第5話- 性論談輪。-Sexual Commu-
微妙に性的ネタです。
まぁ、エロネタではないので、期待しないでくださいね。
まず初めに君は問うた。質問に対して質問で返したんだ。
「好きなモノ?何それ、それって必要なの?」
初めて聞いた君の声はどこまで透き通っていて、どこまでも意味がなくて。
さらりとした黒髪を揺らして首を傾げる、その動作さえ素っ気なくて。
そう、どこまでも純粋で。色すらなくて、何もその身に映さなかったんだ。
万可統一機構、曰く非人道的なシステムを強制する巨大養護施設。
そこに身を置くと言う君は、しかしそんなことは意に介さずに、ただ在った。
俺は・・・いや、ぼくはその日初めて織神葉月に出会った。
■
「もうすぐ高校や大学との合同能力訓練がある」
SPS服用からそれなりの日にちが経ち、定期考査も終えたある日。
誉さんが予知夢で、僕が人の三大欲求のうちで食欲と睡眠欲じゃないものを持て余し自慰に走るという夢を見たと大騒ぎしたりと、能力者らしい出来事が増えてきた今日この頃。
担任がそんな話を始めた。
「2次測定も終わって、皆能力をある程度使えるようになってきただろ?ここら辺で、いっちょ先行く先輩方の能力や研究成果を見て、インスピレーションを得よう、という訳だ」
相変わらずの適当口調で、噛み砕いた文。
親しみやすいのでありがたいと言えばそうなのだけど、残念ながら僕は名前すらを覚えていない。
親しみやすさは効果なしのようだ。
覚えていないと気づいて少し経つけど、覚えようともしてない。
一応謝っておこう。ごめんなさい。・・・本心だよ?
まぁ、その真偽は読心術者ぐらいにしか判らないんだろうけど。
さて、あまり好めない切れ目タイプの姉様を頭の中から追放して、既に眠たい授業開始前作業に集中する。
「開催日は来週の火曜から木曜。その間は授業なし。祠堂学園内を自由に歩いて、好きに見てこいってことだ。
中学生は見るだけだが、高校生、大学生は色々イベントを催してくれてる。ま、祭りみたいなもんだな。本当の学園祭はまだ後なんだが・・・。
自分に合っていると思うタイプの能力者を見つけて人脈作ったり・・・、中学生に自主性求め過ぎだろうってなもんだが、向こうも積極的に未来の人員を探してるから勝手に声をかけてくれる」
例の如く類似能力者がいない僕は当てもなく彷徨う羽目になるのだろう。
さすがに学園規模になれば美樹さんの原始素能でも小規模の集まりぐらいあるだろうし、今回は本当にあぶれることになりそうだ。
本当にただの見物になるなぁ。
まぁ、厄介な気負いがない分純粋に楽しめそうではあるのだけど。
回っているうちに何かのヒントぐらい得られるかもしれないし。
変身能力者は実物で見てみたい。向こうと僕の能力との差異を実感するのは良い経験になる。
あと、ESP関係での妨害・・・特に思体複製の対応策について知りたい。
聡一君の能力は本当に厄介だ。椅子の座部にでも視界を移されたらと思うと身の毛がよだつ。更衣室にも応用可能だというのが恐ろしい。
超能力を扱う学校なのに、そういったところのセキュリティーはまるでされていないのだ。
能力は積極的に使うべし、という方針もあるのか、全体的に能力関係の不正行為には寛容だ。
現状、覗きが許されるわけではないけど、それを何とかできる設備があるわけでもない。
聡一君はそういったことは断じてしない、と割と紳士な態度で言い切った。
けど、前科があるのでいまいち信用できないしね。
次やったら今度はプールの中に沈めてやる所存。より豊かでドロドロした生態系を堪能あれ。・・・そんな決心。
ただ、それでは後手に回るので、こちらとしても防ぐ策があるなら知りたい。
聡一君と同じグループの先輩に確認してみたのだけど、判らなかった。ぜひとも経験豊かな高校生、大学生に教えてもらいたい。
「でー、先にこれを言っておけってことなんで言うが、ここでちゃんと色々学ばないと後で酷い目に遭うぞー」
これもやっぱり投げやり口調で、せめて重要メッセージぐらいきちんと言ってもらいたいと思わないでもない。
「合同訓練の後に体育祭があるのは知っていると思うんだが、そこでは当然能力を使う。
が、学年で分けてクラス対抗・・・・・・というわけじゃなく、完全な個人戦なんだ。
自分の身を守れる程度能力が使えないと痛い目に会うし、実施能力の強化の成績がここでつくから、成績的にも痛い」
「あの・・・先生、体育祭ってどんな競技をやるのですか?」
代表して椎さんが訊く。
中学校からの編入組みである僕みたいな者は当然知らないし、小学校からこの学園に生徒だって、能力発現前だということで能力を観戦できる機会が限られているんじゃないだろうか。
子供は何をしでかすか分からないので怖い。小さいから察知しにくい。責任が加害者側に押し付けられやすい。
