【リリアンティアの場合】
無言でクッキーが差し出された。
「さくさくさくさく」
「…………」
差し出されたクッキーを口の中に収め、リリアンティア・ブリッツオールは新緑色の瞳を瞬かせる。
保健室に保管されているヴァラール魔法学院の全校生徒の記録を整理していたところ、突如としてクッキーが詰め込まれた袋を携えて「邪魔するぜ!!」と元気にやってきたのが、目の前でリリアンティアにクッキーを無言で差し出し続ける問題児、ユフィーリア・エイクトベルである。何がしたいのか分からない。
差し出してくるクッキーは手作りのようで、バターの風味が豊かでとても美味しい。サクサクとした食感もよく、散らされたチョコチップや爽やかな果物のジャムが華を添える。差し出されれば差し出された分だけ食べてしまうようなものだ。
もきゅもきゅと口の中でクッキーを咀嚼するリリアンティアは、
「はにょ、かあしゃま……?」
「ん?」
「何故、身共の口にクッキーを?」
「んー……」
ユフィーリアは青い瞳を瞬かせ、それからへらりと楽しそうに笑った。
「餌付け?」
「はあ……」
「それより美味いか? なかなか美味しく出来たと思ってるんだけど」
「とても美味しいです。母様の焼くクッキーは身共の知る限りでは1番です!!」
「そうか、それはよかった」
そう言って、ユフィーリアはまたリリアンティアの口元にクッキーを差し出してくる。
今度は真っ赤な苺のジャムが乗せられた、花のような形をしたクッキーだ。鼻孔を掠めるバターの風味豊かな香りと砂糖の甘い匂いが食欲を唆る。
仕事中だから食べてはダメだと自制したくても、目の前にこうも差し出されては悪魔の誘惑に勝てない。永遠聖女でありながらこうしてお菓子に現を抜かしてしまうなど聖女失格だと考えつつも、やはり抗えずにその花の形をしたクッキーに齧り付いてしまう。
「さくさくさくさく」
「お味は?」
「美味しい!!」
リリアンティアの素直な感想を受け、ユフィーリアは「そっかぁ」と笑うのだった。
【リストその7:リリアに餌付け】