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【誕生日パーティー】

「いやー、楽しかった楽しかった」



 ユフィーリアは清々しい表情で旅行鞄を引き摺りながら、用務員室を目指していた。


 初めての冥府大図書館では、とても有意義な時間を過ごすことが出来た。蔵書数はヴァラール魔法学院にある魔導書図書館に勝るとも劣らない数であり、しかしその全ての書籍がこの世からなくなって久しい絶版本なので何から読もうかと目移りしてしまうほどだ。

 しかも金銭を払えば蔵書を引き取ることが出来るという仕組みになっており、ユフィーリアは大枚を叩いてたくさんの絶版本を引き取ってきた。これらを書斎で大切に読むのが待ち遠しい。思いの外、引き摺り出されるほど長居するかもしれないと思っていたが、本を引き取ることが出来る仕組みをあらかじめ聞いていたので、長居することなく現世に帰ってこれた。


 ホクホク顔で旅行鞄を引き摺るユフィーリアは、鼻歌混じりに廊下を進む。伽藍と誰もいない、それでいてどこか薄暗い廊下を。



「今日は収穫祭だってのに、やけに大人しいよな。どこかでやってんのかな」



 どこか別の場所で収穫祭のパーティーでもやっているのだろうか。それとも帰ってくるのが遅すぎて、すでに撤収作業となってしまったのだろうか。

 時間帯としては確かに夜には夜だが、まあまだ校舎内なら誰かしら出歩いてもいい頃合いである。ユフィーリアだってこの時間帯に何度か購買部に出かけたこともあるのだ。誰も出歩かないのはおかしいだろう。


 首を傾げてようやく用務員室に辿り着いたユフィーリアは、扉を開けた瞬間に破裂音と共に迎え入れられた。



「誕生日おめでとう、ユフィーリア」


「おめでとぉ、ユーリぃ」


「おめっと!!」


「今日は最高の1日ネ♪」


「ほわ」



 クラッカーを盛大に鳴らしてユフィーリアを出迎えたのは、問題児として共に長い時間を過ごしたエドワード、ハルア、アイゼルネ、ショウの4人である。ついでに学院長のグローリアや副学院長のスカイ、ルージュにキクガ、八雲夕凪、リリアンティアなどの七魔法王の面々も集合していた。

 それどころではない。父親のオルトレイを始め、アッシュ、リアム、そしてアイザックの冥府トンデモ4人組まで大集合していた。よくもまあ集められたものである。ある意味で感心する。


 豪華メンツを前に固まるユフィーリアは、ようやく「あ」と再起動を果たした。



「そうだった、すっかり忘れてた」


「忘れんなや、こーの阿呆娘ェ!!」


「あいたァ!?」



 父親のオルトレイから指先で額を思い切り弾かれ、ユフィーリアは痛みで悲鳴を上げてしまう。



「まーったく、なかなか帰ってこないから心配したぞ。どこぞで飯でも食ってるのではなかろうかと、アム坊に様子を見に行かせようと何度も進言してな」


「どうせ今日のうちに帰ってくるだろうから心配しない方がいいと私から何度も説明した訳だが」



 呆れた口調で言うオルトレイの横で、キクガが「だからちゃんと帰ってくると言っただろう」と肩を竦める。キクガが父親の暴走を止めてくれなければ、今頃は冥府大図書館から早々に引き摺り出されてきたのか。



「ユフィーリア、今日はエドさんとオルトレイお義父様が腕によりをかけてご飯をたくさん作ってくれたぞ」


「ショウ坊、いつから親父のことを『お義父様』って呼ぶようになったんだ?」


「? 将来的に結婚するなら何の問題もなくないか?」


「あー、うん、そうだな」



 最愛の嫁が、それはそれは可愛らしい笑顔で言うので、ユフィーリアはもう何も言えなくなってしまった。視界の端でオルトレイがキクガに卍固めの刑に処されていたが、気にしないことにした。何で未だに慣れないのだろうか。


 それはそうと、誕生日パーティーの会場となった用務員室はかなりの広さがあった。普段はごちゃごちゃと物で溢れかえっているので狭い印象だが、何故か広さが拡張されているような気がする。本棚があった位置が本棚ではなくなっていた。

 机も大きめのものが運び込まれており、大皿には肉料理や魚料理、焼き菓子などがずらりと並んでいる。さらには葡萄酒に清酒、麦酒に火酒など酒も大量に用意されている。これはいくら飲んでも怒られなさそうだ。だって今日の日の為に用意されたのだから。


