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体育館倉庫でのはじまり

作者:

久々の投稿です。オチなしやまなし。

体育館倉庫にて


「可愛いじゃん、い〜の?この子やっちゃって?」

「その子、めちゃくちゃにして!」

「りょ〜かい」


バタンッ




出ていった女子高生。

体育倉庫に残った男子校生と女子高生。



「ということなんで、やっちゃいますね」



ドアをしばらく見ていた男性がこちらに向いた。




漫画みたいなワンシーン。

現実に私に起きるなんて…



しかも、勘違いなんて!!




お昼休み。

友人と中庭で弁当を広げていた桜井梅子に、兄の隼人が駆け寄ってきた。

「梅、今日の帰り部活で遅くなりそうだから、先に帰ってろよ」

断髪の兄は野球部で、近いうちに試合があるとかで練習を強化していると聞いていた。

「へーい」

梅子は卵を口に運び、隼人は踵を返して中庭と繋がった運動場へと走り出した。

その2人の様子を見ていた友人は?を浮かべた。


「梅ちゃん、彼氏できたの?」



ぶぶーー



盛大に吹く梅子。

「な、なんで?!」

飛び散った卵焼きをティッシュで取りながら、友人に答えを求める。

「え〜、さっきの人が彼氏じゃないの?」

「あ!?…言ってなかったかな?あれはお兄ちゃんだよ」

「お兄ちゃん??え、梅ちゃんお兄ちゃんいなかったよね?!」


友人とは中学からの付き合いで、お互いの家族事情もよく知る仲ではある。しかし、目まぐるしい現代、家族事情もコロコロ変わるものです。


梅子の家族もコロコロ変わり、梅子と隼人が小学生の頃に両親が離婚。梅子は母に、隼人は父に引き取られた。離婚の原因はいまだに梅子達には教えられてはいない。しかし、父がまた母にプロポーズをし、1年間のアタックの末、復縁し再婚した。


それがつい一ヶ月前。新学期が始まる4月だ。今は新緑もえる5月。GWは家族4人で旅行に出かけた。


「えー!!今時は熟年離婚とか言われてるのに復縁とかすごい!!」

「だよね。私もびっくりしちゃってさ〜、父さんのアタックは途中から兄ちゃんも私も加勢してね。やっぱり寂しかったからさ〜」

しみじみ梅子は父と兄がいない日を思い出し、弁当を閉じる。


「梅ちゃん宅はドラマチックだよね!家は平々凡々ですぜ」

おどけたように友人がお茶をすすり、立ち上がる。

「え〜平々凡々がいいよ!さて、午後も頑張りますかい」

「げっ、今日の数学当たってたわ!梅ちゃん先生、数学答え合わせしよ!」

「え、めんご。やってないわ」

ケラケラ笑い合いながら、梅子達は中庭をあとにした。



放課後。

「桜井さん、保体委員だったよね?」

「そうだよ。どうしたの?」

クラスの学級委員長が『保体委員各位〜体育倉庫の整理について〜』と書かれた紙を渡してきた。

「普通、先生がホームルームに話すはずなんだけど。なんか先輩が急ぎで!とか言って、さっき俺に渡されてさ」

「ふーん」

委員長は訝しげな態度で紙を見ていたが、はいっと渡され、さっさと部活に行ってしまった。

「体育館倉庫か…たしかに整理整頓しないとごちゃごちゃしてるもんね」


――昨年も保体委員だったけど、体育館倉庫の整頓はあったかな?


