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第35話- 嬉々危機。-XXX complex-

「よろしくね」

 そう言って、瑞桐さんは僕との間にあった数歩分の距離をさらに縮めてきた。

「私の炎は浄化の火。燃やす対象を選択する(・・・・・・・・・・)ことによって、不浄だけを洗い燃やすことができる」

 ね、例えば、と彼女の腕がするりと伸びて、左手は肩に回して後頭部に右手は左胸辺りに押し当てられる。

心臓(ここ)に貼り付けられた発信機(チップ)、燃やしてあげよっか?」

 ・・・・・・。

 なるほど、確かに機構に少なからず関係しているらしい。

 けれど、

「あんなもの取り出そうと思えばいくらでも取り出せますよ」

 それは機構だって分かっていることだ。

「そ、残念」

 パッと両手を離し、彼女は踵を返した。

 その先には高くそびえる円柱がある。

「搭で雨宿り、ロマンチックじゃない?」



 沖縄にまるで似つかわしくない洋風の搭。赤と茶色の煉瓦造り。

 中には螺旋階段が詰まっていて、展望台である最上階しか部屋はない。

 円筒の部屋には壁に沿うようにカーブしたベンチ備え付けられ、後あるのは自販機ぐらいだ。

 ほぼ360°を見渡せるようになっているガラス窓の1つが開いていて、おそらくそこから屋根まで上ったのだろう。

 彼女は薄暗い室内を照らすように小さな紅い火を幾つも浮遊させる。

 近くにあったそれに指を突き刺してみるけど熱くはないし、火傷もしない。

 手の平に握りこむと生命線の辺りにくっ付いた。

 ある程度粘性もあるらしい。

 人体を対象にされていないこの炎は裏を返せば思いのままに弄れるようだ。

「面白いでしょ。私には炎海紅泥みたいな火力はないけれど、好きなモノを好きなように燃やせるという特性があるのよ」

 浄化の火。有名すぎるので名前自体は知っている。

 そして能力の内容は、名前の通り神々しい。

 その謳い文句が本当ならば人体を蝕む病魔だけ(・・)を焼き殺すことも可能とか。

 出力系でありながら、医療系としての応用が利く。

 いや、発火能力者(パイロキネシス)というより絢爛浄火は原始素能(ホワイトノート)と同じカテゴリに入れた方が正しいのか。

 通常の能力とは異なる、希少能力(レア・スキル)

 そこに万可統一機構は目をつけた?

 しかし、機構は貴重だからといって能力をコレクションするような体質だっただろうか?

 形骸変容(メタモルフォーゼ)に固執しているという印象だったのだけど・・・機構内別機関の、他の規格?

 神戸でも形骸変容(メタモルフォーゼ)の育成棟ともう1つ別の棟はあったし、岱斉もそういうニュアンスのことは言っていたし。

 でも規格外っていってたしなぁ・・・。

 と、

「ね、葉月ちゃんの規格(ルート)『織神』、形骸変容(メタモルフォーゼ)見せてよ」

 子供みたいにキラキラと目を輝かせる小鳥さん。

 何かデジャヴ。

 そういや倉光はどうしてるかな。

「・・・そう言われて、瑞桐さんのように披露できるほど分かりやすい能力じゃあないんですけどね・・・」

 煌びやかな見た目でもないし、応用の幅が広いから『これが私の能力です』といった代表的な技もないし。

 そういう意味では絢爛浄火の方がよっぽど分かりやすいし、格好よくて羨ましい。

「ふーん、それじゃあさ、お題を出すっていうのはどう?」

 と彼女の提案。

「まぁ、それがベストでしょうね」

「ぅんじゃあねぇ・・・」

 ずずぃっと寄ってきて、僕の耳元に口を近づける。

 息がかかるこそばゆい感覚とやたら触れ合う身体の感触の中、

 彼女は嬉々して言った。


 ごにょごにょと、とんでもないことを。


 思わずバッと身を退く。

「何言ってるんですか!そんなところ変容させても服着てるから分かりませんよ!」

「脱げばいいのよ」

「〜〜〜〜っ、あなた変態ですか!?」

「えー、分かりやすいじゃない」

「それ以前にやりたくないんです!」

 性知識が乏しいと周りから、特にカイナから散々言われている僕であってもそれは抵抗がある!