前にこんなことを話したら、タカに頭に手を当てられ、それを自分の目線の高さまで持ってきて、へぇ・・・と言われた。
話がずれたけど、そんな彼女の質問に担任はこう答えた。
「言ったら面白くないから言わない」
教師としてどうかと思う。
コンピューター部、縮めてコン部の部室。
と言ってもノートパソコンが十数台並べてるだけで、他に特別な機器があるわけでもない。
さらに言えば、目立った活動もない。
単にパソコンで遊ぶだけの部だ。故に、この部活に部外者が混じっていたところで、談話していたところで何の問題もない。
「先輩は知ってますよねー、共同訓練ってどんな感じなんですかー?」
オフィスチェアに腰掛け、それをぐるぐると回しながら問う。
「あー、高校生とか大学生の方が出店じゃないけど、大体グループ単位でスペース取って自分達の能力を見せてるんだ。
で、興味を持ったトコを観賞したり、技術を教わったりっていうの・・・?まあ、本当祭りみたいなもんだよ」
「学園内でショーをやってる感じだ。訓練なんて言ってるけど、実際そこまで堅苦しいものじゃないぞ。
ただ、学園祭ほどぶっちゃけれるもんじゃない。飲食系の出店もないしな」
部員でもない僕の言葉にわざわざ答えてくれる2、3年の先輩達。
今僕は、能力を得たばかりの時はグループの活動に行かざる終えなかったクシロの久しぶりのクラブ活動に勝手に同行している身だ。
結構顔を合わせているので親しいのだけど、実のところ顔しか知らない。
名前は間違いなく聞いたはずなんだけど、当然のように頭から抜けている。
先輩、後輩の呼び名だけで通るコミュニケーションて素敵だなぁ・・・。あと、担任、先生で通るのも。
「学園祭は面白いよー。何せ学校が10校以上あるからね、この学園。
見回るだけでも時間がかかるから飽きないし、イベントも多い。
君らは中学からだから知らないだろうけど、電磁系能力者の電気マッサージとかまであるんだよ」
「実際そういう技術で就職先を決める奴がいるから、模擬店というか実験台なんだけどな。
『命綱なし!恐怖のバンジージャンプ!!』とか念力系能力者の連中がやってて、途中で教師に危ないからって結局命綱を付けさせられたというのもあったよな。
絶叫系のアトラクションが多いのは嬉しいんだが、逆に飲み食いのバリエーションが少ない」
と、どちらかといえば学園祭が楽しみになるような話を耳に入れつつ、僕は自分の持っている無料メールの様子をチェックすべくパスワードを打ち込んでいく。
「学園祭は僕達も出店出すんですか?」
「ん?2年生からだな。1年は観覧だけだ」
はぁ、と相槌。
自分で振っておいてどうかと思うけど、先輩達も気にしてない。
彼らも彼らで何かしらキーボードをタイプしたり、無料ゲームをしたりしている。
うん。なんでこの部活は潰れないのだろうか。
周りの様子を見回してから、僕はパソコンの画面に目を落とした。
別にさほど見せて困る情報があるわけでもないけれど、まぁ気分的に。
受信ボックスに1件のメール有り。
珍しい。1週間ぶりに見てみたんだけど、まさか本当に着信があるとは。
大体僕だって携帯ぐらい持ってるわけで。なんでわざわざパソコンの方に送るのか。
でも、その理由は件名を見て、分かった。
『手紙』。もはや滑稽さを通り越して悪意すら感じられる。
これを無難だと思い込んでいる送り手は、送信者名のところに院長と記入している。
鉄面皮の岩男。
クリックして、内容を確認する。
・・・・・・、・・・・・・。
「久しぶりに帰って来い・・・か」
もっとも実際書かれていた文章は『帰省を要求する』だったけど。
堅苦しい実家に帰る気分だ。
気が重いというより、面倒くささが先にくる辺りがポイント。
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万可統一機構は学園都市駅から9駅いった所にある、閑散とした山を切り崩した場所にある。
本来他の研究施設があってもおかしくない立地を贅沢に独占した、薄気味悪いほどにセキュリティーがしっかりした施設群だ。
無粋にもせっかくの緑を一切合財根こそぎ取っ払ったコンクリート舗装の領域に、白の奇抜な形をしたオブジェを並べてある。
それには人目を楽しませようという、一応の心遣いが見て取れるのだが、その理由は重要施設は地下にあるため地上部分はどうでもよかったという心無いものだ。
まともに人の住める施設が地上にあり、葉月の使っていた部屋もその建物の1つだ。他にも従業員用の住居スペースが設けてあるが、子供を収容している施設とは趣が違う。
万可統一機構が表向き行っている孤児の養育は『特別都市における次世代教育の体系化』を建前に、孤児を無償で引き取る代わりに特殊な教育法を利用するというものだ。
事実それさえも建前だというのはさておき、この巨大施設が僕、織神葉月の故郷となる。
