色に染まるらしいのだ。

 俗に『祭の乱れ咲き』と呼ばれるこの行事は、さらに言えば他県の学園祭咲きともずれているので、運賃などを気にしなければ1ヶ月近く祭を梯子できるとか。

 この方法だと自分の学園祭の間、店にかかりっきりだった生徒も他学園の祭で回れるし、他県の都市同士でも生徒の行き交いで超能力技術の交流ができるという利点がある・・・・・・と、まぁ、そんな客観的な思考など、当事者であり、今まさにその祭の準備に追われている側にはあまり意味は無く・・・喫茶店の内装準備という重労働を前に、他の祭の観覧を気にする余裕なんてあるわけがない。

 1ヶ月、というのは割りと早く経つものなのだ。

 誰だ、まだ1ヶ月もあるとか言ったのは。

 学園祭準備期間に入って3日目、思ったより進まない作業に残り4日で完成するかが怪しくなってきた現在。

 とにかく内装に手間取っている。

 最も大事なキッチン部分の机までは何とか配置したものの、それをホールと切り離すカーテンが考えていた位置より大分ずれて、事前に用意していた内装用のあれこれのサイズが合わなくなったのだ・・・。

「コンセントの配線はこれでいいんだよね?」

 机の下から這い出して確認を取ると、

「違う違う、珈琲メーカーが思ったより大きくて配置が変わったから、プラグは向こうにないと駄目なのよ」

 苦労を水の泡にする台詞が返ってきた。

「最新版はこれ」

 誉ちゃんが差し出したメモには、新しく書き換えられたコンセントの配線図が描かれている。

 ・・・変わりすぎだと思う。

 仕方なく一通り終わらしてしまったコンセントを回収してやり直す。

「葉月ー、そっち終わったらこっちきてくれ」

「ん、分かった」

 今度こそちゃんと配線して、沿うようにして机の脚にガムテープで固定。見えない場所だから見た目にはこだわらない。

 既に机に乗っていた珈琲メーカーのコンセントを繋いでみると、問題なく電源は入った。

 よし大丈夫だろう。

「さて・・・と」

 呼んでいた真幸君のいる廊下側へ行くと、そっちで行われていたのは看板作り。

「やっぱり大きいねぇ・・・」

 縦横共に1m以上の目立ちに目立つ木の板。何枚かのベニヤ板を繋ぎ合わせて作られている。

 まだ塗装は行っていないため、今は木目そのままのただ大きないた状態だ。

「やっぱりこれ、上に吊るそうってことになったんだ」

「危ないから駄目だったんじゃないの?」

「いや、それがさ、思いのほか板が小さすぎて立てかけようと自壊しかねなくてよ。

 重くもないし繋ぎ目をしっかり補強して吊るした方がいいってことになったんだ」

「・・・ホント、1ヶ月前に練った構想が尽く崩れさっていくよね」

 なんだったんだろう、あの話し合いは。

「で、とりあえず吊るしてみて大丈夫か検証してみようと」

「つまり力仕事をしろ、と」

 中身はともかく外見は女子の僕に力仕事を回してくるのはどうかと思わないでもないけれど、適任は適任か。

「でもこれ1人じゃ無理でしょ?」

「・・・もう片方は俺が持ち上げる」

 板を弄っていたタカが立ち上がる。

「よし、とりあえず仮の掛紐は取り付けた。葉月、壁の方にフックあるだろ。あれに掛けるぞ」

 教室側の壁を見ると上の方に確かにフックが2つ。

 公共物のしかも廊下に穴を開けるわけにもいかず、がっちりと粘着テープで固定されていた。

 その下に脚立を用意してから、木板の端を掴む。タカが同じように掴んでいるのを確認してから慎重に呼吸と高さを合わせて一段一段脚立を上る。

「よっと!葉月そっちも引っかかったか?」

「うん、大丈夫。手離すよ?」

「よぅし・・・と、どうだ?大丈夫そう・・・だな?」

「割りと繋ぎ目もしっかり留めてあるし、もう少し紐をしっかりつければ落ちないと思う。

 ・・・降ろそうか」

「ああ」

 強度と安全性の確認が取れたところで板を外してもう1度床に置く。

 次の問題はこれにどうペイントするか。

 一応看板のデザインはあるのだけど、塗り方は決めていない。

「一旦白く塗ってから、字やらは書いた方が仕上がりはいいよな」

「無駄に乾かす時間ができちゃうんだけどね。今の状況でそれは痛いと思う」

「ドライヤー借りてきて急ピッチでやれば何とか間に合うんじゃないのか?」

「それにかかりっきりってわけにもいかないでしょ。装飾布のサイズ直し、美樹ちゃんだけじゃあ無理」

 と言ってもミシンなんて使ったことのない僕は端っから戦力外だ。

 辛うじて使い方は分かる人間をできうる限りそれに回さないと間に合いそうにない。

「委員長の能力(かぜ)は?」

