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【全2話】悪役令嬢は胡桃を割り、兄は高笑いで待ち受ける 〜お兄ちゃん気を利かせたのに、この仕打ちです〜  作者: 九十九沢 茶屋


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1/2

婚約破棄は前座です

「エリザベス・ブルーム! この私、ホニャララ・ナナシノの名において、お前との婚約を破棄し、新たにこのヒロインとの婚約を締結することを、ここに宣誓する!」

 

「その婚約破棄、私の父や陛下は、了承を得てらっしゃるのでしょうか?」

「それは、これからだ!!」

 

 頭が痛くなりそうな程のテンプレ展開に、私は侯爵令嬢の立場も忘れて、扇子に隠れてるとはいえ、大きく息を吐いてしまう。

 扇子で口元を隠したまま、視線だけを周囲にやれば、ダンスをしていた方々も、楽団の皆様も、給仕の方も。皆動きを止めてしまい、私達のこの茶番劇を見つめておりますわ。うん、動かない様に設定されていますものね。

 

 と言うか私ったら、婚約者や、ヒロインの方の名前を考えてなかったままなの忘れてましたわ。

 ホニャララとか、家名がナナシノとか、我ながら酷いものよね。

 さっきから、肩が震えそうなのを誤魔化しているけれど、バレてないかしら。

 

 

 申し遅れました。

 私の名はエリザベス・ブルーム。

 ここナナシノ王国の、侯爵家の娘です。

 

 ……なのですが。えぇ、そこは間違ってはいないのですが。

 はい、お察しの通り、私は転生者です。

 

 

 ──よし、転生者って申告したし、もう口調も砕けた方向で話して行くね。

 

 

 でね、私が転生したこの世界、ビックリなんだけど、自分が作っていたRPGツクレールのゲームの中なの。

 自分が作っていたRPGツクレールのゲームの! (大事な事なので2回言いました)

 

 この辺りについては、説明が長くなりそうなので、また後で話すね。

 

 で、今は絶賛婚約破棄されてるイベント中なんだけど。

 私が何も言わないためか、辺りはシーンと誰も言葉を発さない。

 まあ、プログラム的に私がセリフを言わないと、このままイベントは進まないよね、そりゃそうよね。

 よし、まずはイベントを進めよう。

 

 

「恐れながら、私達の婚約は、色々な政略の下に決められております。ホニャララ様の一存で、そんな簡単に破棄など出来ま」

「黙れ! お前が、私の愛しいヒロインを影でイジメ抜いてる事は、聞いている! その様な卑しい女が我がナナシノ家に嫁いでくるなど、到底許されん! 事後報告だろうと、父上もお認めくださるに違いない」

「ホニャララ様……ありがとうございます……嬉しいですわ………」

「ヒロイン、私もだよ。待っててくれ。こんな、茶番劇はすぐに終わらせてしまおう」

 

 

 ホニャララ様とヒロイン男爵令嬢は、周りの醒めた視線をものともせずに見つめ合い、抱き合っている。ホニャララ様に至っては、腰に手を回す手付きがどことなくいやらしさを醸し出されており、嫌な気持ちになる。

 ただ名前のせいで、シリアスだろうが、見たくないイチャコラだろうが、何か全て雰囲気吹っ飛ぶ。名前って大事だわ……。

 

 

 さて、それじゃゲームのイベントを進めたいのだけれども。

 

 

 私、このイベント作るの、この辺りで放り投げてしまったのよねー。

 案の定二人はいつまでも見つめ合ってるだけだし、周りも何も喋らない。

 音楽だけが、チャララ〜♪と流れてるのが逆にシュールだわ。

 

 ツクレールとかの自作出来るゲームは、キャラ1個1個キャラのセリフを打ち込まないとだし(流通してるゲームもそうだろうけど)、だから当然、動きも打ち込まないと動かないんだよね。

 

 ここからは、アドリブというか、イベント内容にない展開になるけれど、進むのかな。バグって止まったり、エラー表示のポップアップが出たりとかしないよね……?

