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執事オーバーワークス  作者: 双葉
第一章 『元ヤンから』
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第一章7 『メイド長』










 天羽翔(あまはかける)20代男性、趣味は単車改造またはツーリング、好きな食べ物は焼き鳥、嫌いな食べ物はフルーツ、好きな言葉は天下統一、職業は執事。


 これだけの自己紹介文を載せても浮いて見える職業、ただの清掃員かと思えば中身はパンドラで、お金持ちのお嬢様やその他大勢のお世話をしなければならない仕事だった。


 執事と言えば優雅な空間で、テラス席で紅茶を楽しむお嬢様の横に立ち、注文があれば動いたりするのが役目だと誰しもが思う。


 スケジュールなどを報告したり、食事を持ってきたり、送り迎えをしたりと様々。


 しかし、翔が最初に受けた仕事はそれらを跳ね除けたモノだった。



「翔さん、さ、お願いします」


「いや、お願いしますとか言われても困る」



 翔はメイド長から『ヒッキーをしているお嬢様を部屋から出してください』と言われ今部屋の前にやってきた、お嬢様が部屋でひきこもりだなんて聞いたことがない、何か習い事や家庭教師でひきこもることがあっても、個人でずっと部屋から出てこないだなんてことは無いはずだ。



「お嬢様は1週間に3回位しか部屋から出てきません」


「それトイレとか除けてだよな?」


「トイレもお風呂も部屋に各自あるのです」


「今すぐにそれ潰せ、そうすりゃ出てくるだろ」



 ひきこもるには持ってこいの装備品、原因は親にもあると翔は考える、あとは彼女がどんな経緯でひきこもり始めたかが気になる。


 歳を聞けば翔の妹結萌(ゆめ)と同期の1年生で同じ学園らしい、天羽家の1人がそのお金持ち学園に通っている事自体に驚いたのに、翔は美歩佳(みほか)と妹が同じ学園という事にまで驚いていた。



「それをするとお嬢様はきっと……」


「きっと?」



 考えたくはないが、自殺とかしてしまうのだろうか?

 翔は失言をしたのかとちょっと反省をする、昨今は親に逆らっては自殺等とニュースになるくらいに有名な話だが、お嬢様でもやはり中身は同じ人間という訳だ。



「お屋敷にある大浴場とトイレを占拠してしまいます!」


「お前んとこのお嬢様狂ってるよ!?」


「冗談はその辺りにしましょう、ひきこもりを始めた理由があります」



 メイド長は廊下にある窓から外を眺める、さっきまでの笑顔を消して暗い表情をしながら翔に話し始める、その表情で察したのか、翔も真面目に聞く体勢になる。



「美歩佳お嬢様は苛められていたのです」


「苛めか」



 美歩佳の通うヴェリネッタ女学園は日本一お金持ちが集まる学園、色々な職業を開拓していた者の2世3世達が集まるというなら、もちろん縦社会が存在する。


 その中でも七宝グループである彼女は、最初の段階では周りのクラスメイト達に仲良くしてもらっていたそうだ、しかしある日を境に彼女は周りから変な目で見られ始める。


 翔が今メイド長からこれを聞いた話から推測をすると、



「いわゆる妬みって奴か?」


 思った事を口にするとメイド長は首を横に振る、翔はよく分からないという顔をする、基本的なことではあるが、一番のお金持ちのクラスメイトにゴマをスリながら寄ってくるのは取り巻きだ、だがその一番が脆いと気づけば取り巻きはそれから離れてしまう。


 七宝である彼女の場合は、一番であるはずのクラスメイトより実は権力があり、その一番のクラスメイトが彼女のある事ないことを周りに吹き込む、そうすれば周りは信じてしまう。


 情報とは金よりも力になってしまうことがある。


 メイド長は口を開くと、



「お嬢様はゲーマーでして、周りのお友達を手加減無しでボコボコにしてしまったのです」


「俺が今ずっと真剣に考えてきた時間返せやクソメイド」



 真面目な話しから急にオチが出てきてしまう、翔はハンカチを軽くポンポンと涙を拭くメイド長に向かって吐き捨てた。


 話しをさらに聞くと、ひきこもる原因はオンラインゲームにどハマりし、レベル上げやダンジョン攻略などで忙しいらしく、それ以来学園にすら行っていない。


 聞けば聞くほど真面目に悩んだ事がアホらしくなった翔、話しをしていたメイド長を無視して扉を足で蹴りながら、



「オラァ! 出て来いやぁあ!!」


「か、翔さんいけません! お嬢様が暴れてしまいます!」


「怯えるの間違いじゃないのかよ!?」


「お嬢様はゲーマーですが根性がございます」


「根性を別の方向に向かせるのがアンタの仕事だろ!?」



 扉を蹴るのをやめた翔、ドアノブを捻っても鍵が内側から掛かっているらしく、外からではどうすることもできない。


 翔はメイド長に扉を壊す許可を出すが、



「なりません、穏便に済ませたいのです」



 と、言われてしまい何も出来なくなってしまった、またしばらく考えるが時間の無駄だと言い放ち、扉に向かってタックルをしようと勢いを付けて、走り出すと。


 扉は翔のタックルを決める前に開いてしまう、もちろん車と同じで急には止まれない、そのままの勢いで部屋から現れたゲーマーもとい、美歩佳に綺麗なタックルを決めてしまう。



「うわお!?」


「ぎゅひい!?」


 ズテーン、美歩佳を覆い被さる形に2人は床に叩きつけられる、メイド長は携帯を取り出しては何故かカメラアプリを起動する、聞きなれたシャッター音を何回も繰り返し放つ。


 翔は直ぐに起き上がるとメイド長に向かって、



「何をしてんだ」


「これはベストショットかと、これを警察に提出すればどうなりますか?」


「よしわかったお前殴らせろ」


「じょ、冗談です。メイドジョークです」


「鼻血出しながら言うやつのセリフかよ!?」



 床で目をグルグル回している美歩佳を翔は抱き上げる、お姫様抱っこでベッドまで行き降ろす。



「どうですかお嬢様の身体は、最高でしょ?」


「お前が変態メイド長だとわかったよ」


 翔は小声で謝りながら、軽くため息を一緒に吐いたのだった。



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