第9話- 作戦策選。-Dissident-
6月。梅雨の季節。湿度の高い今日この頃。今日も今日とて天気は雨だ。
ジメジメしている蒸し暑い教室では、汗で下着が気持ち悪く、汗疹になったのか痒くて不快感が増す。
下はともかく上の布切れを外してしまいたい気持ちを押さえ、能力で痒くなった場所の皮膚の異常を改善する。
そうしたところで下着は元のままなので、時間が戻れば元通り痒くなるという嫌なサイクルを繰り返しているのだけど、皮膚の性質を変えてしまうのはどうかと思うし。
せっかくエアコンのある教室なのだからそれを使えばいいのにとも思う。が、使用許可が下りるのは夏と冬の間だけらしく、電源すら入らない。
ボタンを開けた胸元を広げて空気を送り込んでいるとクシロに窘められたので、服の中の換気もできない。
「でー、美樹さん。どうだった?共同訓練・・・」
今ばかりは、美樹さんの基本体勢を真似て机に顎を乗せつつ、だるさを全面的に出している僕。
「んんんー、原始素能のグループ自体は1つだけあったーんだけどねー。
基本的に他人の能力を分けてもらうような能力だから、集まってもすることねーのですとよ?」
手に持ったミックスティーのパックから水分補給。緑茶、烏龍茶、抹茶、蕎麦茶にルイボスティー・・・絶対に無理のある味のチョイスだ。
「でも、どれだけの能力を得られるかとか、そういうのは訓練次第じゃなかったの?」
「や、それがそういうのは別のところでやってるらしいけどー、やばそうなんで教えてやんないって言われちゃったー」
失礼だよねー、と同意を求めてくる彼女。でも、
「正論だと思うよ?美樹さん、危ないって言われてても平気で崩壊寸前の廃ビルに登りそうな感じするし」
「そうかなぁ・・・でもさー、崩れないってこともあるでしょー?そういうの」
だから危ないんだけどなぁ。
「というかはづちゃん、クラスメートにさん付けはしないー。この前いいんちょーに言われたぜよ?」
ぜよ?ぜよ、ねぇ・・・。
確かに言われたけども。
『これからもっと親密な仲になるためにも、さんをつけて呼ぶのはやめよ?』
と、うふふふふ・・・と何とも断りづらい笑みを浮かべて提案された。
僕はあんまりクラスメートという微妙な立ち位置にいる女子生徒を呼び捨てにすることはしたくない。
一応男・・・という認識がなくもなかったのか、親近感が涌きにくい女性、つまり同年齢の少女を呼び捨てにするのは苦手なのかもしれない。
男子ならともかく、女性でそういう呼び方をしているのはカイナぐらいのものだ。
とすると、必然的に『さん』以外の何かをつけて呼ばなくてはいけないわけで・・・うーん、これも結構違和感はある。あるのだけど・・・・・・。
「美樹・・・ちゃんは結局体育祭は出れるの?能力を使うのが前提っていってたけど」
現在、本来なら授業のあるはずの時刻でありながら、教室に居るのは僕と彼女だけだ。
何故なら、本日は期末能力測定の日だから。
普通の学校にはない、超能力に係わっている人間として、非現実的な素敵イベントの1つであるはずなのだけど、残念ながらその例外に分類されている僕達はこうして教室待ちというわけである。
美樹ちゃんは完全に測定なし。僕は能力測定というより、人間ドッグを受けた感じ。前の時と同じように体を検査されて、皮膚細胞まで採られた。
超能力関係なくないかな?何か悲しくなってきた。
いいなー、クシロは。少なくても僕より超能力者なライフを送っているだろう。
「一応出れるってさー。能力なしじゃかなりきついけど、努力点はくれるらしぃー」
能力検査は7月にある体育祭の危険排除のためにある。
能力をコントロールできないような生徒が参加しないように事前にチェックするというわけだ。
つまりクシロみたいな能力者を振るいにかけるのが本来の目的。
・・・・・・まぁ、クシロは駄目じゃないのかなぁ。
普段見る機会がないのが残念だけれど、時々訓練所に顔を出す度被害に遭う人形がグレードアップしてるから。
