cloverroom lastcase
lastcase 花嫁
今日は私
名崎のぞみ
24歳の人生最大のイベント
結婚式当日です
私は仕事場では通称ナノと呼ばれています
そう
cloverroomの案内人であります
もちろん、結婚相手の幼馴染神田幸弘には内緒で、周りには小さな会社の受付をしている事になっています
その秘密も今日で最後、結婚を機に会社は退社しました
朝からバタバタと準備で忙しく、父の民雄がまだ来てないことに気付いたのは、ドレスを着終わった頃だった
「えっお父さんまだ来てないの?」
「そうなのよ、兄さんたら迷ってるのかしら」
「え~昨日一応一緒に来たのよ」
「もっかい外見てくるわ」
「お願いします」
伯母さんがドアを開けたと同時に父がやってきた
「兄さん、遅いわよ」
「悪い悪い」
「お父さん、心配したわよ」
父はへらっと笑った
そして
式は問題なく進んだ
バージンロードを父と2人でゆっくりと歩く
2人きりの父子
母は私が小さい時亡くなった
だから
母との思い出はない
写真があるだけ…
でも
父と2人でケンカをしながらも仲良くやってきた
幸弘は小学生の時から近所に住んでいて毎日のように遊んでいた
だから父とも仲が良かったから結婚となっても喜んでくれた
そんな事を思い出しながら歩いて、父から幸弘の腕に移動する
「汝、名崎のぞみは…」
「誓います」
神の前で私達は
夫婦となった
そのまま教会の庭で
立食パーティとなる
私はもう少し歩きやすいドレスに着替えため部屋に戻った
その頃
父と幸弘はお酒を飲みながら楽しそうに話していた
のぞみがいなくなったのを見てから真剣な目で話出した
「幸弘」
「何?おじさん」
「もうおじさんじゃないだろ」
「そっか…何か照れ臭いな」
「そうだな…
でも父さんって呼んでくれよ」
「お父さん」
顔を赤くしてにへっと笑った
「嬉しいもんだな
幸弘に親父と呼んでもらえるなんて」
「俺もだよ」
父は幸弘の手をギュッと握った
「幸弘
のぞみにはお前しかいないんだ
のぞみの幸せは俺の幸せでもある
男手一つで育ててやっとのぞみを渡せる男に出会えたと思うんだ
のぞみをよろしく頼む」
幸弘の手を握る民雄の手はしわしわで昔と違う年老いた手だった
「…お父さん?」
民雄は安心しきった顔で笑った
「ちょっくら、用たしてくるわ」
「…うん」
昨夜
父と実家で過ごす最後の夜に母が亡くなった時のことを詳しく聞いた
母は元々体が弱く、とても子供を産める状態ではなかった
でも母はどうしても産みたいと言って私を産んだらしい
「民雄さん
私はどっちにしろ短い命です
あなたが悲しむ時間をこの子の時間にするために産むの」
それでも母はすぐ亡くなったわけではなくて、一週間ほどは生きていて、私をずっと抱き締めていた
父は私がその事を知るとずっと気にするのではないかとこの日まで隠していた
この夜は2人で昔話をして泣きながらも笑って過ごした
結婚式当日は準備があるので私は早く家を出た
父はまだゆっくりとご飯を食べていた
それが
父との最後の日だと
知らずに……
着替えが終わり、パーティ会場に向かう途中伯母が走って私の元にやってきた
「どうしたの?」
「今、警察から電話あって…兄さんが」
「……えっ?」
父は亡くなった
急いで病院に向かったのも束の間
警察の話によると
結婚式が始まる前に事故にあい、つい先ほど亡くなったらしい
身元がわかるまで時間がかかり、今になって連絡がきたのだ
私の目から涙が止まらなかった
「……なんで」
「のぞみ」
「さっきはあんなに元気で…」
「のぞみ、落ち着いて」
「落ち着けっていったって…さっき…お父さん」
私は
幸弘の胸で
大泣きしていた
「のぞみ」
幸弘は
のぞみを優しく
優しく抱き締めた
少し経って
のぞみは落ち着いてきた
「お父さんの顔みたい…」
「うん」
父は
すごく安らかな顔をしていた
「お父さん」
「会いにきてくれて」
「ありがとう」
もしかしたら
cloverroomに父は
行ったのかもしれない
そう思った
cloverroomを最後まで見て頂いた方ありがとうございました。
やっぱり恋愛以外だと難しくて短くなってしまいました。
また次の作品も見てくださると嬉しいです。
それではまた
fairyでした