第11話- 単独犯。-Start-
ついにそれらしく、能力バトルになりそうな『予感』です。
せっかくの機会なので主人公達を暴れさせたい!
髪は後ろで1つの団子にする感じに纏めて、服装は規定の体操服。腕には予備のゴムを1つ。シューズは白い運動靴で小物入れとしてポーチを右の腰に。
支給された物は学園内の地図に通信用の特殊モバイル。これは生徒同士のやり取りはできないので通信器具ではなく、生徒の位置確認と生徒全体への連絡に使用するもの。大きめの液晶パネルで結構高価そうだ。
一応モバイルには時計機能や地図機能も付いてはいるものの、後者は普通に考えて紙媒体の方が見やすい。
持っていける飲み物は500mlペットボトル2本分、食べ物に関しては朝にちゃんと食べて来いという過酷なもの。当然自販機での購入は反則で、隠しアイテムとして学園内に支給されている食べ物を探さなければならなくなっている。
日差し避けに折りたためる帽子を持ってきているのだけど、使うかどうか。
あと何かと使えそうな武器として折りたたみ式の警棒も携帯。
ダガーナイフに比べて殺傷性が幾らか劣るものの、これはこれで結構危ない武器なのでお気に入りの1つだ。
あのしゃこんっ!っていう音が格好いいよね。
僕は能力的に実のところこのバトルロワイヤルは不利な立場だ。
自分は安全圏に引っ込んだ上での飛び武器攻撃が可能な出力系能力者の皆様方とは違い、そういった攻撃能力を持たない故にチームとしての繋ぎになる感覚系能力者の皆様方とももちろん違い、単独行動接近戦主流の僕は考慮しなければ課題が多少ある。
まぁ、それもそれで楽しいと言えば楽しいのだけど。
そして何より重要なのがペンダント。
ペンダントと言っても紐に通された首にかける物という意味であって装飾性は全くない。
ただサブの弾投げとは違いデジタル使用で点滅するような物ではなく、柔らかいゲル状の本体で水風船に似ている。中に水溶性の着色液が入っているのだ。
勝敗判定もアナログな仕組みで、割れたら敗退というもの。
本体が柔らかいので物理的な攻撃には強そうだ。壊すには直接握りつぶすか、相当な圧力をかけなければいけないだろう。
逆に能力波による攻撃には比較的弱い素材でできているらしいので、やはり出力系が有利と言える。
肌身離さずというわけではないのだけど、どこかに隠したり投げて自分から切り離すといった行為は禁止。
服の下に隠すこと自体は違反ではないので、帽子の下や鞄の中に入れるというのは1つの選択だ。
ただそういう場合は鞄の中身が尽く破壊されても文句が言えないので注意しろとのこと。
肝心なズル行為は禁止されているもののゲームの自由度は高いため、個人個人の選択が鍵を握っている。
出れないクシロには悪いけれど、本当に楽しそう。
・・・さて、今僕が居るのは第一中学の運動場である。
体育祭2日目、メインのバトルロワイヤルがもうすぐ開始されるという状況。
運動場にはそれぞれの学校の生徒が並んでいて、教師のGOサインから1分の間に各々好きな場所に散らばり、渡されたモバイルと放送による違うサインによって競技開始が告げられることになっている。
生徒は既に組む者は組んでいるし、何処に拠点を定めるべきかという候補も幾つか挙げている。場所取りは早い者勝ちなので、合図の後すぐに行動に出なければならない。
そして、どっちの合図にしてもそれを出すのは、発案者であり、全監督権を持つ我らが校長以外にいるわけもなく、現在全ての学校の運動場に出力された映像として校長の姿が映し出されている。
「さぁーて、観客皆様、生徒諸君!楽しいゲームの時間がやってまいりましたよー?取り組み方によってエキサイティング賞やインパクト賞と色んな評価を与えられるチャンスがあるのでー、積極的にぶつかってくださいねー?というか私を楽しませてくれなきゃ落第もあるから覚悟して置いてくださいよ?
いいですかー?いいですねー?では、そろそろ始めます!