能力を使えない生徒よりも制御できない生徒の方が問題なのだろう。
「体育祭の方で能力の成績決めるんだよねー?測定じゃだめなの?はづちゃん分かるぅ?」
「測定よりも実践での技術が重要なんでしょ。だからわざわざ模擬戦を設けるの。僕の能力はどちらかっていうと実戦向きだし」
「んんー、いいなー。はづちゃん、なぁーに気に体強化してるよねー?スチール缶を片手でバコッとやっちゃった時はどうかと思ったけどー」
「便利なんだけどなぁ。ゴミ出しが楽なんだよ、缶とかペットボトルとか潰しちゃえるからかさばらなくて」
「うら若き乙女としてどうかと思うよ?」
何故かそこだけ何時もの間延びした口調じゃない。そんなところで本気になられてもね。
「それは美樹ちゃんもだよ?もう少しシャキッとしていればいいのに」
「今のはづちゃんに言われたくねぇーす」
まあね。今限定・・・いや梅雨限定で机に突っ伏している状態は僕も同じ。でも彼女のは年がら年中そうっぽいし。
「そもそも形骸変容の僕に女を強要し過ぎじゃないかな?」
「いいじゃーん。そっちの方がお似合いお似合い。無意識でそうなったんならー、そっちの方が自然てことよぅ?」
お似合いね。それほど僕はこの姿でしっくりくるような仕草をしていただろうか?
男女では行動の節々で違いが出てくるものと思っていたのだけど。
性自認が女だと思ったことはないのに、元から女らしかった・・・というのは少しショックな感じだ。
「いや、いいか。考えるのも面倒臭い・・・・・・」
「お、隆くーん。終わったのかーい?」
僕のぼやきを遮る形で美樹さんが体を起こして、声を上げた。
首を廊下側に向きかえるとタカがだるそうな顔をして教室のドアを閉めるところだった。
「タカ、どうだった。合格?不合格?」
「合格っちゃあ合格だな。体育祭には出ていいとよ。
というか、能力測定に合格とかあんのか?」
「目的はそんなものでしょ。出れるか出れないか。あ、クシロはどうなった?やっぱり無理だって?」
「知らねぇーよ。測定場所違うからな。ま、無理だろうが」
だよね、と同意しておく。
人間が爆発するところなんて好んでみたくないし。
「ひっどいねー、2人共。友達でしょー?」
美樹ちゃんがそんなことを言う。
「うん、僕は信じてるよ。・・・・・・クシロの能力は破壊力だけは高いって」
それだけは太鼓判を押せる。この前聞いたところによるとマネキンを破砕させてしまったらしいから。生身の人間でやるとすごいことになりそうだしね。
「照準が合わせられないのと、威力を制御できないのはまずいよな」
タカも訓練所の惨劇を一度は見たことがあるのか、遠い目をしてそう言った。
まぁ、まだ能力を得て間もない生徒の出せる威力じゃないし、当然体育祭に出れるような状態じゃないしね。
じゅるるるるうぅぅぅ・・・・・・
会話が途切れて、何か気まずい空気の中、僕はまだ少し残っていたミックスティーを飲み干した。
時間が経つと他のクラスメートも測定を終えて帰ってきた。
原始素能の美樹ちゃん。
いいんちょーの椎ちゃん、風化水空。
ふくいいんちょー亜子ちゃんは残留思念読取。
何かと流血沙汰に巻き込まれる海君は粗己治癒。
割と普通の菜誉ちゃんが浅夢予知。
矢崎君・・・名前で呼ぶなら聡一君は視覚放置(暫定)。
飛騨君の彼女こと絵梨ちゃんの能力は発光能力。
その番の飛騨君は撥水能力。
科ちゃんは天空泳法。
改めてみても、どれもこれもまぁ、殺傷能力は低い能力だ。
発光能力は応用によっては物を燃やすぐらいはできるけど、斬刀水圧よりはマシ。
香魚子ちゃんの煙火手榴や九鈴ちゃんの斬刀水圧は純粋に殺傷系の能力だけど、そもそも能力を得てから1年も経っていない学生が人を殺せる程度の能力を持っている方が稀だろう。
斬刀水圧だって、文具のカッターで指を切ったぐらいの傷を負わせるのがやっとで、当たり所が悪くない限り死にはしないような威力であることが多い。
