第32話- 先輩後輩。-Youth-
更新遅くなってすみません。
ただ今ヌルヌル学園日常編です。
2学期が始まった翌日、多くの生徒にとって鬱なテストがやってくる。
それも定期考査と違って1日に主要5教科を一気に終わらせるというやっつけ仕事なので、体育祭の成績が芳しくない生徒はなくなく夏休みを勉強三昧で過ごすことになったに違いない。
もっとも、それはメインであるバトルロワイアルに参加できなかった俺も同じことだ。
成績は大丈夫だとは思うけど、分子式が書けなかったから理科の満点は既にない。
数学は計算間違いがなければいける・・・国語や英語に関しては学校での試験なんて範囲内しかでないのだから、100点自体は難しくないし・・・。
しかしまぁ、5教科全て20分以上時間を残して、机に突っ伏していた葉月は全教科満点だろうから、今回も負けか。
賢者の欠片とやらで絶対暗記な相手に勝負を挑む方が間違いな気もするけどなぁ。
例え全教科満点できたとしても引き分けの可能性が高いこの勝負自体が過ちか。
「死ぬ・・・」
そんなことを言って、精根尽き果てている隆。
どうせ体育祭の成績でカバーできるだろうに、何だかんだでしっかりと徹夜したらしい彼は根が真面目なのだとつくづく思う。
ホームルームも終わって自由解散を始めるクラスメートを見回すと、珍しく朝風と聡一が話し合っていた。
熱心に言葉を交わしているけども、あの2人に共通する話題があっただろうか?
そんな疑問を抱きつつ視界に葉月を入れる。
葉月は細川と1つのノートを覗き込んでいた。
日々無気力に過ごす葉月も能力向上だけは熱心にやっているので、あれもその一環かもしれない。
珍しい能力同士、通ずるものがあるのだろう。
ノートの端に見えるいなっちーの理由が気になるところだけど、その謎は解明されない可能性が高い。
細川は自分で描いた絵の意図など既に忘却してるだろう。
さて、能力向上に関して言えばクラスの中で最も伸び悩んでいる俺もこうぼうっとしてはいられない。
そろそろグループの訓練所に行くか。
♯
「自分が思うに、君はこの施設を壊す気なんだ」
目つきが鋭すぎて美人が台無しだと評判なグループの先輩にそんなことを言われた。
「熱心に練習するのは大歓迎だがな。その情熱に比例して増していく威力は何とかならんか」
威力のことだけを言えば、間違いなく報われている努力。
その努力の度に訓練所の方が悲鳴をあげ始めたここ最近、さすがに先輩も対策を考えなくてはならなくなったらしい。
「いっそ醐楓に任せてみるか・・・?」
「?誰です、それ?」
「圧搾念力。灯秋高の3本柱の1本だ。別名、人間圧搾機」
「・・・その"人間"の意味は、圧搾機みたいな人間ですか?それとも・・・」
「人間を圧搾できるって意味だな。まぁ無論やった事はないと思うが。・・・いや、1度、2度やってるかもしれん」
兎傘さんの時も思ったけど何で先輩方はそんな知人関係ばかりお持ちなのだろう。
交友の窓口が鍵も格子も当然鍵すらない状態で空きっぱなしになってるに違いない。
「ただ、あの男には欠点があってな」
あぁ、さっきの人間圧搾機は欠点じゃないんですか。・・・ないんですかね?
「可愛い男の子にしか興味がないというのが珠の瑕なんだ」
「・・・・・・」
珠自体が真っ二つに割れそうなほどの瑕だった。
数秒沈黙する2人。
俺をしばし見定めて先輩は、
「まぁ、世の中等価交換というし――――」
「絶対その人紹介しないでください」
何を考えてるんだこの人。
「うむ、そうだな。さすがに何かあったら自分も責任取れん。
が・・・本当にどうするかな?」
「俺、もう1つぐらいアテがありますけど・・・」
というか何かって何?それほどその彼は重度の・・・?