ワァ――ン、ツゥ――ウ、スリィ――イ・・・・・・ゴ――――!!」
/
「隆ぁー!いけそうか!?」
「ああ、1‐Bの周りに他の生徒はいねぇ!つーか、1階は不人気みたいだな。上階の方が敵の進行ルートが絞りやすいからか!?」
クラス内で足の速い俺と海は場所取り役を担い、開始直後一気に何時も使っている教室に飛び込んだ。
安易な場所設定なため、葉月に襲撃される可能性が高いがそれはもう仕方ないと諦めている。
あいつの場合俺達がどこにいようと追ってくるに違いないので、返り討ちを狙った賭けに出ようと事前会議で決定していた。
それに自分達の教室を使うというのには利点もある。
教室自体を競技前に弄くれるということと、ロッカーに荷物を隠して置けるということだ。
ルールにより食べ物を持ってくるのは禁止になっているが、フィールドに置いておくということには触れられていない。
そこに目をつけた俺達は菓子やジュース、他にも役に立ちそうな物をロッカーに入れておいたのだ。
ここでくつろぎながら篭城するという作戦でまずは敵が減るのを待ち、後半になってできるだけ1人になっている生徒を数にものを言わせて倒していく予定である。
先遣隊である俺達に遅れて、他のメンバーも入って来た。
皆してしたり顔。ひとまず懸案事項だった作戦の1つが成功したのだ、それも当然だろう。
あとはドアを物理的に塞ぐだけだ。
さて、実質の開始合図がならない内に武器ぐらいも取っておこう。俺も一応は攻撃タイプの能力者だが、あまり頼れたものではない。
掃除用のロッカーに入れた竹刀を取り出――――・・・な、んじゃこりゃ・・・
ない。入れておいたはずの竹刀や木刀がなくなっている!
見間違いかと思い、乱暴に中を探ってみるもやはりない。
そこにヒラリと舞い落ちる一枚のメモ用紙。
拾って読んでみるとこう描かれていた。
『楽をしようとするのは頂けないので、荷物は屋上に移動させていただきました。お待ちしてます。 葉月』。
「ちくしょぉぉおおおおお――!やられたぁ――――!」
「何?どうしたの?・・・・・・これって葉月ちゃんの・・・?うそ!何時の間に!」
「だって朝に確認したんだよ!?その時はちゃんとあったのに!」
「嘘でしょ・・・私達すでにはづきんに欺かれて・・・」
「がぁぁぁぁあああああああぁぁあ――――!」
「生徒諸君!ちゃぁーんと位置に付きましたかぁ?
では改めて・・・4・・・3・・・2・・・1・・・スタァ――――ト!!」
既にクラス1‐Bは崩壊気味である。
/
おそらく怒涛のスタートを切った哀れなクラスメートのことを考えると笑いが漏れてしまうのだけど、僕もこれからどうするのかを考えなくちゃいけない。
今僕が居るのはあのメモの通りの第一中学校舎の屋上だ。
視界は開けて良好、給水タンクなどの隠れられる物陰もあるし、最悪飛び降りれば追っ手も大抵振り切れる。場所としては悪くないとは思う。
ただ、ずっとここで敵がやってくるの待つわけにもいかないし、クラスの皆は何時来るかわからない。いや、来るのかもわからない。
さて、どうしたものだろうか?