九鈴ちゃんの能力も威力としてはそれぐらいのもので、逸脱して危険だとは断定しにくいものの、本人の性質が問題のため体育祭は基本的に出場を辞退してもらう形になったらしい。
で、クシロはというと。
当然ながら机で落ち込んでいる。
「そこまで落ち込まなくても・・・」
声をかけるけど返事がない。組んだ腕に顔を埋めているので表情すら見えない。『返事がない、まるで屍のようだ』というやつだろう。
「駄目だよ、葉月。本気で落ち込んでるからな」
楚々絽さんがくつくつと笑いながら言った。・・・駄目だ、彼女はどうしてもちゃん付けで呼べない。
でも、・・・・・・仕方ないか。
「楚々絽ちゃんは何の能力だったっけ?」
すると楚々絽さ・・・ちゃんはきょとんと一瞬目を見開いて、
「いいね!いい!!楚々絽ちゃん・・・か。そう呼ばれたのは初めてかもな!」
口を歪めて愉快そうに笑った。
僕が言うのもなんだけど、女の子としてどうかと思うなその笑い。
「私のは視界傍受だ。聡一の能力と微妙に被っている気がして嫌なのだけどね」
「おーい、コラコラ、聞こえてるんだが?」
「ま、聞こえるだろうさ。ただ私のは人の視界を奪取するだけだからね。彼みたいに盗撮まがいのことはできやしない」
残念だ、と楚々絽ちゃん。駄目だ。台詞を聞いていると余計『ちゃん』が合わない。
この口調で、漆黒の長髪をなびかせる美人というありがちな残念な人物で、これまた残念なことに恋愛に興味がない。
もっともこれは矢崎君が言っていたことだ。恋愛なんて僕だって理解できない。
ただ、長髪を一纏めにして何箇所かで紐を結ぶというヘアスタイルの彼女がああいう口調で物言う度に、溜息を吐く男子生徒がいるというのは確認できた。
「あ、そうだ。矢崎君、ちょっとこっちに」
彼の名前が出てきたので、常々思っていた疑問を思い出した。
そう、彼の能力視覚放置の利用法について、隠しカメラ的な盗撮以外に使えそうな用途が思いついていて・・・。
「何だ?」
「うん、ちょっと試したいことがあってね。これ・・・」
そう言って僕はミックスティーと一緒に購入した苺檸檬のパックを取り出した。
「これの中身に視覚を移せる?対称が液体の場合、視界がどうなるのか気になってさ」
「あーできなくはないと思うが、パックじゃ一面真っ暗だろうな」
そうか。それを忘れていた。
透明なコップでも持ってこないと無理か。
「これにジュースを移せばいい。これなら・・・まぁ透明度は低いが何とかなる程度だろう」
そう言って楚々絽ちゃんが水筒のコップを取り出した。プラスチック製のコップ部分だけが半透明な容器。
確かにそれなら周りの状況ぐらい分かるだろう。さすが楚々絽ちゃん、気が効く。
遠慮なくパックを開けて中身を入る分だけ注がせてもらう。
「よし。これでオッケー」
手で示した矢崎君に催促する。
彼は対象に直接触るのではなく、掌をかざすようにして目を閉じた。
前と同じように数刻の間。
「・・・・・・よし、移った」
彼の報告で能力がちゃんと発現したことを知る。
漫画のように目に見える変化がないというのは地味というより恐ろしい。盗撮されていても絶対気付かないのだから。
・・・そうだ。この能力への対策、結局探すことができなかったんだ。裏方に思体複製君が居るのだから、今度聞いてみよう。
「どう?どういう風に見えるの?360°見渡せる?」
「いや・・・視点は微妙に動いてる・・・が自分じゃ動かせないな。液体が動いてるんだと思う」
「そう」
じゃあ、こうやれば目が回るのか。
「っ!・・・コップを回すなぁ!ぐるぐるする!」
消しゴムのような固体なら、それ1個を対象としているということは簡単にイメージが沸くのだけど、液体の場合どこに視界を移したのか考えづらい。
液体全体に視覚の感覚が張り付いていると考えるなら、混ぜれば画面が歪むような気がしていたのだけど、どうやら視点がずれるだけらしいし。
ということは、液体の一点に視界が移っているのだろうか?