 というか、そのお題は男に戻るのとは違うのだろうか。

 そもそも、よくそれを口に出せたなというか・・・!

 駄目だ、この話はさっさと終わらさないと!

「ほらほらー、これが形骸変容(メタモルフォーゼ)ですよー」

 いつぞやの訓練を思い出し、指を鍵状に変容させて振ってみせる。

「そんな子供騙しに騙されないわよ!」

「子供騙しもなにも、能力には違いないでしょ!」

 ぷぅと膨れっ面をする彼女。

「いいじゃないのー、減るもんじゃないしー」

 そんなセクハラな台詞を実際セクハラで言われて、誰がいいと応えるものか。

 それに僕の精神力と体力がきっちり減る。

「その話はもうなしです。そんなのは形骸変容(メタモルフォーゼ)の応用プランにありませんし、今後も予定にありません」

 膨れっ面が一段階グレードアップ。

 外見だけが大人な子供がここにもいた。

 ・・・よし、無視しよう。

「それよりも、沖縄冷戦について訊きたいんですが。絢爛浄火・・・その時活躍したんですよね?」

「あれ?そういうところ、規制されてるはずなんだけど?」

「そういう情報規制が効かない上口の軽い老人が『基地中の空気を"燃やす"』とか変な表現してましたから。

 基地をまんま火の海にしたんならそういう言い方はしないでしょう?

 その表現を鑑みるに、基地全体を火で覆い尽しておいて尚且つ焼死させず・・・・・・おそらく窒息の可能性をほのめかして撤退させた・・・ってところかなと。

 だとするとそんな芸当ができるのは絢爛浄火ぐらいでしょ?対象を限定できる能力なんて珍しすぎる」

 さらに言えば、あの老人は酸素を燃やすとも言ってなかったことから、空気、というのはまんま窒素78%酸素20%アルゴン0.93%二酸化炭素0.03%などで構成される大気のことだろう。

 それら多数の分子を含む空気を纏めて燃やせるというのは、つまり物質の固有振動を利用するような原子レベルでの物質の種類によって燃やす対象を区別しているわけではない。

 僕の心臓の発信機を燃やせると彼女は言ったけれど、チップにしたって多数の元素で成り立っている。

 にも関わらず、その異物を燃やしきり、なおかつそれ以外には燃え移らないなんてことができるとするならば、それは彼女が能力を影響させる対象を抽象的で概念的に選っているからだと推測できる。

 たぶん彼女は、ほぼ同じ元素群でできていても、指、手、腕ときっちり区別して燃やせる。

「まぁ確かに、そうかもねぇ。

 うんでも、あれをやったのは私の父親だけどね。初代絢爛浄火。

 実際には"燃やす"というより、空気全てを炎で"包み込ん"で、肺に取り込めなくしたっていうのが正しいとか言ってたかな。

 私はできないんだけどそういう応用もあるらしいわ。

 ちなみに学園都市の入り口作ったのが母親。斬刀水圧(ウォーターカッター)