 広々と改造された室内を見渡すユフィーリアは、



「ここ、何か広くなってねえか?」


「この人数だからね。空間構築魔法でちょちょいと拡張したよ」



 葡萄酒を早々に硝子杯へ注ぎながら、グローリアが応じる。



「人が多いし、それならちょっとぐらい広くしても問題ないでしょ。魔法ならどうとでもなるし」


「そういや、今日って収穫祭じゃなかったっけ? 何で外はあんなに静かなんだ?」


「収穫祭の当日が平日で、どこの授業でも小テストが連続するから勉強をさせる為に持ち越したよ。次の土曜日ぐらいから仮装した生徒が増えるんじゃないかな」


「学生の事情だなぁ」



 まあ、そういう正当な理由があるのだったら仕方がない。首を突っ込むことも出来なさそうなので、ユフィーリアは何も言わないでおく。

 それよりも今日は誕生日だ。せっかくの誕生日パーティーを楽しむべきではないか。


 ちょっとお高めの葡萄酒が注がれた硝子杯をグローリアから受け取ったユフィーリアは、



「ところで、今年の誕生日の貢ぎ物は?」


「…………」


「まさか、用意してないって訳はねえよな?」



 くぴくぴと葡萄酒を消費しながら、ユフィーリアは誕生日パーティーに招待されたらしい面々を見渡す。

 誕生日なのだから、誕生日プレゼントをねだってもいいだろう。毎年、何だかんだと色々ともらっているので、今年は何を用意してくれているのだろうかとちょっぴりだけ期待したり何かしたりしたものだ。今年は冥府大図書館の絶版本という強敵がいるので、簡単には驚かない。


 ショウたちは互いの顔を見合わせてから、ユフィーリアの質問を「待ってました」と言わんばかりに破顔する。というか悪魔のような笑顔だった。



「ユフィーリア、今年の誕生日プレゼントは合作だ」


「合作?」


「ああ。俺と父さんが異世界知識を出し合った」



 ショウとキクガがちょっと自信ありげに胸を張り、



「ボクとオルトレイさんで魔法兵器エクスマキナを組み上げたッスよ」


「なかなか有意義な時間を過ごせたな。あれらの知識はいずれ冥府の呵責で役立つ」



 スカイとオルトレイが誇らしげに言い、



「空間構築魔法で君の書斎はちょっと改造したよ」



 グローリアが何でもない調子で答え、



「俺ちゃんたちが中身を厳選したよぉ」


「いっぱい選んだよ!!」


「おねーさんたち頑張ったわよネ♪」


「気に入っていただけると嬉しいですの〜」


「儂も選んだのじゃ」


「身共も、母様のお好きそうなものを選ばせていただきました」


「だな」


「うん、ぼくも頑張った」


「吾輩の贈り物、ぜひとも楽しんでもらいたいものよな」



 そしてエドワード、ハルア、アイゼルネ、ルージュ、八雲夕凪、リリアンティア、アッシュ、リアム、アイザックの残りの面々が清々しい笑顔で言ってくる。


 首を傾げるユフィーリアに、グローリアが指を鳴らした。

 それだけで用務員室の隣の部屋――居住区画に仕掛けられたらしい魔法が発動したようだ。膨大な魔力が蠢くのを、肌で感じた。





 ――――ズゴン、ガコガコガガガガドゴン!!





 誕生日プレゼントを用意するような音ではない。



「え?」


「書斎を見てきたらいいよ」



 固まるユフィーリアに、グローリアが書斎を見に行くように促してくる。


 何か今の、不安を覚える音に嫌な予感しかしない。だが、用務員室の中でも特に気に入っている書斎の様子が気になるのも事実である。あの場所に変な手を加えられたらそれこそ怒る自信がある。いくら誕生日でもそれはないだろう、と。

 あの嫌な予感しかしない音の正体を確かめに行く必要はあるだろう。せめて変な改造を施されていないことを祈るばかりだ。



「書斎を変な風にしたら殴るからな、特に親父」


「何故にオレだけ!?」



 変な改造を施しそうな犯人第1位をとりあえず名指しにしておいてから、ユフィーリアは書斎に向かう。


 恐る恐る書斎の扉を開けるが、そこにはやはり天井まで届く勢いの巨大な本棚と数え切れないほどの魔導書や小説や料理本などの様々な書籍が詰め込まれていた。ちょっとこだわったソファベッドもちゃんと元のまま置かれていた。