  

 と言うか、この悪役令嬢()、そもそもヒロインをいじめてないのよね。完全に冤罪な訳だけれども。そんなイベント作ってないし。

 それを言っても、聞く耳は持たないよね。持ってたら、こんな事を仕出かしはしないでしょうし。

 いやまぁ、そういうイベントを作ったの私なんだけど!

 

 さて、どうしたものかな。

 このまま突っ立ってるのも嫌だしなーと思ってた時。

 

 

 ─AIモード、プログラムスタート─

 

 

 ……え?

 

 今、何か聞こえた気がする。

 

 AIモード?

 そんな機能、このゲームに搭載されてたっけ?

 

「──えぇい! 何か言ったらどうなんだ!」

「え?」

「何だその態度は」

「あれ……殿下、喋れるのです?」

「ハァ!? 貴様、私をバカにしているのか!」

「いえ、とんでもない事でございます」

 

 

 ん?

 こんなセリフを私は入力した覚えないわよ?

 

 

「エリザベス様! もう素直に白状してくださいませ! 私も罪さえ認めて謝罪さえして頂ければ……う、うぅっ……」

 

 ヒロインまで入力覚えのないセリフを言い出してきた。

 

 どういう事かしらと思ったけど、さっきの『AIモード』が、もしかして原因?

 ……というか、それしか今の所心当たりないし、AIが対応してるのなら納得でもあるわ。

 

 よし、それなら私も普通に会話を進めよう!

 えーと、……そうそう冤罪で、ヒロインに暴力をふるったと思われてたのよね!

 何かいい案はないかしら。

  

 

 

 ──あら。

 

 

 

 そこで目に入ったのは、テーブルの上に沢山並べられている、美味しそうな菓子達。……ではなくて。飾りとして置かれている胡桃。それが私の目に入る。いい案が浮かんだわ!

 

「ホニャララ様。1つお伺い致しますが、私はどの様にマリア嬢を苛めたと仰るのでしょうか?」

「はぁ? 貴様、自分が何をしたか分かってないのか!? ヒロインを殴ったり、階段から突き落としたり、教科書破ったりしていただろう!」

「全部、冤罪ですわ。やっておりません」

「そんな……酷いです。私、あんなに恐かったのに……!!」

「あぁ、ヒロイン! 大丈夫だ! 私が必ずお前を守るからな!!」

 

 ヒシっと抱き合う二人。

 ああああ、くどい、しつこい!

 

 うん、これはとっとと話を終わらせないと、グダグダ続くわね!

 

「私は殴ったりなど、絶対しませんわ。えぇ、神にも誓いますとも」

「なんだと!」

「だって、私は」

 

 そこまで口にしてから、テーブルの上にあった胡桃を二つ取ると、そのまま片手でパキンと胡桃の殻をかち割った。

 

 

 

 ──ザワワッ………!!

 

 

 

 私の手から、パラパラと破れた胡桃が床に落ち、周囲がざわめきたつ。

 チラリと殿下とヒロインを見れば。

 私の割った胡桃の残骸を見て、真っ青になっている。


 この悪役令嬢、キャラ作成の時に、ステータスで腕力や筋力値だけ、意味もなくカンストさせてたんだよね。

 まさか、こんな所で役に立つとは思わなかったわ!

 

「他の女性方、いえ殿方と比較しても、握力が数倍以上あるのです。殴ろうものなら、多分ヒロイン様の顎か頬骨が、粉砕すると思うのですけれど」

 

 私の言葉にヒロインが「ヒッ」と声を上げ、真っ青になる。

 

「私はやってないと神に誓うのですが、信じて頂けないなら、その身を持って信じていただくしか」

 

 威圧的な空気を出しつつ、指をバキッポキっと鳴らしながら、二人の方に近付いていくと。

 

 

「もうっしわけございません!!! エリザベス様!! 私と殿下で、あなた様を陥れようとしてましたああああああ!!!!!」

 

 

 ヒロインが大声で白状し、かつ勢い良くジャンピング土下座をかましてきた。いいジャンプからのナイス土下座だわ。

 

 

「すまなかった、エリザベス!! お前が俺より執務をこなし父上たちや大臣達に受けがよく、民衆からも好かれてるし学業も俺より成績が上でムカついたんだ!! あと単純にヒロインの方が胸も尻も大きくて俺好みだったから、そのままお前を陥れてやろうと思ったんだ!!! 悪気はないんだ!!」

 

 

 いや、ありまくりやろ。

 …………これ以上ない程に、殿下も自分達のやらかしをゲロった。

 あと、本音もガッツリぶちまけられた。

 いや、私はいいんだけど、周りの貴族や護衛騎士、大臣達が皆ポカーンとしちゃってるけど、いいの?

