番外編『20年前と6年前』その17
「んっ?んー・・・まぁ、そう、だね?そういう面もあると思う」
みなとの言い方と赤くなった頬に引っかかりと言うか違和感を覚えながらも私は肯定した。どうして今の話の流れでそんな質問が唐突に飛び出してくるのかはよく分からないけれど、まあ私保護者だしな、この子の。この子が成人したり結婚したりするまでは私の庇護下にある、つまり私のものなのだと言えなくもないと思う。
いやでもぶっちゃけ、みなとはお前のものである前にまどかちゃんのものだろと冷静に突っ込みを入れてくる、もうひとりの自分が居るのも事実なんだけど・・・多分それは言わないほうがいいな、この子まどかちゃんのこと割と本格的に嫌ってるし。
「ふふっ・・・えへへ・・・やっぱり、そうなんだっ」
気付けば、みなとは背けていた顔の位置を元に戻してしっかりと私のことを見つめていた。その瞳がほんの僅かにだが潤んでいるのが見えて、たじろいだ私は何も言葉を返せなくなってしまう。けれど、みなとは私が黙り込んでしまったことも全く気にしていない様子で言葉を続けた。
「そうだよね・・・だって私たち、約束したもんねっ」
・・・。約束・・・?
なんのことだろう。必死にここ最近の記憶を漁ったり、みなととの今までの思い出をダイジェストで振り返ってみたりするが思い当たるものが何もない。そんなはずは無いんだけどな。この子と何か重要な約束をしたのなら、私がそれを忘れているはずが無い。ということは何気ない、些細でありふれたやり取りの中での冗談に近い取り決めだったから忘れてしまっているか・・・或いは本当はしっかり覚えているのに、何らかの理由で無意識に私の脳みそが『あり得ない』と勝手に判断して可能性から除外してしまっているか・・・?
・・・。ひとりで考えていても答にたどり着けそうにない。ここは手っ取り早く本人に聞いてみよう。
「あのさみなちゃん、いったい━・・・」
しかし、私は質問を最後まで口にすることができなかった。みなとがきらきらとした期待と喜びに満ちた笑顔でこちらを見上げていることに気が付いてしまったからだ。私が、そもそもの大前提さえ理解することができていないだなんて少しも想像していない顔。私がみなとと全く同じ感情を共有していると信じ切って疑わない、そんな笑顔。
・・・。私は、空気を読んだ。読むしかなかった。
「・・・そ、そうだねー!!約束したもんね!!私、あの日のことはレコーダーに録り溜めしてあったアニメの数まで覚えてるよ!だから今日は張り切っちゃった!」
何を?と、自分の発言に自分で首を傾げたくなる衝動を堪えて、できるだけ堂々とした態度でみなとを見下ろす。みなとは両目を線にしてにこーっと笑い、「ねー!!」と元気よく相槌を打ってきた。私もヤケクソ気味に「ねー!!!」と大きな声で返す。
ああ、分からない・・・自分の置かれた状況もみなとの発言の意味も、全く何一つ分からない。分からないけど、でも、まあ、いいさ。この子が笑顔なら・・・私は、嘘をつくことに対する罪悪感や後ろめたさなんてなんのそのなのだ。それぐらい引き受けるさ。