まぁ、いいか。本当に気になっているのはこれじゃない。
「タカー、タカちょっとこっちに」
さっき矢崎君を呼び出した時のように、手毬を発破能力で弾く訓練をしていたタカを呼ぶ。
訓練を中断して、すぐに来てくれるタカ。そんな彼に僕は件のコップを取り出して、言う。
「これ飲んでみて」
「!っ――――ぁ」
その台詞に矢崎君が何やら言おうとしたけど間に合わず、タカは躊躇なくそのジュースを飲み干した。
普通、そういう風に頼まれた飲み物には何か変なものが入っていると疑うものなんだけれど。
うん、素直は美徳だよね。
「ぎゃぁあああああぁぁぁぁ・・・・・・!」
まぁ、当然ながら矢崎君の悲鳴が上がった。
「葉月、これ別に普通のジュースなんだが」
うん。何も仕組んでないないしね。何かあると思った上でよく飲めるよね、タカ。
「ついでにこれもあげるよ」
そう言って僕は残りのジュースの入ったパックをタカに渡す。
「で、矢崎君どうだった?」
「どうもこうもねぇ!男の腹ん中なんて見えなくても入りたくねぇよ!」
・・・・・・、あれ?
「・・・見えなくても?」
「いきなり真っ暗になったよ!当然だろ、胃の中に光なんてほとんど入ってこないんだぞ!?」
あっ、それを忘れてた。
パックに入ったままだと暗くて何も見えないと彼が最初に言っていたのに。
「それは失念だったなぁ・・・。残念、君に人間胃カメラの称号を定着させれるかと思ったのに・・・」
「ひでぇ!!」
「でも改善の余地はあるよね。何とか光源を見つければ・・・」
「別に普通の胃カメラでいいだろ!?あえて僕を代用する理由が見当たらない!」
そうかな?医療系への応用は悪くないと思うけど。
「いつか使えるかもよ?・・・ほら、マンションの給水タンクを利用したら、浴場に簡単に入り込める」
「・・・・・・それは発想になかったな・・・」
・・・本気で考えてる。
光云々を忘れていた僕が言うのもなんだけど、考えれば分かるのに。
水を使うのはシャワーや風呂だけじゃないことも、使用者が女とは限らないことにも。
からかいがいがあると言えばあるのだけど。
と、いきなりクシロが上半身を起き上がらせた。
「・・・そんな感じで俺の能力にも使い道ない?」
死んだ目でそんなことを言う。
うっ、表情が真剣だ。
「えぇーと・・・・・・人間粉砕機・・・?」
がごんっという痛々しい音と共に再びクシロは机に伏した。
しばらく復活できそうではない。
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教室の開けた窓からは涼んだ空気が流れ込んでくる。湿り気のない、肌に心地よい風だ。
「よぉーし、全員に渡ったか?それがもうすぐある体育祭の詳細だ。
俺が先に説明するより各自読んだ方がいいな。・・・よし、読め。質問は手を上げろ」
などと教師としての責務を半分放棄した担任の声。6月下旬の梅雨明けに相応しい今度こそ心躍るイベントの片鱗が見えてきた気がする。
配られたのはA4サイズの冊子。『体育祭バトルロワイヤル指南書』と書かれている。・・・校長だろうな。
黄色い表紙のそれをめくってみると、何故か美樹ちゃんオリジナルキャラクター『いなっちー』が。
ふきだしで、何やら、言っている。
ぱたんと冊子を閉じた。無言で天井を見る。横目で確認すると、他にも同じようなことをやってるクラスメートが数人。
仕方なくもう一度オープン。速読していく。
体育祭は約一週間後の7月3日に行われる。開催期間は2日間で、1日目はメインの種目に参加できない生徒達と立候補の生徒による玉投げ、2日目は学園領地内を使ったメインのバトルロワイヤルとなっている。
玉投げは能力を使っても大丈夫と言われている選出生徒の攻撃陣と使うなと釘を刺された生徒の守備陣の役割分担でやる雪合戦、あるいは枕投げのようなものらしい。
攻撃役は1回、守備役は3回相手に玉(というか弾)を当てられると退場となり、相手陣地のフラッグを先に取った方が勝ちという単純明快なルールで、これを各学校で1チームとし学園全体でトーナメントで行い優勝したチームは2日目が有利とか。何かしらのアドバンテージが与えられるのだろう。
