怪人イカゲソー男爵の場合
今日も今日とて世界は平和だ。
いつも通りに太陽は東から西へ。
大人は仕事に向かい(一部例外はあり)、子供は学校へ(一部例外はあり)と向かう。
そんななにも変わらない世界の片隅で、今日もセコセコ悪事を働こうと考える者達がいた。
それは、“秘密結社アルトワークス(株)”の面々である。
「今日こそ決着をつけるぞ、アークマイン!」
アルトワークスの総統補佐である、アーマット様が叫ぶ。
「いいから早く来いよ、メンドクセェ。」
いかにも気だるそうにしているのは、我々アルトワークスの宿敵である正義のヒーロー、アークマインその人だ。
もっとも、彼はいつもこんな調子なので、特に俺達は気にしない。
大地の力をその身に宿すらしいが、本人は派手さが足りないと嘆いているところを見たことがある。
「もっとさぁ、太陽とかさなんかその辺の対象あるじゃんな。大地とか、戦隊物ならイエローの立ち位置だよ?そもそも俺変身すると全身黒ずくめだろ?家に出てくる嫌なあいつみたいで、何か嫌だよな。」
とか言ってたけど、別にあいつらには全然似てないよ。
彼の為にもう一度いうけど、決して似てやしないから。
「フッフッフッ。そんな余裕を見せていられるのも今のうちだ!」
不敵な笑みを浮かべるアーマット様。
今日も自信満々な様子で、実にほほえましく思えてしまう。
巻き込まれる形のアークマインには悪いけども。
「貴様の弱点はわかっている!来い、イカゲソー男爵!お前の力を見せてやるのだ!」
「イカー!今日こそ貴様の命日ゲソー!」
今日の怪人の登場だ。
今回はイカの怪人、イカゲソー男爵さんのようだ。
どのような戦い方を見せるのか楽しみだ。
だが、俺の考えと違ったベクトルに展開が進みだした。
「いや、相手がイカは良いけどよ。そいつのホームってさ、海だろ?こんな山の方の公園で戦う相手じゃなくないか?」
「むむっ!確かに!」
いや、アーマット様。
そこ認めてどうするのよ。
イカゲソー男爵さんもなにこの展開?って顔してるし。
「こんなとこで、どんな戦い方をするのよ?触手でも伸ばす?でもそれならイカじゃなくても良くないか?」
「うむ。それは、確かにそうだ!」
「もっとさ、地形を味方に出来るような奴連れてくるべきだろ?大体、決戦場所指定してくるのお宅らでしょ?もう少しちゃんとやってくんないかな?」
「これは、すまなかった。少しこちらの配慮が足りなかったようだな。」
いやいや、それでいいの?
イカゲソー男爵さん、泣きそうだよ?
あんまりいじめないであげてよ。
もう、見てられないよ。
ほら、肩だって震え出してるよ・・・
前に会ったときの、すごいやる気に充ちた顔を思い出したら、余計に悲しくなってきたよ・・・
大丈夫。
イカゲソー男爵さんはやれる男だから。
ハァ、仕方ない。
助け船をいつものように出すとするか・・・
「キキー!戦ってみなくちゃわからないだろ、アークマイン!それにアーマット様、イカゲソー男爵さん泣きそうだからその辺で。」
「おお・・・まぁ、そうだな・・・悪かったなイカ男。」
「うむうむ。確かにふたを開けてみなくてはわからぬこともあるな。さすが戦闘員君だ。イカゲソー男爵、すまなかった。」
二人が頭を下げると、本格的に悲しくなったのか、イカゲソー男爵さんはその場に崩れ落ちた。
あー、言わんこっちゃない。
「うわー!こんなはすじゃなかったゲソー!」
「おぅ、悪かったって。ちゃんとやるから。なっ、気を取り直して仕切り直ししようぜ。」
「うむうむ。アークマインのいう通りだ。こんなとこでくじけていては、この社会という荒波を抜けていくことなんか出来ないぞ。」
あー、二人してイカゲソー男爵さんの肩叩いたり、背なかさすってなだめ始めちゃったよ。
もう今日は駄目だな。
完全に戦う意思奪っちゃってから宥めるとかどうなのよ。
「キキー!もう今日はやめて、次回に持ち越ししません?」
「お、それいいな。そうしようぜ。今度はちゃんと海の方でやればいいじゃん。今回は顔合わせしただけってことでさ、」
「うむ、それがいい。戦闘員君の意見採用だ!」
こうして、今日も街の平和は守られた。
因みにイカゲソー男爵さんは、場所を変えたけどワンパンでやられました。
合掌・・・
イカゲソー男爵
水中を40ノットで突き進む素早さを持つイカの怪人。
伸ばした触手で相手を絡めとり、水中を引摺り回す。
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