怪人レオンの場合
珈琲をカーペットにこぼして染みを作り涙目になろうとも、世の中の動きはいつもと同じ。
そんななにも変わらない世界の片隅で、今日もセコセコ悪事を働こうと考える者達がいた。
それは、“秘密結社アルトワークス(株)”の面々である。
「今日こそ決着をつけるぞ、アークマイン!」
アルトワークスの総統補佐である、アーマット様が叫ぶ。
ポケットに手を突っ込んだままの姿勢で、不機嫌な顔をしているアークマイン。
一体なんだというんだ。
アーマット様の最初のこの発言が、まだ6話目なのにすでにマンネリ化しているように感じるのか?
それには同意したいけど、この最初の一言が一番の見せ場だと思っているから、許してあげてほしい。
「そいで、今日の相手は?」
「うむ、それなんだが・・・」
「まだ、来ていないとか言わないよな?もし来てないのに、こんなところに呼び出したっていうなら、アーマット、お前をグーで殴り飛ばす。」
「いやいやいや、待て待て待て。大丈夫だから。必ず来ているはずだから。」
確かにアークマインの指摘は分かる。
何故か、今日出番のはずの怪人が姿を見せないんだ。
しかも、今回指示した場所が特撮ではお馴染みの採石場だ。
市街地から大分離れたところまでわざわざ呼んだのに、このまま何も無しでは、さすがにアークマインも怒るだろう。
透明人間型の怪人?
いやいや、そんな話は聞いていないよ?
大体、そんなタイプの怪人うちにはいないから。
「シュロロロ!アークマイン!貴様の相手はこの俺だ!」
そんな最中、どこからか声が辺りに響きわたる。
いったいどこから?
キョロキョロと周辺を見回すが姿が見えない。
あ、アーマット様も探してる。
どうやら、打ち合わせと違う行動に出ているみたいだ。
アークマインは、呆れたような表情でアーマット様を見ている。
いや、今回はアーマット様悪くないから。
「シュロロロ!ここだ!アークマイン!」
声が上の方から聞こえる。
その声のする方に視線を移す。
そこには今回の怪人レオンさんが立っていた。
彼はカメレオンの怪人だ。
あ、そういうことで言うなら、透明人間型に近いかもしれない。
しかも、登場もカッコいい。
これは期待できるかも!
「へぇ、中々魅せてくれるじゃないか。早く降りてこい!」
「シュロロロ!すぐに向かう!」
そう言って、レオンさんは姿を翻し駆け出す。
ん?駆け出す?
そうなのだ。
レオンさんは、一心不乱に削られて崖のようになった山を、安全なルートを通って駆け降りてくる。
あ、これ今回もダメかも。
しばらく待つが、なかなかこちらにたどり着けないようだ。
降りてくる姿が見えるだけにやるせない。
無言で威圧感全開のアークマインが怖い。
それから二十分後、ようやくレオンさんが俺達の前にたどり着く。
肩で息をするレオンさんが、これまたやるせない。
何だか背中に哀愁のようなものを感じるのは気のせいだろうか?
「シュロロロ・・・さぁ・・・勝負・・・だ・・・」
息も絶え絶えといった様子だ。
こんな状態で、力を発揮することが出来るのだろうか?
いや、登場自体はカッコ良かったんだ。
きっとやってくれるはずだ!
「本当に大丈夫か?」
「シュロロロ・・・だっ・・・大丈夫だ・・・」
「そうか・・・なら。」
そう言って、アークマインは容赦なく右腕を振り抜く。
その拳が、レオンさんの左の頬に突き刺さり、錐揉み回転をしながら地面に倒れ込む。
うん、だと思った。
「じゃ、俺帰るわ。あ、そうだアーマット。」
「ん?一体なんだぶろぉぁぁぁ!」
にこやかにアーマット様の左の頬を殴り抜く。
すると、レオンさんと同じように錐揉み回転で地面に倒れ込んだ。
「んじゃ、お疲れ。」
「キッ・・・キキー、お疲れ様です。」
「おう。お前転職した方がいいんじゃないか?んじゃな。」
いや、俺もそう思ったよ。
レオン
姿を周囲にあわせて千変万化させるカメレオンの怪人。
カッコつけなところがあるが、それもご愛嬌。
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