教室のロッカーにあった皆の荷物は物陰に隠しておいたし、ハリセンとお菓子は頂戴した。
フェンスによりかかって見てみると、まだチラホラ生徒が走っているのが見える。
場所取りが上手くいかなかったのだろう。慌てふためいている生徒もいる。校舎内を見ると廊下を走る男子がいたり、カーテンを閉められた教室があったりと各々何かしらの行動をしているのが分かった。
目を上に移すと雲の広がった空が広がっている。快晴でなくて何よりなのだけど、遮光物はないので日差しは強い。
考えてみればここは体力消耗が激しいフィールドだ。
やっぱり校舎に入ろうか?でもなぁ、校舎は校舎で逃げ場がない分追われたりすると面倒なことになるに違いないし。
まぁ、窓があるといえばあるか。その内考えよう。
実は今考えなければいけないことがあったりする。
「・・・ふむ。まずい、かな」
実のところ只今絶賛囲まれ中だったり。
屋上の出入り扉の向こうに2人、フェンスの向こうからは浮遊能力者とその能力を使って入ってきたらしい光反迷彩の能力者がじりじりと距離を縮めてきている。
どうするかなぁ。バレバレなんだけどなぁ。
さっきからぎぃぎぃと扉が微かに鳴っているし、光反迷彩に関しては熱源感知に思いっきり引っかかっている。というか、フェンスから外を見ているので気付かないと思っているのだろうけど、影がくっきりと映ってるんだろうな。扉を通った人間はいないので、必然的に誰かの能力を借りて昇ってきたと判断でき、浮遊能力者の存在も予測できるし。
あぁ、自分が来る前に既に居たという考えはありえない。
現段階での僕の最高速度で最短距離(つまり壁歩き、いや壁走り?)を一気に駆け上って来たのだ。
座標転移でもない限りそうそう先を越されるとは思えないし、現在屋上に足をつけているのは透明人間君だけだ。よってそれもありえない。
相手の数は4人。もしかしたらもう何人か居るかもしれないけれど、僕が感知できたのはその4人だけ。感知できないということは距離は遠いと考えていい。
どうやって始末しよう?
開始早々か弱そうな少女(にみえるらしい)をターゲットにする性根の腐った彼らに鉄槌を。
と、透明君がすぐそこまでやってきていた。
ここまで近いと息遣いまで伝わってきて気持ち悪い。聴覚の感度下げよっかな。
とにかくこのまま突っ立っているわけにもいかず、振り向きざまに透明君にハリセンを横一線。
「ふごぉっ!」
どうやら目と鼻と口の辺り一体に思いっきりヒットしたらしく、姿を現しながら後ろに吹っ飛んだ。
「なっ!」
扉の方からその声を聞きた2人が屋上に駆け込もうと扉を開けようとする。
のが分かっていたので、彼(姿を現したら男だった)を殴ったと同時に駆けて、ステップを2歩、ちょうど上がった右足で開きかかっている扉を蹴り無理やり閉める。
がぉんという音がして鉄製の扉が凹み、同時にロックも完了。
地震の時は扉を開けてないと変形して出られなくなる場合がございますのでお気をつけください。
さらに扉を蹴った勢いを殺さずにターンしてフェンスの先、空中浮遊者を何とかしようとする。けど、
「・・・・・・逃げられたか・・・」
さすがに逃げる時間はあったようで、即断力のあるらしいその人物は既に居なかった。
仕方ないので伸びている透明君のペンダントを潰しておく。手に付いた液体はちゃんと彼の服で拭った。
彼を診るとどうも気絶してるらしい。脳震盪かもしれない。ちょっと力が強すぎたかな。まぁ、医療班がいるので大丈夫だろう。
あーあ、何てこった。4人に囲まれておいて結局1人しか倒せなかった。
数で攻められるのは面白くないなぁ。割に合わない。労働力の無駄だ。
やっぱり1人ずつ奇襲していく方がいいか。
攻める方が楽しいし、性に合ってる。
よし、じゃあ校舎内に入ろう。
――ガチョ
「・・・・・・あれ?」
――ガチョガチョ
扉が全く動かない。見てみると本当にやばいくらいに変形してしまっている。
「なんてこった・・・」
いや、自分でやったんだけどね。
・・・・・・まさかここまでとは。
/
「うそぉ、どうなってんのよ!?」
「何でいきなり貴重なスパイを失ってんのよ!」
「知るかっての、俺だって聞きてーよ!
