悪役令嬢へのプギャーな手紙と待ちぼうけされる兄
『真悠へ
よう、久し振り!
元気にしてるか?!
いや、お互い死んだんだから、元気かって聞くのもちょっと変か。まあいいや。
俺はお前の兄の秀明だ!
薄々気が付いてると思うけど、俺達の乗ってた車が、両親の墓参りの帰り、車線超えた車に正面衝突させられて、そのままお陀仏になって、ここに転生してるんだぜ!
で、お前と作ってたこのゲームに、俺は魔王として転生したんだけどさ、
お前、悪役令嬢に転生してたんかよーーーーーwwwwww
プギャプギャ━━━m9(^Д^≡^Д^)9m━━━━!!!!!!
婚約破棄後、そっから俺達がイベント作らないまま放置していた、あの悪役令嬢に、悪役令嬢に!!!
ヒーヒッヒッヒ!!
それに気が付いた時、部屋で転げまわって笑っちまったぜwww
せっかくだし、俺の方でAIモードのプラグイン作って追加してやったから、イベント勝手に進むようにしておいたぜ! 感謝しろよな!
礼はモ○ゾフのレアチーズケーキと、鹿児島銘菓のか○かん饅頭と、塩ちんすこうで頼むな!!
え、俺がどこにいるか分からない?
俺は魔王なんだから、当然魔王の城にいるに決まってるじゃん?
強い敵をガンガンに配置してあるからさ、来れるなら来てみろ。
お礼の品来るの、気長ーに待っててやるよwwwwww
あ、ちなみに、このゲームの管理権は俺だけにして、パスワードも変更済みだから、お前はイベントいじれんから、敵の配置変更とか出来ないからな!
じゃあのww』
兄さんんんんーーー!!!!!
それらの名産品、この世界じゃ買えないでしょうがああああああ!!!!!
この世界でどうやったら、それらの品を買えるっちゅうねん!
価格的には買えない物を指定されたと言うのに!!
あと買えても、遠かったら食べ物傷んじゃうでしょうが!!!
魔王なら傷んでてもお腹とか問題無いんです!?
いや、そこじゃないのかも知れないけど、突っ込まずにはいられなかったわ。
まぁ……とは言え、お土産はともかく、動けるようにして貰ったのは感謝だけれど。
兄は前世プログラマーだったから、ツクレールのプラグインとか作ってフリー配布もしていたものね。
あ、プラグインてのは、ツクレールのゲーム内の動作とか規格を自由に変更する事が出来る、追加のプログラム。カスタマイズをしてると思ってくれればいいかな。
そう、私と兄は前世、このRPGツクレールでゲームを共同で作っていたのだ。
元々私も兄もゲーマーで、同人誌もそれぞれ出したりもしていた程度には、オタクの部類。
当時の私が大学1年、兄が社会人の23。
両親は3年前に事故で亡くなったわ。夫婦で映画観に行ったその帰りに、やっぱり車との事故で。
持ち家があったのと保険等で、そのまま私と兄は家に住んでて、日々暮らしていってたの。
で、そんな兄が『RPGツクレール』を購入してきて、ゲームをよく制作しているのを見てきた。大半はエターなってた(未完成の意味だよ)けれど。
たまにネタ出し求められたりしてて、私もアイディア提供して話し込んでく内に、もう共同作業でいっか! となって、今いる世界のゲームだけは、共同で制作してきてた。
面白いか面白くないかは、正直微妙な出来だったかもだけど、兄の親友は楽しそうに遊んでくれてたりもしたんだよね。
そんな毎日をすごしながら、両親の命日に墓参りをして、帰りにどこかで食事でもして帰ろうとなったんだけれど。
そこで車に衝突されて、まぁ死んじゃったわけだ。
まさか二人してこのゲームに転生するなんて思わなかったけどね?
いや、普通思わないでしょ!
てかなんで兄さん魔王なの。
私が魔王になりたかった……!!
解せぬ。
「……エリザベス様?」
ハッ!!
「いかがなされましたか?」
「いえ、何でもないですわ。ちょっと物思いにふけってしまいましたわ」
ホホホと笑ってごまかすと。
左様ですかと、ハハハと笑って返事が返ってくる。
テンポいいな、この便利屋の右腕さん。
「それで、我が王への返事は、先程の言葉でよろしいのでしょうか?」
「え? あぁ、首を洗って待ってろね。えぇ、それで構わないわ」
「かしこまりました。では、その様にお伝えさせて頂きます」
コンラートはそう言うと、横を向き虚空に向かって、軽くフウッと息を吹くと、一羽の鴉が揺らめきながら現れた。鴉はそのままバサッと羽ばたいて窓もすり抜けていき、あっという間に飛び立って行ってしまった。
「あら、貴方が伝えに行くんじゃないの?」
「そのつもりだったのですが、貴女と一緒に城へ戻る事にしようかと」
「なんで?」
「魔王の城は王が、それはもうあらゆる所にトラップを仕掛け、イベントボスを配置し、一筋縄では行かない状況となっております」
うっわぁ……。
「そんな所に、妹君とはいえ凸しようものなら、すぐにゲームオーバーになるのは否めませんので。私がいればその辺りの面倒事は、避けられると思いますよ。あと単純に、王の作ったイベントのデバック作業の担当が私なので、すぐに戻ると社畜になってしまうのです」
便利屋コンラートさん、そこまで社畜人生、いや魔生なのか!
