platina
傾きかけた西陽に、指輪をかざしてみる。四六時中ずっとはめていたけれど、傷もなければくすんでもいなかった。オレンジ色の光を放っている指輪は、今までにないほど美しく輝いて見えた。それを、ぽいと、橋から川へと投げる。
上等なプラチナの指輪らしい。売れば相当の価値が付くのだろうけれど、正直、売るつもりはなかった。
一一俺が、あなたのことを幸せにする。
頼もしく聞こえた、あの言葉は、あの決意は、今や全て虚像でしかない。
君は、私の知らない所でどんな女といたのかな。きっと可愛い女の子なんだろうな、知りたくもないけど。そんなことを考えて、ふと自分の器の小ささに気がつく。君の不貞を責めることは簡単な事だったのだろうけど、私はそれをしたくなかった。自分にも原因の一端があるのだろうけれど、私は君とじっくり話をしたりすることを放棄した。余計な争いを避けるためだと思って、お互い思っていることを共有しなかった。そうして些細な不信感は、どうしようもできない亀裂に変わった。
プラチナの輝きが、ゆらゆらと遠くに消えて、そのまま見えなくなった。川底に沈んでしまったのか、それとも遠い遠い海へと流れていったのか。私には分からなかったし、知る術もなかった。というか、知りたくもなかった。
あの日交わした約束、思い出、二人の笑い声、交わしあった笑顔、最期に口から出た言葉……全てにさよならを告げた。
さて、これからどうしよう。
駅前のケーキ屋にでも行こう。体型を気にする意味がなくなったから、今日だけはミルフィーユとチョコレートケーキを買って、甘いカフェオレと一緒に食べようか。
決断してから行動に移すまで、さほど長くはなかった。来た道に背を向けて、そのまま駅の方向へと歩みを進めた。
進む度に、さらさらと流れる川の音が、少しずつ小さくなって聞こえなくなった。