 ・・・両親揃って血の気の多い人物だっらしい。

 戦場のラブストーリーが垣間見れた気がするけど、今回はスルーしよう。

「父親の遺伝なんですね、絢爛浄火」

「超能力ってそういう傾向にあるからね・・・『母親の能力は息子に、父親の能力は娘に』。一概には言えないらしいけど」

 『交雑によって生まれた雑種一代(こども)はその雌雄と逆の性を持つ親の能力を得る可能性が高い』。

 超能力の遺伝学において一般的に言われてることだ。

 性染色体に伴って形質が遺伝する伴性遺伝に似ているけれど、メンデルの法則から発展したこんにちの"生物"の遺伝学とは違い、"超能力"の遺伝学は未発展。

 あくまでそういう傾向があるというだけで根拠はないし、確率的にも81%と低い。

 楚々絽・・・ちゃんと鈴絽さんがいい例だ。視覚奪取と身体強化、方向性すら違う。

 だいたい、超能力が子に遺伝していくというのなら、万可統一機構が形骸変容(メタモルフォーゼ)の発現に血眼になることもないわけで・・・。

 あとこれらの話は『能力を持つ親が()した子供がSPSを服用した場合』という前提の上に成り立っているので、SPSなしに超能力者の人口が増えることはほぼない。

 結局超能力開発には国際機構の許可が不可欠という現状には変わりない。

「浄火の性質と水が合わさればそれはそれで面白いなぁとは思ったんだけど、実際そううまくはいかないのよね」

「だからSPS服用時ドキドキできるんですよ?」

「いやー、私の場合は最悪絢爛浄火じゃなかったらどうしようってヒヤヒヤしながら飲んだのよ。親が無駄に立派だと苦労するわ」

「その感覚は僕には分からないですね」

「そう?葉月ちゃんだって万可統一機構の期待があったでしょ?」

「あったでしょうけど、そんなモノ気にもしてませんよ」

「うわー、それもそれで怖い話よね・・・」

「そうですか?」

「そうよ。と・・・そろそろ、外に出よっか」

「え?」

 ちらりと外を見てみると、まだ雨は降っている。

 本降りではないものの、それでも外を動き回るのには十分障害になるだろう。

 雨宿りの必要性は変わらないと思うのだけど。

「だって、葉月ちゃんが恥ずかしいかなって思ったから遮蔽物の中に入ったのよ?やってくれないんじゃ意味ないじゃない」

 しれっと、しれっと言ってくれる。

 何が、何で恥ずかしいのかは、予想がつくから訊かないことにして・・・、

「そんなくだらない理由で搭を上ったんですか・・・」


                     ♯


 学園都市内にある、ショッピングエリア。

 地下を含めて7階の巨大モールという形に集約された唯一の商店誘致施設がそれに当たる。

 防壁で囲まれている以上客層がほぼ学生と固定されているモールには駐車場がないという特徴があり、その分上にも下にもテナントスペースが拡げられているらしい。

 それ以外はほとんど普通のショッピングモールと変わり映えしないのだけれど、あともう1つ、アルコール類は最下層の奥のスペースに追いやられているというのは学園都市ならではかもしれない。

