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第1話 不遇キャラを好きになるほどむなしいことはない

 どうしてこうなった。

 眼下で跪く数十の人間たちを視界に収めながら、ふとそんなことを思った。

 

「ご覧下さい。彼らは皆、我々の意思に賛同してお集まりくださった同志たち……ラゴウさまを長とする団の仲間です」

 

 団の長か。

 いつの間にそんなものになったんだろう。

 我々の意思っていうけど、俺の意思とお前たちの意思は多分違うと思うよ。

 

「悪逆非道の『組織』に反旗を翻すべく集った反逆の徒。これも全てはラゴウさまの人徳あっての結果……流石でございます」

 

 人徳もクソも誰一人として見知った顔がいないんだけどなぁ。

 

「さあラゴウさま。悪の組織に立ち向かう『英雄』として、彼らに向けたお言葉をお願いいたします」

 

 そんなものないよ笑。

 そう口に出そうになったのを必死に堪えて、それっぽい演説の内容を急拵えで考える。


 本当どうしてこうなってしまったんだろう。

 俺はただ、理想のライバルキャラになりたかっただけなのに。



 『魔剣戦記』と呼ばれるゲームがある。

 中世ファンタジーな世界観で魔剣を操る厨二アクションRPG。

 アニメ化も果たした令和の神ゲー。


 ──しかしどんな神ゲーにもクソなところはあるように、魔剣戦記にも『汚点』が存在していた。


 悪の組織に属する敵キャラ『ラゴウ』。


 舞台となる学園に送り込まれたスパイで、幹部でありながら組織への反抗心を秘めている。


「口調も態度も冷たいけど、よくよく観察すれば優しさが垣間見えるツンデレ気質なクールライバルか……ふ、俺好みだ」


 設定だけは最高だった。

 一言でいえば『素材は良かったが、製作陣が調理をミスった不遇キャラ』、それがラゴウだった。


『馬鹿な、俺が貴様如きに負けるだと……!?』


『僕には支えてくれる仲間がいた。それが君との決定的な違いだよ』


 人は孤独でこそ強くなれるというラゴウを仲間との絆の力で倒し、お互いの強さを認め合う。


「ここから改心して王道ライバルになっていくんだろうなぁ」


 そう思っていた時期が俺にもありました。


『そう遠くないうち再会の時は訪れる。その時に今回の借りは返す。それまで誰にも負けるなよ』


 と王道のセリフを吐き──しばらく音沙汰がなかったと思ったら急に出てきて、何も残せないままラスボスに雑に殺される。


 別にラスボス相手に負けるのはいいんだよ。

 主人公の前座はライバルとしての役目の一つだ。


 しかし不意打ちであっさりやられて終わりじゃ引き立て役にすらなれてない。

 かませ役の在庫処分でしかなかった。


『君は期待外れだ。私のシナリオには要らない』


「は? ふざけんな!」


 まるで製作陣の言い訳のような台詞に、そうこぼしてしまったのも仕方ないだろう。


 そして俺は、そんなラゴウをこそ愛してしまった悲劇のプレイヤーだ。

 俺は生粋のライバルキャラオタクだった。

 悟空よりベジータ派、アムロよりシャア派だ。

 

 どれくらい好きかと言えば、ライバルキャラになるためにスポーツの名門校に入学して、嫌味なエリートキャラとして過ごすくらいには好きだった。

 まあ全然なれなかったんだけども。


 陰ながら主人公を助けたり、一方で人間性の面で対立したり……。

 黒い日本刀に軍服風衣装、白髪赤眼の片目隠れライバルキャラなんて俺好みにも程がある。

 胸を躍らせながら発売即プレイした結果、天上から地の底へと叩きつけられる羽目になった。


 なんだこれは。

 ライバルキャラの姿か? これが……。


 怒りのあまりネットに長文お気持ち怪文書を投下しまくって炎上した。


 推しが制作に愛されず、大衆からは馬鹿にしていい失敗キャラとして消費されてしまう悲しみ。

 俺はラゴウが理想のライバルキャラとしてもてはやされる世界を妄想する日々を過ごした。




「それがまさか、ラゴウに転生するなんてな……」


 公式資料集に申し訳程度に記されていたラゴウの設定知識を活かして、現状の把握に努める。


 ラゴウはある地方貴族の長男として生まれるのだが、当主は代々組織に忠誠を誓う狂信者だった。

 

「わ、我が息子が魔剣使いの素質を持って生まれた!? それは本当ですか!?」


『魔剣はそれぞれの適合者でなければ起動できない。故に反応を示した貴様の子息を頂戴に来た』


「ああ、こんな光栄なことはない! 組織の為ならばたかが息子の一人や二人、いくらでも献上いたしましょう! どうか存分に役立ててください!」


 というやりとりによって五歳の俺はあっけなく売り飛ばされてしまった。


 実の親に一切の躊躇なく売られるって中々に堪える展開だよな。

 そういう悲劇の悪役っぽいところに惚れ込んだというのに製作陣ときたら……いや、愚痴はやめておこう。


 馬車に乗せられ、組織の基地までドナドナされる。

 無理に外そうとしたり反抗の意を示せば即座に首と胴が泣き別れする術式の刻まれた『首輪』をつけられ、逃亡は不可能となった。


「地獄へようこそ、哀れな子供達。ここは黒十字騎士団の訓練施設。獅子王様に仕える騎士を選別する場所だ」


「我らが組織は大変公平かつ平等だ。たとえばここにいる魔剣使いの素養を持った生意気なガキも……」


 教官を務める黒十字団員の一人が俺の目の前で立ち止まり──鳩尾に蹴りを入れてきた。


「が、ふぅ……っ!?」


「このように特別扱いすることなく、無能と判断すれば簡単に切り捨てる。ここでは弱肉強食のみが絶対の掟。弱者はどんどん死んでもらう」


 膝から崩れ落ち、苦痛で何度も喘ぐ。

 今俺を蹴ってくれやがった教官、顔に大きな傷がついた『傷の教官』の顔を見上げる。


 クッソ、覚えたからなこの野郎!

 血混じりの痰を吐き、なんとか立ち上がった。

 

「……このままいけば、俺はラゴウと同じ人生を歩むことになる」


 悪の組織──魔剣の力で世界征服を目論むよくある感じのやつ──の幹部として育て上げられ、原作ヒロインと共に学園へスパイとして送り込まれ、中途半端なキャラのまま殺される。


 首輪のおかげで組織からの離反は不可能、つまり原作ルートからは逃れられない。

 下手をすれば本編時間軸に到達する前に犬死する可能性だってある。


 そんなのは嫌だ。俺は死にたくない。


 せめてラスボス戦後に主人公と戦うやつがしたい。

 「勘違いするな、助けたわけじゃない。ただ……貴様を倒すのはこの俺だ」って言いたい。


 推し(ラゴウ)を、理想のライバルへ仕立て上げたい。


 ならばやるべきことは一つだろう。

 『魔剣戦記』は作品内での選択次第でストーリーが分岐するシステムを持っていた。


 震える拳を天に掲げる。

 ラゴウが理想のライバルキャラとして生き残るルートを、この手で掴み取ってみせようじゃないか。

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