デバック作業は、私もよくやらされたから覚えてるわ。
「あの方、好きにあちこち手を出してイベントを増やしたり、国や街を作られたりするから、中々作業量がキツいのです。それなら、暫くは貴女と旅をして作業から逃れてしまおうかと思いまして」
「いいの? そんな、簡単に戻らない事を決めちゃって。兄とは言え、魔王なんだから、処されたりするんじゃないの?」
「いえ、きっと私がこう行動する事も、王は予想済みだと思います。だから私を貴方の所へ伺わせたのでしょう」
あぁ、ブラック過ぎの環境を把握していたから、休暇を敢えて与えてやったって所なのかな。
「それに私が一緒の方が便利ですよ? この世界の地理、国や街や歴史、モンスターの出没地域など全部頭に叩き込まれていますから」
「それは確かに便利ね」
「そうでしょう、そうでしょう。我が王に頼りにされてるという自負はありますよ」
「……頼りにされてるのに、戻らなくていいの?」
「たまには、少しはご自身で動く事も必要でしょう」
右腕で頼りにされてるという判ってて、この対応!
この魔族強い。
「冗談はともかく」
冗談なんか。
「私が貴女と旅をしたいからというのは、本当ですよ?」
パチリとウインクをされ、私はその仕草に何故か心臓が跳ねる。
「な、何を言って」
「おや、私のウインクで照れて頂けるとは、嬉しいですねぇ」
「揶揄わないで」
「揶揄ってなどおりませんよ? 本当に嬉しいだけですから」
「そ、そうなの……」
なんで私の反応にそんなに喜んでるのかしら……。
そこで考えて、私ははたと気が付き「あ、まさか!」と大きく声を出してしまった。
「私を懐柔して、旅の途中や最後で魂を取られるとか、そう言うオチだったりとか!?」
「っ……〜〜〜〜!!」
…………。
ちょっと。
なんで、そんなテーブルに突っ伏してまて、笑い堪えてらのよ!
笑い堪えられてくなくて、「ぶくくくく」と声漏れてるわよ普通に!
私が唇を尖らせてるのに気が付き、ヒーヒーとまだ笑いを堪えながら涙を流してはいるけれど、それでも「すいません」と謝ってから、「その様な事はしませんよ」と話を続けてきた。
「召喚された訳でもないですしね。私が貴女の魂を必要としてるとか、そんなのは全く無いから安心してください。純粋に私の意思ですよ」
「あなたの意思」
「えぇ、まちがいなく」
まだ、笑いを堪えてるのか、時折目元を拭いながらも、優雅に紅茶を啜った。
嘘を言ってる感じじゃないよのね。
何で私と一緒に旅をしたいと思うのかしら?
???
……………。
うん、考えても分からない!
なら考える事ではないって事ね!!
それにメリットを考えれば、兄さんが弄って、世界がどう変わってしまったか分からない、このゲームの世界の情報が最初から把握できるのは助かるわ。
手元に公式ガイドブックがあると言う事だもの。
悪くない、悪くないわ!!
私は一人で、うんうんと頷いた。
「おや、その様子ですと、ご一緒して頂けるという事でFA?」
「FA言うなし。でも、一緒に旅に出るのでお願いするわ! 魔王のいる城まで案内よろしくね!」
私の応えに、コンラートはニッコリと、やっぱり裏切りそうな糸目をより細くさせた笑みで返して来た。
よーし、行くわよ!
兄さん、首洗って待ってなさいよね!!
