苦渋の選択
「意味が分かりませんから。っていうかさっきも言いましたけど早く帰ってください。病床の妻の身体の負担になります」
冷ややかなみなとの視線と声に、こちらから顔は見えずとも神崎がカチンと来たのが分かる。なんか背中から負のオーラが出てる。
「テメーのその物分かりの悪さこそこいつの負担だよ。分かったら謝んなくても許してやるからさっさとそれを貸せ」
「嫌です!」
「貸せ!」
「嫌・・・」
「ス、ストップストップ!分かった!分かったから!!」
私が軽く両手を掲げて声を上げると、みなとはすぐに神崎から私へと視線を移し、神崎は身体ごとこちらへ振り返った。ここでまた「自分で食べられるから」と申し出ても、堂々巡りに陥るだけな気がする。だから私はふたりの喧嘩を止めるため、苦渋の選択をした。
「じゃあ・・・神崎!!私に食べさせてくれ!!」
「!!」
みなとが物凄く大きく目を見開いた。そしてすぐにとても悲しそうな顔になり、捨てられた子犬のような潤んだ瞳で私を見つめてくる。
「イツカちゃん・・・どうして」
理由。理由か・・・。一応、『娘にあーんして食べさせてもらうのが恥ずかしいから』だけじゃなくて、他に真っ当なのがもうひとつ、あるんだけど・・・。諸事情により今はそれを口に出して言うことはできない。
「いやー、あれだよ、ほら・・・神崎せっかくウチにまで来てくれたんだし・・・お客様のご要望にお応えしないのは悪い的な・・・ねえ?」
ごにょごにょと下手くそな言い訳をしながら同意を求めて神崎を見上げると、ものすごい得意満面の笑顔がそこにはあった。私は思わず、僅かに身を引いた。