それにホームルーム前にクラスボックスに入れておくべきだろう。

たしかに妙だと、委員長と同様に思ったが責任感の強い梅子は行くことにした。


『今日の担当:2―1、3―1』と書かれており、梅子は2―1だった。梅子の他にもう1人男子がいたが、彼はホームルームが終わったと同時に部活にまっしぐら。残っていた梅子に委員長が声をかけたのだ。


梅子は茶道部に入っていたが、今日は休みだったため直帰予定だった。予定がないわけではなく、進学校のため課題も多く出されるので、早く部活にいきたい人同様に梅子は早く家に帰りたかった。



第一体育館倉庫。

倉庫前に集まっていたのは、3―1の生徒2人と保体委員長に体育の先生。

「よし、集まったな。急で悪いな!改築工事が夏に始まることになって、いるものといらないものを分けようという話が今朝決まってな」

先生がガハハと豪快に笑う。

「それを知らされたのが掃除中で、先生が他の先生達に言うのを忘れてたっていうから…でも集まってくれて、ありがとう」

豪快に笑う先生の隣りで申し訳なさそうに話す保体委員長。

「ということで、今日は清掃するだけでいいです。器具を出して掃除するのは、委員会の時にやっちゃうから」


進学校といえど、普通科の他に体育科があり、運動部に力をいれているため、体育館は2つ。1つは球技用、もう1つは武道や新体操など。


ガラッ


今日掃除する第一体育館倉庫は球技用だ。各種ネットやボールがあり、かと思えば演劇部の小道具や舞台セットまであり、掃き掃除よりまず整理整頓から始めた方が良さそうだった。


「…」

誰しもがそう思ったに違いない。3年生からはため息が出ていた。

「演劇部にも声かけてくる」

保体委員長が言うと、

「めんご。今日休み、だから私がいるのよ。明日片付けるように言っとくから」

演劇部の生徒らしい女子がすまなさそうに笑った。


整理整頓して、しばらく見ていた先生は会議があるとかで抜けた。

「演劇部のは触らないでおいて、あとは軽く掃除だな」

梅子と委員長は奥の方から、3―1の2人はドア近くから箒・雑巾を掃いては拭いていった。

空気もどよんとしていたのが、換気をしたことで5月の爽やかな風が部屋に吹いていた。


「こんなもんだろ」

極力演劇部の方は見ずに、3―1の男子が言った。その様子にごめんってと苦笑いする女子。

「じゃあ、お疲れ様!先生があんなんで、また急な集まりあると思うけど勘弁してな!」

雑巾や箒を元に戻して、今日の体育館倉庫での整理整頓は終わった。


ふと体育館の時計を見た。

「うわぁ、1時間やってたんだ」

梅子はあまりの時間の経過に驚いた。

時刻は17時。始めたのが16時ちゅっと過ぎ。


「あ!桜井さん、隼人にこれ返しといて」

まだ倉庫にいた保体委員長から呼び止められ、梅子は手渡される。

「あ」

「隼人が読んでて、興味もってさ。貸してもらってたんだ」

手渡された本は、梅子が兄と一緒に読み焦ってた1つ。両親が復縁するにはどうしたらいいか、兄と模索してた時に読んでいた。

「実践しました?」

「まだ。これから、活かしていくよ」

ヘラっと笑った委員長は、お疲れ様と言って「やべぇ、部活!」と言って去っていった。

と思ったら、梅子に向かって、

「桜井さん、倉庫の鍵かけといて!」

と遠くの方で叫び、今度こそ体育館をあとにした。



鍵は、倉庫内の鍵ホルダーにかけられていた。

梅子は鍵を手にし、倉庫から出ようとした際にドンと肩を押された。

「キャ!!」

その拍子に尻餅をつき、手にした鍵を落とした。


「隼人に近寄らないでよ!」


肩を押したであろう女子高生、先程の3―1保体委員が叫んだ。

「最近、隼人の様子がおかしいと思ったら、近くに必ずあなたがいて…」

呆然としていた梅子だったが、兄の名前が出てきてハッとした。

「あ、それは」

「何よ!隼人はみんなのものよ!約束守れないんだったら…修くん、やっちゃって!!」

彼女の後ろから、ひょこっと顔を出した修くんなる方がニヤリと笑う。

「可愛いじゃん、やっちゃっていいの?」

「…そういう約束だったからね。体裁よ。メチャクチャにして!」

「…」


バタン


ガチャ


口を挟めない梅子は尻餅をついた状態で、修くんなる人を見つめる。


閉まったドアをしばらく見ていた彼は、またドアの近くに行き、耳を当てた。

それからふぅっとため息をして、こちらを向いた。


「ということで、やっちゃいますね」


「!」


―どうしよう!?