玉投げというより名称は弾投げの方が合っているサブ競技についてもう少し詳しく説明すると、攻撃側は自身の能力以外は使ってはいけないことになっている。つまり最初から競技場に本来の玉投げのように玉が転がっているわけではなく、能力のぶつけ合いということだ。
対して守備側は強化プラスチックの盾を持って攻撃側を守る。守備手段を持たない攻撃役が容易く弾に当てられて攻撃手段を失うと、敵の侵攻を防ぐことが困難になり、逆に守備役が攻撃役の保護に回り過ぎるとフラッグが取られやすくなる。
攻撃役が1回のヒットでアウトになるのは、メインに出れない生徒達に対する配慮だろう。3回まで当たっても大丈夫な守備陣の活躍により勝負が分かれるように考えられている。
シンプルなゲームだけに戦略が求められるタイプだ。1日目だけでも結構楽しめそうな気がするけどな。
で、次は2日目のバトルロワイヤル。共同訓練の時にその内容は耳にしていたけれど、本当にバトルロワイヤルってどうなんだろう?
完全な個人戦。学園内での自由交戦。もちろん手加減を加えた上での、首から提げたペンダントを破壊することで勝敗を決める全うなゲームではある。
最後に残った1人が勝者ではあるものの、破壊したペンダントの数も重要視される。それがいわゆる成績と言われるもので、ちゃんとしっかり学業として認められるらしい。
勝者には景品が、活躍者には成績が与えられるというわけだ。
ベストは積極的に戦闘を行い勝ち残って優勝することだけど、当然それは難しい。この競技、大学生はともかく高校3年生までの生徒が参加している。能力を得て間もない中学1年生に勝機はそうそう巡って来ない。
しかしそれは一対一で戦った場合だ。このルールブックを見てみても共闘が違反行為だとは書かれていないし、逆に成績の付け方は個数だけではなく戦い方も見ると明記されている。
この冊子を一週間前に渡してくることを考えると、当日までに策を練れと言っているようなものなのだ。
ルールを完璧に頭に入れ、規則の間をすり抜け、裏をかけ、とそういうことだ。
・・・これを渡された時点で勝負が始まっているらしい。
なので、とりあえずこれだけ確認。
「せんせー」
「何だ織神」
「ルールはこれだけなんですね?」
名前を思い出せない担任はにやりと笑った。
「つまりバトルロワイヤルに関して言えば、能力で攻撃する必要はないわけだよね」
質問を受け終え、『残り時間は作戦タイムなー』という本当に本来の学業というものをどこかへ捨てたような言葉を吐いた担任に従い、今クラス全体で意見を出し合っている。
共同訓練の時も思ったのだけど、この学校、いや学園の学力は大丈夫なのだろうか?すごく心配ではある。
「持ち込み禁止物は書かれているっていうことは、逆に言えばここに書いてあるもの以外は持ち込んでいいとみていいな」
矢崎君がそのリストに赤ペンでチェックを付ける。
「持ち込んでいい物を書いてないってことはそうだろう」
「さすがにケータイは駄目か・・・」
「ESP系能力者がいるからね。能力で補えっていうのは当然だよ」
持ち込み禁止リストには通信器具の一切を禁じると書いてある。ポケベルも駄目っぽい。
「お金も駄目で、非常食とか水分は隠しポイントにあるってなると、持久戦を考えれば先にそれ探した方がいいのか?」
「動き回れば相手に見つかりやすくなるよ。結局さ、数人で組んで役割分担っていうのが妥当だね」
「だな。個人戦つってもチーム戦と変わらないんじゃねーのか?」
「いや、最後残れるのは1人だ。それに裏切りもあり得る。そう考えると集団で行動しても結局は他人に頼り切らないのが無難だ。というかそれが醍醐味なんだな、このゲーム」
「だから1人では生き残りが困難なようになってるのよ。協力させといてその後には裏切らせる」
「たぶんどこも最初はクラス単位で動くはずだよ。お互い能力を知っているだけに連携組みやすいし」
「知られている分、離れていると何かされるのではないかという心理も働くしね」
・・・皆して僕の方を見る。あれ?何かおかしいことを言っただろうか?
