勇者とは
「話とは何ですか?」
皆が寝静まった頃、エルレイアはオルティアを呼び出していた。
「いやなに、旧友を深めようと思ってね」
「白々しいですよ」
「やれやれそれなりに本心なのだけれどね…まあいいさ本題に入ろう。聞きたいことというのはリースロンデのことだ」
「リースロンデの…? あいにくと私は門外漢です」
「ヨシュア…彼のことをどう思う?」
オルティアは考える。自らの胸襟を開かねば、エルレイアの真意は掴めないだろう。
「善き人だと思います。ですが、意志が薄弱。自らの求めるところが定まっていない。情が深いようで、誰よりも情というものが分からないのでしょう。それと…自らの命が安い。それで以て命を懸ける、などと言えば鼻で笑われるでしょうね」
「うん? 中々に辛辣だね。少し意外だよ」
言っていて、オルティアは気付く。そう、少しばかり、入れ込み過ぎたかもしれない。
「彼の本質も幾ばくかはあるのだろうけれど後天的なものも大きくてね。それがリースロンデの仕業だと君は知っているのかな?」
「リースロンデ、が…!?」
魔王の器に接触していたことは知っていた。が、動揺が走る。それは…オルティアだけでなく
「なるほどね…もしやと思っていたけれど」
「……エルレイア。私もあなたに尋ねたいと思っていたことがあります」
今度はオルティアが語りかけた。
「エルレイア。あなたは勇者だ。世界の主である、と。そう定め、誇りを以てあなたはあなた自身を勇者足らしめた」
「そうだねそれは今も変わらないよ」
「それは何故です何故あなたは勇者であることを捨てていないのですか」
魔王を救う。それを掲げる者など勇者たる資格はないと考えられている。ましてや誰よりも誇りを持ち、力を磨いていたことを知っている。
そんなエルレイアだ。であれば、勇者の道を裏切るのであれば、それ相応の咎を自ら背負うだろう。しかし、今でも彼女は勇者を名乗る。誇りを掲げる。であれば、ここに疑問が生まれる。
「それは糾弾かな?」
そう勇者エルレイアは何も裏切っていないのではないか、という。前提を覆す疑問だ。
「まあいいさ。そうだね私のことをそれほど買い被らないでいいよ。世界を裏切る覚悟は出来てる。君が私のことを勇者と認めないのであればそれはそれで認めるよ」
「それほどまでに…」
彼を、想うのだろうか。けれどそれは
「エルレイア…あなたはあなたです。前世の勇者たちその全てと他人でしかありません」
「当たり前だね」
「前世は前世です。あなたは…それに引っ張られ過ぎてはいませんか? あなたの彼に対する感情は、ただの残留思念ではないのですか。であれば」
前世を持つ勇者。魔王。その因縁にどのような意味があるのかは分からないが、強い結びつきによって今がある。もしかしたら…それが、エルレイアの心を歪め、生まれながらに呪いの様に
「あまり私をバカにしないでくれるかな? 私の恋心は私だけのものだよ」
「何故ですか? あなたとヨシュアという人物は出会ってもいなかった。それはあなたと幼少の頃より過ごしてきた私だから分かります。なのに…」
「うーん…そうだねぇ。前世が関係ないかと言われれば少し面倒くさいんだけどねー…まあ少なくとも彼よりも先に君に打ち明けるつもりはないよ。それに…私はヨシュアを愛してる。それだけで十分なのだよ。君にはまだ分からないかもしれないけどね」
さて話は終わりだよ、と。エルレイアは背中を向ける。それ以上のことは語らぬ、とその背中は雄弁に訴えていた。
「分からない、か…」
しかし、それでもオルティアは進む。そうすることしか、出来ないから。もしも、エルレイアが、本来の勇者が、世界を守る気が無くても、自分が世界を守るのだと。そう、心に刻んでいるから。
オルティアはエルレイアに対するツッコミ役ですね
前世の設定についての説明的な回です。なろうの転生ものとはまた違うあれかな?でも転生ものってこうじゃないの?みたいな…設定くらいは伝えられたらなぁと頑張りたいと思います