焦った梅子は起き上がろうと足に力をいれる。


「あ、ちょっと待って!」


梅子はびくっと震える体を抱き締めて、彼を見上げる。

彼は梅子の前に屈みこみ、そっと頭を撫でた。何かされると思わず目を閉じた梅子は、至近距離で彼を見た。


「俺は小野寺修也。さっきのは妹の明子。うちの妹がごめんな、嫉妬ってやつだ。なんもしないから、しばらく付き合ってよ」


―え?


「…な、何もしない?」


―漫画みたいなら犯されそうになって、そこにヒーロー登場みたいな…ってないか。


「しないよ。けど、まだしばらくは倉庫内にいよう。ばったり妹にあったら、面倒だから」


彼は先程と違ったにこやかな表情で、両手をパーにしてみせた。ニヤリと笑った彼は、頭をポンポンして、梅子の横に座った。


しばらく時間が過ぎて、この状況を少し理解した梅子は、彼を改めて見た。

今更だが、制服を着ていないところと3年生の妹がいるということは外部なのだろう。外部者札を律儀にかけていた。

『小野寺修也』

ライオンの鬣のような髪型はチャラそうな印象である。服装も今時で、まさに漫画みたいなら噛ませ犬役に出てくる感じだ。

しかし顔はまあまあ、優でも不可でもなく、並みだ。目元が優しそうで、意外とまつげが長い。


じっと梅子が修也を観察しているのに耐えかねたのか、修也はポツリと話しだした。


「さっき、何か言おうとしてなかった?」

「え?」

いきなり話されたので、梅子はびくっとした。

「妹が一方的に喋ってたでしょ、あの時に何か言おうとしてたからさ」

―ちゃんと聞いていたのか。

「誤解です、と伝えたかったんです」

「え、…ってことは」

「隼人は兄です」

「!!」


大々的に、桜井梅子と田中隼人は兄妹です!と伝えてないのが悪かったのか。桜井は母親の旧姓である。小学5年生から姓が変わった。

再婚したのは高校2年生が始まる4月。各種変更届は済ませてあるが、学校ではいまだに『桜井』で通っていた。

小学校からの友人は、桜井梅子と田中隼人が兄妹の関係だと知っているが、中学・高校からの友人はそうとは知らない。

彼女―小野寺妹は後者に当たる人だろう。梅子はそう思った。



――そうじゃなきゃ、妹の私をこんな目にあわせないでしょ〜


「私、桜井梅子といいます。高校2年です。兄は田中隼人で、高校3年です。正真正銘血の繋がった兄妹です。妹さん、先輩が間違ったのも名字が違うからだと思います。」


それから簡単に姓が違うことを話した。

聞いていくうちに修也は妹の失態に、そもそも倉庫に監禁・強姦させていることも失態だが、気づいた。


「あ、…えっと…ごめんな」

「いえ…今日も中学からの友人に彼氏かと聞かれたばかりなので。これからは田中姓を名のりますよ」

「そっか。重ね重ね妹がとんだご迷惑をおかけしました」

手を額に当てて、彼はまいった。

「…疑問なんですけど、妹さんとうちの兄は付き合ってるんですか?」


兄の口から彼女の話が一つも出ていないし、むしろ家庭の問題に積極的に関わっていた兄だからそんな暇なかっただろう。

梅子はそんなことを思いながら両足を投げ出した折り、体育座りにして修也に聞いた。


「野球部のファンクラブに入ってるみたいで、ファンの取締役らしいよ」

苦笑いした修也が演劇部の小道具に目を向けた。

「それで君をファンの掟に従って罰した、というところだろ」

懐かしい〜と呟きながら、彼は小道具を漁る。なんとなしに梅子は彼の動向を見守った。


床に散らばっていた小道具をて

きぱきと段ボールの中にいれ、整理がなってね〜とぶつぶつ言った。