 あ、私の体型をさり気なくディスられたのだけは、許さない。

 

「詫びとして、この場で切腹を」

「それは、やめてください」

 

 なんで西洋ファンタジー世界なのに、切腹文化あるんだよ。

 あと、一国の王子が切腹とか、洒落にならないから、やめようね。

 それに見たくないよ、臓物がこぼれ落ちるの。

 てか、なんでそこだけそんな潔いの!?

 そんな武士道精神あるなら、こんなお粗末な計画立てないでよ!!

 

 

 切腹の言葉に、騎士たちも、慌てて殿下を止めに入る。

 そうだ、いいぞ。護衛騎士()達は、殿下の暴走を止める役割でもあるんだ、頑張れ!

 

 

 

 

 ──でまぁ、結局私は冤罪となり、殿下とヒロインは捕らえられたけど、自白した事で(私に脅された? 聞こえませんなあ)、多少罪は軽くなったようだ。良かった。流石に目の前で切腹は避けたい。

 

 ただ婚約は解消になった。

 陛下が、私の意志を尊重してくれるというので、そこはお言葉に甘えて、白紙に戻してもらった。

 ありがとう、陛下。陛下の御代に幸あれ。

 

 

 まぁ、そんな事で婚約解消になり、私は実家の屋敷で、暫くのんびり過ごしていたんだけれど。

 

 

 

 解消イベントから、1週間位した日の事。

 

 

 

「──お嬢様、お客様です」

「私に?」

 

 

 部屋で読書をしたり、刺繍をしたり、筋トレしたり、鍛錬したりして過ごしてる時に、侍女から告げられた言葉に、私は「はて?」と、首を傾げた。

 

「私にお客様? どなた?」

「それが……その……」

 

 あら、珍しい。

 侍女が口淀んでいる。

 変な客人であれば、そもそも屋敷に入れない筈だから、身元は確かなんだろうけれど……。

 

「会った方がいいのかしら?」

「そう、ですね……出来たらお会いした方が……その……相手が相手な方なので……」

 

 平和??

 あれ、侍女がよく見たら震えてるし、顔色も悪いわ。

 よく分からないけど、侍女の様子から追い返すのも難しいし、かと言って無視もするの危険そうだなとなり、私は護衛騎士を伴い、客間へと向かう事にした。

 

 

 

「──お待たせして、申し訳ございません。ブルーム侯爵が娘、エリザベス・ブルームになります」

 

 部屋に入り、貴族としての礼をし、顔を上げる。

 

 と、そこにいたのは。

 

 群青の髪に、整った顔立ち、ややボブカット気味の髪型で、黒の魔道士ローブを身に纏った男がいた。

 

 私は男を見た瞬間、瞬時に悟った。

 

 

「あなた、裏切りキャラね!?」

「え?」

 

 

 男はいきなり言われた事で、動揺しているようだが、私は騙されない。

 

 

 そう。男の顔は裏切りキャラ定番の、細めの糸目に、薄く笑みを浮かべた顔立ちだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──あなた、裏切りキャラね!?」

 

 CM明けの様に、私はもう一度同じ言葉を発し、ビシィッと相手を指差す。

 

「…………」

 

 指さされた裏切りキャラは、そのまま暫く固まっていたが、やがてソファから立ち上がると、私の目の前に来て。

 スコン! と頭を手刀で軽く叩いてきた。

 

「人を指差すのは、おやめなさい」

「はい、すいません」

 

 思わず反射的に謝ってしまったわ。

 ……威圧的でも怒ってる訳でもないのに、何でかしら。

 

