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翔の章2


ながい、ながい時間が経ったのだとおもった。

目の前が真っ暗で、なにがなんだかわからなかった。

あっと気づいて眼をあけた。そうか、目を閉じてたら、そりゃなにも見えないはずだ。


目に入ってきた景色が、最初理解できなかった。

自分のいる位置が「おかしい」と気づいて首をまわした。

驚いた事に、僕は、どうやら宙に浮いているようだった。


下をみてさらに驚愕した。


僕がいた。土砂に埋もれて。血まみれ、泥まみれで。


大声で叫んだ。が、自分の叫び声が聞こえなかった。

頭を抱えた。


「どういうことだ。」


冴子の顔が浮かんだ。そうだ、冴子、冴子が心配してる。

頭でそう考えただけで、体がふわりと前に進んだ。

あっというまに山を降りて宿のほうに向かう。

僕を飲み込んだらしい土砂は、下の道路まで達していて、通行止めが出来ているようだった。


人が、たくさん出ていた。

消防車や、パトカーもいたし、いろいろ作業服や制服をきた人たちが右往左往している。

そんななかに、冴子を見つけた。服に着替えていて、髪を後ろでたばねていた。

真っ青な顔色で、走り回っている。

僕は彼女のもとへ飛んで行った。


「冴子」

冴子は僕にまったく気づかずに、きょろきょろとあたりを見回している。

「僕をさがしてるんだろ。ここだよ。冴子、ここにいるよ。」

「カケル!!」

僕を通り越して、遠くをみながら冴子が金切り声をあげた。


さっきから、ほんとは気づいていたけど認めたくなかった。

でもどうやら、そういうことかも、と恐怖心とともに沸き上ったひとつの答え。


僕は死んだのか。


叫びながら空に舞い上がった。自分の体をもう一度確かめに戻った。


半分土砂に埋もれて、「それ」はあった。

顔が半分つぶれていた。四肢がありえない方向に曲がっていた。

胸が、へこんでいた。

それなのに、まったく痛みを感じていないような表情。


うわああああああ。

顔を覆って、声をかぎりに叫んだが、やはり何も聞こえなかった。


自分の声は聞こえなかったが、ふもとから上がってくる、人々の気配は伝わって来た。


捜索・・・。僕を捜しているのか?


イヤだ!

冴子に見せたくない!

こんな、こんな姿を!!


僕の想いが通じたのか、念がそうさせたのか、再び不穏な地響きが起こった。


「あぶない!また崩れる!」


人々が口々に叫んでその場を退いたとき、土砂がふたたび滑り落ちて来て、僕の体を完全に覆い隠していった。


「どこにもいないんです!山に入ったかもしれないんです!

木を・・・木を探しに・・!おねがいします!探してください!」


「おじょうさん、わかってくれ。二次災害の危険がある。今日は無理だ」

「カケル!カケルを探して!!」

半狂乱で泣き叫ぶ冴子に、腕を差し出した。

が、僕の腕は彼女を突き抜けて空をつかむだけだった。


きのうまで、あんなに触れ合えたのに?

もう声も届かない?


どうして?

どうしてこんなことに?


土砂に埋もれた体と同じく、僕の魂はくらいくらい、闇の中に落ちていくようだった。



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