厳重極まりないセキュリティーを顔パスと登録した覚えのない指紋、静脈、声紋、網膜照合で抜けて、院長のいるであろうメインの施設に歩を進める。
この恐ろしく無骨に横たわる立ち入り禁止区間にも、表があるのだから当然来客用の施設がある。
エントランスと名付けられたガラス張りの建物の半分が弧を描くそれの中には、院長室やら教育法研究の成果などを展示したスペースやらが一応作られている。
なくても良さそうなこの建物は本当になくてもいいのに作られたのだろう。ダミーに使う金額すら半端がない。
地下施設の全てが耐核構造になっているという噂もあるぐらいだ。
入り口に入ると、光が注ぐ広い空間が取られていて洒落た雰囲気を出している。
丸いテーブルに椅子がそれぞれ3つずつ添えてあり、そのどれも白。
広告性のないデザイン重視の自販機が奥の方に1つ。紙コップ式の物で、飲料の種類はコーヒーとお茶が主。あとは甘そうなものとスポーツ飲料もあった。
貨幣を入れる所はなく、代わりに指紋照合用らしい濃褐色の四角い機器が取り付けられている。
少しの間考えて、指を当ててみた。
ピッという電子音の後に、自販機の選択ボタンが彩りを得る。
おおっ、前ここに居た時は反応しなかったのに。
待遇が良くなってるなぁなどと思いつつ、スポーツドリンクを購入。購入、と言っていのか分からないけどね。
さほど乾いてもいない喉を潤しつつ、誰もいない廊下を進んでいく。
人のこないこの空間は空気がかき回されることもなく透き通り、際限ないほどに光を通す。
何もない。何も、何もない。使っていないから人気の欠片もなく、清掃は行き届きすぎて塵のひとつもない。
モデルハウスのように造られた、完璧を装った無使用の世界。あることにこそ意義があるのだと主張しているようで、長居する気をなくさせる。
・・・・・・もともと長居する気もないか。
コップの液体を飲み干す頃、僕はその部屋の前まで来た。
『院長室』。本来、こういうものは建物の最上階にあるものではないだろうか。
ここに居る時には思いもしなかったんだけど、やっぱりおかしい。
まぁ、この部屋がこのエントランスのメインだからなんだろうけど。
他にも何十もの部屋があるのに全く使っていない。金・・・それもたぶん税金の無駄遣いだ。
それを悪びれずにやるところがすごいのだけど。
ノックをして応答を待たずにドアを開ける。
廊下と変わらない白い色調の壁。対応するように赤いカーペット。降り注ぐのは狐色の蛍光灯。
ずしりとした木製の本棚が側面についてあり、英、仏、独の言葉で書かれた分厚い本などか入れられている。
備え付けの給水機が隅に置かれ、その横にあるスタイリッシュな丸テーブルにワインの瓶が乗せてある。
前に来た入った時と変わらない。
前方に書斎机がずしりと横たわり、そこに岩男はいた。
がたいのいい体をスーツに押し込んだ、筋肉が硬直しているのではないかと思うほどの鉄面皮の男。
年齢40ほどに見える万可統一機構の責任者。
僕の書類上の保護者であり、苗字を与えた人物。
内海岱斉という名の人間。
「座れ。わざわざお前を立たせる必要はない」
そう言って彼は、自分の机と向かうように置かれた革張りのソファを指差した。
さっきの言葉を『立っていると疲れるだろう、座りなさい』と脳内変換して、異常なまでに座り心地がいいソファに体を沈める。
「お前の素行について、私及びこの機構から言うことは何もない」
苦笑。言うこともないのに呼ばれたのか、僕は。
「ならこちらから質問しよう?岱斉、アレは何?」
「御籤一四三はただのイレギュラーだ。こちらもESP追究研求所も関わっていない」
「本当にアレの気まぐれを放っておいていると?らしくないよね」
「あの系統は代々他にちょっかいを出す。今に始まったことでないにつき、その度に過剰反応を示す必要はない」
「なるほどね。けど、それだけじゃないでしょう?他にも理由があり、その方が都合がよかったんだ」
「その通り。その方が都合がよく、そしてそれはお前が知るべきではない。少なくとも今は無知でいろ」
無知でいろ、か。
「そ?まぁ、僕もそこはあまり興味がない。僕の興味は別のところにある」
「御籤一四三との接触でお前が不利益を被ることはない」
「ならいい。で、もう1つ。岱斉、この機構が造りたかったのは形骸変容でよかったのかな?」
「肯定しよう」
「・・・・・・質問を変更しよう。この機構のこの機関が造りたかったのは形骸変容でよかったのかな?」
「肯定」
「・・・・・・他の機関では何を造ってるんだろうね?」
「それは知るな。探って得をすることはない」
「ん。じゃあもう訊くこともないかな」
短い問答もが終わった。そしてこれ以上のまともな談話はないのだろう。
この男は自分から話題を作ることに長けていないし、僕も不必要に会話を続ける気はない。
そこで彼は席を立ち上がり、本棚へ行くと1冊の本を取り出した。