 心理的に未成年の飲酒を止めさせるための策なのだろうけど、現在僕は成人女性と同伴なので痒くもないし、代理してもらうことで購入も可能なのだった。

「なぁーんで、好きな所って言って酒屋に来るかなー」

「普段来れませんし、買えませんから」

 できればアパートに持って帰りたい。大量に蓄えたい。

 泡盛は当然として、口当たりのいい洋酒も仕入れておきたいし、日本酒やらビールやらも試したい。

 僕の周りにいる大人は機構関連やら行動不定な教師やら中学生にしか見えない校長やらなので、こういう機会は滅多にないのだ。

 本当の本当にハブが入った物にスズメバチが入った物という人を選びそうなものまで揃えているのは1つしかない酒屋というのもあるだろう。

 どれもこれも興味の尽きない品々なのだけれど、あのアパートの容量(キャパシティー)を考えるとタイトに纏めなければいけない。

「体積を限界まで使うなら缶の箱買いなんだけどなぁ・・・」

 きっちりと積み重ねれば結構な量が入るはず。

 でも同じ種類ばかり買い込んで飽きが来ると辛い・・・。

 でもでもオンボロなあのアパートに瓶を並べるスペースはないし・・・。

 いっそ床に並べる?いやいや、さすがにそれはまずいか。

 生活に支障が出る気がする。

 あー、でもせっかくお酒が・・・。迷うなぁ。

 泡盛は是非とも持って帰りたい。あと赤ワイン。白も欲しい。チューハイでも構わないんだけど・・・でもなぁ・・・・・・。

「葉月ちゃーん、少女が真剣にお酒を選んでる絵は色々と問題ありだから早急にね・・・」

 周りを忘れて考え込む僕にそんな小鳥さんの忠告。

 ・・・言われて想像してみる。

 わざわざ地下に置かれた酒場にて、棚に並べられたお酒の数々を真剣に選っている、身長1・・・cmの少女。

 身長?興味ないから知らない。体重も知らない。スリーサイズだけは必要性に駆られて覚えているけれど、これにしたって幾らでも変えられるし。

 まぁ、さて・・・確かに小鳥さんの言う風景はシュールではある。

 酒好きな両親の遺伝子を受け継いで幼い頃からお酒に親しんできた未成年、に見えなくはない。

 疑いの目を向けられる前にさっさと選んでしまった方がよさそうだ。

「んー、それじゃあ・・・」

 もう数分の思慮の後、幾つかの銘柄と送り先の住所を走り書きしたメモを渡して成人特権を発動してもらう。

 種類を減らした分、箱買いで数量を増やしたお酒はダンボール数個分に及び、これでしばらく入浴後にお摘みを食みながら酒を飲む生活が楽しめる。

 乗り気ではなかった沖縄。

 うん。けどこういう機会に恵まれたということを考えると悪くはなかった。

 事後処理で後片付けな旅行にしては合格点だ。

 ・・・などと思った気ままな買い物(ショッピング)タイム。


 だけれど、そのご機嫌はモールからの帰り道までだった。


                     ♯


 水族館へと行けないのは残念ではあるものの、利益はあったしそろそろ帰ろうと老人を迎えに機構へと向かう途中。

 前から現れた人物に声をかけられる。

「君が規格(ルート)『織神』の8月か」

 灰色のヘルメットに機能性を損なわない程度のプロテクト、ホルスターに何時ぞやの制式拳銃を両腕に特異な銃を抱え込んだ男。

「加藤倉光は君を連れて万可統一機構沖縄支部へ亡命した。

 よって君の身柄(しょゆうけん)は沖縄支部へと移ることになる」

 ごちゃごちゃがちゃがちゃ。

 きちきちちゃかちゃか。

「――――沖縄支部まで、ついてきてもらうぞ」

 隣にいる小鳥さんは、我関せずと沈黙を守っている。

 ふむ。

「・・・・・・・・・・・・」

 ざりじゃり。

 ぎ、り。

「・・・分かりました」

 抵抗されることを怖れてか、緊張で早かった彼の心臓の鼓動は僕の返答で幾分緩慢になった。

 背を向け、案内役として進もうとする。

 一歩歩いて、もう一歩といったところで、左足が地面を踏めずに空を掻いて――――身体を前のりに倒した。

「ぅえ・・・?」

 使い慣れた足が平たい地面を踏み外すわけもなく、この場合足の長さが急に変わったと言った方が正しいのか。


 振り返った視線の先には、自分が忘れていった膝下(ひだりあし)がさっきまで立っていた位置に取り残されている。


「あ、ぁあああああ゛!!」

 そんな叫びと共に、僕のいる道を塞ぐように、前後から同じ格好をした連中が飛び出した。

 4人と3人。ごちゃごちゃと五月蝿かった連中だ。

 神戸と沖縄、学園都市にも違いがあれど、至極研究所の事情は変わらないのだろう。

 こっちでは何て蔑称されているかは知らないけれど、僕達の言い方では彼らのことを泥底部隊(ヌタ)と呼ぶ。

 研究所共同所持の雑用部隊。

 角を曲がって立ち止まっている僕に向けて駆け出したその身体は、けれど宙を舞う。

 まず接触(ファーストコンタクト)を試みて片足を奪われのた打ち回る彼とは違い、両足を切断されて支えを失った身体は無様に地面に転がった。

