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第48話 嬉しい誤算

「……イマイチ要領を掴めんが、つまりは『強くなりたいから力を貸してほしい』と?」


「うん、その通りだよ」


 授業も全て終わってさあ帰ろうとしたところで二人に捕まり、フヨウの研究所《ラボ》がある学園外れの広場にやってきていた。

 そこで鍛錬の協力を申し込まれたのだ。


 ……原作でも似たようなイベントはあったが、ここまで強く迫ってはこなかった。

 師事を仰ごうと声をかけるも、ラゴウには素っ気なく返されるという展開だったはずだ。


 最終的にはセツカに稽古をつけてもらい、彼女と距離を縮めるという流れだ。

 だがまあ確かにセツカが強さを見せつけるイベントがなくなってるし、こうなって当然か。


 ラゴウはたまに冷たくも的確なアドバイスをかけるといった塩梅だったが、さて。


「……刀剣武闘会の話を聞いて闘志でも沸かせたか? 無駄なことだ。剣を握って日も浅い貴様ではたかが知れている。今から鍛錬を重ねたところで効果は薄い」


 それに、と続ける。


「そもそも馴れ合うつもりもない。……蹴り飛ばしてやった時のことをもう忘れたか?」


「覚えてる。でも君しかいないと思ったんだ。僕が知る中で、君からが一番学べそうだから」


「……貴様は王国最強と知り合いなのだろう。俺より奴の方が強い」


「そうだけど、フヨウさんはその、ちょっと真似できそうにないというか。『天眼』とかいうずる……凄い目持ってるし」


 ずるいと言いかけたな。まあ同意するけど。

 人が数ヶ月かけて習得した"縮地"を一目で見破りやがってあの女。


「だから失礼だけど、君の強さはなんていうか、手に届く延長線上にある中で一番上だと思うんだ」


 ……ふうん、なるほど。一番上か。

 確かにフヨウを除けば、今のところシャクヤの周りにいる中で一番強いのは俺だろう。

 これまで積み重ねてきたモノが違う。


 流石は主人公、見る目があるじゃないか。

 まあ別に嬉しくはないが? それはそれとして褒め言葉として受け取っておいてやろう。


「確かに……貴様が学習できる身近な人間の中での最強といえば俺だろう」


「だったら」


「断る。俺に利がない」


 嘘だ。本当はめちゃくちゃある。

 早く強くなってもらわないと一度負けてから強敵との戦いで「勘違いするな。お前を倒すのはこの俺だ」って助けに入れないし。


 しかし、俺は今ラゴウなのだ。


「強くなるには動機がいる。動機の欠けた修行は非効率的なだけだ。貴様にそれがあるのか?」


 原作と同じ断り文句を殺気と共に言い放つ。

 この質問を超えられるなら面倒を見る。そうでないなら諦めてもらう。


 シャクヤはしばらく口を閉じたかと思うと、まっすぐな目で言った。


「故郷を焼かれて……黒装束に狙われて……強くなきゃ、何も守れないんだって思い知らされた。僕はこれ以上、大切な人達を失いたくない」


「ありきたりだな」


「その"ありきたり"が大切だと思うから、踏みにじられないための強さが欲しいんだ」


 良くいえば王道、悪くいえば陳腐。

 面白さという観点からすると大変つまらない。


 だが──主人公《シャクヤ》としては満点だ。

 原作では鼻白んでいたが、復讐を持ちかけたことが覚悟に功を奏したのかもしれない。


「……心底どうでもいいが、ラニといったか。貴様には興味がある。そいつと出会ってからの経緯(いきさつ)を教えるというのなら、暇な時に相手をするくらいはしてやろう」


「…………え、それだけ?」


「不服か? ならばもう一つや二つ条件を足すが」


「いや、全然! でもなんていうか、ねぇ」


「わらわとシャクヤのお話を聞くだけでいいの?」


 ああ、と頷く。これが一番いい落とし所だろう。

 この二人の情報は各勢力喉から手が出るほど欲しがっている。つまりこの二人の過去もまた重要な手土産となり得る。

 ラゴウの選択として違和感は少ないだろう。


 それに、なにより。

 『魔剣戦記』のファンとして、主人公たち本人から生の過去を聞ける機会は逃せない……!