小さな、文庫本サイズの、ただし分厚い本。表紙は何も書いていない白。
それを僕に差し出した。
めくると、地図のような物が見て取れる。
特別都市の全体像から、場合によっては一建築物の構内図まで。書き込まれているのは色々なアイテム。
まるでゲームの攻略本だという感想を抱きながら、それを閉じる。
「自由に使え」
最後に鉄面皮の岩男はそう言った。
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女子というものは、とにかく輪になって喋るものらしい。
それはある種の偏見だと思うのだが、僕の幼馴染であり、自称彼女らしい西谷絵梨が織神葉月を巻き込んで、その上に弄ろうとして発言した言葉であるのでその真偽についてはどうでもいいのだろう。
全くもって兆候もなく、当然告白もなく僕の彼女だと明言する絵梨は、所謂変人である。
このクラスに変人奇人の類が多いとしても、彼女ほど厄介な人物はいない。
変人代表、織神葉月。リアルな性転換者にして、ナイフ所持及び嗜虐嗜好有り。
美しい花には棘がある、というよりは可愛らしいテディベアの口がいきなり裂ける方がニュアンス的にしっくりくる。
奇人象徴、細川美樹。口調不定の怠惰人格であり、布あれば縫う裁縫好き。
割と普通に聞こえるものの、怒らすと針で刺そうとする。『こう血がね、ぷつぅって膨れる様子が面白いんだよん』と発言して、織神以外を退かせた。
本気で危ない波風九鈴。歩く凶器というあだ名が付けられた本当に危ない人物。
天然ではすまない殺傷力の持ち主。彼女に見合った能力が与えられたねと瀬川香魚子の冗談めかした発言があったり。いや、神は僕らを見放したに違いない。ゴッド・イズ・デッド?
その他にも若内楚々絽など本当に個性の強いキャラクターに恵まれたこのB組。
気になって聞いてみると、『あー、だってそうした方が面白そうじゃないですか。1回やってみたかったんですよねー、そういうコミカルなクラスを作るの。だからわざわざ、小学校の頃の評価とかまで調べたりしたんですよ?』と校長が笑言してくれた。
余計なことを・・・という気持ちと笑って言うことじゃねぇという気持ちが合わさって、つい一発頭を叩いてしまったのだが、別に僕が暴力的なわけじゃない。
あの人物が自分より当然年上という事実をつい忘れてしまうのだ。おふざけの過ぎる同級生を叩くのと同じである。
さて、話がずれたが、とにかくこのクラスには変人奇人が多い。本当に多い。
しかしそのだいたいが流血モノで、波風九鈴を除いてちゃんと対応すれば普通に接することも可能なのだが、絵梨はそういう面でにおいてこそ厄介だ。
話すことで変態が露呈する人間は本当に扱い・・・あしらいづらい。
それは・・・・・・まぁ、この言葉を聞いてみれば分かる。
「思春期を迎え、二次成長が始まった男女が発情するのは当然のことだよ」
これだ。一体、西谷絵梨という人間がどういう変人なのかはその台詞で理解できるだろう。
先日の布衣菜の予知夢の内容に端を発した話題で彼女らは談話している。
現在は昼食時間。大型食堂を利用する生徒もいるものの中学生の多くは弁当や購買のパンなどを教室で食べるものなのだが、今日に限ってこのクラスの男子のほとんどは別室避難中だ。
織神がこんな話題で話をしていると知ってあの保護者が許すわけがないのだが、朽網や四十万は購買の方に行ったまま帰ってこない。
親の知らないところで子供は色々知っていくんだとか、それっぽい言葉を頭に浮かべつつ、僕は傍観。
僕ごときが絵梨に敵うわけがないんだから。やぶ蛇で恥をかくだけだ。
すまん、朽網。お前の手の届かないところで、織神が大人の階段を三段飛ばしぐらいで上がっていってる。
とにかく、会話は続く。
「それは偏見だねー。ない人も居るらしいよ」
「へぇ、そうなんだ?らしいよ、絵梨?」
「よーし。おーけぃ、おーけぃ。そんな逃げ口上は聞きませーん。
じゃあ直接訊きますぜ、はづきんは性欲はありますかー?」
「ないねぇ・・・・・、誉さんはあるの?」
「!、ちょっ何で私に振るのっ!?」
「反応が物語ってるね、ほまりん。はづきん、あるってさ」
「ちょ、ちょっぃまっ!」
「楚々絽さんは?」
「ほほー、私に訊くかい?・・・人並みにあるよ」
「その人並みっていう表現が分からないんだけどなぁ」
「というか無難な回答を選んだなー。せこいぞー、わかっち」
「あこちんの言うとおりだよ。だいたいそんなの隠しても仕方ないんじゃないかねー?」
「動物の共通行動だしね、生殖は。だいたい発情しない動物なんていたっけ?猫だって春には盛って鳴くし」
「じゃあ、春だけ異常に発情する人は猫並みなのかな?」
「言葉のあやだね、それは。このまま話を続けると路線がずれるよ、絵梨」
「あー、うん。はづきん、男も女もえっちぃことを考えるものなのです」
