怪人シルバーファングの場合
選挙が行われていようとも、世の中の動きはいつもと同じ。
そんななにも変わらない世界の片隅で、今日もセコセコ悪事を働こうと考える者達がいた。
それは、“秘密結社アルトワークス(株)”の面々である。
「今日こそ決着をつけるぞ、アークマイン!」
アルトワークスの総統補佐である、アーマット様が叫ぶ。
だが、その声に応える者はいなかった。
目の前では、どんよりとした目をしたアークマインがこちらを見ている。
相も変わらず、変身はしていなかった。
「んんっ、上手く聞こえなんだか?よし、もう一度。今日こそ決着をつけ・・・」
「聞こえてるよ、うるせーなー。」
「なんだ、聞こえてるじゃないか!返答くらいはするものだぞ!」
「ハイハイ・・・それで、今日の相手は?」
ちゃんと反応を示さなかったアークマインに、アーマット様はお怒りのようだ。
その怒りを知ってか知らずか、手をヒラヒラさせて続きを促すアークマイン。
いや、仮にも歳上何だから、多少の尊敬くらいしてもいいだろうに。
いや、完全になめられてるね。
「おお、そうだった!来いシルバーファングよ!お前の強靭な牙でアークマインをズタズタにしてしまえ!」
「ウォォォ!やってやる!やってやる!」
目が血走ってるけど大丈夫かな・・・
シルバーファングさんは狼の怪人だ。
見た目にもシュッとしてて、普通にしてたら中々カッコいいぞ。
ただ、思い込んだら猪突猛進のシルバーファングさんだ。
ちゃんとわかって行動してくれるよね?
いやいや、きっと大丈夫だろ?
「なんだ、犬か・・・」
「ウォォォ!犬とはなんだー!」
早速、一目散に駆け出すシルバーファングさん。
アークマインのことしか目に入らないといった具合だ。
そんなシルバーファングさんの突撃をヒラリヒラリと躱して見せるアークマイン。
華麗なフットワークを持っているんだな。
そう思いながら、様子を見ていると段々と雰囲気が変わってくる。
血走った目が少しずつ治まっていき、気づけばキラキラとした光を放っている。
あれ?これおかしいな?
「ほれ、こっちだ。」
「ウォォォ!待て待てー!」
何か、飼い主に遊んでもらっている飼い犬のような様相を呈し始めたな。
言葉にトゲもないし。
これは、今回もダメか?
そんな風に考え始めた時、横でアーマット様が握り拳を作りながら震えている。
お、たまには怒るんだな。
それでこそ総統補佐だぜ。
秘密結社アルトワークス(株)の最高幹部なんだ。
こういうときには頼りになるぜ。
「うおー、私もその輪に混ぜろー!」
と言って、駆け出して行ってしまう。
頼りになるだなんて、そんな風に思った俺がバカだった。
というより、俺の周りはバカばかりなの?
しばらく、三人で戯れ続けている光景を見せられる。
いや、これなんなの?
「キキー!もうそろそろちゃんとやりません?」
「んん?」
いや、アーマット様。
何、意外そうな顔してるんですか!
これは目的をすっかり忘れているようだ。
シルバーファングさんも、まだ遊び足りないのか不満そうだ。
えっ?もしかして、俺空気読めて無いって思われた?
いやいや、空気読めないのあなた達だから。
ほら、アークマインもニヤニヤ笑ってるよ?
「ウォォォ!もういいや!俺、帰る!」
へっ?どういうこと?
あ、アークマインに手を振って本当に帰っちゃったよ。
どうするのこれ?
「うーむ、今日のところは痛み分けということでいいか!アークマイン!」
「ん、いいんじゃね?俺も腹へったから帰ろ。」
あれっ、あれっ。
もうこれで今日は終わりな感じ?
何なのいったい。
シルバーファング
協力な牙が自慢の怪人。
ちょっと頭が残念。
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