「・・・・・・そのアテの結果、さらに破壊力だけが増した場合・・・自分は君を醐楓に引き渡すぞ」
「冗談やめてください」
「冗談なものか」
冗談にしてください・・・。
そこで、先輩はふむと、小首を傾げた。
「しかし、君。前々から思っていたがその"俺"という一人称は似合ってないな」
「似合うかどうかでやってはないんですが」
「例の彼女の手前格好つけているんだろう?」
「彼女じゃない・・・というのはもう言い疲れましたが・・・格好つけてもないですよ。
単に"僕"より"俺"の方が確りしてるように見える気がするんで」
「『形から入る』というヤツだな。ニュアンス的には『病は気から』と同じカテゴリだが。
君はあの娘をサポートできるだけの甲斐性が欲しいのか。ま、その"しっかり"にしてもあの娘を意識したものには違うまい。
ならやはり君はあの娘を彼女と呼ぶことになるだろうに」
「親しい関係が男女の仲とは決まってないでしょう?」
「異性であることは関係ないよ。男女に友情がないとも言わん。
逆に同性でも恋愛は成立するしな」
「・・・」
「が、自分が見るに君とあの娘はどうも恋愛的だ。
お互いが相手のためなら惜しみない愛情を注いでいる」
「俺の方はともかく、葉月がそうだってなんで思うんですか?それほど面識はなかった気がするんですが」
「そうでもないさ。君は知らんだろうが、あの娘時々ここに来るからな。
君が中部屋の中で訓練してるのをこっそり見てしばらくして帰る」
「そういうことは教えてくださいよ・・・」
「嫌だ。で、そんなのを観察していると君達は彼氏彼女というのが一番しっくりくるわけだな。
君は自らとあの娘が恋仲だと勘違いされることを疑問に思っているようだが、そう思われて仕方ないのさ。
親愛だのなんだの言う割りに、過保護すぎるほどの愛情を注いでいるのが傍目から見て一目瞭然なんだから。
親子のように上下関係があるわけでもなく、兄弟姉妹の身内としての信頼もない。
大切にしすぎて、何をするにも心配で心配で仕方ないといった風だ。
だから君はあの娘を守れるだけの力が欲しいんだろう」
そう断言して言及されて、改めてそのことを考えてみる。
俺と葉月の関係は何なのか。
友情とは違う、もっと親密な仲。
つるむといった感じではなく、自然に近くにいる存在。
出会ってそれほど経ってはいないけど、憧れて。
危なっかしいその姿に、不安になって。
気づけば目で追って何をしているのかを観察している・・・。
「そうかもしれませんね・・・」
「うむ。そして何かを欲するというのは現状に満足してない証拠でもある。
守りたいというが、結局それは2人の関係性の発展も意味することになる。
となると、やはりそれは恋仲だよ」
「分かりませんよ?実際どんな位置に落ち着くかなんて」
「まぁ、予想は予想だからな。だからどうなるかはお楽しみだ。
人間観察が自分の趣味でね。期待してるぞ、色々と」
「嫌な趣味ですね・・・」
「変人収集と女装が趣味な優男にも同じこと言われた」
「そっちもそっちで遠慮したい感じです・・・」
「交友関係なんて知り合ってしまったら勝手にできるものだから不可避だぞ。
・・・と、そろそろ逸れすぎた話を元に戻した方がいいか。
目標があることはいいことだが、やはり君、"僕"の方が似合ってる」
「・・・そういえばそんな話でしたね、最初は」
「今はともかく、醐楓に紹介する時は"僕"の方が受けがいいからな」
「そこまで話を戻しますか!というかその話は断固拒否します!」
「人間、なりふり構わなくなると何でもするようになるんだがな・・・」
「不気味なことを言わないでください・・・。
あと、思ったんですが、葉月と恋仲と勘違いされるって、そもそも先輩は葉月が元男って知ってますよね?」
「滅多にない形骸変容の話だ。性転換のことも含めて噂にはなってるさ。それを考慮しても、ということだ。
言っただろう?恋愛に性別は関係ないと」
くくくといやらしい笑いを漏らしながら、美人なのに色んな意味で本当に残念な先輩は去っていった。
♯
日の落ちた学園都市の駅周辺。
辺りが暗くなって一層際立った店内の明かりが羽虫を誘うように生徒を集めている。
仲間同士で何やら熱心に話し合っている男子生徒。ドリンクバーだけで数時間も居座り続けているのだろう女子高生。共同レポートでも書いているのか分厚い書籍を幾つも広げている大学生。
