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冷徹営業トップは私の限界オタクでした  作者: アル


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3/31

第3話「冷徹営業トップがお迎えに来ました。 」

営業部へ一週間応援に行くことが決まった翌朝。

陽菜子は経理部の自分のデスクで、筆記用具や書類を小さな箱にまとめていた。


「春宮さん。」


経理部の入り口で陽菜子を呼ぶ声がした。

女性職員たちから、小さな黄色い歓声が上がった。


「あ、神崎さん。」


入り口には、優しい笑顔を陽菜子に向ける神崎が立っていた。

まさか営業トップの彼が、わざわざ経理部まで迎えに来てくれるとは思わなかった。


「お荷物、営業部までお持ちします。」

(名前を呼ばれた。朝から幸せすぎる。)


神崎は陽菜子の抱えている荷物へ、静かに手を差し伸べた。


(はぁ……今日も朝からかわいいッ!!今日から本当に、一週間一緒に働けるなんて…!俺は心臓が持つだろうか…。)


そんな神崎の心のうちを知らぬ陽菜子。


「ありがとうございます。助かります。」


神崎に、にこっと笑顔を向ける。

その瞬間、神崎の心臓は停止した。


(推しが俺に笑いかけてくださっている……。今日が命日でもいい。いや、ダメだ。これから一緒に働くんだ!俺が営業部の連中から守らなければならないんだッ! )


挿絵(By みてみん)


陽菜子に向けた優しい笑顔のまま、自分の胸を拳で叩く。

心臓が再起動。


「あの…?神崎さん大丈夫ですか?」


奇妙な行動をする神崎を見て、陽菜子は少し心配になった。昨日も遅くまで働いていたのだろうか。

経理部の人たちもざわざわする。


「…朝から、少し胸が詰まる感じがありまして。 」


「そうなんですか? お水、飲みます?」


「いえ。もう治りました。」

(優しい…。)


何事もなかったように、神崎はもう一度荷物へ手を伸ばした。


「あ、はい。よろしくお願いいたします。」


荷物の半分を神崎へ渡す。

その瞬間、陽菜子の手が神崎の指先に触れる。


「…っ…!!」

(ギャアアアアッ!!)


心の中で悲鳴を上げる神崎。


(推しが…陽菜子さんが、俺の手に触れたッ!!これは合法ですか?天国?それとも夢?…これは現実だ。そして会社だ。落ち着け俺…。)

「春宮さん。行きましょうか」


数秒停止したあと、神崎は何事もなかったように陽菜子に笑顔を向ける。

二人は営業部へと移動を始めた。

営業部へ移動する間に、他の職員たちが二人をチラチラ見て、

「神崎さんが荷物を持ってる…」

「しかも少し嬉しそうじゃない?」

「あの二人どういう関係?」

聞こえないように話をする。


(見るな。陽菜子さんが減る。)


周囲が自分たちを見ていることに気づき、神崎は笑顔を消し、周囲へ冷たい視線を向けた。

それだけで、こちらを見ていた職員たちは一斉に目をそらした。

神崎は陽菜子を隠すように半歩前へ出た。 まるで陽菜子の番犬かのように。

その冷たい視線が効いたのか、みんなはそそくさと仕事に戻る。


「わざわざ迎えに来てくださったんですね。」

「ありがとうございます。ちくわくん。」


挿絵(By みてみん)


二人きりになった瞬間、陽菜子が小声で言った。

神崎の足が止まる。


「…陽菜子さん。会社でその呼び方は、心臓に悪いです。」


神崎は陽菜子に顔を見せないまま、再び歩き出した。その耳は、隠しようもないほど真っ赤だった。


「やっぱり、会社であだ名は恥ずかしいですよね」


陽菜子はそう解釈し、申し訳なさそうにその後を追った。


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