「ふぅん?」
「明言するのもどうかと思うのだけれど・・・」
「しぃゆん何言ってるのさー、今更そんなこと」
「絵梨ちゃんは羞恥心を持とうよ」
「えー、わざわざ隠そうとか知らない振りする方が恥ずかしい気がするんだけどな。
認めない方がおかしいのにねぇ・・・」
「はづちゃん、女性ホルモンとかはちゃんと出てるんだよね?」
「カイナによれば血液中に平均量は回ってるらしいんだけどね。一体どうやって調べたのかの方が気になるよ」
「それならえっちぃことの1つや2つあったっていいんじゃないかな」
「性欲を持て余して――――」
「誉さん、それもういいから」
「いまひとつ女っ気がないのよね、はづちゃんは」
「いや別に積極的に求めてないし」
「いやー、いるよ?意識すればもっと可愛くなるのに」
「そうよ駄目よ。せっかくなのに」
「椎さんまでそんなこといいますか・・・・・・」
「色気と性欲は密接な関係があってですねー」
「えりちゃん、それ適当に言ってるでしょ」
「性欲もなければ色気なんてもの身につかないと思うけど?」
「何で僕が色気を身に着けることは前提になってるのかなー?」
「私は健全な女子生活をはづきんに送ってもらうためにだね・・・」
「まぁ、そういうことも大事なんだろうけどね?何かものすごいこと話してますよ?私達」
「ほまりーん、私達は真剣にはづきんの心身について話してるんであって、決してやらしーことは考えてないのだよ。建前としては。
というか話題を振ったのはほまりんでしょ」
「思春期の女の子として性欲を持つことぐらいしないと、と言ってるだけだしね」
「そうよー。後ろにいる真幸だって、年中盛ってるのよ?」
おい、待て。何でそこで話題を僕に向ける?
そこで、僕、飛騨真幸の方へと顔を向ける一同。
絵梨はちょうど僕に背を向けるように座っているのだが、それもあって他の位置にいる女子達はこちらを見やすい。
僕は必死に手を振った。
そんなことないです。ありません。ありませんから、そんな目で見ないでください。
織神。どうしてそんな、そうなのかなぁ・・・みたいな瞳を向けてくるのデスカ。ものすごく痛いんだけど!
「この前なんて学校で・・・・・・」
そう言って、頬に手をあて顔を振る絵梨。なんだその白々しい演技は。
再び視線を向ける彼女達。首を激しく振る僕。
そんなことは存じません。存じ上げません。というか、何時お前と肉体関係を持った?でっちあげだぞ。彼女だっていうのすらな。
触らぬ神に祟りなしと思って傍観していたらこれか。結局同じってことですか。
くそぅ。他の男子と同じように逃げとくべきだったか。
慣れてるからとか、面倒くさいからだとか考えたのが失敗だった。
「まーぁ、とにかく何らかのアクションがほしいよね」
しかもダメージを与えるだけ与えてすぐに話題を戻しやがった!
「はづちゃんはもっと女を意識すべきよ」
「うーん、遊びがないのかなぁ?」
「そうかもね。アクセサリとか・・・あ、髪を括ってみるだけでも違うかも」
「長めだからそれなりに色々試せそうだしな。あぁ、形から入るのなら、服装だけでなく髪型も変えてみるべきだったかもね」
「女っぽいかっていうより、そういう楽しみ方を覚えてたら他の面で進展があるかもねー」
「おぉ、絵梨がまともな事を・・・」
「それは酷いなぁ」
「んー、ところでさ、朽網君はどんな髪型が好きなのかな?」
「あー、どうだろう?そういうの知らないなぁ」
「知ってたとして、なんでクシロの好きな髪型にするの?」
「いやいやいや、そりゃあはづちゃん、彼に喜んでもらうためだね」
「?喜んでくれるのはいいんだけど、なんか科さんの顔は他に思惑があるように思えるんだよ?」
「何でもありませんよー、本当ですよー」
「でもねぇ・・・・・・くしろんのシュミだと今のままが一番いいんじゃないかなー。
下ろしてる方が可愛くはあるし」
「え?朽網君の好み知ってるの?絵梨ちゃん」
「ちょっと幼め(ロリィ)な少女に攻められるのが好きっぽい」
「「・・・・・・」」
「こう・・・押し倒されて、馬乗り?下半身を擦り付けられる感じがね・・・?」
ああ、可哀想な朽網。見知らぬところで適当な性癖をでっち上げられたぞ、お前。
そしてやっぱり織神はいまいち分からないような顔をして首をかしげている。
どこまでも純粋であってくれ。お願いだから。
話はまだ続き、さくらんぼを結べるとテクニックがあるというのは本当か?とか、口内に性感があるのかとか本当にろくでもない話をしていた。
一瞬ここが男子禁制のどこかなんじゃないかと思ってしまうほど、男子を置いてきぼりにした談話だ。
それを特に恥じらいもなくやってしまうあたりがすごいと言えばすごい。
ああ、このクラスにおいて言えばほとんど女子中と変わらないのかもしれない。
男子の権力が弱すぎるし。この間から1人男子が減って女子が増えたから。