屋上でハリセン持った変な女が居たからそいつからいこーぜって安藤が言って・・・。
で、実際仕掛けようとしたら先にやられたんだよ。扉を開けようとしたら思いっきり押し返されて・・・ぼこぉ!って扉が・・・・・あれ鉄製だぞ?」
何よそれと花一が呻く。
俺達の居るのは基地として利用している音楽室だ。この学校の音楽室は後に作られた新校舎の最上階にあるため、構造上正規ルートでは1箇所からしか入ってこれなくなっている。窓も他の教室より少なく防音されているので隠れ家としてはぴったりなのだ。
ここに居るメンバーは3-Cのクラスメートであり、3年の中でもかなり有利に事を進められるクラスのはずだった。
スパイ、監視役の光反迷彩、防御不可の座標転移、距離短縮、荷物運びの空中歩法、大火力の発火、発電能力者多数というすばらしいメンバー構成だ。
なのに既に危険を避けつつ、攻撃ができるというチームの利点である光反迷彩がダウンしてしまった。
「っ!安藤!」
1つだけ鍵を開けておいた窓から空中歩法が帰ってくる。
「無事だったか!やっぱり菊池は駄目か?」
「駄目だろうな・・・。すぐ逃げたから見てはないけどぶっ倒れてたし」
ということはやっぱり光反迷彩はリタイアか。もしかしたらと思ってたんだけどな。
「悪いな。目測を誤った。ありゃとんだ番狂わせだ・・・・・・」
誰だってカモだと思うってと慰めつつ、作戦を立て直すために話し合う。
「これからはもう少し警戒して動こう。数人で1人でいる奴を狙うのはそのままでいいと思う」
「どうする?警戒ったって菊池がいないってことは誰かが危険を冒して見張ったりしなきゃってことだろ?」
「仕方ない、伝心できる一方念言が校舎内を見回る。俺らも出入り口を見張りつつ、敵の位置を聞いて対処・・・ってのでいこう」
「えぇっ、私が見回り!?無理だよっ、私すぐやられちゃうって!それに私こういうの苦手って知ってるでしょ?
襲われるかもしれないって状態で校内歩くなんて精神持たないよ!」
「他のメンバーには違う役割がある。火力だし、安藤は脱出手段だ。生き残るためには分担しなきゃならねぇ。
大丈夫だって、敵だって同じ気持ちだ。まだ教室に籠もってる奴らも多いだろうから、どこに敵が居るか報せてくれればいい」
そう言って彼女の背中を押す。
不安そうな顔をして彼女はドアを閉めた。
心配といえば心配だが、チームの連携こそが勝利の鍵だ。
俺にも火力という役割があり、攻撃を仕掛けなければならないのだから、危険度は高い。
彼女の健闘を祈りつつ、俺達もドアの向こうに人が来ていないか、カーテンの向こうから誰か上ってきていないかをチェックする。
よし。とりあえず大丈夫そうだ。
「なぁ。この校舎のどっかにもアイテムボックスあるんだよな?」
「ああ、どの校舎にも1つはあるって言って――――」
――――いきなり、電気が消えた。
「な、なんだ!?」
「っ慌てんな!誰かがブレーカー落としただけだ」
「誰だよこんな馬鹿なことする奴」
「よねぇ。こんなことしても昼じゃあ、普通、教室のカーテンって透けて太陽の光が入ってくるのに・・・」
その通りだ。誰が何処を狙ってやったのか、ただの嫌がらせかは検討つかないがあまり意味のあるものとは思えない。
あ?でもそんなこと生徒なら誰だって分かることだ。この季節は特に誰だって実感する。なのにわざわざ危険を冒してまでブレーカーを落としに?
いや待て待て、それはおかしい。そこまで愚かなことをするものか?
「ぁ・・・・・・あ・・・」
そして気付いた。
昼だろうが何だろうが日差しを遮る必要のある場所が幾つか、あるのだ。
体育館、視聴覚室、そして、
「くっそ何も見えねぇ〜。ここのカーテンは分厚いからなぁ〜」
音楽室。防音のために生地の厚いカーテンを使っている――――、
「皆まずい!ここが狙われてる可能性がある!」
「は!?」
「昼間っから電気落として効果があるのは、体育館、視聴覚室と音楽室!で、今生徒が使ってカーテンが閉まってるのは、どこだ!?」
体育館は広すぎて使われていないだろう。
視聴覚室はどうなっているか知らないが、ここは確実に使われている。
カーテンなどを閉めればそれで隠れ場所が見つかってしまうのだが、閉めていないと自分達の情報が漏れる。よって苦肉の策として、周りの使っていない教室のカーテンを閉めてまわるという行為がなされるのが通例なのだが、
「視聴覚室に他のチームが居ると考えてもここを狙ってる可能性は高い!」
「カーテン開ける!?」
「懐中電灯の方がいいんじゃない!?」
「とにかく扉とまっどぉぅ――っ!」
どさっという音。
「どうした!?おい、松井!」
返事はない。
既に誰かが侵入しているらしい。
さらにぷしゅりという水音が響いた。
くそっ、懐中電灯はどこだったか。
これか?
