暑気払いをする結社
ここは居酒屋『酔鯨』。
今宵も心にたまったうさを晴らすために、色々なお客様が訪れる・・・
「それじゃ、みんな。グラスは持ったかな?」
その声に、参加者はグラスを掲げることで応える。
すでにビールがなみなみと注がれており、あとは喉に流し込むだけの状態になっていた。
「それじゃ、秘密結社アルトワークスの暑気払いということでね。みんな、これからもよろしく頼むよ。それじゃ、カンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
アーマット様の開始の挨拶から乾杯までを終えると、ようやく飲み会がスタートした。
さすがにアルトワークスの所属歴が長いだけあって、長々とした話はみんなから不評を買うことはよくわかっているようだ。
いや、あの飲みっぷりを見ていると、自分が飲みたいだけだったのかな?
まぁ、俺もさっさと飲み始めたかったから、いいけど。
今、俺の目の前にはイカゲソー男爵さんとシルバーファングさんが座っている。
「イカー!この一杯のために生きているようなもんだゲソー。そうは思わないゲソ?」
「ウォォォ!この唐揚げウメー!もっと食う!」
気持ちのいいくらい会話が噛み合っていないな。
あ、もうイカゲソー男爵さん落ち込んでる。
少しくらい会話を拾われなかったからって、そんなにすぐへこむこともないと思うんだけど。
この人、落ち込みやすいよね。
メンタル弱いの何とかすればいいと思うけど、すぐには無理な話か。
第一、シルバーファングさんは唯我独尊というより、人のはなしを聞かないところがあるからな。
誰だよ、二人を横に座らせたの。
「イカゲソー男爵さん。飲んでますか?」
「おお、戦闘員君ゲソ。勿論もらっているゲソー。五臓六腑に染み渡るゲソー。」
「はははは・・・それは良かったです。」
「ところで、いつもの『キキー!』って声はいいのゲソ?」
「あれは仕事の時だけですよ。今はオフですからね。さすがに普段からやってたら変な目で見られてしまいますよ。」
「そういうものゲソ?」
「そういうものですよ。」
どう考えたって、普段しゃべるときに「キキー!」なんて言ってたらうるさいだけだもんな。
むしろ、普段からゲソゲソ言ってるイカゲソー男爵さんの方が、変な目で見られるだろう。
ま、こんなこと言ったらまたへこむから言わないけどね。
「さて、そろそろアーマット様のところにビール注ぎに行ってきますね。一番下っ端の戦闘員である自分が行かないと、いけないと思いますから。」
「そうゲソ?別にアーマット様なら気にしないと思うゲソ。むしろ、アークマインとの戦いのときに、アーマット様といつも一緒にいる戦闘員君こそ、労われなければならないゲソ。」
「ウォォォ!気にするな。よくやってる!」
「ありがとうございます。じゃ、ちょっと行ってきます。」
ちょっとビールを注ぎに行こうとしただけで、誉められてしまった。
優しい人たちだ。
さて、アーマット様のところに向かおう。
二人を放っておいて行ってしまうのは、少し心配だったりするけども。
「おー、戦闘員君。楽しんでるかい?」
「はい、頂いてます。あ、アーマット様、ビールです。」
「お、悪いねぇ。・・・おっとっと。あー旨いねぇ。」
泡がグラスから溢れようとしているのを、口をつけてすする。
「すみません、注ぎ方が下手で。」
「いやいや、気にする事じゃないよ。気持ちが大事だよ!」
そう言って親指を立ててポーズをとるアーマット様。
でも爽やかさの欠片もないので、何とコメントしていいか困ってしまうな。
あ、今視界の端にイカゲソー男爵さんとシルバーファングさんの二人が入ったけど、何か噛み合ってないな。
周りの人達も少し距離とった場所に座ってるせいで、上手く絡むことも出来ないみたいだし。
頑張れイカゲソー男爵さん!
泣くな、男だろ!
「どうだい?仕事は慣れたかい?」
「いやー、学ぶことが多くて大変ですよ。」
「そうかいそうかい。でも、ここでくじけてはダメだよ。ゆっくりでいいから、一緒に頑張っていこうね。そして、ゆくゆくは世界征服だ!夢は大きく持たなくてはね。」
アーマット様はとても面倒見のいい人だ。
子供の頃に見た戦隊物の悪役とはまったくの別物だ。
あんなのと比べたら駄目だろうな。
仕事は体を酷使するものだ。
初めてアークマインと顔を会わせたときは、足が震えたものだったよ。
さすがに、今はそのへんは慣れたけどね。
「今日は総統はいらっしゃらないんですか?」
「んー、なんか孫娘と花火大会を見に行くらしいからね。でも大丈夫だよ。ちゃんと今日の会は経費で落としていいって言われてるからね、せっかくだから、沢山飲んで帰るといいよ。」
まさかの、総統不参加の理由がそれか。
いや、家族を大事にしているという意味ではとてもいい人か。
何でそんな人が世界征服なんてやろうと思ったのだろう。
「あ、そうだ。アーマット様、前から疑問に思ってたんですけど、会社の名前の由来ってなんなんです?どっかで聞いたことあるなぁ、と思ってたんですけど。」
「んぐんぐっ、あー。由来かい?確か総統が初めて買った車種から取ったらしいよ。何でもいいって答えたら、こうなっちゃったよ、あはははは・・・」
「そうなんですか、あはははは・・・」
うわぁ、そうだったのか。
道理で聞いたことあるはずだよ。
しかし、そんな安直な名前をつける総統っていったい・・・
不毛なのは仕方がないのですよ。
彼らの活動自体がある意味不毛なのだから。
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