昼食どころか昼休みが終わりかけた頃、我がクラスの男子が帰ってきた。
「・・・終わったか?」
「終わった」
絵梨が仕切って始まった会話であることから、その内容が生々しいものになるということは経験上分かっている彼らは、自分達の理想像を守るために耳を塞ぐことを覚えた。
うん。なんと悲しい話だろうか。
少なくてもあいつが幼馴染でなければ僕もそうしただろうな。耳を塞ぐ前に多くのことを知り過ぎた。
と、朽網と四十万も帰ってきた。
「どうしたんだよ?購買行くにしても遅すぎるだろ」
「うん?何か知らないけれど、荷稲さんに呼ばれたんだよ」
・・・そういうことか。絵梨め、先に手を回していたな。
それに賛同する保健医もどうかと思うけど。保健が貴女の専門だろうが。
「それよりどうかしたの?何か疲れてるように見えるんだけどさ」
「ああ、それは、だな・・・」
いつものように絵梨が破廉恥なネタで盛り上がってた。しかも織神も混ぜて。
そう言おうとして、しかし言えずに終わった。
織神が2人に気づいて駆け寄ってきたからだ。
「お、やっほー。何か遅かったねぇ?」
「ん。保健室に呼ばれてたから」
「あー、何かまたカイナが変なこと言ったの?」
「いんや。割と普通の話だったぜ?」
「ふぅん?まぁいいけどね。ねぇ、クシロ訊きたいことがあるんだけど・・・」
「うん?」
「クシロがロリ少女に押し倒されたりするのが好きって本当?」
何の躊躇もなく、ただ純粋な質問。
穢れなく、その言葉の意味も分かっていないようなしぐさ。
大きな瞳と傾げた首が可愛らしい少女。
そんな少女から出た言葉に、朽網はしばらく固まった。
「・・・・・・?ねぇ、クシロ?」
ちょいちょいと制服の裾を掴んで引っ張る織神。
その動作すら無垢過ぎる。
朽網はまだショックから立ち直れず動けない。
動けないまま、めまいで後ろに倒れた。
「大丈夫か釧!?」
慌ててそれを後ろから支える四十万。
そこで朽網は何とか言葉を搾り出した。
「一体どこからそんな知識を・・・というか話を」
僕は何も言わず、幼馴染を指差す。
げっ、という声が聞こえるが気にしない。というか恨みがあるしな。
何とか立ち上がるまでに回復した朽網は低い声で言った。
「ちょっと廊下に来い西谷」
/
共同訓練を前にした休日。バイトもない自由な時間を、僕はショッピングで潰している。
何だかんだ言って、結局のところ髪留めぐらいは買ってみてもいいのではないかというクラスメートの助言もあり、常時垂らし続けるのも厄介な髪を括るアイテムを購入しようということになったのだ。
準・現界把握との組み手でも、やはり髪の動きは気になっていた。
前に動く分には問題ないのだけど、後ろに下がる時には視界を覆いかねず、横に動くと口や目に入る。
切ってしまってもいいのだけど、いまさらボーイッシュな髪型にするのもどうかと思ってやめた。
割と気に入ってるしね。
洗うのは大変だけど、くせ毛などはそれこそ変容で何とかできるという裏技もあるので、実生活にさほどの支障もないし。
ということで僕は、女性が行き交うようなアクセサリの多いショップに適当に当たりをつけて、入ってみる。
クシロはなんだか微妙な顔をしたけど、まぁ、我慢してもらおう。
今日の買い物は全てクシロ持ちだ。
そういった物を買いに行く言ったら、楚々絽さんが『どうせ、当たり障りのないシンプルなのを選ぶんだろう?朽網、ついていって似合うものを根こそぎ買って来い』と半笑いの独特な表情をして提案したのだ。
僕としても、客観的に見てくれる人がいた方がいいと思ったので同意して、その運びになった。
それにクシロも無造作とはいえ一応髪を括っているのだし。
「クシロ、とにかくまずは無難な物からいこうと思うけど、どういう選び方がいいの?」
「いや・・・別にそこら辺の普通のゴムでいいと思う」
そう言ってクシロはカラーゴム輪が10本ほど入ったものを手に取った。
ゴムの太さは思っていたより細めで、本当に輪ゴムほどにしかない。
「細いねー」
「ん。まぁ、シンプルなのはこれぐらいでいいと思うよ?他にも色々とあるんだし、せっかくなら可愛いのを・・・・・」
「可愛いの?」
「・・・なんでもない。ま、太いのって言うならこういうのもある」
今度取り出したのは、ゴムにひらひらがついたようなクリーム色のもの。これはパッケージに1つしか入っていない。
さっきのゴムと違ってこれはどちらかというファッションに分類されるらしい。
「後ろを緩く縛ってみたりっていう使い方をしたりね」
その後も色々な種類の髪留めを教えてくれた。
ゴムにアクセントとしてボンボンがついたようなもの。ゴム自体にラメの織り込んだもの。白いシンプルなカチューシャ。
ゴム然り、挟むタイプの留め具も幾つか。
そのほとんどを籠に放り込み、会計を済ませる。
値段は・・・下着よりは当然安かった・・・けどね?