「あー、まぁドライヤーよりはいいかもな。それでいくか」

「よーし、それじゃあ始めますか」

 用意していたホワイトのスプレーをカコカコ振って、キャップを外す。

 ちゃんと照準が合っているか慎重に確認してから噴きかけ始める。

 が、サイズがサイズだけに塗りつぶすのにも骨が折れそうなその板に塗料を噴きかけている最中、

「お兄ーちゃ――ん!」

 という聞き覚えのある不愉快な声が聞こえてきた。

「ごっ!」

 さらに悲鳴か何かを上げて、今まさにスプレーした板の上を転がるタカ。

 よく見ると毒舌幼女が抱きついていた。

 半身ほど青いジャージが白く染まったタカから離れて立ち上がり、

「――――と、マニアックロリータ!」

 僕の方を見て身の程知らずな台詞を吐いてくれる。

 ――プシュ――――ッ

 即座に、躊躇なく、持っていたスプレーを噴きつけてやった。

 シンナー臭と白い塗料で塗れる毒虫。

「何するんですか!!」

「害虫には殺虫剤と相場が決まってるんだよ」

 もー、と言いつつ彼女はスプレーのかかった白い髪を伸ばして廊下に転がしてあった鋏で切り除く。

 治癒能力、実に便利だ。

「全く、何でよりにもよってこんな時にこんな場所に来るかなぁ・・・」

「荷稲さんに教えてもらいました」

 ・・・何でそんな意味のないことをするんだろう、あの人。

「?誰だこの子?」

 頭を抱えていた僕の隣で、いきなりの登場に怯んで会話に入ってこれなかった真幸君が尋ねてくる。

 そういえば、クシロとタカを除くクラスメートと初対面なのか。

「えーと・・・」

「お兄ちゃんの妹です!」

 説明に困っていると、とんでもない自己紹介が捻じ込まれた。

 大嘘の上、自己紹介になってない。

「違う違う、彼女はカイナの後輩。

 名前は・・・えー・・・と、『み』、み、みみ蓑虫見栄?」

「人の名前をニュアンスで覚えないでください!

 筒蓑美恵です!つつ・みの・みえ!!」

 似たようなものじゃないか。

 8割方正解だ。

「・・・で、何しにきたの?」

「遊びにきました」

「帰れ、今すぐ帰れ。今そんな余裕はない!」

「ええー、でもほら、もうお昼休みです?」

「昼・・・?」

 言われて確認すると正午を30分ほど過ぎていた。

 没頭していて気づかなかったけど、5時間も作業を続けていたことになる。

 確かに昼だし、一休みとしては区切りのいい時間だった。

 一応、邪魔にならないように時間を考えて来たらしい。

「仕方ねぇ・・・とりあえずスプレーかけたら休むか」

「・・・そうだね。午後もどうせぶっ続けだろうし」



 チョココロネ、イチゴミルク。

 毒舌幼女ことみの・・・筒蓑美恵が差し入れてきたビニール袋から選んだ僕の昼食はその2つ。

 一応登校時にコンビニで他にも菓子パンは買ってあるのだけど、それはあとで食べるつもり。

 完全下校時間ギリギリまで作業すると考えると、まだ6時間以上も労働が残っているのだ。

「それでですねー。

 結局私は小学校には行かずに、祇堂大の医学部に入ってから医師免許を取ろうということになりました」

「ふーん」

「つまり、あなたの先輩になるわけです」

 へへんと腰に手を当てふんぞり返る幼女。

 何たる憎たらしさ。

 もしかして喧嘩売ってる?売ってるよね?

 けどここでそんなものを買っても仕方ない。

 ここは人生の先輩として無視しよう。

「ふーん」

 2度目の適当な相槌の後、口内に残ったパンをイチゴミルクで流し込む。

 早いところ食べ終えて看板を仕上げないといけないし、せっかくの学園祭だし成功はさせたい。

 そんな僕の気のない返事に不満なのか美恵は口を尖らせた。

「『ふーん』じゃないです。他人事みたいに!」

 ・・・・・・いや、他人事だし。

 そう返そうとした口は、目の前に出された彼女の手の平に制される。

 お釣りを貰おうとしているようなそのジェスチャーはこの場合、

「学費ください」

「・・・よく今の話の流れでその台詞が吐けたよね」

 お金せびりのポーズだった。

「お金ちょーだいっ!」

「嫌だ」

「何でです!?パンあげたのに!」

「200円ばかしで数百万せびろうという考えの方が疑問だよ」

「ご機嫌取りしたのに!」

「どこにそんな場面があったのかなぁ・・・」

 あの差し入れがそうだとしても、足し引きでお釣りがきそうなほど今まで暴言を吐かれてる。

「酷いです!」

 彼女はわざとらしくも両手で顔を覆う。

 今時そんなので誰が騙されるというんだ。

 というか、何で僕が悪者扱い?

