【ショウの場合】
「ん〜〜♪」
橙色のケーキを口に運び、ショウはその甘さに顔を綻ばせる。
今の時期しか出回らない南瓜のケーキはまた格別な美味しさを感じる。特にこの『アンバーパンプキン』と呼ばれる南瓜は糖度が非常に高く、甘くてお菓子のように美味しいと評判だ。友人である保健医の聖女様が熱弁を振るってくれたのが記憶に新しい。
間に練り込まれたシナモンの風味が南瓜の甘さとよく合い、最下層に敷かれたタルト生地のサクサクとした食感が堪らない。添えられている生クリームは甘さが控えめながらもクリーミーな風味が口いっぱいに広がり、ケーキの甘さを引き立てる。
口いっぱいの幸せを堪能するショウに、テーブルを挟んで向かいに座る最愛の旦那様が笑いかけてくれる。
「美味いか?」
「ああ、とても」
ショウも満面の笑みで応じた。
銀髪碧眼の最愛の旦那様――ユフィーリアは、向かいの席で悠々とコーヒーを啜る。陶器のカップを掲げる姿が様になっており、思わず見惚れてしまう。
今日は愛する旦那様とデートである。昨日、唐突に「明日デートしようぜ」と誘われた時は混乱したものだ。どんな服を着ていくべきかと夜遅くまで悩んで、頼れる先輩たちの意見も交えて黒い膝丈のスカートとシャツ、それからダボッと大きめのカーディガンという秋らしい落ち着いた服装を揃えることが出来た。夜遅くまで付き合ってくれた先輩たちに感謝だ。
ユフィーリアは「よかった」と言い、
「ここのケーキが美味いって聞いたから、ショウ坊なら喜ぶかなって」
「とても美味しいぞ、ユフィーリア」
「アタシが作るケーキと比べると?」
「それはもちろん、ユフィーリアのお手製のケーキの方が美味しい」
即答だった。
最愛の旦那様は料理上手でもある。家庭料理から豪勢なコース料理まで幅広い知識と技術を兼ね備えた家事万能の魔女様なのだ。当然ながら3時のおやつも美味しいケーキや焼き菓子を用意してくれるので、舌が肥えてしまう毎日である。
確かに季節限定の南瓜のケーキは美味しいが、ユフィーリアのケーキと比べてしまうと即答で「ユフィーリアのケーキが美味しい」と答える。それぐらいに胃袋まで握られているのだ。
ショウがすぐさま回答を出したことで、ユフィーリアはちょっと驚いた様子で青い瞳を見開く。それからすぐに表情筋を緩めて笑った。
「そこまで言われると、作り手冥利に尽きるな」
「ユフィーリアが作るものは全部美味しいから、事実を言ったまでだが」
「嫁さんの味覚に合致する料理が作れて嬉しいよ」
ユフィーリアは空っぽになってしまった陶器のカップを掲げ、通りかかった店員に「コーヒーのお代わりを頼む」と注文をする。
陶器のカップは店員によって手早く回収され、ややあって入れ直されたコーヒーが提供された。熱々の状態だとユフィーリアは火傷をしてしまうので、彼女は少しコーヒーが冷めるまでカップをテーブルの上に置いて待つ。
ショウは南瓜のケーキを口に運びながら、
「ユフィーリア」
「ん?」
「その、嬉しいのだが、いきなりデートに誘ってくれたのは何か理由があるのか?」
彼女の様子を伺うように視線をやると、銀髪碧眼の美しい魔女は少し悪戯めいた笑みを見せた。
「気分だよ、気分。今日はショウ坊とデートしたかったんだ」
「貴女らしいな」
「そうだろ」
自由奔放で気分屋、常に『面白いこと』を探す問題児筆頭。
それが今日は、ショウとデートがしたい気分だったようだ。実に自由人な彼女らしい考えである。
せめてこの幸せな時間が長く続きますように、という願いを南瓜のケーキと共に胃の腑へ落とし込んだショウは緩やかに過ぎ去る幸せな時間を堪能するのだった。
【リストその4:ショウ坊とデート】