「剣の教えを仰ぐ以上、ちゃんとした言葉遣いは大事だよね。……よろしくお願いします、師匠!」


「よろしくお願いします!」


「……好きにしろ」


 元々この章から接触を増やすつもりではあったが、これはこれでありだった。

 そうして彼らとの嬉しい誤算(しゅぎょう)が始まった。


「悪いが、優しく手解きしてもらえるような生温い教育は受けてこなくてな。……打ってこい」


「……? 師匠は剣を抜かないんですか?」


「貴様相手に刀を抜く必要があるのか?」


「ッ──それはさすがに、舐めすぎだっ!」


 純白の剣身が振られるが、問題ない。鼻先ギリギリで剣を回避する魅せプさえかましてみせた。


「強さを求める上で重要なのは己の『強み』と『弱み』を知ることだ」


 ゲームでも同じだ。性能を解析しなければ、どのキャラが強いのか判じることはできない。


「当たらない……!? 足かっ」


 シャクヤの視線が俺の足元へといった。剣道のすり足を下敷きにした、独特な足捌きで攻撃を回避していることに気がついたのだろう。

 見様見真似で俺の足捌きを模倣し始めた。


「貴様の武器は"それ"だ。他者の動きの模倣……そしてそれを可能とする優れた『目』。下らん猿真似では王女に敗れていただろう」


 ゲームにおいて模倣した魔剣を使う際、シャクヤの戦闘モーションは他キャラとの共用だ。


 全部で三十五本もある魔剣に、一々個別のモーションなんて作っていられるはずがない。

 悲しいけど、これが開発の現実なのよね。


 そういったシャクヤのゲーム性能が現実のものとして解釈された結果が、卓越した洞察力と分析力による高精度の模倣なのだろう。


「だが所詮は模倣。本家本元には敵わない」


 俺の回避先を読んだ上で放たれた斬撃を、さらに読んだ上でしゃがみ込み、足を払う。

 転んだシャクヤの腹に蹴りを放ち、数メートルほど吹き飛ばした。


「その腹の痛みが何よりの証拠だ。対抗するにはより多くを模倣し、相手に応じた最適解を出せるようになるしかない。だが貴様には圧倒的に経験が不足している」


「ごほっ、ごほっ……!!」


 咄嗟に魔力を集中させていたが、防ぎきれなかったダメージが響いているようだった。

 なんとか立ちあがろうとしている奴に近づき、再び蹴りの一撃を放つ。


「ならばどうする? 武闘会まで時間は残り少ない。悠長に経験を積んでいる暇はないが」


「どうするって言ったって……!」


 剣の腹でガードされるが、想定内だ。


「死ぬ気で喰らいつけ。それしかない」


「っ、どうやって!」


「体で覚えろ、痛みで刻め。そのために必要な手本なら、目の前にあるだろう」


 瞬間、シャクヤの動きが変わった。

 さっきまでは拙い猿真似だったが、要所要所ですり足を織り交ぜることで緩急を調整してきた。


 すり足の強みは瞬発力であり、もっといえば対応力にこそある。

 両足を接地させたまま動くため、普通に歩くのと違って片足が地面から離れることがない。


 つまり、常に安定したまま動くことができる。

 

 シャクヤのすり足はまだまだ未熟だが、ならばと今の自分にあった使い所を見つけたのだ。


「……物分かりはいいようだな」


「……真似っこだけじゃダメだ。それがどういう動きなのかよく考えて、自分に合った形に直していかないといけない」


 学ぶとは真似ぶが語源だという。

 相手の真似をすることで動きが持つ意味への理解を深めていけば、おのずと自分にあった動きへ応用できる。


 更に理解を進めれば、相手の行動を予測することにも繋がってくるだろう。


 それがどんな意味を持つのか。

 スイゲツとの修行の日々で俺は学んでいる。


「生き物にはそれぞれの"呼吸"がある。個人の癖や好み、体質によって生じる思考や動きの偏り……それが理解できれば、どんな敵にも有利を取れる。相手の手札を一方的に読めるのだからな」