用途や括り方について言葉を交わしながら、商店街を歩く。
今日来たのはクシロのマンションの近くの方の商店街だ。駅の近くにあるのは僕のアパートの方と同じだけれど、こっちの方が断然賑わってる。
繁華街、というのに相応しく、何より格好の良いというかスタイリッシュというか、そういう店がほとんどだ。
ランジェリーショップやコートばかりを扱った店、巨大電化製品店、大型書店など。
来る度にどこかが潰れて何かが出来てと目新しさが損なわれない、悪く言えば競争の激戦区。
ランジェリーショップに入るのはさすがに悪いので、安価で男女両方の衣服を売っている衣料品チェーンに入店する。
「ズボンとかね・・・女物でいいからもう少し欲しいんだよ」
クシロが男モノのの服を取り除いてしまったから、品薄状態なのだ。
ということで、ジーンズなどの置いてあるコーナーへ。
男の頃もそうだったけれど、一層華奢になったこの体にジーンズが似合うとは到底思えないものの、動きやすくて丈夫な衣類は欲しい。
あぁ、ちなみに華奢というのは外見がということであって、実際はコンクリートブロックぐらいは粉砕できると確認済みなんだけどね。
目に見えた筋肉増加はない。腕も細いし、足も細い。
筋肉のやたらついた女の子もどうかと思うのだけど、ここまで変化の見られない変容も珍しい。
というか、実際自分でも気づかないでやっているのだから性質が悪い。
力加減を間違えたら即人殺しになる可能性があるし、自分の力具合が変動するような状態ではいつ目測を誤るかもわからない。
黒に染まったスキニージーンズをサイズや色合いタイプ別に並べられた棚から取り出す。
「あんまり肌にフィットしていると動きにくいかな・・・?」
「それは人それぞれだろうよ。着比べればいい。試着室は向こう」
クシロはそう言って、カーテンの並んだスペースを指した。
「そうだね」
それもそうだったので、僕は同じサイズのタイプ違いを4種類ほど取ってフィッティングルームに向かう。
「クシロは何か買わなくてもいいの?」
「俺はいい。あんまり服装に気を遣わないし」
「うーん、その割には僕の服装なんかには積極的に色々行動を起こしてる気がするんだけど?」
「・・・・・・」
無言。まぁ、顔から何となく正解の方だと分かるけど。
色々と思慮してもらう立場としては嬉しいものなので、深く追求しないでおこう。
カーテンの閉まっていないボックスの前に着き、僕はその中に入った。
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結局、スキニーよりは少し余裕のある黒いジーンズを選び、他にも上に羽織れる薄着などを購入した。
葉月は嗜好品の類を買い漁るタイプではないので、楚々絽が言ったとおりに俺が出来るだけ多くの物を勧める方向で買い物を進めている。
ちなみに楚々絽のことを若内と苗字で呼ばないのは、彼女といると親しいというより男友達と接しているような気分になるからだ。
喋り方も仕草も女のモノとは違う。まぁ、男のモノとも違うのだが。
ショッピング自体は嫌いじゃないので、葉月も普通に楽しんでいた。
文具店で8色蛍光ペンやブックカバーなどを購入したり、リサイクルショップを見て回ったり、本屋で医学書を読んだりとゆったりとした時間を過ごした。
医学書・・・それも人体解剖の図解を真剣に眺めている時はどうしようと思ったが。本当、買うとか言い出さなくて良かった。金銭面じゃなくて精神面で嫌だ。
その代わりに、動物の身体構造を扱ったこれまたニッチな本を欲しがった。
他には年相応のコミックやライトノベルを見ていって、店を出た。
そして最終的に今居る喫茶店に入るという運び。
商店街のメイン通りの裏側にあったこの店はどうやら和菓子を主に出しているらしい。
洋食にアレンジした和菓子を出す洒落た店があるとは聞いていたが、こんなところに出さなくてもいいと思う。
表通りに出せばいいのに。出す予算がなかったのか、それともその時期にスペースが空いてなかったのか。
しかしせっかくそんな店なのに、葉月が頼んだのは普通のお萩と抹茶という何とも渋いものだった。
アレンジだとかいうものとは全く関係ない。
と、言いつつ俺もみたらし団子というチョイスなのだが。
葉月は甘いものが好きだ。お菓子ならキャラメル辺りがお気に入りで、カンロ飴などもよく口にする。
逆に苦いものは駄目なのだが、ニッキは駄目なくせに生八橋は好物なので実際そこら辺はあやふやなのだろう。
「甘いものと渋いものは合うよねぇ」
並んだ三色のお萩を一口一口小さくかじりつつ、時折抹茶を口に含み、そしてさっき購入した専門書を開いている。
「・・・なぁ、それ面白いか?」
今葉月の開いているページには鷹の眼球の構造について図解を交えた解説を載せてある。