私は気合を込めて、おやつ用に用意されていた胡桃を、パキンと片手で割ったのだった。
*˖⁺─────────⁺˖*
──魔王城
「お、やっと旅立つんだな。ゆっくり旅して来いよー。せっかく二人にしてやるんだからさ! な、隆之」
魔王は二人が旅立ったのを見て、満足げに笑い、前世で親友だった者の名前を、コンラートを見ながら呟いた。
「さーて! アイツ等が城に来た時ように、ウェルカムドリンクと食べ物用意して、それから、ここまでたどり着くのが大変なダンジョンを追加して作るかーー!!」
そして、楽しそうにダンジョンを作る作業に戻る魔王の姿があったのだった。
*˖⁺─────────⁺˖*
おまけ。
兄さんが楽しそうにダンジョンを凶悪に作り替えてる頃、私達は旅をしているんだけど。
その途中で、コンラートの正体が判明した。
「えーー!? コンラートって、東堂先輩なの!?」
東堂先輩、東堂隆之さん。
先輩は前世で私が付き合っていた彼氏であり、兄の親友だ。
ええええええ!?
いや待って、そうだ思い出した!!
両親の墓参りの帰り、先輩と合流して、三人で食事に行く途中で事故にあったんだった!!
「えー! 何で言ってくれなかったんですか!」
「いやー、いつ、気付くかなと思ってつい見守ってた」
「性格も先輩じゃ無かったし、外見とかも全然違うじゃないですかー!!」
「デザインは、真悠ちゃんも秀明も、皆ツクレールのキャラになってるからね。性格はまあ、一応魔王の右腕の立ち位置だから、それっぽさ? を出してみた」
「うわあああああ、私、先輩に裏切るキャラだとか、恥ずかしこと言っちゃってた……」
「あれは、ビックリしたなー。でもそう来るとは思わなかったから、凄い笑い堪えてたんだよ」
「ふえええ、穴があったら入りたい」
「はい、どうぞ」
「魔法で! 穴を! 掘らないでええええ!!!」
「あはははははははは!!」
「──さて、それじゃあ改めて」
「え?」
「俺の事も思い出したなら、こっちの世界でも付き合ってください! そして出来たら結婚前提でお願いします!!」
「えええ?!」
「元々、前世で付き合ってる時も、いつか伝えられたらなとは思ってた」
「そ、そうなんですか? 私はそこまでは意識してなかった……」
「うん、だから真悠ちゃんが二十歳過ぎてから伝えようと思ってた。そこで少しでも意識してくれたら良いなぁって」
「でも兄さんはどうするの? 魔王になってるのよ? 世界征服したらどうするの?」
「秀明が本当にすると思う?」
「………兄さん、趣味はクラファンと献血。学生時代は園芸部員。
無いわね、無いわ。世界征服とは程遠いわ兄さん。
悪ノリが好きで、成人しても中二病ではあるけど、善意の塊に近い兄さんが魔王に転生したからと言って、世界征服できないわね。
よし、先輩、結婚前提でお付き合いしましょう! あと、どうせなら私、新居建てるならはきれいな湖水のほとりがいいわ!」
「おお、ブレネリ! いいね! 新しく土地を設定して作ろう!」
そうして私達は、湖水のほとりに新居を構えるために、転移魔法を使い、その場を後にした。
──その二人を、魔王城で見ていた兄
「ええええ、ちょっとーーー!?」
ジタジタ。
「二人がくっついたのは嬉しいけれど!!! ちゃんと魔王城まで来いよ!
お兄ちゃん寂しいだろおおおおお!!」
魔王城内で、ジタバタしなが魔王の叫ぶ声が響きわたっていったのだった。
とは言え、二人とも兄を親友を本当に放置する気は勿論なかったので、新居を魔法で創り出した後は、すぐに兄に会いに行ったし、なんなら魔王も、ちょくちょく新居へと、二人に会いに遊びに行く姿があったとかなんとか……。
*.·★ End ★·.*
この話は、軽くサクサク読める様にと、キャラ達のバックグラウンド等は、ほぼ書かず進めました。
(書いたのは死んだ理由と、両親が死んだ事位かな?)
兄が何で国を増やしてるのかとか、隆之は死んだ事をどう思ってるのかとか、その辺りも考えてたのですが、重くなるし絶対必要な情報でもなかったので、カットしました。
兄は難易度の高いダンジョンを作ってますが、そもそも魔王の右腕が一緒にいる訳なので、モンスター達は襲って来ないし、なんなら転移魔法で魔王の前まで行く事が出来るので、ノリで作っただけです。
親友も勿論、それは判ってるので、凶悪なダンジョン作られても気にしないのでした。
後、三人揃ってから、遊ぶ為に作ったと言うのが大きいです。
RPGツクレールは、元ネタは勿論RPGツクールです。
私自身がツクラーで、実際のRPGツクールでゲームを作ったり遊んでる側なので、その辺りのネタを楽しく入れられました。
専門用語プラグインとかもあるので、合間合間に主人公に説明させてみましたが、いかがでしたでしょうか?
なお、プラグインは本当に便利です。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
☆や感想、レビュー等がると、励みになり、とても嬉しいです!
それではまた、違う物語で会える事を!•*¨*•.¸¸☆