そんな夏休みの間よりも賑わっている飲食店の様子を、同じく飲食店のガラス壁越しに眺める。
結局ろくに訓練もできないままに一日を終えた俺は今、とあるファミリーレストランに居た。
例のアテ――兎傘さんに紹介してもらった発火能力者と会うためだ。
7時にこのファミレスという約束である。
席も決められていて、どうもこの席は向こう側の特等席と化しているらしい。
毎日来るほどのお得意さんなのか、この時間帯ここに来る生徒達の中での暗黙の了解なのか・・・まぁ、席は空いていた。
時計を確認すると6時半。
頼みごとにきた身として早めの到着だ。
ロイヤルミルクティーを頼んで一応客としての礼儀も果たし、カバンの中から暇つぶしにと資料を取り出す。
『PKの系統と色別の理論-色彩混合の可能性について-』。
葉月から貰ったものだ。
表紙に酷く真面目な『持出禁』の判子が押されているのが怖い限りなものの、逆に言えばそれほど貴重な資料ということでそうそう目にできるものではないんだろう。
しっかり製本されている資料で、約500ページ。
表紙は素っ気無くタイトルだけで、裏表紙に価格表示やバーコードがないところから見ても、市販されているものではなく、研究者間で知識を共有するために作られた配布資料の1つだったと推測できる。
ソフトカバーの表紙を捲るといきなり目次。本当に飾り気がない。
そして本文は、
『本書においてまず念頭に置いて欲しい事柄は、本書はPKと呼ばれる出力系能力者の他方傾向既存系統樹を利用し、その図の限りでない中間系統能力をさらに重ねた上で、色別理論を用いて簡略化し人為的、意識的な変色・混色の可能性を仮定するものである。故に突発的、自然発生した特殊事例は扱わず、PK次世代型の在り方を推定して通常PKを次世代型へと移行させる方法を論じる。尚、サイコキネンシスの系統について特別詳し――――』
「・・・・・・うん」
何だこの難解な前書き。読み解くのに補助書籍のいる現代書物になんて初めて出会った。
確認のために後ろの方を捲ってみるけれど用語集は載っていない。
葉月はこのレベルのものをサクサク読み進めるのだろうな・・・。
とりあえずわからない単語なんかを書き出して片っ端から調べないと読破は難しい。
ネット環境がないここでは読めない。よって、まるで暇つぶしにならないわけだ。
甘いミルクティーを口に含んで、口内で遊ばせる。
仕方ない、ケータイで小説でも読むか――――
「おーぅ、お早いお着きだな」
どうも自分にかけられた声に振り向くと、筋肉質なスキンヘッドなアンチャンが手を挙げていた。
下川邦明さん。
兎傘さんの口調からして、年下・・・高校2年以下のはずなのだけど。
随分と立派な方がいらっしゃった・・・。
「外国じゃあマナー違反らしいぜ?ま、ここはジパングなわけだが、と・・・すまねぇが先に夕飯注文していいか?」
「あ、はい」
彼は向かい側に座って、メニューは見ずに呼び出しボタンを押した。
「いつものエスカルゴと今日はリブステーキ、あとドリンクバー」
それから煙草を取り出し咥え人差し指の腹を押し付けて火をつける。
「このナリだからな。まず未成年と疑われることはねぇんだ」
「・・・それでも年齢認証は店でも自販機でも行ってるはずですが?」
だからそもそも煙草自体が手に入るというのも問題なのだけど。
「煙草もカードもネットで買えるさ。需要があるなら何でも売りモンになるご時世だからな」
嫌なご時世だ。
確かに人目に多く触れるネットオークションでさえ、違法品が有り触れている時代ではあるけれど。
いや、というかそれよりも、
「失礼ながらお尋ねしますが、もしかしてアウトローなお人ですか?」
「まさか。俺は単なる不良っ子だぜ?カワイー悪戯にしか手を出せねぇ臆病モンだ」
スキンヘッドの厳つ顔で言われても説得力は皆無だったり。
「煙草に酒、禁止されてるとどうもやりたくなるってのが人情ってもんだろ?」
「ワインは一度呑んだことがありますけど、煙草は身体に悪いですよ?」
「承知した上でだからいいんだよ。
ったく最近、箱にグロイ煙草被害の写真貼り付けるようになったろ?黒い肺とか抜けた歯とか。こちとら分かって吸ってんだからせめて気持ちよく吸わしてくれよと言いたいね」