「裏切りとか、いきなり何なのですか。私は()に仕える忠実なる臣なのですよ」

 

 ()、ね……。

 仕える相手に「王」と呼ぶ様に設定していたのは、魔王のみ。


 このキャラ、魔族なのか……。

 しかも雰囲気からして、側近とか、それクラスよね。


 なるほど、侍女が怯える筈だわ。

 かく言う私も、顔には出さないが、相手の素性に気が付き背中に汗が伝う。

 私の態度が変わったのに気が付いたのか、おや、と小声で呟くと、口元に手を当てながらクスクス笑いだしてきた。

 

「別に取って喰いやしませんし。私はきちんと貴女に用事があって来たのですから。先ずは座って話をしませんか?」

 

 

 

 

「それで、私にはなんの用事なのでしょうか? 私は名前も名乗らぬ方に知り合いはおりませんけれど」

「失礼しました。私は王に仕える魔術師であり右腕でありナビゲーターであり雑務対応である、コンラートと申します。以後、お見知りおきを」

 

 

 名前がある。

 こんなキャラ作った覚えないのに?

 これもAIが勝手に設定した一つなのかしら。

 ……にしても、魔術師であり右腕でありナビゲーターであり雑務対応って、それ単に便利屋なだけではないの??

 ま、まぁいいわ。

 

 

「改めて、ごきげんようコンラート様」

「ごきげんよう。本日は、我が王よりエリザベス様にお渡ししたいものがあるとの事でしたため、急遽伺わせて頂いた次第です」

 

 私に渡したいもの?

 会った事もない魔王から?

 

「ふふ、そんな警戒せずとも大丈夫です。我が王はエリザベス様に危害を加える気は一切ございません」

 

 柔和な笑みを浮かべながら(糸目なのに器用ね)、コンラートは懐から封蝋の付いた書状を出しと、私へと差し出す。

 

「……こちらは?」

「我が王からエリザベス様への書状にございます。どうぞ目をお通しください」

 

 ……。

 開けていいのかしら。変な罠とかじゃないでしょうね……。

 

 あ、そうだわ。

 

「いいえ、お断りします」

「そんな、ひどい……!!」

 

 …………。

 

 

「──ふふ、そんな警戒せずとも大丈夫です。我が王はエリザベス様に危害を加える気は一切ございません。書状にどうぞ目をお通しください」

 

 

 あ、これ会話ループに入るやつだわ。

 AIモードなのに、そういうプログラムも、しっかり反映するのね!?

 

 きっとここで断ってもまたか

「そんな、ひどい……!!」になって、延々と同じ会話が続くだけのやつ。

 古き良き伝統美の流れね!

 

 となると、受取る一択しかないので、私はそのままコンラートから書状を受取り、中を開いていく。

 達筆な文字で書かれたその内容に私は目を通していき。

 

 目を、通して、行って……。

 

 

 私はその書状を、グシャスと握り締めた。

 

 

 そんな私の反応にも態度を崩さず、コンラートはニコニコと笑みを浮かべたままだ。

 

「書状へのご返答を頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 彼の問いに、私もニッコリと笑みを浮かべて、こう返した。

 

「首を洗って待っていろ、とお伝えください」

 

 

 

 

 …………─────────。

 

 

 

 

 暫し部屋に静寂の間が訪れた後。

 

「あっははははははははは!!!!」

 

 コンラートは、盛大に笑い声を部屋に響かせた。

 

 

「いや、失礼。まさかその様な返事をいただけるとは思いませんでしたので」

「構わないわ。でも、私としてはそう返したくもなりますのよ?」

 

 だって。

 

 

 

魔王に転生した(・・・・・・・)、前世の兄からの手紙なんですもの」

 

  

 

 

 

 

前後編の話になります。

後編は本日18時に更新です。(予約投稿済)


読んで頂き、ありがとうございます(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾


少しでも続きが気になるとか面白いなと思えましたら、いいねやブックマーク、感想やレビューなどあると嬉しいです。


続きもどうぞ、よろしくお願いします(*ˊᗜˋ)

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