「伝達係のESPけーい、実行係のPKけーい、それにチーム内の副構成員、ぷらーすエキストラって感じでチーム編成、かな?」
伝達係ESP系、実行係PK系、副構成、エキストラと美樹ちゃんが言った言葉を冊子に書き込んでいく椎ちゃん。
「エキストラ・・・特別特化した能力者が切札ってことよね。はづきちゃんみたいなの?」
「いや、織神のは身体強化って言った方がいいから副構成・・・深柄の天空泳法方がそれっぽい」
「えぇー、私の能力って空飛ぶだけよ?」
「火力以外のPKって考えるとそれぐらいじゃない?ESP系で・・・あ、聡一君の視覚放置があるわね。使いようによっては切札かしら?」
「監視にも探索にも使えるからね・・・チームとしての特色と言えばそうなるか・・・」
「役割分担をしっかり行った上でちゃんと策を練っておかないといけないのね」
「なぁ、思ったんだが、俺の粗己治癒はあんまり使いどころなくないか?」
「ない。副構成員だな、君は。あるとすれば少々打たれ強いということか・・・。体はいくらか回復できるんだし。ま、ペンダントを破壊されればそれまでだが」
「海君はバリケード、と」
何気に酷いことを呟きながらメモする椎ちゃん。海君は自分の扱いに改めて疑問を抱いている様子だ。
「最初はまとまってチーム単位で相手を減らし、終末では分かれて戦闘っていう風になるのかな」
「取れるだけESP系が連携をサポートして、PK系を主力に副構成で細かく潰していく・・・っていうのが基本だろう、どこもそんな感じで来るとは思う」
冊子に書くスペースがないと判断したのか、家庭科のノートに書き込みを始めた矢崎君。意外に綺麗な字で、図解の図も書き慣れた感じがした。
「うーん。でもさぁ、それってつまらなくない?誰もが堅実に勝てそうな戦しかしないってことだよね、これ。
イレギュラーがなさそう・・・あ、そっか。起きないのなら起こせばいいんだ」
またしても皆僕の方を見る。
「いいんちょー、ここに不穏分子がいますぜ・・・?」
「・・・葉月ちゃん?あなたはここで何をしているの?」
何って・・・何だろう?