 本当は一撃で首を飛ばした方が無駄がなくてよかったのだけど、頭部は身長差で高さがバラける。だから揃えて切り落とせる足を狙った結果がこれだ。

 前後2本だけ伸ばしていた髪を細さや強度を標準値に戻して回収する。

 こういう時に役には立つ極細の黒い糸。

 だけど正直、頼り切るのは怠慢の気がする。

 弱点も多いしできれば使いたくなかった。

 しかし、やっぱり多数を相手にするのに僕自身の身体能力は不利だからなぁ。

 遮蔽物があるならまだしも道のど真ん中で挟まれては無傷で済まない。

 そして今回の場合、それが致命打になった恐れがある。

 腕や胴をバタつかせて絶命を待つ彼らの頭を踏み潰しながら、その装備の1つを拾い上げてみた。

 制式拳銃ではない方の彼らの武器。小型の機関銃、ただし歪な形をしている。

 銃口がやたらと大きくマガジンが円盤型(パンマガジン)という全体的に丸みを帯びたシルエット。

 マガジンを外して弾丸を確認すると、弾頭が針状になっていた。

 分類するなら麻酔銃だけど、無論普通の猟銃の1種ではない。

 即効性のある神経麻痺毒か何かを速攻で体内に打ち込む弾丸を連射するというえげつない武器だ。

 一撃でも食らえば卒倒するのは間違いない。

 着弾と同時に圧縮ガスで薬品を押し込む強引な構造で、思いのほか傷口が広がるために通常の相手には危険すぎて実用化されなかったタイプ。

 けれど、傷を自分で修復できる僕に対しては非常に有効な攻撃法だろう。

 前の時とは違い、始めから僕をターゲットにしている分装備が違う。

 先手を打ったのは正しかった。

 右手人差し指の血流を止めて、銃弾の針を突き刺す。

「っ・・・」

 一気に痺れが指に回った。

 指一本とはいえ、完全に神経をやられている。その上、かなりの激痛。

 本当にえげつない。

 こんなものをまともに食らえば変容で毒を抜く暇もなくノックアウトだ。

 免疫を作って弾はさっさと捨てる。

「あー怖い怖い」

「・・・そういうことは人の頭を潰しながらいうことじゃないわよ?」

 やっと口を開いた小鳥さんは冗談っぽくそんなことを言って、彼らの装備から通信機を抜き取った。

 耳に当ててしばらく、

「ん、状況がよく分かんないな・・・」

 顔をしかめる。

 ここにきて初めて、顔をしかめる。

 昼の道端、8人の頭の潰れた死体と血の中で、初めて。

 客観的に見て、それなりに異常な光景だと思うけれど、小鳥さんもそれなりに見慣れているのか、元々覚悟はできているのか。

 まぁ、しかしこっち側では日常の一部と言えなくもないけど。

「小鳥さんはこの件に関わってないんですか?」

 一応訊いてみる。

「いや、知らなかったよ。葉月ちゃんが来るよってことは堀塚さんに聞いてたけど、個人的に出迎えただけだから」

「堀塚さん?」

「こっちの機構の一番偉い人」

 岱斉と同じか。

 院長・・・というのはまぁ仮の名称みたいなものだから、本当は支部長と呼ぶのが正しいのかな。

 今回の黒幕はその堀塚だろう。

 老人の方も何とかしなければならない。

 さて、どうするか。

 うめき声も沈黙した中で考える。

 静寂。

 そこで、いきなりの着信メロディー。

 僕の知らないその曲は当然小鳥さんの携帯から。

 通信機を放り投げて、代わりに耳を当てる。

「あー、はい?今?葉月ちゃんと一緒ですよ。

 先遣隊が返り討ちにあったのにも遭遇しちゃったないじゃないですか。教えてくれないから、もう。

 あんまり血生臭いことは見せないって約束でしょ?

 え?助けろよ?いやいや、だから聞かされてませんしそんなこと。

 えー、そんな無茶を私に頼みます?

 そりゃあ、確かに葉月ちゃん、相手の本気度合いで対応変える人だろうから、おふざけ半分でかかれば殺されはしないでしょうけど半殺しぐらいにはされる気がするもの。

 んー、それは魅力的な提案だけど・・・、もう一押し!

 え?あはは、やだなーもうっ!

 変容と鳳凰が混ざるわけないじゃないですか。子供への能力遺伝は交差しても混合はしませんって!」

 話し相手が誰か、内容が何か。聞き耳を立てる必要もなく内容が想像できる。

 最後の辺り、何か貞操の危機すら感じる。

 小鳥さんとの会話を思い返してみれば、あぁ色々とそれらしいキーはあったけど。

 あれですか。

 小鳥さんあなたは――――

「ねぇ、葉月ちゃん」

 酷く乾いた思考を遮って、携帯を折りたたんだ小鳥さんが声をかけてくる。

「私のハッピーライフのために今から葉月ちゃんを捕まえるけど――――」

 その未来想像図がどんな風になっているのかはできれば一生知りたくないし、

「無邪気なじゃれ合いってことで・・・殺さないでね?」

 そんな都合のいい話があるものか。

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