第3章13 『敵地へ』
お待たせ致しました、次回は来週中を予定です。
小さな巨人とはよく言うが、紫は七宝家に大きな存在として印象を与えることに成功する。
彼女達が去った後も氷華達は部屋を変えて話し合いを始める、まず広まった噂について考えを口々に出していくが、紫はどうやって万緒歌とあの男の出来事を知ったのかがわからないでいた。
あの場には当然紫は居なかった、紫本人も噂を聞いて動いたとでも言うのだろうか、だがあの口振りからして元から知っていたふうにも聞こえてしまう、さらに気になったのが『私なら噂を取り消すことが出来る』と紫が言っていた事。
なぜ紫なら噂を消す事ができるのか、氷華は大体の予想がついてしまっていた、紫の事を少なからず理解している中での答えは『裏がある』だった。
彼女の性格は本当に『めんどくさい』ものらしく、何かを利用しそれを武器にして振り回す、敵に回されやすいタイプと言われても過言ではない、ただあの男が本当に言いふらす事をしていれば話は変わってしまう。
結局話し合いは行き詰まる、そこで翔は何かを思い出すかのように声を出す。
「俺一度実家に行ってくるよ、アレから帰ってないし」
お茶を飲みながら考えていたメイド長と氷華は、突然『実家に戻る』と翔が言い出した事に目をパチパチとさせてから『どうして?』と目で翔に訪ねてくる。
特に理由がある訳では無いが会社の事情なら本人に聞くのが早いと翔は話す、どんな理由があるにしろ実家には一度帰っておきたいと2人の目を見ながら許可を求めた。
もちろん断る理由何てものは無い、氷華は『いいわよ』と翔の外出を許し、メイド長は『実家に帰っている間にこちらも調べておきます』と話した。
翔も出来るだけのことはしてくる、と告げると早速実家へ帰る準備を始める、談話室から自分の部屋に戻り財布をポケットへ押し込むとバイクのあるガレージへ歩き出す、途中お掃除中のメイドに『お出かけですか?』と聞かれ実家へ戻る事を話した、ガレージに着くと高級車の横に置いてあるバイクは存在感があり、違和感を放っていた。
早速またがるとエンジンを始動させて屋敷から走り出した、天気も良く晴れ渡った空は気持ちの良いドライブには最適だった、山を降りるとそのまま裏道を走り抜け住宅街へ、そして久しぶりに実家の駐車場へ到着。
車が止まっている横へバイクを止めると翔は玄関の扉を開ける、止まっていた車は母である万緒歌のものだ、つまり家に帰っていることがわかる。
久しぶりの実家、染み付いた匂いも相変わらずで少しホッとする、翔は『ただいま』とリビングに聞こえるように挨拶をし、靴を脱ぐと真っ直ぐリビングへ向かった。
扉は開かれたままでキッチンから鼻歌が聞こえてきた、翔はもう一度『ただいま』と告げると、料理をしていた結萌は慌てて振り向く、おたまを握りしめたままだったのがおかしくて、翔は笑ってしまう。
「翔!? どうしてここに!?」
「そりゃ実家なんだから顔くらい出すだろ」
「連絡くらいしてよ、ご飯足りるのかな……」
「飯くらいどうにでもなるって、それより母さんは?」
車があるって事は家には居るはず、翔は結萌に母の居場所を聞くと『今はお風呂だよ』と教えてくれた、出てくるまでリビングにあるソファーに腰を落ち着かせて待つ事にした。
待っている間は結萌にあの男と万緒歌が別れたことを切り出すと『お母さんから聞いてるよ』と、詳しく事情を聞かされていたようだった。
だが翔は気になっていた事がある、万緒歌の会社は紫によるとピンチらしいがそんな空気はこの家からは漂ってはいなかった、むしろ賑やかな感じで憑き物が落ちたといった感じだ、結萌に渡された冷えたお茶を飲んでいると。
「ゆーちゃん上がったわよ、あ……」
「ただいま」
「翔、いつ帰ってきたの?」
「今さっきだよ、早かったんだな帰宅するの」
「最近は早く退社するようにしてるのよ、それより戻ってきてどうかしたの?」