「ひゃぁぁあああ!」
また1人犠牲になった。
教室中パニック状態になる。
ばたばたと走り回る音。悲鳴が響き、闇の中では何が起きているのかまるで分からなくなった。
そんな中時々ぴしゃりぱしゃりという水音がするのだ。
見えない敵に襲われているというのは恐ろしい。
ホラーである。
よし、たぶん・・・これが懐中電灯だ。
と、誰かに当たった。
「きゃっ!」
「大丈夫、俺だ!」
「あっ、そう?じゃあ11人目、と」
「えっ?」
腹に恐ろしい衝撃が走る。
そうして俺のリタイアは決定した。
/
13人を倒した時点で声も止み、動いている人の気配もなくなったので、悠々とカーテンを開ける。
息が詰まりそうだ。よってついでに窓も全て開放。風があるからすぐに換気される。
うん、気持ちいい。
改めて室内を見回すと、ペンダントに入っている赤い液体を飛び散らせて倒れている上級生達。
死体の振りをしているのは、ゲームのルールだからだ。
演技点が入るとかで、退場が決まったら死んでいなきゃいけないのだ。生きている生徒がいなくなるまでそのままで、いなくなったらはけるという打ち合わせ。言葉は一単語を死んでから10秒以内でならオッケーとのこと。
校長、懲り過ぎです。
それが分かっているので、ここで倒れている彼らを気にする必要はない。
さて、これでとりあえず僕を襲ってきたクラスは壊滅した。
浮遊能力者がいることから、この校舎に潜伏しているとすれば窓の鍵を開けてあるだろうと踏んでいたのだけど、見事にビンゴ。
生地の厚い濃緑のカーテンを閉め切っているので、ブレーカーを落としてやり窓から侵入した。
闇の中で視界を確保する方法は夜行性動物に倣い、熱感知と嗅覚でそれを補強。日頃音波に慣れ親しんでいるわけではないので、コウモリのようにとはいかなかった。
無理やりこじ開けた屋上の扉付近でした臭いと同じ臭いがするので、間違いなく先ほどの仲間のチームであると判定できる。
うん、実に快調。さて、校内をうろつきますか。
/
いきなり消えた電気に驚きながら、身を潜める皆。
今、1‐Bは織神葉月という恐怖に脅えていた。
「やばい・・・もう来るんじゃ・・・ないか?」
「どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようっ!」
「落ち着け!大丈夫、作戦は考えてあるだろ!最善を尽くすんだ!いくら織神の身体能力が高かろうが遠距離攻撃に分がある!」
そう言い聞かせるが、誉はかなり震えている。
あいつの能力は浅夢予知なのだが、昨日も努力したものの予知夢は見られなかったらしい。
あの震えようを見ていたら、それで良かったと思わないでもないが。
嫌な未来なんて見たいと思う奴なんていまい。
ああ、分かってる。分かってるんだ。
織神葉月という人物を敵に回した時点で、自分達がどれほど困難な状況に置かれているかなんて。
やるならとことんやる容赦なしの葉月は、こういうゲームでもやはり手を抜かない。
もちろん、ルールに則った遊びとしての全力だが、知り合いだろうが友達だろうが、勝負の相手には勝ちに行くタイプだ。
以前カードゲームで戦ったことがあるのだが、その時葉月はえげつなく完璧な手段を用いて、対抗する暇も与えず一気に潰しにきた。
そういう経験から導き出される推測からして、葉月がこのゲームを楽しんでかつえげつなくプレイしているに違いない。
だから、実のところ俺だって結構怖い。
何時葉月が襲ってくるのかびくびくしながら待っている。
「・・・・・・来ないね」
「さっきのははずちゃんの仕業じゃないのかな?」
「ん?」
支給されたモバイルがバイブレーションしだした。
何らかの情報や伝言を送ると言っていたっけか?
