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冷徹営業トップは私の限界オタクでした  作者: アル


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第27話「あなたと手をつなぎたいです。」

冷徹営業トップは私の限界オタクでした

第27話「あなたと手をつなぎたいです。 」

領収書の確認を終え、陽菜子はまだ少し火照った顔のまま営業部をあとにした。

経理部へ戻る途中。


「春宮さん。」


後ろから呼ばれ、陽菜子は振り返った。


「白石さん?」


白石は少し気まずそうに視線をそらす。


「……前は、すみませんでした。春宮さんに意地悪したこと。」


「え?」


「神崎さんのことで嫉妬してました。でも、あんなことしていい理由にはならないので。」


「白石さん……。」


「謝るのはこれで終わりですからね。」


そう言った白石は、すぐにいつもの強気な表情へ戻った。


「それより、神崎さんと付き合ったんですって?」


「あ……はい。」


「なのに、まだ手もつないでないとか。」


陽菜子の顔が赤くなる。


「な、なんでそれまで……。」


「営業部で広まってますよ。」


白石は呆れたようにため息をついた。


「そんな調子なら、私また神崎さんにアピールしちゃいますよ?」


「えっ!?」


「嫌なら、もう少しくらい恋人らしくしたらどうです?」


白石はにやりと笑う。


「神崎さん、春宮さんと話してるときだけ、びっくりするくらい顔が柔らかいんですから。」


「……そうなんですか?」


「本当に気づいてないんですね。」


白石は小さく笑った。


「せっかくそこまで好かれてるんだから、ちゃんと捕まえておいたほうがいいですよ。」


そう言い残し、白石は営業部へ戻っていった。


「……捕まえる。」


陽菜子は自分の手を見つめた。

そしてふと、神崎の大きな手を思い浮かべた。



終業後。

陽菜子と神崎は並んで駅へ向かって歩いていた。


「今日は少し暑かったですね。」


「そうですね。陽菜子さん、疲れていませんか?」


「大丈夫ですよ。」


いつも通りの会話。

いつも通りの距離。

けれど陽菜子は、先ほどから何度も神崎の右手へ視線を向けていた。

すぐ隣にある手。

少し伸ばせば届く距離なのに、妙に遠く感じる。


――だったら、ちゃんと捕まえておけばいいじゃないですか。


白石の言葉が頭に浮かぶ。


(手くらい……恋人なら普通なんだよね。)


陽菜子はそっと自分の手を握ったり開いたりした。


「陽菜子さん?」


「はいっ!」


神崎に呼ばれ、陽菜子の肩が跳ねる。


「どうしました?先ほどから様子が……。」


「な、なんでもないです。」


「そうですか?」


神崎が心配そうに覗き込んでくる。

その顔を見て、陽菜子はまた白石の言葉を思い出した。

――春宮さんと話してるときだけ、全然顔が違いますよ。


確かに。

神崎の目元は柔らかく、陽菜子だけを見ている。

そう思ったら、少しだけ勇気が出た。


「紅夜くん。」


「はい。」


陽菜子は足を止めた。

神崎も立ち止まる。


「……あの。」


「はい?」


陽菜子は頬を赤らめながら、神崎の袖をちょんとつまんだ。

その瞬間。

神崎の身体がぴたりと固まった。


「陽菜子さん?」


「あの……。」


陽菜子は神崎の手へ視線を落とした。

そして、意を決して顔を上げる。


「私、紅夜くんと……手をつなぎたいです。」


「…………。」


返事がない。


「紅夜くん?」


神崎は完全に固まっていた。


数秒後。


「……今、なんと?」


「手をつなぎたいです。」


「…………。」


神崎の顔が、みるみる赤く染まっていく。


「陽菜子さんから……?」


「はい。」


神崎は口元を押さえた。


「……無理です。」


「えっ!?」


陽菜子の顔が曇る。


「嫌なんですか?」


「違います!!」


神崎が勢いよく否定する。


「逆です! 嬉しすぎて無理なんです!」


「びっくりした……。」


陽菜子は胸を撫で下ろした。

神崎は大きく息を吸い、なんとか気持ちを落ち着かせようとしている。


「……すみません。少しだけ心の準備をさせてください。」


「この前もそんなこと言ってましたね。」


「陽菜子さん関係は、毎回重大事項なんです。」


陽菜子はくすっと笑った。

しばらくして。

神崎がおそるおそる手を差し出す。


「……どうぞ。」


「ふふっ。」


陽菜子はその手へ、自分の手を重ねた。

指先が触れる。

そして、ゆっくりと手のひらが重なった。

神崎の手は思っていたより大きくて、温かかった。

ぎゅっと握ると、神崎の肩がびくっと跳ねた。


「……紅夜くん?」


「大丈夫です。」


「震えてますけど。」


「大丈夫です。」


「本当に?」


「人生で一番幸せなので問題ありません。」


神崎は真っ赤な顔のまま、陽菜子の手を大切そうに握り返した。

陽菜子も少し照れながら、その手を離さない。

二人は再び歩き出す。

昨日までと同じ帰り道。

けれど今日は、その間にあった少しの距離がなくなっていた。


挿絵(By みてみん)

ここまでお読みいただきありがとうございます!

これからも毎日更新していきます。「面白い!」「続きが気になる」と思ってくださったら、ページ下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆の大きな励みになります!

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