未成年が言ってもね。
と、彼の頼んだ料理が運ばれてき、彼はさっそくエスカルゴの方から手をつけ始めた。
ガーリックとオリーブオイルで焼かれた陸貝。好みが分かれる・・・いや日本人には馴染みのない一品だ。
まだカエルの方が浸透しているんじゃないだろうか?そうでもないかな。
「で?確か能力のコントロールがうまくできないらしいな」
「はい。色々努力したんですが、その結果威力ばかり上がって訓練所で手が負えないと言われまして」
「訓練所ってサイコ系のだから・・・祇堂学園の近くのあれか。あそこの強度は相当だったはずだがな。
ま、電話で聞いた限り、俺のやった練習法は有効そうだったが」
「本当ですか!?」
「騒乱念力・・・周りを無差別に破壊するんだろ?俺も最初似たような感じだったからな。
えーと、朽網だっけ?俺の能力がどうだったか聞いてるか?」
「火達磨になると聞きました」
「火達磨・・・いいねぇその表現。兎先輩は『火男』とかとんでもねぇセンスを見せてくれたが、それの方がしっくりくるな、スキンヘッドなだけに」
・・・一応弁解しておくけれど、別にそんなうまいこと言ったつもりない。断じてない。
仮にも先輩の身体的特徴を弄れるほどの蛮勇など持ち合わせておりません。
「そう、俺の能力は火が移って燃えてる人間と変わらなかったんだ。
だが、そうなるとちょっと疑問が湧かねぇか?比喩表現が火達磨な状態になっておきながら、どうして死んでないのかってよ」
「・・・え?でもそれは能力だから・・・」
「この場合、能力だからっていうのはかんけーねぇ。確かに特定のモノを燃やさないっていう火炎操者はいるが・・・かなり特殊な例だ。
能力の制御ができなくなって自分の能力で怪我をするヤツは多いさ。兎先輩ですら間違えたら自分が死にかねない故に能力が制限されてる。
当時の俺が本当に何にも制御できてなかったら鼻や口が塞がれた時点で窒息死してる。炎で焼け死ななくてもな。
朽網、お前の騒乱念力も自分の周りにしか展開されてないんだろ?
PK系の未発達能力の名称である騒乱念力は、展開点を定められない能力者を指す。
敵見方関係なく、自分すらも関係なく攻撃してしまう危険能力なんだよ、本来は。
つまりだ。結論を言っちまえば、コントロールができないできないと言いながらお前だってしっかり自分の身だけは守ってるってことになる」
「確かに、自分のいる座標位置に能力が及べば身体が捻じ切れるでしょうね・・・」
「そもそも捻じ切れるほどの力は出ねぇんだけどな、騒乱念力は。
無意識にそこだけはしっかりコントロールしてんだよ。だからそれをうまく利用すればいい。
火達磨式上達法その1、無意識を意識しろ。その2、無能力の空間を広げるように訓練しろ。
対象物を浮かすとかそういういきなりできないことをやろうとするよりは元々できているのを発展させる方がやりやすい。
俺のやってたのはな、ほら能力が届く限界ってあるだろ?自分の身体に沿うようになってる能力の及ばない範囲を少しずつ能力展開の限界まで広げていくって方法だ。
広げるっていう制御に加えて能力の有効範囲を伸ばす訓練にもなる。
とりあえず試してみるといい」
「ありがとうございます」
1つ突破口を見つけることはできた。
色々と考慮しなければならない問題もあるけれど、モニターをしている能力波反発球と並行して何とか成果を上げたい。
「おう。と・・・デザート頼むか。お前はどうする?」
ステーキも食べ終わった彼は皿を端に追いやり、再びボタンを押した。
「いえ、飲み物だけで十分ですから」
店の特性ドリンクも頼めばおかわりは自由だし。
今度はメニューを取って注文を吟味している彼。
結局、やってきた店員に、
「そうか。じゃ、俺はレモンジェラートとチョコケーキ」
そう言った。
それからドリンクバーを取りに行き、メロンソーダを持って戻ってくる。
「ここにはよく来るんですか?」
「最近はな。知ってるか、学園都市の放火魔」
「兎傘さんから聞いたことはあります」
記憶を遡れば、通り魔と並べて紹介されていた気が。
インパクトのある通り魔の方が印象に残っているけど。
「地味に壁を焦がす人とか」
「ああ、それがこないだ一軒燃やしたんだ」
「え?」
