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プロローグ 暗黒報道#0

近未来の専制国家「日本」 「逆らう奴は殺す」。軍事国家を目指し、報道を弾圧する最高権力と闘う天才女性記者。権力と報道機関の内幕を抉る社会派サスペンスが今、始まる

 大鍋からシュッと白い煙が立ち上った。


 202Ⅹ年9月1日、正午を少し過ぎていた。大阪市の中心をゆったりと流れる堂島川沿いに聳え立つホテルエンパイヤー大阪。1000人を収容できる5階の宴会場は1時間後に開かれるパーティに向けて準備が進んでいた。宴会場の壁を隔てた隣が調理場で、すでにいくつもの鍋がぐつぐつと温められていた。そのひとつ、ホテル名物特製ビーフシチューの鍋の前にすっと、「影」が近づいた。手に持っていた瓶の蓋を開けて、中身の粉末を半分ほど鍋の中にばらまいた。蒸気のような白い煙が1メートルほど上った。「影」は隣の鍋の前に移動し、残りの粉末を無造作にぶちまけた。そして静かに立ち去った。


 午後1時、立食形式のパーティが始まった。新聞、テレビ、出版、ネットメディアの報道部門が団結して結成されたばかりの「オールマスコミ報道協議会」の主催で、マスコミ関係者700人近くが集まった。

 冒頭、協議会の初代会長に就任した堂本久・朝夕デジタル新聞社社長が挨拶に立った。

「報道分野におけるすべての媒体の関係者が一堂に集まることができたことは画期的なことであります。戦争、紛争が続く世界情勢の中で、日本も新しい政権による報道規制の動きが顕著になってきております。言論の自由は民主主義の根幹であり、規制の圧力には総力をあげて反対し、はねのけていかなければなりません。今日は初顔合わせで親睦の場です。明日からの3日間は、『権力と報道』というテーマに絞って分科会で議論を重ねていきます。最終日には、媒体の垣根を越えたオールマスコミとして、政権に対峙していくための統一見解をまとめます。世界に向けて発信していきましょう」


 続いて第一回目となる「オールマスコミスクープ大賞」の発表が行われた。朝夕デジタル新聞社社会部による「貧困にあえぐ若者が続々と紛争国へ 謎の傭兵集団のスカウトが暗躍」という記事が選ばれた。取材班の中心になったのは、調査報道班記者の大神由希だった。社会部長が代表して賞状を受け取った。

 日本記者クラブ会長が乾杯の音頭をとった直後、張り詰めていた雰囲気が一気に和んだ。参加者はそれぞれに好き勝手な会話に興じた。食事をとるために、会場に用意された出店にも並んだ。寿司、神戸ステーキのほか、ホテル特製のビーフシチューの前にも列ができた。皿に好みの料理を取った人たちは、丸テーブルにもどり、食事を始めた。コンパニオンも料理を盛った皿を持って会場を回った。


 懇談が始まって10分ほどした時だった。会場の中央にいた大柄な男性が突然、「ウオー」と叫んでその場で倒れた。そして胸をかきむしるようにしながら痙攣した。別のテーブルの1人も青い顔をして倒れ、嘔吐した。その後、会場のあちこちで倒れ込む者が相次いだ。


(次回は、第一章 大惨事 ■空を飛ぶ大神由希)


お読みいただきありがとうございました。

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