何かしら面白いように個人的に行動を起こしてみようかなぁなどと考えている僕。つまり単独行動に出るだろう僕と、まとまって動くつもりらしい他のクラスメート。
敵の作戦会議の中にいると言えなくもない今の状況。
「敵情視察?」
言ったら教室から締め出された。
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個人戦で策を練るのは当然のことだが、それに影響するサブの玉投げのことも忘れてはいけない。
玉投げは学校対抗戦。攻撃陣30人、守備陣20人が人数制限で、1つの学校に危険指定を受ける生徒は20人もいないと考慮されてあるらしい。
少ない分は立候補で埋めて人数を合わせ、攻撃陣はちゃんと力を制御できる生徒達が請け負う。
攻撃陣は制限された最大出力以下なら威力を調節してよく、守備陣は盾越しになら相手の守備陣を攻撃できる。もちろん盾をぶつけ合う程度のものになるのだが、攻撃陣の守備を弱めるという効果を得られるだろう。
戦略を考えるのはもとより、トーナメントを制したものに何かしらのアドバンテージがあるとすると後々にも影響してくる。自分達が勝ったらいいけど、負けた場合は敵の強化に繋がる。
よって、サブといえども手抜きなどするわけにもいかないのだ。
・・・・・・という理由で、何故か僕も参加することになった。
何だかんだで結構な肉弾戦になるらしく、体力と運動神経のある生徒が好ましい。けれどメインの前日に怪我を負いたくない、体力を使いたくないという生徒が多く、守備陣の立候補は少ないとか。
結果例年より少なかったメイン参加不可の生徒の空きを埋めるべく、校長が・・・校長が!僕を推薦したらしい。
クシロと同じようにチーム編成が決まったので集まって欲しいとの連絡を受けて、普段使わない視聴覚室に足を運ぶことになった。
「諸君!今年もついにこの季節がやってきた!今年初めての一年生もいるので説明するが、この競技はかなりの激戦となる!
去年は開始直後から守備陣が全員で突撃してきた学校があったし、出力系による集中砲火など当たり前だ!
なので怪我のないように心構えも含めて、プレゼンを行う!」
開き直っているのか、やたらと熱の入っている3年生の人。周りが話しているのを聞く限り、この人3年連続これに参加しているらしい。
「皆に配ったプリントがあるな。その二枚目を見てくれ。それが基本的なチームの役割分担と戦略だ。何もなければその通りに行動してくれればいい。
問題は四枚目からの奇策妙策への対応だ。ここはちゃんと頭に入れておいて貰いたい。少なくても慌てることだけはないように。
第三中学の連中は毎年何かしらの奇策を用いてくるんだ。相手の陣形を崩すのを狙ってな。新しいのを考えてこようと必死で失敗するとそのまま一気に負けてしまうタイプなんだが、侮れん」
4ページ目を見てみると図解で例が書かれている。・・・よかった。いなっちーはいない。
先ほど言った守備群突撃の作戦も書かれていて、その場合、自分の守備に掛かりっきりになった相手の隙を突いて、上から放射状に弾を撃つらしい。
守備能力のない攻撃陣はそれで殲滅させれるというわけだ。
しかし逆に言えば、自分達も守備を失うことになるこの作戦。先に相手に攻撃を受けたらひとたまりもない。相手が奇をてらっている内に先手を打つ必要があるはずだ。
つまり、この作戦は使えて一度だけ。前に使ってしまっている以上、これをもう一度使う学校はないだろう。
「少しでも生き残れれば反撃もできる!この競技には制限時間はないから持久戦も考えられる。
競技場は両者[形のバリケードがあるだけだ。通常はバリケード内にフラッグを立てておくが、これは味方が持ち出しても構わない。
一度それをやって、すぐさま取られて終了、という間抜けな勝負があって以来やる所はなくなったがな。
まぁ、毎年やってることなんでプリントに大抵の必要な事は書いてある。質問がある奴はいるか?」
クシロが手を上げた。おおっ、こういう積極的な行動は珍しい気がする。
「よし。そこの」
「・・・思ったんですが、これがそんなに激しい競技なら、危険だと判断された能力者もバトロワで能力を使わないという制限で参加できません?」
