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【エドワードの場合】

「ぐう、すぅ」



 エドワード・ヴォルスラムは昼寝の真っ最中だった。


 用務員室の隅に置かれた革張りのソファを寝床にし、気持ちよさそうに寝息を立てて午睡を満喫している。仰向けに寝転がっているのでソファの大きさに身長が合っておらず、長い足はソファから完全にはみ出てしまっているのだが、そんなことは関係ないと言わんばかりに投げ出したままになっていた。

 他に用務員室にいる人物はいないので、静かな室内にエドワードの寝息が落ちるだけである。睡眠を邪魔する存在もいないから昼寝もし放題の状態だった。



「…………」



 ひょこり、と。

 眠るエドワードを見下ろす魔女が1人。


 透き通るような銀髪と色鮮やかな青い双眸、人形のような顔立ち。絶世の美貌を持ちながらも洒落っ気のない黒装束を身につけたその魔女は、雪の結晶が刻まれた煙管を一振りする。



「風邪引くぞっと」


「むご」



 銀髪碧眼の魔女――ユフィーリアは魔法で毛布を転送して、エドワードの腹にかけてやる。


 もうそろそろ衣替えの時期になってきたとはいえ、腹を出して眠れば風邪を引いてしまう。実際、腹は出ていなかったが、エドワードが風邪を引くと長引くことは長い付き合いがあるので知っている。上司として部下が風邪に悩まされるのは見ていられない。

 身体に毛布をかけられたことで「何事?」と言わんばかりに眉根が寄せられたが、またすぐに表情筋が緩む。毛布を害あるものと判断しなくなったのだ。


 毛布に全身を包むエドワードを見下ろし、ユフィーリアは「あ」と手を叩く。



「そうだそうだ。あれやっちゃお」



 ☆



 何故か身体が重い。



「むぁ……?」



 エドワードの意識が、眠りの世界から引き上げられる。


 どれほど眠っていたのだろうか。重たい瞼を擦り時間を確認しようと、首だけ持ち上げて壁を見やる。

 壁にかけられた仕掛け時計は午後3時の少し前を示していた。昼寝を始めたのが大体午後の1時過ぎなので、1時間弱は眠っていたことになる。



「寝過ぎたぁ……」



 欠伸をして身体を起こそうとすると、妙に身体が重いことに気づく。


 視線を胸元にやると、そこには見慣れた銀髪に覆われた小さな頭が張り付いていた。ついで自分の身体にかけられた毛布と、キュッと握り込まれた真っ黒い手袋で覆われた華奢な指先。腹の辺りに感じる柔らかな感触は、うつ伏せで眠ることで潰れた彼女自身の双丘か。

 エドワードの身体を寝具の代わりにしているのか、上司のユフィーリア・エイクトベルがお昼寝の真っ最中だった。かすかに聞こえてくる寝息が、彼女の睡眠がより深いものであることを示している。


 寝ぼけ眼を瞬かせたエドワードは、



「何してんのぉ、この人ぉ」



 まあ、重いと感じるだけでユフィーリアが腹の上で寝ようと大したことではないが。


 その光景をしばらく眺めてから、エドワードは上司のユフィーリアを抱き込んで寝返りを打つ。

 腹の上から滑り落ち、ソファの背もたれとエドワードの逞しい身体の間に挟まれるユフィーリア。やはりこの状態にしても起きないようで、年齢の割にはあどけない寝顔がお目見えした。「すぅ、すぅ」と桜色の唇から吐息が漏れる。



「珍しいねぇ、くっついて寝てくるなんてぇ」



 思えば、この魔女はそんな可愛いことをするような人ではなかった。


 高潔で、気品に溢れた気高き魔女。聡明で、慈愛に満ち溢れており、大半は面白いことを模索する頭のぶっ飛んだ美しい彼女。

 どんな時でも背筋を伸ばし、広い世界を綺麗な瞳で見据える彼女の背中を、ずっと追いかけてきた。魔法が使えずとも、彼女の支えになれるように。


 近くにいるようで、1歩先を行く彼女を抱きしめたエドワードは、再び瞳を閉じる。



「もうちょっとぉ……」



 彼女を毛布の中に招き入れ、エドワードはまた眠りの世界に戻っていくのだった。





【リストその1:エドの腹の上で昼寝】

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