2.
彼女との電話を終えて、僕はベッドに身を投げ出した。
どう解釈するべきだろう。
「猫、飼ってる?」
以前、彼女にそう訊いた事がある。答えは「嫌だよ。好きじゃないもの」だった。
「それにまだ一人暮らしだし。私がいない間、部屋に一匹だけって寂しくない?」
そうも言っていた。
でも僕が脈絡なくそんな事を尋ねたのは、電話越しの彼女の声に被って時折、猫が鳴くからだった。
なんだか、嫌だ。
靴に入り込んだ小石のように、こつこつと何かが心に当たる。嫌だ。気分が悪い。
──目隠しになってくれる木が多いから、なんだろうね。
なってくれる、って言い方、おかしくないだろうか。
それは目隠しを利用して何かする側の言い口ではないのか。
──鳴き声からしてまだ仔猫かな、また捨てられてるのかなって思って、ちょっと覗いて見たの。
猫好きなら分かるのかもしれない。でも僕には仔猫と成猫の声の聞き分けなんてできない。猫を好きじゃないという人間に至っては、ましてやだと思う。
なのにどうしてひと聞きで分かるくらいに、仔猫の鳴き声をよく知っているのだろう。
そして。
──にゃあ、にゃあ、にゃあ。
大家のお婆さんの話の後に、やはり猫が鳴いていた。
そんなふうに、今日交わした会話だけでも気にかかる点がある。それらはこつこつと、僕にかき乱して鳴り止まない。
疑いの目で見るから、暗がりに鬼は生じるのだという。杞憂だろうと思いたかった。きっと天は落ちてこない。そう思いたかった。
枕元の携帯が鳴った。彼女からのメールだった。
『これからランニングに行ってきます。今日は変なカラスに会わないといいんだけど。
ともあれ今度のデート、楽しみにしてるね』
どこかでまた猫が、にゃあと鳴いた気がした。