 何の変哲もない書斎の様子だが、本棚の一部が扉のように改造されていた。ほんの僅かに扉の如く開いていた本棚の隙間に手を差し込んで、開いてみせる。


 そこに広がっていたのは、



「おお……」



 あまりの光景に、ユフィーリアは感嘆の声を上げる。


 仕掛け扉の先には、書斎と同じぐらいの広さがある部屋があった。そこにはふかふかなソファが並べられている他、クッションなどで寝転がることが出来るようにもなっていた。

 壁沿いにそびえ立つ棚には魔導書ではなく、何やら円盤のようなものがぎっちりと収納されている。見覚えのない代物だった。車輪のように扱うには小さすぎるし、何だか半透明な紙のようなものが巻かれている。


 そして極め付けは、



「布と、何だこれ」



 車輪を装備したらしい謎の機械と、向かい合うようにして壁に垂れた布が部屋の中央にドンと置かれていた。

 どうやら車輪を装備した謎の機械と布はセットのようで、機械から放たれる何かを布に投影する様子である。これはなかなか大掛かりな魔法兵器だ。


 部屋の中央に置かれた謎の機械を観察するユフィーリアに、部屋の中を覗き込むショウが言う。



「今年の誕生日プレゼントは、全員で作り上げた異世界知識――その名も『ホームシアタールーム』だ」


「ほーむしあたー」


「異世界には映画というものがあって、それを家で楽しむ人も一定数はいたらしい。壮大な物語を目と音で楽しむことが出来るぞ」



 想像もつかないようなことを語られているような気がする。


 つまりこれは、異世界技術の集合体でありユフィーリアがまだ体験したことのない代物という訳か。物語を音と目で楽しむとはまた想像が出来ない。

 ショウが満を辞して出してきた異世界知識だ。絶対に面白くない訳がない。最愛の嫁がユフィーリアの誕生日にくだらないプレゼントを用意する訳がないだろう。


 それを喜びたいのは山々なのだが、



「ユフィーリア、どうだ?」


「…………」


「あれ、ユフィーリア?」



 心配そうにショウがユフィーリアの顔を覗き込む。

 あまりにも嬉しさと興奮が天元突破し、ユフィーリアの精神はこの場にいなかった。目の前が真っ白に染まり、意識が遠くなっていく。


 簡単に言えば、



「し、死んでる……」


「何でぇ!?」


「ユーリ、死なないで!!」


「どうしてこうなっちゃうのヨ♪」



 あまりの出来事に、ユフィーリアは白目を剥いて死んでいた。このあと、冥府関係者によって蘇生されなければ、本格的に冥府の法廷に立つ羽目になっていたかもしれない。





 その後、ユフィーリアがホームシアタールームに引き篭もりがちになり、問題行動の回数がしばらく激減したのは言うまでもない。

《登場人物》


【ユフィーリア】全員で送ってくれたホームシアターに夢中。お気に入りは【ゾンビを撃ち殺しまくるあの映画】と【「実に面白い」のミステリー映画】


【ショウ】異世界知識を出し、ホームシアタールームを企画。ユフィーリアは怖がるだろうかと思いつつも、でも格好いいので【ゾンビを殺しまくるあの映画】をチョイス。

【エドワード】動物が出てくる感動系映画をチョイス。

【ハルア】ジ○○映画で大興奮。冒険活劇系をチョイス。

【アイゼルネ】恋愛映画をチョイス。少しはショウちゃんへの接し方を学びなさい。


【グローリア】ミステリー映画をチョイス。お勧めしたのは天才物理学者のミステリー映画だが、ホテルマンと刑事のミステリー映画の方が好き。

【スカイ】巨大ロボットのアニメ映画をチョイス。

【ルージュ】車を派手に乗り回す系の映画をチョイス。登場人物の筋肉を重視。

【キクガ】サメ映画をチョイス。

【八雲夕凪】あんぱんが喋る子供向け映画をチョイス。

【リリアンティア】魔法学校のあの映画をチョイス。


【オルトレイ】災害映画をチョイス。特に凍りつく奴が面白かった。

【アッシュ】パイレーツなあの映画をチョイス。海への憧れが出た。

【リアム】暴力団系の映画をチョイス。

【アイザック】ミュージカル映画をチョイス。

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