帰郷
『……次は、雪蔵、雪蔵です。お降りの方はボタンを……』
……バスの中、ボクはボタンを押した。電車で2時間、それから更にバスに乗って30分……長い旅だった。
うう、身体の節々が痛い……──やっぱり、電車の中で座ったまま寝るのは良くないな……。
そんな事を考え、ボクは苦笑した。
ボクの名前は三郷凛、今年で20歳になった。……一応言っとくけど、ボク言葉を使っているのは小さい頃からの癖で、女だからな?
……っと、話を戻そう。
今の季節は夏、そしてボクは今日……十年ぶりに、産まれ故郷へと帰ってきた。
きっかけは単純、大学が夏休みだったから。そして何よりも幼馴染の佐伯吹雪との"約束"を果たす為だ──"タイムカプセルを掘り返す"と言う約束を。
──……それに気になる事があったから、ね。
「……さてと。まずはじっちゃんばっちゃんの所に挨拶に行かないとねぇ……。」
荷物を持ってバスを降りる。バスの中は快適だったのに、外はすごく暑い……ああ、遥か彼方の景色が揺れてる……。
……外は蝉の鳴き声とひたすらの田んぼ、そして遠くにある家は陽炎で揺れていた。
──……何も変わってない。……懐かしいな。
「……ただいま。」
そう呟く。すると蝉の鳴き声に混じって一瞬"おかえり"と言う声が聞こえた気がして──ボクは周りを見渡した。
……誰もいない。
「……気のせいかな? 」
私はそう呟き、歩き出す。
──早くおじいちゃん達や友達、後吹雪に会いたいなぁ……みんな、どうしてるんだろ?
そんな事を考えながら、ボクは歩いていった。
「やっぱり、"覚えて"いないよね。僕は居ない……から。」
いつの間にかバス停の前に立っている少年の言葉は、蝉の鳴き声に掻き消され──消える。
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