と思ったけど、やっぱりそれを引きずっていたらしい。まぁ、能力の制御、がんばってたからね。
「ま、確かにそう思うわな。俺も不満があったんだがそれは違う。
玉投げは元から戦う相手が分かっているが、バトルロワイヤルはそうもいかん。相手が何時、何処で襲ってくるか分からんからな。
もとより戦場に臨むのといきなり起こる戦闘に応じるのとでは心構えが違う。能力を使ってはいけないと分かっていても咄嗟に使っちまうもんなんだ。
玉投げがこれほどハードな競技なのは、それでも生徒の欲求不満を防ごうという校長の優しさだな」
あの人は本当にゲームが好きなんだなと僕は思ったけどね。そのために前もって内容を伝えておくなんて本当に凝っている。
小学生の頃の運動会なんて騎馬戦すらすぐに終わって面白くはなかったけれど、今回の体育祭は本当に楽しめそうだ。
「他に質問は?・・・・・・ないか?ないならペアを決めたいと思う。攻撃役と守備役のペアだ。必然的に攻撃役が10人あまりが出るんだが、これはできれば一人でも対処できるベテランがいい。まずは一年生から前に出てくれ」
毎年こういう感じでプレゼンが進行するのか、2、3年生に促されて前に出る。
「よし、とりあえず攻撃側、守備側で分かれてくれ。一年は守備の方が多いはずだ。
OK・・・じゃあ、体格差ができるだけないように。そことそこ。で、そっちはこっちで・・・」
完全に仕切っているというか、全く持って自主性を無視した感じでどんどん進行させる熱血3年生。自分達が1、2年の時にそうだったのかもしれない。
まぁ、いきなり初対面の場で勝手にペア組めと言われても困るだけなので、その判断は正しい。
僕は同じ1年の女子生徒と組むことになった。よろしくねー、と差し出してくる彼女の手を握り返し名前を教え合う。鹿島美菜子というらしい。次競技で会う時には忘れている可能性があるので、後でちゃんとメモしておこう・・・。
クシロの方を見ると、ごつい2年生と組まされていた。体格差は何処へやら、まぁ、最後にはどうしようもなく余ってしまうものなのだけど。
一応男同士、女同士を配慮した結果なのだろうなと思いつつ、配られたプリントに目を移す。
何でここの連中は何事も資料に纏めたがるのだろう?
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いなっちー、いなっちー、いなっちー・・・数えると17匹だった。噂では隠れいなっちーが存在するらしい。
駄目だ、何か色々と駄目だ。
個性が強すぎるいなっちーのせいで冊子の本来の内容に集中できない。
もう明日は体育祭1日目。まだ時間がある内に色々と策を練っておきたいのに。
この一週間、何だかんだで玉投げの方の守備練習などに駆り出されたので、ゆっくりと考える時間があまりなかった。
クラスメートと離れて単独行動を取ることになっているので、考えることは多い。
僕の能力上、1人1人撃破していくしかない。
チーム全体を相手にする気は更々ないので、とりあえず伝達機能を麻痺させて連携を崩し、単体を奇襲する方針でいかないといけない。
問題は相手の位置をどうやって知るのかとESP系能力者は誰かをどうやって見極めるかだ。
位置は・・・心音でも聞き分ければ何とかなりそうだけれど、能力はねぇ・・・。それが分かれば無茶な戦闘をすることも少なくなるだけど。
やはり、既に能力を知っているということは重要だ。
1‐Bで言えば・・・・・・あれ?1‐Bで伝達に使える能力者はいない?
どうするんだろう?読心術というか伝心術が使える人間がいないというのはかなり不利になるはずだ。
矢崎君の視覚放置と楚々絽さ・・・ちゃんの視界傍受に亜子ちゃんの残留思念読取を周囲に巡らして一箇所に固まる?
あまり離れて行動するのはチームとしては危険のはず・・・。
注意すべきは誉ちゃんの浅夢予知。未来予知は脅威だ。
香魚子ちゃんの煙火手榴は煙幕になるだろうし。
・・・・・・どうするべきか。
――♪〜♪♪♪〜〜♪
着信メロディーが鳴った。電話らしい。確認するとクシロだった。
「はーい。何、クシロ?」
「あー、うん。1つ確認したいことがあるんだ・・・」
「何?」
「葉月、バトロワ真っ先にうちのクラス狙う気だよな?」
・・・・・・。
「あれ?ばれてる?」