 ババ抜きで相手がどんな手札を持っているのか、分かっていれば負けるほうが難しい。


 相手がどんな手札を持っているのか戦闘《ゲーム》の中で探り、未知をなくしていく。


 どの手札が相手にとっての弱点《ババ》であるかを見極め、そこを突いて勝利する。

 ゲームでもリアルでもそれは変わらない。


「……などと言われたところで、すぐに実感できるものでもないだろうが──」


「相手の動きを模倣して、"呼吸"を理解する……そうか、そういうことだったんだ」


 あれ、おかしいな。俺が当時同じことを言われた時は意味を理解して実感するまで月単位でかかったのに、一瞬で理解したかのような言い草だぞ?


「ありがとうございます、師匠。僕、どうやって強くなっていけばいいか分かりました!」


 これだからバトル作品のキャラは嫌いなんだ。

 嫉妬じゃない。これだけはハッキリしてる。


「……まあいい。次は貴様だ、魔剣の精」


「えっ、わらわ?」


「当然。まさか自分は関係ないとでも?」


「う、そうじゃないけど……わらわが強くなるって、一体どうやって?」


 ゲームではイベントを除くと、アベリアが魔剣を解析し、強化してくれる要員だった。

 この世界でもやるつもりだが、今回はそういう話じゃない。ラニ自身の強化方法だ。


「初めに聞くが、貴様は魔剣と合体している際、どのように外界を知覚している?」


「え? えーっと……なんかこう、見えないけど観えるみたいな感じ!」


 死ぬほど雑だが、なんとなく分かった。


 やはりラニはゲームでいうところの三人称視点、およびカメラ機能の部分を担当しているのだ。

 ゲームだと壁越しの敵を透視するように知覚する機能があったりするが、まさにそれだ。

 

 最初に襲撃をかけた時、俺の"縮地"を一度は凌いだのもそれが理由だろう。

 単に手を抜いていたというのもあるが、シャクヤとラニで二重の視点があったから"縮地"が思うように機能しなかったのだ。


「つまり貴様らにはそれぞれの『目』があるということだ。相手は不意をついたつもりでも、貴様からは丸見えというのも容易にあり得るだろう」


「あ……!」


「互いが互いの隙を補い、生死を共にする。……一蓮托生というやつだ」


「一蓮托生、か……」


「えへへ、なんだかわらわたちっぽいね」


 二人して視線を合わせて笑い合う。


 ラニがヒロインのグランド√に移行してもらう関係上、二人の仲を深めさせるのも必須事項だ。

 まるで仲人にでもなった気分だった。


「他にも強くなる手段はある。魔法の習得もそのうちの一つだ。盲目に一つを追うのではなく、複数の手段を検討した上で自分だけの道(ビルド)を選べ」


 ゲーム通りならシャクヤは何でもできる。

 魔法も全属性に適性を持ち、気配遮断のようなコモンスキルも当然習得可能。

 各ツリーごとのリビルドも可能で、自分だけのシャクヤを生み出すことができるのだ。


 ちなみにラゴウは闇属性特化だ。

 悪の組織のライバルだし、下手に複数属性に適性があるより闇特化の方がカッコよくていい。


「……指針は示した。あとは貴様らの話分に見合うだけの稽古はつけてやる」


「っ……はい、お願いします!」


「頑張ろうね、シャクヤ!」


 意気込む二人を無表情で見つめながら改めて思う。やはりラゴウはシャクヤにとって最大の宿敵(ライバル)になるべきだ、と。


「……表の顔で二人の師匠となり、裏の顔では復讐へ誘う悪魔となる。これなら、いざ俺の正体が露見した時のインパクトも高まる」


 なによりライバルキャラたるもの、主人公と実力が伯仲しているべし。

 二人が強くなればなるほど、ライバルキャラとしての純度も高まっていくというものだ。


 いずれ来たる未来を妄想して、ニヤつく口元を必死に抑えるのだった。

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