中学生の知識でも構造自体は理解できるのだが、専門的な用語が出てきたりするともう意味が分からない。
「ためにはなるよ。さすがに動物の身体構造までは習わなかったしね」
その言い方だと、人体については一通りやってきたみたいに聞こえる。・・・その通りなのだろうな。
だから『実写図解!人体解剖図鑑』は買わなかったのか・・・・・・。
「クシロはどう?能力の方進展はあった?」
「あー、いや・・・コントロールが全然効かないんだよ。強さの方ばかり上がってるんだが」
「それはまた厄介な。制御は一番重要だよ?今度能力テストあるよね、がんばって調整しないと」
「うーん。今は先輩達の念力で俺のを一箇所に押し込めてもらって、何とか感覚を掴もうとしてる」
「ふうん?逆にタカは火力不足だとか言ってたよね」
「いまいち自分の能力のイメージが分かってないんじゃないかな、あれは。ほら、発火能力と似てるから」
「発破系は火球を飛ばすような能力じゃないからねぇ。火花は出てもどちらかと言うと衝撃波メインだから」
「手からしか出せないのにも文句を言っていたな。
・・・・・出力系ってだいたい手からモノを出すけどあれなんでだろう?」
「んー、手っていうのは足なんかの他の部位より自分のっていう認識があるからじゃないかな。生活する中で一番意識して使うからね。
自分の思い通りに動き、その様子を逐一観察できる部位。脳に直接繋がって、絶えず命令を受けている眼球は自分を映し出せないしねぇ」
「目からビームとか口から放射能とかああいう能力者もいるけどなぁ」
「そりゃあ、イメージしやすいからね。サブカルチャーの賜物なんじゃない?」
「まぁ、確かに・・・・・・」
そんな会話。他愛もなく揺らめくような、くるると回り込むような。
感触の感想はほとんど意味を成さない理解不能の言葉だけれど、とにかくこの雰囲気は好きだ。
醜い人間に、酷い世界。シガラミとでも言うべきなのか、自分を縛る不可視で不快な鎖の鱗片すらを忘れて、ただ喜びと楽しみとを浮かばせる時間。
この時間が永遠だったらどれほどよいのだろう。
これ以上の展開は、いらない。
ただ、この今ある場所も空気も状況もを閉じ込めて、永劫の繰り返しを再現し続けれるのなら。
それはどんなに幸せなのだろう。
ねぇ、葉月。
君はたぶん幸せで、何も望みはしないのだろう。
捨てられて、使われて、被検体として扱われることを何とも思わないんだろう。
ねぇ、俺は望んでいいのだろうか?
君がどうしようもなく壊れたシステムから解き放たれて、そして自分のために笑える日のことを。
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学園全体で行われる、年に2度の最大の超能力開発訓練、共同訓練が開始した。
巨大大学を柱に、高校5校、中学校4校、小学校2校の祠堂機関系教育機構を含んだ学園都市の一端。
所属する生徒の数だけでも相当数であり、学園祭を別でやる必要性が感じられないほど賑わいもある。
この期間中、中学生徒は自主性に重視した自由行動を主体に設けられた高・大学生主催のブースを巡り自己学習する。
外からの刺激を受けて、より良い能力応用を促進すると言う考えから生まれた行事なのだ。
行動が統制されていないため、諸所で問題が発生する可能性があるが、これは各校教員らや募集された生徒が対処することになっている。
各地に簡易駐屯所を設けたり、ローテーションを組んで見回りを実施したりと他の生徒と違う行動をすることでまた違った経験が得られるという仕組みだ。
そんな公に監視の目を光らせている教員や生徒とは違い、明らかに身を隠して動いている者達がいた。
「あー、えぇと。こちら、スワロウ・・・じゃないコウノトリ?いや、舌切り雀だったか?」
とある屋上で、横になりつつカレーパンを頬張った男性が軽い口調で言う。
「なーんで私に聞くかな?馬鹿。アルバトロスでしょう、お前のネームは」
通信相手はそう切り捨てた。
「だってよ・・・・・・。アルバトロ・・・何だって?意味分からんし。分からんものは覚えられん」
「お前にぴったりでしょうが、アホウドリめ」
「てぇーめー、後でしばく!」
「いいから、とっとと話せ。何かあったんでしょう?」
んぁ、という抜けた応答。その後、
「対象を見つけたぞ。大学の門から入って・・・・・・今は入り口付近のスペースを校舎に向かって歩いてる」
「へぇ、大学の方に行ったのね。じゃあ私や皆もそっち行くから、その子の服装とか教えて」
「えーと、白のシャツにパープルのスカート、上にグレーの上着を羽織ってるな。で、髪はポニテ。白いゴムで括ってる」
「分かった。じゃぁ、引き続き監視お願い」
「りょうかーい」
そう言って男は、双眼鏡を改めて織神葉月に固定した。