「ファンじゃないんですが…」

「うーん、ただの嫉妬からくる当て付けだろう」

修也は振り返った。

「こんな方法、間違ってるよな。あいつもノリでやっちゃうと思う。普段こんなことしないんだ」

ふーと息をはき、

「たまたま俺が遊びにきたところに妹が怒り心頭の顔で近づいてきて、漫画の世界だろ〜ってな展開をしかけてさ。止めるとまた面倒だったから俺ものっちゃったけどさ」

情けない顔をして、床に落ちていた小道具を拾い、そうして全て片付けた。「遊びにきたんですか?」

梅子の横に戻ってきた修也。

「そ。俺もう大学4年生。内定もらって落ち着いたから、迫田先生に報告しに来たんだ」

「そうなんですか!おめでとうございます!」

テンションが変わったのに驚いた彼が苦笑する。

「ありがとう、まあ迫田先生は出張で今日はいなかったけど。また来るよ」

淋しそうな横顔に、何か別の話題をと梅子は口を動かした。

「そうでしたか。演劇部だったんですか?」

「そ。役はもっぱら悪役か噛ませ犬が多かったわ、いまだに大学でもそんなだったからな〜」

ニヤリと笑い、さっきみたいなね、と自虐的に言う。

「あ!じゃあさっきの…」

「ちょっとした演技だよ。ヒーローが登場したら殴られ役ね」

二人して笑った。

「君は?」

笑いが落ち着いた頃、修也は尋ねた。

「え?」

「何部?」

「…茶道部です」

「お茶をたてられるんだな。正座きつそうだ!」

「きついですけど、あの緊張感とおちゃでホッとする瞬間がいいんですよ!」

右手でこぶしをつくる梅子。

「茶道部は文化祭の時にお茶会よく行ってたよ。お菓子目当てで」

お互いぷっと吹き出す。

「わかります!兄ちゃんが文化祭に呼んでくれた時に連れていってくれたのが茶道部で、そこでこの部活に入ろうと思ったんです」

「「お菓子目当てで」」

顔を見合わせて笑い会う。しかし梅子はハタと気付き訂正する。

「今はさっき言った緊張感と息抜きの良さがわかったから、続けてるんですよ?」

「わかった、わかった」

ポンポンと頭を叩かれ、梅子は少しムッとした。


「そろそろ行こうか。もう充分いたしね」

思わず窓を見ると、夕焼け色が遠退いている。さらに修也の腕時計を覗きこみ、時間を確認した。

「かれこれ30分はいたね」

耳の近くで声が聞こえ、びくりと反応した。

「…帰ろうか」

にこりと微笑み、何事もなかったように頭をまたポンポンされる。

「はい」

――犬と思ってるのかしら?


それはそうと、明日から『桜井』改め『田中』に戻そう。野球部ファンクラブで小野寺妹に目をつけられたのなら、他のファンにも同じ目に遭わされるかもしれない。

――そんなのごめん被る!


「小野寺さん!」

梅子は立ち上がり、ドアに手をかけた修也にお願いする。

「妹さんに私と兄のこと教えといてください!あと、他の生徒にも私みたいな目に遇わせないように注意してくださいね!」

バシッと指をさし、本当は人を指してはいけないが、修也の目をしっかり見据えた。

「承知しました」

ニヤリと笑い、彼は言ったが、小さい声で善処しますと言った。



「妹には弱くてさ」

苦笑いした彼はドアの外を確認したあと手招きし、一緒に倉庫から出た。



せっかくだから連絡先を交換しようと、修也はチャラ男よろしく梅子に提案した。


「…やっぱり、チャラ男役ですね」

クスリと笑い、梅子と修也は連絡先を交換した。



これが二人の恋の始まり。

お読みいただき、ありがとうございました。

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