支給品のくせにやたらと高価そうなディスプレイを覗く。
『織神葉月さんが10人撃退を達成』。
「うひぃっ!!」
思わずモバイルを投げ出してしまう科。
「科、大丈夫!?」
見る限り大丈夫そうではない。
校長、何て危ない情報を寄こしてくるんだ。
俺達限定のクリティカルヒットだぞ、それは。
「で、でも!これで狙われたのは私達じゃねーってことになるじゃん!」
「そうよ!大丈夫なの大丈夫、だいじょーぶうぅ・・・」
確かにそういうことなのだろう。さっき狙われたのは俺達ではなく、他の誰かであり、あれ?
「おい待て。釧のタレコミでは葉月は真っ先にここを狙うっつってたんだよな?」
「あ、そうだよね。でも、開始前に荷物やられたよ?」
「葉月がそれで満足すると思うか?」
「うっ。でもでも!他の生徒が犠牲になったんだよ?もしかしたら標的を変えたのかも?」
誉のそれはもはや希望、懇願の類だ。
「・・・じゃあ、とりあえず葉月警戒態勢は解く、か?」
「いや、そう見せかけるという罠かもね」
くくっと笑う楚々絽。
「わかっち・・・洒落になってないぜー」
絵梨もかなり参っているらしい。何時ものエロ親父よろしくな口調は消え失せている。
「楚々絽、どうするべきだと思う?私は何人か外に出て、周りを索敵した方がいいと思うんだけど・・・」
「正直分からないな。分散すると各個撃破っていうのもあり得る。そうなったら万が一にも勝ち目はないと見ていい。といって動かないってのは競技的にもまずいな。
篭城は作戦だったが、そのための荷物が盗られた時点で頓挫してると言っていいし。
今使えそうなのは私の視界傍受と聡一の視覚放置ぐらいだが、私の方は奪取できる範囲に人がいなければ意味がない。聡一は今やってるように教室前の廊下を監視する程度しかできない」
その通りだった。少なくても葉月は一中学生に倒せるような相手ではない。身体能力的に勝てないし、半端な能力は当たらないだろう。あいつの場合能力もそうだが、あいつ自体が本当にヤバイのだ。やたらと勝負事に強い。
打ち勝つには生半可な体勢では無理だ。そしてだからこそ、対葉月用に対策を用意してきてはいるのだが・・・。それはチーム全員がいることが前提だ。最初に襲ってくるというからそれで大丈夫だと踏んでいた。
それが今の状況ではどう来るかまるで分からないのだ。
このまま来ないのであれば分散して行動するべきであり、来るのなら散らばっているのは非常にまずい。
篭城用にと用意した荷物は今頃屋上である。あの中には、ガムテープやら何やら、ドアを閉めるための物も用意してあったのに。
つまり、篭城も万全な態勢ではないし、若内が言った通り、頓挫した時点で俺達は無策で脅え縮こまっている駄目な生徒である。このままでは成績は期待できない。
「おい・・・・・・どうするよ?」
「何これ?放置プレイ?放置プレイかよぅ。あぁ、駄目。私もう駄目」
西谷が机に突っ伏して動かなくなった。
「出た方がいいの?出ない方がいいの?何時来るのよぉ!」
底知れない恐怖に精神を消耗するクラスメート。
もしかしたら、葉月の狙いはこれだったのかもしれない。
考えれば考えるほど、深みに嵌って不安が増大する。
嫌なまでの効果てきめんな精神攻撃。
とすると、実は俺達は既に、現在進行形で葉月の攻撃を受けているのか。
ははっ、ははははははははははっ。
「おい四十万!大丈夫か!?」
大丈夫なわけがない。
本当にクラス1‐Bは崩壊気味である。