「いやいやいや、既に200万ほど払ってるし、足りないにしてもお金自体はまだ残ってるでしょ?」

「・・・200万?」

「カイナに渡したはずだけど?」

「・・・200・・・万?」

「「・・・・・・」」

 演技をやめて顔を上げた彼女と数刻顔を付き合わせる。

「横領・・・か」

 横でクシロが呟いた。

「あのパンダめ・・・年中発情してるだけでなく私のお金まで盗っていたなんて!」

「"私の"じゃなくて僕のだ。

 元はクリオネの引越し資金なんだから、ちゃんとした使い道で使ってもらわないと困るよ」

「マニアックロリータの次はパンダか・・・。ま、特徴は捉えてるよな」

「タカ、怒るよ?」

「・・・で、あと年中発情?」

「ええ。あの人、未来さんと夜な夜なイチャついてるんですよ。子供がいるんですから控えてほしいものです」

 その言葉に何とも言えない妙な顔をするクシロとタカ。

 何だろう?そこまで妙なことを言ったのだろうか?

「あぁ、ロリータさんには分かりませんです?」

 毒舌幼女までもが小馬鹿にした表情をこっちにくれる。

 ・・・彼女、自分がお金をせびりにきたことを早速忘れてないだろうか?

「ご機嫌取りはどうしたの?」

「・・・・・・お金を恵んでください」

「誰がどう見ても手遅れだよ」

 前も言ったけどよくその台詞が言えたよね。

「酷い・・・」

「酷くない」

 というか、このやり取り自体さっきやった。無意味すぎる。

 いわれのない膨れっ面をくれる彼女にそれを受け流す僕。

 生暖かい沈黙の中、

「あっ、そうだった」

 クシロが突然手を打った。

「何、どうしたの?」

「いや・・・忘れてたことがあったんだ。絵梨!」

 そして、別のグループで昼食を取っていた絵梨ちゃんに呼びかける。

 ・・・あぁ、あれのことか。

「ん、何?」

「また葉月にろくでもないことを教えてくれたみたいじゃないか」

「ふっ、嬉しいくせに純情少年君」

「・・・隆、この野郎を押さえつけくれないか?スプレーがある今なら目ぐらい潰せる・・・」

「やだなぁ、まさかそんな・・・うぉわっ、ちょマジでスプレー向けないで!」

「・・・大丈夫大丈夫、美恵ちゃんのいる今なら目が潰れたぐらいすぐに治せる・・・」

「はいです!任せてください!」

「待った!色々と待った!何かノリがはづきんになってる!そして『任せてください』じゃねぇ!

 助けて真幸!彼女のピンチだよ!」

「釧、遠慮なくやってくれ」

 などなど・・・およそ3分間の小劇場。

 楽しく傍観させてもらった間にチョココロネは胃の中に消えた。

 昼休みも終了だ。

 さて、そろそろ看板塗りに戻らないと。

 椎ちゃんに声をかけて、さっさと乾かしてもらおう・・・。

「美樹もだ。変なこと教えたろう?」

 が、クシロは今度は美樹ちゃんに照準を向けた。

「ほぇ?え?覚えないよーぅ?」

 当然の反応をする彼女にクシロは前にあったことを掻い摘んで説明していく。

 最初疑問符を浮かべていた美樹ちゃんは、話を聞いている内に思い出したらしい。

 手を合わせてのたまった。

「あれだ、私がはづちゃんにディ――――プなキスをしようとした時のだ」

「「!」」

 ちょっと待った!

 あれは原始素能(ホワイトノート)形骸変容(メタモルフォーゼ)がコピーできるかどうかの話であって、重点はそこじゃないはず!

「ちょ、ちょっと!今のは重大発言ですぞよ!」

 あまりの動転に言葉遣いがおかしくなっている絵梨ちゃん。

 手でマイクを作り渦中の人に向ける。

「え?え?え?どうゆこと!?」

「みきっち、その話詳しく!」

「葉月も!」

「ちょ・・・」

「私も興味があるな」

「待っ、楚々絽ちゃんまで!」

「ディープだって!どうなの!どうなったの!?」

「まさかの伏兵だよ!くしろん」

「いや、だから・・・」

 人に話を聞こうとしてるようで聞いていないクラスメートの質問攻め。

 駄目だ埒が明かない。

 どうしよう、これ。

 何でこの人達こんなに食いついてくるの?

 あの何を考えてるのかも、何をやらかすか分からない美樹ちゃんだよ?

 普通に考えて、単なる思いつきだって分かるはずなのに。

 誤解でヒートアップしたこの変なテンションをどうしようかと苦心していると、

「へぇ・・・美樹ちゃんもなの」

 そんな声が響いた。

「「・・・・・・」」

 騒然から一転、教室は沈黙に。

 皆して振り向けば、そこには落ち着いて栗あんぱんを頬張っている我がクラスの委員長が。

「?どうしたの?」

「いや・・・」

 1人、涼しげな顔の椎ちゃんに誰もなにも言えない。

 本日何度目かの温い沈黙。

「・・・・・・あ、そうだ。作業早く始めないと」

「うん」

「そうだな・・・」

 ようやくの海君の一言で各々散らばっていく。

 まるつい先ほどの物事を忘れたかのように動き出したクラスメート達。

 けれど、僕を含め彼らの頭の中には同じ疑念が渦巻いているはずだ。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・も?

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