まだ濡れている長い髪をタオルでワシャワシャしながら水分を吸収させていく万緒歌、翔が帰宅した本来の目的は『会社の状況と噂』についてを聞くためだ、冷蔵庫から缶ビールを取り出した万緒歌はタブを開くと、グイッと喉を鳴らしながら飲んでいく。
翔が座っている正面に万緒歌が座ると、翔は本題を話し始める、今の会社の状況から話を聞くと万緒歌は少しだけ元気を無くしたようにも見えた、紫が言った通り本当にピンチの状態なのだろうか。
「確かに会社であんな事があったんだもの、少なからず噂は立っちゃうのは仕方が無いことだわ」
「あの男が会社を出ていく時に数人程辞めた社員もいるんだろ?」
「彼の事を慕っていた社員のことね? 彼が辞めるならって何人かは辞めちゃったわ」
「それで母さんのある事ないことを噂にして広められたんだろ?」
「彼を辞めさせたって言う噂と殴られた噂は広がっちゃったけど、そこまで酷いような噂は何も無いわよ? むしろよく辞めさせてくれたって評価されたくらいよ」
「どういう事だ………」
少なからず噂は広がった様だが、話によれば他社に広まるような悪い噂は全くないと万緒歌は話す、契約が無くなったのも皇が関わっていた企業のみで、元から万緒歌が引き受けた仕事に関してはそのまま続行していると言う。
紫が話していた噂話とはかなりズレが生じていた、もしかしたら紫は嘘を付いているのでは? でも嘘を付いて何がしたいのだろうか、パーティーの時から少し感じていたのは氷華を『ライバル視』をしている事、ヤケに氷華や七宝家に対して噛み付いている気がする。
実際は当人に聞かなければわからない事だが、簡単には口を割ってくれそうにないのが目に見えてわかる、紫と翔では付き合いなんてほとんど無い、信用も信頼も無いことが身に染みてわかった。
「そんな事を聞きに帰ってきたの?」
「まぁな、仕事でそういう噂を聞いた奴が居てな」
「へぇ、心配してくれたの?」
「…………」
つい無言になった上に顔を赤くしてしまう翔、それを見た万緒歌はお腹を抱えて笑う。
それを何も言い返せず悔しそうな表情をする、だが内心は『よかった、何も無くて』と安堵していた、もし本当にピンチだったらどうすればいいかわからなかったからだ、七宝家で働いている執事だとしてもスーツを脱げば一般人、どう足掻いても名のあるヘンテコお嬢様である紫にすら勝つ手段などないのだから。
話はそこで終わりにして、結萌が作った唐揚げを頂く事にした、万緒歌は『また唐揚げなの!?』と結萌に抗議をするが『美味しい唐揚げの作り方を放送してたんだもん』と、ニコニコしながら唐揚げを山盛りにした皿をテーブルの真ん中に配置。
ここ最近は唐揚げフェアが結萌の脳内で開催中らしく今日で3日目らしい、翔は指先で一つ掴むと口の中にひょいっと放り込む、噛み締めるとサクッとした衣の隙間から肉汁がブワッと溢れ出てくる、鶏肉も柔らかく顎が疲れない、そして美味しい。
しばらく他愛のない話を咲かせながら晩飯を楽しんだ、晩飯が終わる頃に翔も久しぶりの実家風呂に入り、普段の七宝家生活から解放された時間を満喫しながらある事を考えていた。
風呂から出ると翔は髪をドライヤーで乾かしスーツに着替え直す、準備が出来るとリビングに戻り『じゃあ行くわ』と二人に告げる、ちょっと寂しい気持ちになるが『いってらっしゃい、いつでも帰ってきなさいよ』と、万緒歌が口にする。
この歳になって、さらには前までの状況を考えると戻る場所があるのは本当に良いことだと、改めてわかることができた。
二人に別れを告げた後、玄関から外へ出て鍵を閉めてからポケットにあるスマホを取り出す、電話帳に登録された番号の一番下までスクロールし通話をするボタンをタッチする、呼び出した番号は七宝家。
「あ、もしもし天羽です。今から戻るんですが星蓮紫についてちょっとお願いがあるんですよ」
電話の相手はタイミング良くメイド長だった、翔は紫の事で話があるとメイド長に告げると『お願いですか? なんでしょうか』と言われると、
「俺、星蓮の所に行こうと思います」
読了お疲れさまでした、次回は来週更新します。