「そういうヤツにありがちなことでな。エスカレートしてきたんで俺らみたいな同じ発火能力者が網を張ってる」
「ソレって警察の仕事ですよね?」
「あるいはウラカタだな。でもまぁ、こういうのは身内の方が早い。情報交換が盛んだし、ほったらかしてると自分らにもトバッチリがくるからな。
学校でもグループって銘打って上級生含めて色々と知人関係が広げてるんで自然にネットワークができるだろ。
そういうのもあって同能力者の繋がりは結構強いわけだ」
「じゃあ、こうしてファミレスにいるのも・・・」
「連絡が入ったらすぐ出られるようにな。駐在ポイントによく使うんだ。ま、ぶっちゃければただの溜まり場だが。何かしらトラブルなんかがあった場合にコンタクトが取りやすいしな」
「面倒くさくないですか?別に義務があるわけでもないんでしょう?」
放火魔の活動時間が何時かは知らないけれど、深夜には違いない。
そんな時間までここで待機するというのは有意義とは思えないし。
「そんな面倒なことに首を突っ込むのも青春さ。この学園の連中は非日常的なこと好きだろ?能力名やら通り名やら演出めいてるのもそのためだな。
それに夜中まで仲間とダベる生活も悪くないぞ?」
「能力仲間ですか・・・あ、でもそれならここじゃなくて兎傘さんの焼肉屋でもいいんじゃいんですか?」
「んー、その方が便利かもしれねぇーが、あの人自分の店に来られるの嫌うんだ。いや、給仕服姿を見られるのが嫌なのか?」
「あー・・・そういえば一度行った時、嫌がってましたね」
「だろ?あれは照れてんのか、それとも前に写真に取られてプロマイドにされたからか・・・」
「後者でしょう・・・」
「兎先輩は人気あるからなー、高く売れるんだぜ?」
「あなたがやったんですか・・・」
「火炎操作系最高峰の1人、面倒見のいい姉御肌、あれちょっとマジでヤバイ何あのバケモノ・・・の兎傘鮮香。非常に人気物件だな」
「何か1つ変なものが混じってましたが・・・やっぱりあの人相当すごい人なんですね」
「当たり前だ。炎海紅泥の火兎、絢爛浄火の鳳凰、炎色反応の火の玉と言えば火神三柱と呼ばれるほどの有名人だぜ。
鳳凰は沖縄、火の玉は青森にいるな」
「みごとに北と南に分かれてますね。やたらと逸脱した人を見てきたせいで神戸の学園都市は変に進んでるのかと思ってました」
「ああ。神戸の学園都市しか知らないと分かりにくいが、他の学園都市も色々特色があって面白いぞ。
北海道はほら、土地が広いんで大掛かりの増設して一時期学園入居希望者を集めてたろ、能力者になろう格安プランとか言って。あれの世代が多いからかのんびりしてるな。
あそこ設備が他の学園よりいいんで、熱心な能力者がそれ目当てに通ったりしてるらしい。
千葉とかは東京のプライドでやってるようなもんだ。30年前東京にあった研究所のほとんどが他県に移るって動きが出てきた頃辺りに、日本の首都に学園都市がないのはおかしいとか当時の都知事が言って、周辺県に作らせたんだと。
だからかしらねぇが、あそこら辺の学園都市はあんまり賑わってないな。群馬は大きいが・・・能力開発は西日本が中心だ。
で、沖縄はあれだ。米軍の基地跡を利用して作られた要塞型の学園都市。あそこはあっちで土地柄かのんびりしてるけどな。
まぁ、修学旅行でどっかの学園都市には行くことになるからその時にでも肌で感じてみるといいさ」
「修学旅行ですか。しばらくお預けの楽しみになりますけど。
・・・今は目下学園祭が楽しみですね」
「体育祭と違ってホント祭って感じだしな。開催は10月の初旬だから・・・もう2週間もすれば準備しやり始めるだろ。
模擬店作りが一番楽しいんだ、あれは」
「でしょうね。まぁ、中一はそっちでの参加はできないですが」
「ん?いやできるぞ」
「え?だってそういう規則になってるって・・・」
「いやいやいや。ところが、だ。その規則、抜け道があってだな。
規則を読んでみれば分かることなんだが――――」
・・・・・・・・・・・・。
なるほど。
その後に続く説明を聞いて納得する。
学園都市全体としての学園祭規則、おそらくそれを作ったのは我が祇堂一中の遊び人だな。
そういう裏技的な方法をわざと用意するところがなんとも・・・。
けれど、そうれはいいことを聞いた。
聡一辺りに教えたら喜びそうだ。